第20話 友を乗り越えた先に
竜のブレスを受けてなお無傷なキトラに竜王は笑う。
「ぐははは!流石は我が友!無傷とは恐れ入ったぞ!」
「嬉しい言葉だけどちょっとくらい油断してくれる方が楽できるから油断してて欲しいニャ!んじゃお返しだニャ!」
キトラがオークを倒した時のように口から火を吹く。
だが以前とはまるで別物のように火の勢いが凄まじく、巨大なリュネルを紅蓮が飲み込む。
コメント欄はこれを見て"火炎猫""汚物は消毒ニャァァァ!!""ドラゴンステーキお待ち!!"と盛り上がりを見せる。
だが──
「随分と神の炎はぬるいのだな。炎とはこういうものだ!!!」
リュネルは炎に包まれても平然として、お返しに蒼き炎を吹いた。
「ニャワッ!?そんな危ないもの吐くニャ!」
しれっと空間転移で距離を取ったキトラがリュネルの背後から話しかける。
「空間魔法が使えることに気づいていたか」
「戦士たちの守護神たる冥府の主が戦いの邪魔をするはずないニャ」
嘘である。
空間魔法が使えるかどうかで戦闘の幅が大きく変わる。
キトラは先程のブレスの砂煙で視界が覆われた際に、砕けたダンジョンの壁をこっそり回収して試しており、砂煙の中から出てこなかったのである。
「空間魔法。たしかに厄介ではあるが儂に通じはせんぞ!」
背後に回っていたキトラにリュネルは尻尾を叩きつける。
その威力は壁を容易く破壊して、地面に小型のクレーターを作る。
「そんなの当たるわけないニャ!」
そう叫ぶとキトラは全速力で尻尾から背を駆け登り、魔力を込めた猫パンチで羽の付け根を強打する。
「Gyaaaaa!!!」
いくら巨大な魔力と頑丈な鱗に覆われている竜王サクレプ・リュネルでも羽の付け根は鱗が薄く、大きな悲鳴を上げる。
堪らずに大量の魔力を解き放ちながら大きな身体を振り回し、キトラを振りほどこうとする。
キトラはこれに逆らうことはせず、素直に飛び降りる。
地力ではキトラが上回っているので、ここで無理する必要はなく、既にキトラの中で勝ち方は決まっていた。
「鳥類だけじゃなく竜種も羽の付け根の神経は敏感だから狙うといいニャ!そうするとしばらく飛べなくなるからちょっとは楽になるニャ!あと配信のこと忘れてたニャ!悪かったニャ」
配信を忘れたことを軽く謝罪したキトラは再びリュネルと向かい合う。
「竜種は間違いなく地上最強だニャ。そして最強が故の傲慢から天すら欲して羽が生えた。神に挑むための羽を地を這う猫に奪われた気分はどうかニャ?」
「ぐははは!!愚問!神に準ずる友を相手にして無傷で勝てるなど誰が思おうか!お主に勝てるのであればこの羽など安いものよ!!さぁもっと死合おうぞ」
リュネルが鋭い爪を振り下ろす。
その一撃は斬撃というより落雷のようだった。
空気が裂け、爪が触れる前に衝撃波が走り、ダンジョンの床が砕け散る。
「ニャッ!」
キトラは紙一重で跳ね退いた。
だが避けたつもりでも、爪が床を削った余波で体が弾き飛ばされ、背後の壁へ叩きつけられた。
ドォンッ!!
壁がその衝撃に耐えきれず崩れ、瓦礫によってキトラの姿が埋もれる。
“壁が!!!”
“40層の壁が紙みたいに!!!”
“キトラちゃん大丈夫!?”
返事の代わりに、瓦礫の山が内側から盛り上がる。
「・・・・・・さすが竜王だニャ。魔力で防御しないと普通に死んでたニャ」
瓦礫を押しのけ、キトラが平然と姿を現す。
魔力で全身を覆い防御したのでキトラに怪我は無い。
だがそれを聞いた瞬間、リュネルは笑みを深めた。
「それでこそだ!!」
今度は巨体そのものを武器に、竜王が突進する。
回避不能の質量。
山が走るような衝撃で、地面が沈み、壁が震え、空気が悲鳴を上げる。
竜としての美しさなどなく、ただ一匹の好敵手を倒すためのなりふり構わない一撃。
「来い!偉大なる竜王!!」
空間魔法や普通に移動しても避けられた。
しかしキトラは敢えてそれをやめる。
誇り高き友がなりふり構わず倒しに来た一撃を受け止めてみたくなったのだ。
確かに竜は誇り高き種族だ。
しかし猫もまた気高き動物なのだ。
ゴガァァァン!!!
