第三十五話 下りの韋駄天、出現!
『韋駄天』
仏法(仏教)の守護神で
とてつもない瞬足であったと言われている。
このことから、古来より、
足の速い人物を韋駄天と
呼ぶようになったと言う。
第三十五話 下りの韋駄天、出現!
箱根駅伝復路。
第六区スタート地点、芦ノ湖。
山梨国際大学がスタートしてから
十三秒後、
城西拓翼大学・東原蓮太は、
双子の弟・修太が待つ
小田原中継所に向かってスタートを切った。
前方に、山梨国際大学が見えるが、
諸星のアドバイスどおり
焦らずゆっくり入る。
(下り坂に入ってからが勝負だ。)
夏合宿で証明したように、
蓮太は下りの走りに
絶対の自信を持っていた。
そして、六区の下り坂に入ると、
レンは一気にギアを上げた!
あっという間に、
山梨国際大学を抜き去ると、
その後もスピードを落とすことなく、
小涌園から宮ノ下まで駆け抜ける!
急坂であっても、
ひとつも恐れることなく
前傾姿勢で突っ込む様は、
まるで、弾丸だ。
(やっぱり、下りは最高だ!
ジェットコースターみたいで面白ぇ!!)
レンは、この感覚が
ずっと続いてほしいと思った。
しかし、六区最大の難所は、
下りが終わった後の平地である。
平地コースの函嶺洞門近くあたりから、
今まで下りを走っていたランナーが、
まるで急坂を登るような感覚に陥るのだ。
(なんだ!?これェ!?
まじでキツすぎるだろ!!)
レンも、話に聞いていたとはいえ、
まるでいつもの三倍以上の重力が
両足にのしかかっているように感じていた。
だが、ここを辛抱してスピードを
落とさなければ、後方との差を
開くことができる。
(修太!!待ってろよ!
全日本予選会での悔しさは、
今日の箱根で晴らすんだ!)
気持ちを切り替えて、
スパートをかけようとした、
その時だった!
レンの右側から
白色に青のラインが入った
ユニフォームのランナーが
とてつもないスピードで現れた!
(マジかよ!関東体育大学?
なんでこの位置にいるんだ!?)
復路が始まる前は、
シード権外の十二位で、
城西拓翼大学とは二分以上の差が
あったはずだった。
それを一気に逆転してきたのだ!
この時、レンは
箱根駅伝に関するある格言を
思い出していた。
『上りに山の神が降臨する時、
必ず、下りに韋駄天が現れる。』
(やはり、
一筋縄では勝たせてくれない!
上には上がいる!!)
箱根駅伝の厳しさを思い知ると同時に
レンは武者震いが止まらなかった。




