第3話 鑑定
ギルドを通じて行政に働きかけた(脅した)翌日、キトラは涼しい顔でギルドに入って受付を怯えさせていた。
本人?本猫?にとっては怯えられる理由などないが、常人にとって目の前に自称神の使いで実力的にギルド総出で立ち向かっても勝てる気がしない化け物がいたら怯えるのは当然であるが猫にその辺は分からない。
何故なら猫にとって人間とはたまに餌を献上してくれたり身の回りの世話をする便利な生き物でしかないのだ。
召使いか敵か干渉してこないその他という認識しかしていない。
ちなみにキトラにとってギルドの職員は召使いであり、それ以下でもそれ以上でもない。
「別にとって喰うわけじゃないから安心するニャ。今日は素材の買取とお使いを頼みたいだけニャ」
「そ、素材の買取はこちらで受付しておりますが、お使いはちょっと、、、」
「さっきコンビニって店に入ったら追い出されたニャ。誠に不服であるニャ。100ネコチャンポイントあげるから素材のお金で買ってきて欲しいニャ」
「え〜と、、、しょ、少々お待ちください!!」
キャパを超えたのか、ついに耐えきれなくなったのか受付の人間がギルド長〜!キトラ様が〜!と叫んで後ろに下がる。
すぐにバタバタと慌てながらギルド長と思われる男が出てきてキトラを奥の部屋に案内をした。
ちなみにだがネコチャンポイントに意味は無い。
勇者がかつて冗談交じりに勇者ポイントを贈呈してたのを真似してるだけである。
「お待たせしましたキトラ様。ギルドマスターの平野と申します」
「サブマスターの葛城です」
「ニャ」
キトラは露骨に興味がなさそうな返事をしたが一瞥はした。
平野と名乗った男は50代くらいのいかにも役人という感じの真面目そうな細身の男だが、葛城という男は30代後半から40代の角刈りでがっしりとした体型をしており、只者では無い雰囲気を醸し出していた。
そんな彼を横に置いてギルマスの平野が話をする。
「素材の買取もお使いもさせていただきますので、1つお願いがあります。上にキトラ様の件を報告したのですが何かしらの証拠が欲しいと言われましてお手数ですが鑑定をさせていただけませんか?」
「このままだとレベルが足りなくて猫としか出ないからちょっと待つニャ」
その言葉を聞いた葛城がピクっと反応を示す。
「ほう?ではその通りか視せていただけませんかな?」
「・・・・・・まあいいニャ」
「では失礼して。・・・・・・むっ!?」
葛城の表情がこわばる。
キトラの言う通り、彼の目には猫としか見ることが出来ず名前すらも分からなかった。
そんな彼にキトラは忠告をしてあげる。
「分かってると思うけど神を視ようとする行為はそれ自体がめちゃくちゃ不敬ニャ。鑑定を仕掛けただけで殺されても仕方ないニャ。もし神を暴きたてたいならそれなりの覚悟と、50階の深層まであるダンジョンを完全ソロ制覇するくらいのレベルが欲しいニャ。それくらいのレベルなら多分見れるニャ。それでも戦いと言えるレベルになるかどうかはその神によるとしか言えないニャ」
饒舌に話すキトラ。
その言葉に2人は息を飲む。
現在の日本記録はパーティで最高が深層へと向かう40層のボス部屋にて足止めをされており、ソロでの記録は下層へ向かう30層が最高記録である。
これだけ聞くとあと10年もすれば神に届くかもしれないと思うかもしれないが下層より下の階層は敵の強さもどんどん上がっており、深層は別世界の強さになっている。
それに人による神殺しなどキトラの世界ですら僅かに2例しかなく、現在の人類では届きうる可能性すらなかった。
「大変失礼致しました。それではお手数ですが我々にも視えるようにしてくださると幸いです。もっとも私が視えないという事実があれば上を動かすには十分だと思うので気分を害させてしまったなら鑑定はもう結構です。誠に申し訳ありません」
「買い物行ってくれるならそれくらい構わないニャ。どうせ大したものは視れないニャ」
「それでは拝見させて頂きます」
口調が改まり半信半疑であったであろう彼が改めて鑑定を使うと先程と違うものが見えた。
固有名 キトラ
種族 神獣(原種 猫)
レベル ----
スキル ■■、■■■■、■■■、■■■■■■■■
「神獣で原種は猫。それ以外は分かりません、、、」
「それが分かれば十分ニャ。そもそもニャーは神獣と言っても死んだら神になるのが確定してるから他の神獣ともランクが違うニャ。これでも上への連絡とうるさそうならこいつを売るから持っていくニャ」
キトラが何も無い空間から何かを取り出すと雑にテーブルに置く。
ゴトンっと片手用の盾くらいの大きさはある光沢のある物体をポイッとしたが、それよりも職員の2人はキトラを見て驚愕を浮かべていた。
「「空間魔法!?」」
2人の声が綺麗にハモる。
キトラが使ったものはフィクションでお馴染みチート魔法である。