キトラは壁と竜に挟まれる。
そしてその衝撃は後ろに伝わり、ワンフロア式の40層の壁が数十メートルにわたり、崩れ落ちてダンジョンの構造そのものが歪む。
その余波は地上すらも揺らしていた。
“こっわ、、、体当たりで地形変わってない??"
“竜の質量おかしいだろ、”
"ゴジラかよ"
"受け止めるキトラはオリハルコン製か何かか?"
"ここ40層だよな?トップランカーはこんなんと戦ってるの?"
"流石に違うらしい。40層突入前にキトラがこのレベルの敵はそもそもダンジョンに出てこないって"
"そもそも40層ってカイザーオークとかが出てくるレベルで、竜も出てこなくはないけど低確率の上にこんなにデカくも強くもない"
「いてて、、、流石に痛いニャ」
「痛いで済む威力じゃないんじゃがな」
キトラは大したダメージを受けた様子は無いが、それでも魔力は確かに消耗していた。
恐るべき質量と魔力を持つ竜の突進を「いてて」で済ましてしまうキトラにリュネルはちょっと引いていた。
受けきったキトラはニヤリと笑う。
「今度はこっちの番だニャ!!!」
だがそれは体当たりではなく、強い魔力を身に纏い、速度を極限まで高めた一点突破。
至近距離で加速は十分ではない。
しかしそんなものは有り余る魔力が補う。
ドンッ――という音は遅れて来た。
リュネルの胸部に衝撃が叩き込まれ、巨体が後方へ吹き飛ぶ。
背中から壁に激突し、その壁ごと崩落する。
そこからは激しいインファイトだった。
リュネルの爪が、尾がキトラを倒さんと周囲を傷つけながら襲いかかってくる。
それを全て躱して隙を見ては猫パンチで殴るキトラ。
2匹の肉弾戦にダンジョンがどんどん破壊されていく。
ワンフロア式の40層が2人の戦いで壁が削られ、破壊されて2回りほど大きくなったところでキトラは距離を置いた。
「さていつまでも遊んでいたいけどここまでニャ。久々に会えて嬉しかったニャ!」
「グハハハ!!まだ付き合ってもらうぞ!」
竜王は嬉しそうに笑う。
まだまだ遊び足りない子供のように楽しげに笑う。
だがキトラは悲しげに目を伏せた。
「もう準備は終わったニャ。それじゃ行くニャ!」
言い終わると同時にドゴォォォン!!!と轟音が鳴り響く。
何かがリュネルの頭上に落ちてきた。
「ガッ!?」
「まだまだ続くニャ!」
それはダンジョンの壁。
キトラとリュネルの戦いで砕けた壁をキトラが空間魔法で集めて、成層圏まで打ち上げ、落下してきた破片を空間魔法で勢いそのままで簡易隕石としてリュネルにぶつけたのだ。
「そんなもの魔力の予兆さえ・・・・・・っ!?」
リュネルが驚愕を顔に浮かべ、言葉に詰まる。
魔力の起こりが180°、竜王サクレプ・リュネルを取り囲んでいた。
ダンジョンの壁は魔力を有しており、魔力を通さない力では壊れない。
つまり成層圏から落下しても摩擦で削れることのない様々な大きさの岩が恐ろしい速度で突っ込んでくるのだ。
リュネルであれば上からだけ出現するなら何とかなったかもしれない。
しかし落下中に空間魔法で向きだけを変えられた破片は落下エネルギーを維持したまま突っ込んでくる。
「ガァァァァァ!!!!!!」
弾着により、リュネルの悲鳴のような叫びと砲弾が炸裂したような轟音が鳴り響く。
その衝撃はダンジョンを揺らして、地上でも地震かと勘違いするほどのものだった。
"ひぇっ、、、"
"これなにしたん?"
"多分砕けたダンジョンの壁を空間魔法で回収しておいて、こっそり上空に転移→落下してきた破片を転移させてぶつけた"
"それにしても強すぎじゃね?"
