第四十一話 悲劇の世代!
しかし、その異変は突然現れた!
十キロ過ぎ地点で、
城西拓翼大学の石川涼介が、
蛇行をし始めたのだ!
(マズイ!脱水症状かもしれない!)
監督の櫛部川は、審判団に許可をもらい、
ドリンクの入ったボトルを持って、石川に近づく。
(汗をかきすぎている…。
目も焦点が合っていない。)
なんとかボトルを渡す。
石川は意識が朦朧としながらも、
ドリンクを飲み、真っ直ぐ走ろうとする。
しかし、足に力が入らない。
視界もグニャりと曲がる。
つまずき、バタリと倒れた。
第四十一話 悲劇の世代!
沿道からは大きな悲鳴が聞こえていた。
ハッと意識が戻ると、
石川はヨロヨロになりながらも
立ち上がり、再び走り出した。
普通の人間ならば、
倒れた時点で動けないはずである。
膝と肘は、倒れた時に擦りむけ、
血で真っ赤に染まっている。
その姿に沿道から大きな拍手が
巻き起こるが、
そこには、
チームで一番スマートな
ランニングフォームと言われた
石川涼介の面影はなかった。
ただ、ランナーとして、
箱根駅伝に挑む者としての
誇りと執念だけが石川を支えていた。
しかし、ここで止めなければ、
石川涼介の命に関わる。
監督の櫛部川は棄権する決心をした。
箱根駅伝において、
監督が途中棄権を申告する場合、
選手の体に接触しなければならない。
つまり、石川涼介の肩に
櫛部川監督がタッチをした瞬間、
その時点で城西拓翼大学の棄権となるのだ。
(涼介!よく頑張った…)
石川の前方に
監督車で先回りをした櫛部川が待つ。
監督が大きく両手を広げる。
しかしッ
石川は左右に首を何度も振りながら、
櫛部川にタッチをされないように
これを振り切った!
(バカヤロウ!)
血まみれの石川涼介を追いかけながら、
櫛部川が叫ぶ!
「止まれ!!涼介!!
もういいんだ!お前はよく頑張ったんだ!
もう走らなくていいから!
頼むからもう止まってくれ!!」
そう櫛部川が言った瞬間、
石川の足がもつれ再び倒れた。
泣きながら、もう一度立ちあがろうとする。
しかし、熱中症により
全身がガクガクと痙攣を起こしており
もはや立ち上がることができない。
意識はすでに半分もないはずである。
だが、石川はそれでもなお、
ほふく前進で、一歩でも前に進もうとする。
観客ですら、絶句して
もはや「頑張れ」という言葉すら
出すことができなかった。
そこに、後ろから走って追いついた
櫛部川監督が、石川にタッチして、
棄権の意思を審判に伝える。
すぐに石川は、
並走していた救急車両に乗せられた。
彼は、朦朧とした意識の中でも、
「スミマセン、スミマセン、
タスキ…タスキ…」と
泣きながら呟いていたという。
こうして、城西拓翼大学は
復路八区で無念の途中棄権となった。
前回に続き、ジョーダイの襷は、
再び八区で途切れたことになる。
それ以降、
『城西拓翼大学にとって八区は鬼門である。』
と言うイメージがついてまわるようになる。
また、
前回大会で襷を繋げなかった蒼太、
全日本大学駅伝予選会で棄権・失格となった
蓮太と修太、
そして、今回、壮絶な走りを見せるも、
八区で棄権となった石川涼介、
この四人が同学年であったことから、
マスコミや駅伝関係者らは、
いつしか、蒼太たちのことを、
城西拓翼大学の『悲劇の世代』
と呼ぶようになった。




