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異世界猫は約束の地を目指す。〜最強猫による現代ダンジョン攻略配信!〜  作者: 和泉 弘幸


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第2話 猫の安眠を邪魔することは許されない



 「にゃーの眠りを妨げるとはいい度胸ニャ!!」


 キトラが配信を始める1週間前のこと。

 ダンジョン。そう言われる現代の科学では説明のつかない不思議な洞窟の中で1匹のキジトラネコ(キトラ)が荒ぶった。


【お猫様が寝ています。起こすな】と書いた紙が貼ってある宝箱を開けられて睡眠の邪魔をされただけではなく、宝箱を開けた男が、中身がただの猫だったことにキレて宝箱ごと蹴り飛ばす。

 睡眠を邪魔され、思い出の品を足蹴りにしたこいつは敵だと判断したキトラの行動は早かった。


 「ぐはぁ!?」


 目の前の存在が猫ということで、多少の油断はあったかもしれない。

 しかしそれは多少であり、男はダンジョンという場所で警戒を解くほど愚かではなかった。

 そんな男が容易く猫パンチで殴り飛ばされて意識を刈り取られた。


 地に伏した男にキトラが乗ると近くに浮いていたカメラに気がつき覗き込む。

 するとワッと男が腕につけている携帯端末から洪水のようにコメントが溢れ出した。



 "!?!?!?"

 "えっB級の犬鳴をワンパン!?"

 "まさか猫のモンスター!?"

 "それより今この猫話さなかった!?"

 "ガチ恋距離助かる"

 "猫ちゃんのお昼寝を邪魔するこいつが悪いにゃー"

 "そら(眠れる獅子を起こしたら)そうよ"

 "いやそれより話したよな?"

 "猫だって話すことぐらいあるだろ"

 "猫は普通話すだろ?江戸時代からの常識だぞ"

 "これ久々のグロ配信になるか?"

 "人語理解してるモンスターってヤバいんじゃ、、、"

 "早急に討伐すべきだろ"

 "はぁ!?猫に乱暴にした犬鳴が悪いだろ"

 "犬と猫は喧嘩もするからしゃーない"

 "一方的にボコられたのですがそれは"

 "猫に危害を加えるなんて流石にライン越え"

 "コイツそもそも猫じゃなくてモンスターでしょ"



 流れるコメントを興味が無いと目を逸らすと、その視線の先にカメラがあった。

 ふわふわと浮いている円形のカメラ。

 それをじっと見つめる猫。

 何も起きないはずはなく、、、



 「・・・・・・カカカッ」


 "あらお可愛い"

 "これ普通の猫じゃない?"

 "ダンジョンに普通の動物がいるわけないだろ"

 "可愛いでちゅね~"

 "猫ちゃん!!"

 "誰か犬鳴に触れてやれよ・・・・・・"

 "いやそれより猛烈に嫌な予感がするんだが"

 "俺もだ"

 "あっこれ知ってるこれクラッk"



 猫が冒険者を猫パンチでワンパンしたにも関わらず、ほとんどの視聴者はどう見ても普通の猫に気を取られて次に何が起こるか考えない。

 そして距離感とタイミングを測り終えたキトラが宙に浮くカメラに飛びついた。

 一瞬の出来事で囚われたそれは無慈悲にも視聴者と共に猫の玩具となった。



 "お猫様!?困ります!あーーっ!!"

 "あーーっ!おやめください!お猫様!!"

 "オロロロロロ"

 "お猫様!?お願いだからぁーーーー!!"

 "ぎゃああああ!!!"

 "目が!目がァァァァァ!!"




 キトラが前足で転がして弄ぶと画面の揺れで気分を悪くした視聴者からの阿鼻叫喚のコメントが飛び交う。

 無論、キトラがそのようなことを気にするはずもなく飽きるまで遊ばれた。


 「こんなことしてる場合じゃないニャ。というかこいつは一体なんだったんだニャ?」


 キトラは狼藉者を観察すると腕にリストバンドのように装備している何かの小型の電子機器に自分が写っており、大量の文字が流れているのを目にした。


 「・・・・・・・・・・・・にゃ~~」


 なんか嫌な予感がしてとりあえず鳴いてみる。

 すると予想以上の反応があり、何かはよく分からないがおそらく先程の玩具で自分が見られており、何者かがそれに対して何かを書き込んでいることが分かった。

 この地へ来る際に詰め込まれた情報にこの魔道具はなかったが、これは情報を共有する魔道具だとキトラは理解する。

 形や原理は違うが本質は同じで自分の情報がどこかに伝わったと知る。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ニャッ!」


 どうしようかと少し考えて面倒になったので玩具と人間の間に流れている魔力を引っ掻いて魔力の線を切断した。

 猫に難しいことは分からない。

 だがキトラはかつての冒険で見て知った魔道具というものは、魔力を断てば機能停止するものと知っていたので、とりあえず機能を停めた。

 存在が知られたところで気にする事はない。

 むしろ存在を知った人間は崇め奉るべきニャ!と思い小さいことは気にしないことにした。


 倒れている男を放置して進んでも良かったが、死なれると面倒なことになりそうなので魔法を使って暴れられないように拘束して、宙に浮かせながらダンジョンの出口に向かった。





