第三十話 譲れない想い!負けられない覚悟!
極寒の箱根山中では、
城西拓翼大学の郡司と
山梨国際大学の井之上が
バチバチと火花を散らしていた。
ジョーダイが前に出れば、
ヤマガクが追い抜く、
そして、ヤマガクが前にでれば、
ジョーダイも負けじとさらに追い抜く。
一進一退の攻防にかつてないほど、
現地の観客は盛り上がっていた。
郡司は前監督であった平林のことを
思い出していた。
(自分のことを大切にできないヤツに
仲間を大切にできるはずがない。
そんなヤツに駅伝を走る資格はない!)
当時の郡司は、
その言葉の意味を理解しきれなかった。
しかし、平林が体調不良の中、
(来年は絶対に郡司を走らせるんだ!)と
いう決意をしていたことを知り、
郡司は、始めて平林前監督の思い遣りを
理解することができた。
(いつも、平林さんは俺たちのことを
大切に思ってくれていた。
今日こそ、その期待に応えてみせる!)
絶対に譲れない想いがそこにはあった。
郡司は急坂が終わる小涌園の前に、
ここで一気に差をつけようと
もう一度勝負をしかけようとした。
第三十一話
譲れない想い!負けられない覚悟!
(あの時、俺が頭に血が上らなければ、
こんなことにはならなかったかもしれない。)
二年前の箱根駅伝報告会でオツオリを侮辱した
相手に井之上が激昂したシーンが、
何度もメディアで放送された結果、
山梨国際大学は、
懇意にしていた高校から、以前よりも
選手を紹介してもらえなくなっていた。
本当の事情を知る高校の指導者らは、
ヤマガクに同情的であったが、
選手の親は、
「あんな乱暴な人間のいる大学に
行かせたくない。世間の目がある。」
と、敬遠してしまい有力選手のスカウトは
ことごとく、失敗に終わっていた。
そのため、元々細身であった植木監督の体重も
そのストレスで八キロも落ちてしまう。
それでも、植木監督は、
部員たちに頬こけた顔がバレないように
髭を伸ばし、気丈に振る舞う。
井之上が、何度も心配して
あの時のことを謝りに行くも、
植木監督は、
「スカウトが上手く行かなくなった理由は、
新興勢力もこれに力を入れてきたからだ。
断じてお前のせいじゃない。
お前たちは何一つ間違ったことを
していないんだから。」
と優しく答えた。
また、植木監督は10年間に、
当時小学生だった息子を難病のため亡くしている。
もし、健在であればオツオリや井之上と
同世代であった。
(うちの部員は俺にとって息子そのものなんだ。
親父である俺が、息子たちを見捨てるようなことは
絶対にしてはならないんだ!)
このような気持ちと行動がともなっているからこそ、
陸上関係者らは、植木のことを
「大学史上、最も部員思いの監督」として
尊敬の念を抱かずにはいられないのだ。
無論、オツオリや井之上、他の部員たちも
それを知っている。
(もし、箱根駅伝の山で、
わしが気持ちのこもった走りをして
往路優勝すれば、
また、ヤマガクを応援してくれる人が
増えてくれるはずじゃ!
そうなりゃ、植木先生も
また元気を取り戻してくれるし、
これ以上、後輩たちも
ツラい思いをしなくてもいい。)
(だから、わしは、今日!
絶対に負けるわけにはいかんのじゃ!!)
井之上の並々ならぬ覚悟が、
ジョーダイ郡司の進路コースを
とっさに防ぎ、アタックを完全に
潰しきる!
郡司は、勝負をかけるタイミングを
完全に失いペースが乱れる!
ここを勝負どころと察知した井之上は、
逆にジョーダイを一気に突き離す!
「勝負あったか!」
誰もがそう思った時、
後方から、「パーンッ!パーンッ!」と
誰も聞いたことのないような足音が、
とてつもないスピードで
井之上と郡司に迫っていた!




