第二十八話 強襲ヤマガク!
いよいよ、箱根駅伝の往路は
最後の山登りである
五区を向かえた!
現在のトップは、
一区から常に先頭に立ち続けている
早稲田学院大学。
そのおよそ一分三十秒差で、
常勝軍団の異名をとる
駒ノ澤大学が後に続く。
大木沢監督の檄が
どれだけ選手を後押しするか
注目が集まる。
三位の中央義塾大学は、
先頭のワセガクに
およそ一分四十五秒差で襷を繋いだが、
山の五区次第では、まだまだ
往路逆転優勝も可能なタイム差であり、
名門の意地をしめすべく、
全力で前を追う。
一方、四位集団を形成する
上位を維持したい明利大学と
シード権奪取を目標としている
城西拓翼大学は、
後方のライバル校を引き離すため、
一時的に共同戦線を組み、
並走を続けることにした。
最初の三キロの平地は、
なるべく勝負をしかけず
ゆっくりとしたペースを保っているが、
それぞれ、箱根山で相手を出し抜くために、
虎視眈々と勝負所に備えて力をためていた。
そして、六位の山梨国際大学は
ダブルエースの一人、井之上幸希を投入し、
一気に巻き返しを図ろうとしていた。
第二十八話 強襲ヤマガク!
今大会、ヤマガクは
あえて三区と四区に主力を置かない
作戦をとっていた。
これらの区間に関しては
ライバル校に大負けしなければ
それでいいと割り切っていたからだ。
これは、
山梨国際大学陸上部の監督である植木が
井之上の山登りに絶対的な信頼を寄せており、
五区までにトップと二分差なら、
十分に逆転可能と考えていたからだ。
「トップとはすでに約三分差か…。」
監督車にいる植木は、苦い表情をしていた。
また、元箱根ランナーの直感だろうか。
どこか心に引っ掛かる何かを感じずには
いられなかった。
しかし、計算通りにいけば、
最低でも往路三位以内に
入ることは可能である。
そして、明日の復路には温存していた主力が
控えており、トップとのタイム差によっては、
総合優勝を狙うことができる算段であった。
つまり、
ヤマガクが優勝するためには、
五区・井之上の走りに
すべてがかかっていると
言っても過言ではないのである。
その期待に応えるように井之上は、
最初の三キロを好タイムで走り切る。
そして、スタートから九キロ先、
箱根山の急勾配が始まる地点である
宮ノ下の前で、明利大学と城西拓翼大学を
捉えることに成功した。
(さあ、ここからが本当の山岳ステージじゃ!
わしの…いや、ヤマガクの本領発揮じゃあ!)
井之上は一気に前方の
二校を抜き去りにかかる!
ランナー達による箱根山の攻防戦に
感動をせずにはいられない
地元住民と観客たちは、
「宮ノ下コール」で、彼を後押しする。
ちなみに、宮ノ下コールとは、
地元住民が拡張機で選手の名前が呼んだ後、
観客全員が一斉に、
その選手の名前を叫んでエールを送る
宮ノ下独自の応援スタイルのことである!
『井之上!』『井之上!!』
『井之上!』『井之上!!』
何度も繰り返し自分の名前が連呼される。
まさに箱根ランナー冥利に尽きる
といった瞬間であろう。
(やっぱり最高じゃあ!
宮ノ下スタイルは!!
そして箱根駅伝は!!)
前方の誰よりも勢いよく山を登る井之上。
観客の誰もが
『ヤマガク・井之上の右に出る者なし!』
そう思っていた。




