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異世界猫は約束の地を目指す。〜最強猫による現代ダンジョン攻略配信!〜  作者: 和泉 弘幸


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第17話 グリーンドラゴン




 「みなさん!落ち着いてください!ここを通せば地上は壊滅します。今ここでグリーンドラゴンを討伐しましょう!」


 綾乃の声が、冒険者たちの沈んだ意識を強引に引き戻した。

 ある者は不覚を恥じ、ある者は怒りを宿す。

 スタンピード中に最もやってはならない“思考停止”。

 それを若い者の前で晒してしまったことへの悔しさを胸に、全員が己の武器を握り直した。


「すまねぇ!初めて見るドラゴンにビビっちまった!こいつを倒せば夢にまで見たドラゴンスレイヤーだ!キトラちゃん、注意点はあるか!」


「ブレス以外はないニャ!見た目通りデカくて強いニャ!噛みつかれたら助けられないから注意するニャ!」


「つまり口にさえ気をつければ、ただのデカブツか・・・・・・。そりゃ分かりやすくていいな!」


 関目は背丈ほどの斧を軽々と振り回し、他の冒険者も覚悟を決める。

 巨大な敵でも、初見殺しさえなければやることは同じだ。

 魔力を纏い、スキルを使い、的確に攻める。

 オークでもドラゴンでも、生身でまともに攻撃を受ければ死ぬのは同じなのだから。


 キトラは冒険者たちを任せ、綾乃のもとへ駆け戻った。


「多分アイツらじゃ火力が足りなくて致命傷は与えられないニャ。にゃーが時間を稼ぐから、綾乃は魔力を全部燃やしてアレで攻撃するニャ。あれを倒したら、あとは有象無象の雑魚ばかりで他の冒険者でも問題ないニャ」


「分かったわ。・・・・・・ほんと、あなたがいてくれてよかった。あなたがいてくれたから私は兄の希望を持てたし、今ここで助けてもらう側じゃなくて"守る側"になれた。じゃあ悪いけど、少し時間を稼いでちょうだい」


「任せるニャ!綾乃は集中して、自分が1番成したいことを強く思うニャ。系譜魔法はルーツを紡いで心を燃やして真価を発揮するニャ!」


 綾乃は深く頷き、ダンジョンのただ中で目を閉じた。

 本来なら危険すぎる行為だが、キトラへの絶対の信頼が背中を押す。


 キトラはドラゴンに飛びかかり、鋭い猫パンチを叩き込み、巨体の攻撃をすり抜けるように躱す。

 暴れるドラゴンが吠え、地面が割れ、魔力が周囲を吸い寄せた。

 ブレスの兆候。

 しかしキトラが猫パンチを顎に打ち込み、それを止める。


 綾乃は肺の空気を全て吐き出す。


「この心は既に空なり。我が身は剣となり邪を祓わん・・・・・・」


 彼女の系譜魔法には特異な性質がある。

 血統を詠唱として名乗り、心から願うことで使うことが出来る系譜魔法。

 まだ完全に理解しているわけではないが、ダンジョンを出る前に練習として使った時に、強い集中と覚悟がそれを起動させることは分かっている。


 魔力が剣へと集まり、周囲が目に頼らずとも把握できるほどに研ぎ澄まされていく。

 冒険者たちがギリギリで尻尾を躱し、ドラゴンが痺れを切らしてブレスを溜め、キトラが使わせまいと迫るが間に合わない。

 射線上にいたキトラは魔力を最大限に使い、結界で後ろにいる冒険者たちを守る。


 綾乃は目をカッと見開いた。


「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ!」


 その声は静かだが、戦場を震わせるほど強かった。

 スキルによって自然と紡がれる言葉。だが、それは彼女の魔力と血に刻まれた歴史の詠唱でもある。


「祖は大乱を平定したる四天王、源頼信!

 その裔にして、天狗に師事し、壇ノ浦にて平家を討ち滅ぼした九郎判官義経!」


 血が沸き、魔力が剣に集中し、周囲の空気が震える。



「その子は西行法師に伴われ平泉を脱し、河南の地に根を下ろし、修験者に敬われた!

 その子孫は先の大厄災——スタンピードにて市民を守り殉じた義宣!

 その嫡子にして異界を救いし英雄・義盛!」


 脳を焼くほどの負荷がかかるのに、心は澄み渡り、視界が信じられないほどクリアになる。


「その義盛が妹にして、異界の獣神から加護を得た我が名は綾乃。ここに名乗りを挙げん!」


 魔力が自身だけじゃなく、剣も己の一部のように循環していく。


「いざ一太刀、馳走つかまつる!!」


 ブレスによって巻き上げられた砂煙の中を綾乃は走る。

 膨大な魔力に気づいたドラゴンが爪を振り下ろす。

 それは彼女を押し潰すには十分な質量と速度。

 何もしなければ潰される。

 しかもキトラのサポートは望めない。

 そんな状態で綾乃が選んだのは加速。

 ではなく減速からの停止。

 魔力を足に集めて地を割るほど強く踏み込み停止をする。


 残り少ない貴重な時間で敢えて彼女はタイムロスをする停止を選択し、爪が服を掠めるかどうかの際どいところで完全停止。

 そして停止した際の強い踏み込みから一気にトップスピードに至るために強く大地を蹴った。


 緩急自在の法。


 彼女は突然の加速に反応できないドラゴンの爪から一気に駆け昇る。


 ほとんどの生物の外側は頑丈に守られている。

 しかし内側は外に比べてかなり柔らかい。

 ドラゴンとて、それは例外ではない。


「いやァァァァァァァァァァ!!!」


 掛け声とともに剣を振るう。

 そして衝撃の瞬間、足に集めていた魔力を全て剣に移動させた。

 衝撃の瞬間にだけ力を込めるのは秘剣でもなんでもない剣の基本である。

 だがその全魔力を集中させたその一撃はドラゴンの首を見事に切り裂いた。


「・・・・・・ガァッ!・・・・・・カヒュー」


「キトラ!お願い!!!」


 落ちてくる綾乃の声を聞いたキトラが残り少ない魔力で、綾乃を浮かせて激突しないようにしながらすぐにその場所を離れる。


 そして


 ドンッ!!!!!


 小さく呻き声を上げ、空気が漏れる音がして巨体が倒れ込んだ。

 グリーンドラゴンがサラサラと光の粒子となって消えていく。


「何とかなって良かった・・・・・・」

「綾乃お疲れ様ニャ。お前ら!にゃーは魔力切れで消えるから綾乃を地上まで送るニャ!竜殺しを他の有象無象に殺されたなんてあってはならんニャ!あとは雑魚しか出てこないから油断しなければスタンピードは収束するはずニャ!」


 キトラが綾乃を労うと声を張り上げて、彼女の保護を求める。

 すぐに綾乃の護衛をしていた冒険者が駆けつけて背負って撤退しようとしたその時、綾乃が目の前で突然消えた。







 





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