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異世界猫は約束の地を目指す。〜最強猫による現代ダンジョン攻略配信!〜  作者: 和泉 弘幸


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第18話 堕ちたる神の招き




「えっ?ここどこ?」


 グリーンドラゴンを倒した綾乃は突然、明るい広い部屋にいた。

 何が起きたか分からないが、直感的に転移させられたのだと理解した。

 落ち着いて状況把握に努めようと、剣を握りしめて深呼吸すると気づいてしまった。

 すぐ近くに恐ろしいほど神聖な気配がある。

 それは慈しむような温かい不思議な気配と背筋が凍るような寒さと息苦しいほどの厳格さがあった。


 ハッとした綾乃は剣を離して膝をつき正座をする。

 自分が神前にいると理解した瞬間に体が動いた。

 キトラの神威を何度も浴びた影響か、修験者として修行を積んだからなのか幸いにも頭は回っている。


「先の戦いは見事であった猫の巫女よ」


 幼さを感じるがそれ以上に威厳を感じる声がした。

 反射的に頭をあげたり、返事をしそうになるのを理性と危機感で抑え込む。


「楽にするが良い。ここに呼んだのは見事な戦いの褒美と単なる好奇心じゃ」


「寛大なる御心に感謝致します」



 綾乃は一拍置いてゆっくりと顔をあげる。

 そこには幼く、少女と呼ぶくらいの年齢の神が玉座に腰を下ろしていた。

 キトラが言っていた邪神だとすぐに気づいたが、気づいたところでどうしようもないので、機嫌を損なわぬように心の中で漠然と神に祈った。


「身構える必要はない。まあいきなり呼んだのはちょっと悪いと思うが気にするな。それにそちも良い話じゃ。こちらに来てみい」


 手招きをされて一瞬躊躇したが覚悟を決め、綾乃は傍へと進む。

 神がその気になれば距離など関係なく自分など一瞬で殺せると考えたので覚悟を決めて傍に行く。


「この人間はそちの兄じゃろ?」


 彼女が指さした玉座の後ろに透明の棺に入った兄、義盛がそこにいた。


「・・・・・・兄さん?」


「うむ。今はまだ創世神■■■■■■によって眠らされているが、鍵となるあの猫が来たら寝覚めるであろう。難しそうなら妾が手を貸してやる」


「そのような取り計らい、恐れ多く存じますがよろしいのでしょうか?我が兄は御身の寵愛を受けた魔王なる者を討ち果たしたと聞いておりますが」


「それもまた戦場の習いじゃ。それに・・・・・・待てお主はどこまで聞いておるか申してみよ」


「どこまでとは?私がキトラ様より聞いたのは魔王を倒して、その後に魔族と人類の和解に尽力したということです」



 綾乃はキトラから聞いた話を簡単に話すと邪神は少々ムスッとした顔をしてため息をひとつ吐いた。



「大筋はあっておるが、、、そうじゃなあやつが40層にたどり着くまでしばしある。簡単にお主の兄のことを教えてやろう」


「深き慈悲に感謝致します」


「なに妾も地母神としてみなに恵みを与える存在じゃ。そして妾は戦士たちの守り神でもある故に勇士たる者は嫌いではないのだ。ここだけの秘密じゃが、あの猫は妾のお気に入りでもあるのじゃ」


「まあ・・・・・・そうなのですね」


 綾乃は驚いたフリをしたが何となく分かってはいた。

 この神は本来は邪神と言われるべき神ではなく、どちらかと言えば職務に忠実な地母神であるからキトラとの相性は悪くなさそうだと。


 以前にキトラは猫はいくつかの命があると言っていた。

 それは不死性を持つということ。


 冥府の主である邪神も当然不死性を持っており、聞いた逸話と彼女と話をした感じは、彼女は死したものに平等に安らぎを与える神であると同時に傷つき倒れた戦士たちの守護神でもある。


