第三十八話 回想 〜あの日の思い出〜
箱根駅伝復路七区。
城西拓翼大学の襷は、
双子の兄・蓮太から
弟の修太に託された。
シュウは襷を受け取ると、
まるで兄・レンの弾丸小僧ぶりを
彷彿とさせるようなスピードで
一気に駆け出していった!
実際のところ、箱根駅伝の七区は、
アップダウンの少ない平坦なコースに見えるが、
前半はやや下りぎみの傾斜となっている。
そのため、この七区に関しては、
シュウのように下りのスピードに乗って、
序盤から突っ込んだ方がよいのだ。
シュウもまた、
兄のレンと同様、下りの適性が非常に高い。
六区と七区はまさに、
双子の弾丸コンビのためにあるような
コースであると言えよう。
(あの日、双子の俺たちを
立ち直らせてくれた竹村さんのためにも、
ここでライバル校を突き放してやるんだ!)
シュウもまた、レンと同様、
全日本大学駅伝での悔しさを晴そうと、
箱根駅伝に全力で挑んでいた!
第三十八話 回想 〜あの日の思い出〜
全日本大学駅伝予選会での
敗北から数日後の夜。
「ほら。レン、シュウ!早くしろよ。
こっち、こっち。」
寮の門限が過ぎているにも関わらず、
竹村はレンとシュウを連れて、
寮から脱走していた。
レンとシュウも何が何だか分からないまま、
竹村に付いていく。
門限やぶりと脱走が重罪であることは、
百も承知だ。
しかし、四年生に合わす顔がないと
塞ぎ込んでいた二人にとって、
竹村の誘いは、不思議にも
暗闇の中に差し込んだ光のように思えた。
「よし!着いた!!ここだ。」
竹村が立ち止まった先にあるのは、
寮と繁華街の中間にある
普通のコンビニだった…。
「ちょっと待ってろ!
すぐ買ってきてやるからよ。」
数分後、竹村が買ってきたものは、
自身が世界一うまいと絶賛するアイス、
バリバリ君(税込76円)であった。
「ほら、レンもシュウも
遠慮しないで食えよ。俺の奢りだ。」
コンビニの前で
竹村と共にバリバリ君にかぶりつく。
「かぁー!!
寮を抜け出して食うバリバリ君は
宇宙一うめェな!
この口当たりの爽やかさと
夜中に食う背徳感が
絶妙なハーモニーを奏でてやがるぜ!」
竹村の謎の食レポがツボにハマり
レンとシュウにも笑顔が戻る。
(そう言えば、全日本の予選会から
一度も笑えていなかったな。)
二人は元気を取り戻しつつあった。
「あの…竹村さん、
全日本の予選会での件は…」
レンがようやく口を開く。
竹村は珍しく真面目な顔をして
二人の話を聞いていた。
そして、一通り話を聞くとこう答えた。
「お前らには、まだチャンスがある。
だから、過去の自分を責め続けて、
周りに壁を作らなくていいんだ。
そりゃ、レースに勝つためには
馴れ合いはだめだし、
まだまだ厳しさも必要だ。
でも、俺たちジョーダイの強みは、
辛いことも嬉しいことも
みんなで分かち合えることじゃないのか?
だから、一度の失敗で
一人で塞ぎ込む必要なんてないんだ。
今日や夏合宿の終わりの時みたいに、
また、みんなでバリバリ君食いたいだろ?」
二人は黙って頷きながら、こう思った。
(夏合宿の時は、竹村さんが郡司さんの
バリバリ君を食べたせいで
大喧嘩になって大変だったな…。)と。
「それじゃあ、帰ろっか。」
竹村が背伸びをする。
「「ハイ!」」
二人が元気よく返事をした後、
三人は仲良く肩を組みながら寮に帰っていった。
レンとシュウは、
この時、竹村のおかげで救われたのだった。
それから
さらに幾日が経ったある日。
脱走などの罪で竹村と共に
丸坊主となったレンとシュウは、
気合いを入れるために
それぞれの彼女から、
本気の平手打ちを受けることにした。
しかし、その平手打ちは、
相当、激痛だったのだろう。
彼らの叫び声は
城西拓翼大学陸上競技場の
端から端まで聞こえていたと言う。