"ヒント ダンジョンの壁は魔力を持ってるから摩擦で削れない"
"よく考えたらやきうのボールくらいの雹でも家破壊されるから硬いダンジョンの壁をさらに高いところから落としたらこうなるのか"
"もしかして空間魔法ってやばい?"
"カタツムリのネットする時代か"
"使いこなせたらマジで最強の魔法だと思う"
"キトラを怒らせたら日本滅ぶ?"
"当たり前や。猫の形をした神様やぞ"
しばらくして砂煙が晴れると、そこには美しい純白の身体を血と埃で汚して、鱗が無惨にも剥げ、満身創痍のリュネルがいた。
だがその視線はキトラを睨んでおり、闘志は失っていない。
「空中散歩」
キトラが足元に結界を貼り、その上を歩くことでリュネルの顔の正面に立つ。
「これを食らってなお立ち上がるのは流石だニャ。敬意を示して竜種の最大の弱点を教えてやるニャ。次戦う時は忘れないようにしとくニャ」
「・・・・・・ふふっ。まだ決着はついておらんぞ、、、神に届くと言われた竜王の最期のブレスを見てみろ!」
リュネルが最期の意地と言わんばかりに大きく空気を吸い、最後のブレスをあらん限りの力で放とうとする。
だがキトラは余裕を崩さない。
「もう終わってるニャ。竜種は生まれながらにして最強だから自分たちの敵は神しかいないと思ってるニャ。だから羽まで生やして天を目指したニャ」
残る命を燃やしてリュネルが吸い込んだ空気を魔力に変える。
「竜は気高く常に天を向いている。・・・・・・だから真下がガラ空きニャ」
竜が竜たる所以の一撃を放たんとしたその瞬間、
真下から竜王サクレプ・リュネルの首元に隕石が飛来した。
リュネルが何があったかも把握できない間にドンッ!!!と爆音が鳴り響いた。
溜め込んだ魔力がとんでもない衝撃で爆発を起こしたのだ。
これを予期していたキトラは真下に出口を作った際に結界で自身と配信用ドローンを守っており、さらさらと粒子になって消えゆく友を見ていた。
「・・・・・・・・・・・・にゃあ」
猫は小さく鳴いた。
だが数秒もするとドローンの方を向いた。
「氾濫の原因は取り除いたニャ!上の方も何とかなったみたいだし、にゃーはちょっと疲れたし、お昼寝をするニャ!」
一段落ついたのでキトラはちょっと昼寝をしようと宝箱を取り出そうとした──その瞬間、カメラが一瞬暗くなり奇妙な場所を映し出した。
映し出された光景は、ダンジョンのどの階層とも似ていなかった。
そこは壁と床が大理石のような物で出来ており、中央には深紅の絨毯が一段上にある玉座へと一直線に延びていた。
要するに謁見の間の様な作りであった。
「・・・・・・ここは50層だニャ。念の為に言っておくけど普通のダンジョンの最下層はこんなんじゃないニャ。ここは──」
キトラがドローンに向かって説明しようとした時に、カツッ、カツッと横から足音がした。
「よく来た。ここは妾の領域に似せて作ったがよく出来てるであろう」
姿は見えぬが玉座の奥から声が響く。
キトラは四肢に力を入れて臨戦態勢を取る。
「お昼寝をしようとしたにゃーを空間魔法で呼び寄せて自慢かニャ?」
「そう怒るな。なにちょっと交渉したくてな」
玉座の奥から声の主が現れた。
それは幼き姿だが威厳を感じさせ、恐ろしさと美しさを兼ね備える女性だった。
腰まで伸びた透き通るような銀の髪を持ち、その瞳は碧く澄み、鋭利な刃物のような冷ややかさがあった。
"のじゃロリ幼女 キタ━(゜∀゜)━!"
"( ゜∀゜)o彡°幼女!幼女!( ゜∀゜)o彡°幼"
「不敬である。妾に拝謁したければ死ぬがよい」
手をかざすとドローンが落ちて配信が終了した。
キトラもここから先はこの世界の者に知られるのは良くないと思い放置する。
「率直に言おう。妾に勇者ヨシモリもそなたも害をなす気はない。ヨシモリを救出して帰らぬか?そなたとて無駄な争いはしたくなかろう」
それはキトラが最も望むこと。
そして邪神もまたそれを望んでいた。
キトラの答えは──
「ダメだニャ」
NOだった。