 とりあえず地上を目指して逆走しながら、現れたモンスターを猫パンチで蹴散らしていると、すれ違う人ほぼ全員に2度見されながらダンジョンを出たキトラは、近くにある冒険者組合、いわゆるギルドが運営する建物に入るとポイッと男を投げ捨てる。

 明らかに魔法と思われるものを使い、冒険者を投げ捨てた猫らしき存在に職員を含めてギョッとして行動が止まるが、そこは熟練の職員や死線を乗り越えてきた冒険者達。

 すぐに危機に備えて得物に手をかけたり退避行動をできるように身構える。


 そんな注目を浴びながらも猫は堂々と施設内のどこに居ても聞こえるように高らかに名乗りを上げた。




 「我が名はキトラ!この地の神たる、いと尊き御方の許可を得て、女神■■■■■■様の神勅を果たさんと降り立った猫なり!こちらの目的はこの地より召喚され、祖国を救った恩人をダンジョンから救出することである!またその2柱のご好意でダンジョンが現れた理由の説明と簡単な質疑応答もすることになった。早急にこの地の支配者との会談を求む。これは要請ではない。神勅である。故に逆らうは2柱への叛意と見なして神罰を神獣キトラが下す」




 言い終わると同時にキトラと名乗った猫は抑えていた魔力を解き放った。


 溢れ出る神威でカヒュッっと誰かが息を詰まらせる音がしただけで静寂が場を支配した。

 魂すらも握られたような恐ろしいほどの神々しい気配に、呼吸すら満足にできず、崩れ落ちた人々は強制的に理解させられる。

 間違いない。この猫の言葉に嘘はなくその気になれば街一つ消すことなど造作もなく、人類ではおよそ届かない高みにいる上位種だと誰もが理解できた。


 それはこのギルドにいる人間だけではなく、ダンジョンの奥にいる人間、最下層のモンスターですら根源的な恐怖で動きが止まる。


 誰もが恐怖して震える中でキトラはニャっと笑い辺りを見渡して口を開く。


 「ま、とはいえ今すぐとは言わないニャ。ニャーも王と会う時は長く待たされたし1週間後までに会ってくれたらいいニャ。それまではせっかく下僕の故郷に来たんだからこの地のことを知ったり、ダンジョンで大人しく遊んでるニャ」


 言い終わるとキトラは重圧を引っ込めた。



 「「「ゲボっ!ゲボっ!」」」


 全員が空気を取り込んでむせて咳き込みながらも、訳も分からず頷いた。


 「あっ全員分かってると思うけど、混乱させるだけだから公式の発表があるまで他言無用ニャ」


 そう言い残すとキトラはギルドを後にした。

 その日のうちにギルド内に居合わせた全員に箝口令が敷かれることになった。


 この日、ネットは強すぎる猫の話題で荒れて、行政は非常事態で大きく揺れ動いた。

 なおキトラはそんなことを気にすることを気にせず、ダンジョンに戻って宝箱に入り、今度は開けられることがないように結界を貼って眠りについた。






 宝箱の中で夢を見た。

 それはとても懐かしく暖かくて、そして恨めしく、許せない、何度も見た夢。


 まだ子猫で普通の猫だった頃。

 数匹のゴブリンに襲われて親猫は殺され、自分はいたぶられ死を待つだけだった。

 そんな時に震えた声で間に割って入ってくれた少年。

 大人が駆けつけてくれなければ彼も死んでいたかもしれないほど危険な事だった。

 その日から彼に名を貰い、幾千の夜を過ごした。


 気がつけば少年は青年になり、自分も成猫となった。

 青年は神託に従い勇者として旅に出た。

 何故か自分も勇者の仲間と認定されて勇者が倒した時に近くにいた。それだけでレベルが上がり戦えるようになった。


 それから他の頼りになる仲間2人が加わり3人と1匹でパーティを組んで魔王を倒すまでは苦しくも楽しい日々で色んなことを彼らから教わって過ごした。


 普通に話すより語尾にニャをつけた方が餌が貰いやすくなることや、宝箱に寝ていることを示す警告文をつけてもらったりと様々なものをもらった。

 自分が妖精(ケット・シー)へと進化して戦闘以外のことで彼らに与えられるようになった時は嬉しかった。


 自分が妖精へと進化してからさらに数多の戦場を駆け抜けて、勇者は人々を救い、勇気付け、希望となった。

 そしてついには魔王を討ち果たして世界を救った。


 あとは勇者の寿命が尽きたら女神様が魂を元の世界の肉体に戻して彼は日常に戻るはずだった。

 英雄譚ならば幸せに暮らしましたって終わるはずだった。


 なのに気がつけば彼は魔王として、救った世界の人間に討たれた。

 剣で胸を貫かれた彼が自分に向けて微笑み倒れゆく。

 それを勇者によって手出ししないように、結界に閉じ込めれて、哭きながら眺めているだけの無力な自分。



 毎回ここで目が覚める。

 そしてその度に無力さに後悔していたが今は違う。

 さらに力をつけて、勇者を救う使命を帯びた。

 今度は自分が勇者を助けてやるニャと決意を新たにして今日もダンジョンに潜ることにした。






 

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