なおこれは空間魔法を使って神界にあるキトラの領域にあるものを取り出してるだけなので勇者が使っていたアイテムボックスのようなものでは無い。
「これは神界にあるニャーの領域から取り出してるだけニャ。そんなことよりこっちのドラゴンの鱗ニャ。これを買取して欲しいニャ」
ドラゴンの鱗は武器や防具以外にも上手く削り加工すると強い魔力を帯びた粉末はあらゆる傷や病を治すエリクサーという万能薬となるとんでもない1品である。
もっともキトラとしては持て余してる素材であり、自分では使えない物なので貴重品という認識は全くなく、高く売れる置物ぐらいの認識である。
「ドラゴンの鱗!?葛城くん!すぐに品質確かめてくれ!キ、キトラ様!疑う訳ではないのですが我々は初めて見るもので品質が分からないとお値段のつけようがございませんので平にご容赦ください!」
「構わないニャ。それを買取ってもらってにゃ〜るっていう食べ物を買いたいニャ!足りなかったらまだまだあるから値段を言うニャ」
にゃ〜る。勇者がよくキトラにあげたいと口にしていた美味しいらしい食べ物。
彼との食事はいつも暖かく、旅の間の食事はどれも特別でキトラにとって大切な思い出となっている。
キトラとしては別ににゃ〜るなる物など無くても構わなかったが、彼が食べさせたいと言っていたものは自分も食べて彼の想いに触れたいと心から望んでいた。
だがにゃ〜るの値段が分からないし、物価や価値も分からないのでとりあえず元の世界でも人間が欲しがったもので高いやつを差し出してみただけだった。
元の世界ですら貴重な物が、ダンジョンが出来て15年ほどの世界だとどのくらいの価値があるかなど猫であるキトラには分かるはずもなかった。
「平野さん!!こ、これ古竜の鱗って出てます!どう考えても国宝レベルですよ!?こんな貴重な品に値段なんてつけれませんよ!」
「なんだと!?・・・・・・キトラ様。こちらのドラゴンの鱗ですが国に献上させていただいてもよろしいでしょうか?これほどの品を買取となりますと、我々の予算を超えており国に買い取って貰うことが1番良いと愚考いたします。どうか国の方に販売させてください。またそれまでキトラ様が必要とされる予算は全てギルドで立て替えますのでどうかお願いします」
「構わないニャ。とりあえずニャーはにゃ〜るを食べれたらそれで満足ニャ」
どう考えても手に負えるものではなく、厄介事の種にしかならなそうなものを国に押しつけることにした平野だが、買取の目的を知ってあまりの温度差に胃がキリキリとした。
にゃ〜るの会社ごと買い取るつもりか!と思った彼だがそんな不敬なことは臆面にも出さずに話を進める。
「それでは私がにゃ〜るを買ってきますのでキトラ様はこちらでしばらくお待ちください」
「にゃっ」
「それでは買ってきます。葛城くんはすぐにダンジョン庁に連絡をしてください。キトラ様が正しく神獣様であり、古竜の鱗を売ってくれるかもしれないと言えば流石に動くはずです。では私はすぐさま神勅を果たすとします」
平野は上への報告という面倒事を葛城に押しつけて足早に部屋を出て大きく息を吐いた。
猫は好きだ。愛猫家だと思っている。
しかしそれはそれとしていくらネコ科とはいえ、ライオンと同じ檻に入りたいとは思わない。
ましてや目の前にいたのはライオンなどより圧倒的に理不尽で畏怖すべき存在なのだ。
保身だと世間に言われようが葛城くんに怒られようが怖いものは怖い。
自分に出来ることは頭を下げて嵐が過ぎ去るのを待ち、必要なら便宜を図るぐらいしか出来ないのだ。
そんなことを思いながら急ぎコンビニににゃ〜るを買いに行く。
コンビニから戻る前に煙草を吸いたくなったが猫の前に煙草の匂いをさせて戻る訳にもいかず、またそんなことで時間を使う訳にいかないが、すぐに戻りたくもないのでSNSで可愛らしい猫の画像でも見て癒されてから戻ろうとしたら伸びている動画が目についた。
そこにはコンビニに入って店員に両脇を抱えられてびろーんと胴体が伸びながら誠に遺憾であると言いたげな不満の溢れる顔をしたキジトラがいた。
「くっ!可愛いな、、、」
あんなに理不尽だった猫が、借りてきた猫のように大人しくも不満気な顔をして店員に追い出される姿は困惑よりも愛らしさが先に来た。
理不尽で強くても人間社会に順応しようと合わせてくれてると考えただけでキトラが可愛い猫に見てた。
ギルドに戻ると葛城があっギルマス!明日キトラ様と首相や各省のお偉いさん、オンラインですが各国のお偉いさんが傍聴ではありますが参加する会談にうちの代表としてギルマスが出席することになったのでよろしくお願いします!と言われて平野は胃どころか頭も痛くなった。
そしてキトラはその横で渡されたにゃ〜るを食べて、「・・・・・・・・・・・・???」と目を見開き、口を開いて宇宙の真理を見たような顔をした後、何も言わず黙々と食べていた。