 そうなれば不死性を持ちながら、何度も傷つき倒れて、なお生き返り戦ったキトラは本来は寵愛される対象なのだろうと。

 各地の神話でこの手の神の寵愛を受けるものは似たり寄ったりなのだからと綾乃は推察していた。

 ちなみにこの推察はとても正しく、付け足すならネズミから穀物を守る猫は元は地母神たる邪神的にポイントが高いのもあった。



「せっかくだ奴の戦いでも見ながら話すとするか」


 彼女がそういうと何も無かったはずの空中に大きめの水晶が現れて宙に浮いていた。

 綾乃をこの階層に飛ばしたのと同じように空間魔法で持ってきたのであろう。

 そして不思議なことにその水晶には、ダンジョンを攻略してスタンピードを抑えようとしているキトラが映し出された。


「今は34層じゃな。このペースだと少し話せば40層に到達するな。では何から話すべきか」


「それでは恐れながら。どうしても聞きたいものがございます」


「申してみよ」


「兄である義盛の死についてです。冥府の神たる御身はそちらの世界で兄の死を存じていると存じます。どうか私に兄の最期を教えてください」


「・・・・・・あまり面白い話ではないぞ」


「元より承知です」



 彼女は綾乃に問うも、綾乃の覚悟は既に決まっていた。

 これは仕方ないと判断した彼女は重い口を開いた。


「まず前提として妾は魔族と言われる種族を保護して加護を与えていたのじゃ。そやつらは争いに敗れて土地を失い、辺境で住んでいたが妾の加護を得て生きながらえて、そして元の土地を取り返そうと大規模な軍を率いたのじゃ」


「御身の加護を与えた魔族が戦争を始めたのですね」


「そうじゃ。これに関しては加護を与えた妾がちょっと悪いのだが、魔族が気に入らないからと、他の神を抱き込んで、隕石を魔族の土地近くの海に落として、その熱で魔族を大量に殺害して、塩害で土地を枯らした愛の女神のド阿呆が元々の原因じゃ。すまん話がズレたな」


「なんとそのような理を超えた御力が働いたのですね。それでは真に大変な被害だったでしょうか・・・・・・。いえ。違う世界の神話。実に興味深く惹き込まれるばかりでございます」



 内心では早く兄の話をしてくれと思っている綾乃だが、神に余計なことを言う理由は一切なく、それをおくびにも出さずに世辞を述べる。

 とはいえ冥府と地上を管理している女神が、いきなり大量虐殺で仕事を増やされて、さらに土地も塩害で枯らされたら、豊穣神としての仕事増えても大変だったんだろなと少しだけ同情をしていたが。



「まあ妾の加護を得て魔族が徐々に土地を広げて最終的に全力を出せば人間を滅ぼせるような力を身につけたのじゃ。流石に見逃せないと創世神が勇者を召喚して魔族の王を討たせたのじゃ」



 ここまでは綾乃も知っていた。

 邪神というのも恐らく人間サイドから見たら魔族が信仰しているから言われたのだろうなと感じていた。

 キトラは人間側だし、みんなが邪神と言うから邪神呼びしてたのだろうと綾乃は思う。


「魔王を勇者が討った後に、各地で魔族狩りが行われてな。勇者たちがそれを辞めるように訴えかけたんじゃが、難航した上に勇者たちを強く支援していた小国が人類を裏切ったとか言って滅ぼされたのじゃ」


「そんな!?勇者たちを支援していた国を滅ぼすなんて!それでは人類同士で戦争を始めたのですね」



 (キトラ)の飼い主である綾乃が猫を被り、バックトラックと呼ばれる相手の言葉を繰り返しながら親密性を高める小技を使いながら神の話を聞く。

 山に修行に来たおじさんたちの荒行の話を聞く時によく使っており、おじさんから可愛がられて小遣いをよく貰っていた。


 そんなことはさておき、綾乃はキトラが言わず、彼女もあまり言いたくない様子からある程度は察せられた。

 英雄の末路。英雄譚では語られない最後というのはそういうものが多いのだ。

 乱世の英雄は平和な時代では無用の長物であり、民衆から人気を得ると上に疎まれ、必ず邪魔と思われるのだ。


「うむ。それではそなたの兄ヨシモリは魔王となったのだ」


「はい?」



 あれ?なんか違う話が来たなと綾乃は間の抜けた声が出た。



「そ、それはつまり兄が魔族との争いの停止を求めたから、魔王になったのではと濡れ衣を着せられて殺されたのでしょうか?それとも魔族たちに担がれたのですか?」


「いや自分で名乗ったのじゃ」


「・・・・・・なんとまあ最後まで勇者であろうとしたのですね」


「うむ。やはりそなたは勇者の真意が分かるか」


「おそらくは兄は自分が人類の敵になることで、人類を再び対魔族でまとめあげつつ、人類に自身の力を見せつけてから、魔族側からとして平和交渉を持ちかけて、魔族狩りを終わらせたかったのではないのでしょうか?」


