第二十九話 タイマン勝負!!
箱根駅伝往路、第五区。
コース内でも、
傾斜が一段とキツなる宮ノ下地点。
城西拓翼大学の
郡司大河は、山梨国際大学の
背中を追いながら、
今までの競技生活を思い返していた。
『高校時代まで
指導者や環境に恵まれなかったが、
一切の言い訳をせず、一人がむしゃらに
トレーニングを続けるも、
インターハイで山梨国際大学附属高校に
完膚なきまでに大敗を喫したこと。
大学一・二年生の時はあらゆる大会で
ヤマガクをはじめとする強豪校の選手に
挨拶をしても、完全に無視をされるという
屈辱を味わったこと。
昨年の全日本大学駅伝関東予選会では、
ヤマガクの圧倒的な走力に
敗れ去ったこと。
前回の箱根駅伝では怪我のため、
直前でメンバー外に。
そして、尊敬していた平林監督の退任。
今シーズンの全日本予選会に至っては、
途中まで上位にいながら、
まさかの途中棄権。
一方、ヤマガクは逆転滑り込みでの
全日本大学駅伝本戦への出場…。』
(思えば、ツラいことばっかりやったな…。
そやけど、この悔しさは今日の箱根で
絶対に晴らしたる!
ヤマガクに勝たずして、
俺の箱根駅伝は終われんのじゃ!)
十キロ地点。
郡司は後方の監督車に合図を送った。
(監督!ここは勝負に行かせてくれ!)
第二十九話 タイマン勝負!!
監督車にいる櫛部川監督も、
そんな郡司の気持ちを痛いほど理解していた。
すぐさまマイクをとり、
ありったけの思いを込めて檄を飛ばした!
「郡司ィ!!
前にいるヤツ全員ブチ抜いてこいや!
お前は今までずっと悔しい思いをしてきたんだろ!
でも、その悔しさを走りに変えることができたから、
お前は強くなっていったんじゃないか!
行けー!郡司!
お前が山で一番だってことを証明してこい!!」
郡司も大きくガッツポーズをとる!
先ほどまで並走していた明利大学を
置き去りにし、一気にヤマガクの井之上まで
接近した。
「追いかけてきた!?なんでじゃ?
しかも明利大じゃのうて、ジョーダイが!?」
明利大のように上位入賞や、
あわよくば優勝を狙っているチームであれば、
ここで勝負をかけても何ら不思議では無い。
しかし、往路五位か六位のチームで
目標が「総合十位のシード権奪取」であるならば、
今、この山の五区で危険を省みずに
勝負をしかける必要は無いはずである。
「なんちゅう、粗削りな走りじゃ。
じゃが、コイツもなかなか気持ちのこもった
ええ走りをしとる。
ジョーダイにも…
こんなアツいヤツがおったんじゃのう!!」
しばらく、並走するかと思われた両者だが、
ここで、ジョーダイの郡司がある行動にでる。
少し、ヤマガクの井之上の右側から前に出ると
わざと相手に見えるように左手首をクイクイと
動かす仕草を見せる。
これは、味方同士なら
「俺が引っ張るからついてこい。」という
ジェスチャーになる。
だが、
これが敵チームなら話は別だ。
「ビビってねーで勝負にこいよ!」
「一対一で勝負しようぜ!」
という明らかな挑発行為として認識される。
このジョーダイ郡司の戦線布告に対し、
熱血広島男児の井之上幸希が
黙っているわけがない。
(上等じゃあ…。この三下のチームがぁッ!!
速攻でぶち抜いたらァァァ!!)
こうして、
正月の寒風が吹きつける箱根山中で、
二人の男たちのアツいタイマン勝負が
切って落とされた!!