「その通りじゃ。最前線にいた兵士たちほど勇者と事を構えるのは反対したし、勇者以外の勇者パーティーはかなり怒った。その頃には神獣となっており、各神殿にいずれ獣神となると伝えられて信仰され始めていたあの猫が、ある大国の主要な貴族たちの頭の上に空間魔法で水を落とした後に、次は水じゃなく魔法をぶち込むと脅したり、教会で聖女の位について教会内の浄化と平和への道を歩んでいた女が勇者を支持して、和睦すべきと主張をして教会が割れたり、賢者と呼ばれたジジイは山に引きこもって騒ぎになったのじゃ」



 最後のは騒ぐほどのことか?と思うが情勢やその人を知らないので綾乃は余計なことは言わない。

 だが元々多分そうなんだろうなと思っていたことが確信に変わった。



 兄は人間に殺されたのだと。



 キトラはヨシモリの幸せにこだわっていた。

 何故そこまでこだわったのかと思っていたが、それはおそらくは最期は良くなかったのだろう。

 最初はこの猫の恩返しちょっと重いなと思っていたが、異世界から呼んだ人間に尻拭いをさせた上に、現地人に殺されたなら、ちょっと重くもなる。



「ここからは妾も詳しくない故に飛ばすが、人類側は勇者ヨシモリ・カナンが魔王となるも、新たなる勇者がそれを討伐し、魔王を失った魔族は降伏して平和交渉を結んだと人間たちに伝えたと聞いておる。じゃがおそらくは人類側は勇者が死ぬことを和平の条件にいれて、何も知らぬ若造を勇者に仕立てあげたのじゃろう。あぁ・・・・・・1つ言わねばならん。かの勇者は最期まで勇者であり、最期は胸を貫かれて尚も微笑み満足していた。妾が冥府からこちらに返すために、天上に魂を連れていった時にこれで人類と魔族は平和に向かって歩めると嬉しそうにしておったわ」



「・・・・・・お教えいただきありがとうございます。慈悲深き御身の御心に深く感謝致します」


「よい。こちらのゴタゴタと人類をそなたの兄に任せてしまいすまなんだ。それに妾が気にかけた魔族をも救ってくれたこと深く感謝する。生物を育て慈しむ地母神であり、厳格な冥府の主たる⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎はそなたとそなたの兄ヨシモリに謝罪と礼を申す。兄ヨシモリにはそなたから伝えておいてくれ」


「はい。必ずや御身の御言葉を伝えます」



 彼女の言葉を受け、綾乃は流石に姿勢を正す。

 正座のまま背を伸ばして、両手を膝において、深く頭を垂れる。

 地に触れることがない動きで、最大の敬意を込めた所作である。

 これを見た邪神は咎めることもなく不敵な笑みを浮かべる。


 これは地に直接触ると穢れがつくので避けておるものがあるが、真意は礼は尽くすが服従はしない。

 拝するも帰依しない。日本人と神道系の綾乃らしい思想であり、またどれほどの大神であろうとも、スタンピードを意図的に起こした悪神に膝を着く気はさらさらなかった。

 どうしても信仰しろと言うなら1戦交えましょうくらいの気概はあった。


 もっとも邪神の呼ばれる彼女も自身の世界の不始末の謝罪もある上に、そもそもとして管轄外の世界であるために敬意があれば十分と考えた。

 スタンピードについては何も思わない。

 神が目的のため起こしたのであれば、それは天災であり、人の意思など関係ないのだから。



「むっ。そろそろ猫が40層に到達したようだ。ほれもっとちこう寄れ。そこではよく見えぬぞ」


 水晶の向こうでは40層の階段を下ったキトラが巨大な竜と向き合っていた。




 

  

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