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第五話 魔力と特殊能力

 言い訳を聞いて欲しい。

 確かに無茶な修行の仕方をしていたという自覚はある。だが、俺とて何の勝算

も無かった訳ではない。

 まず、魔力。

 この世界では魔物と呼ばれる生物は皆、魔力という摩訶不思議エネルギーをそ

の身に内包しており、収まり切らずに溢れたものはオーラの様に身に纏っている。

当然、俺自身もだ。

 魔力というのは本来不可知なものなのだが、この体にはその魔力を感知するこ

とができる能力が備わっているのだ。つまり、俺は出会った相手がどの程度の魔

力を持っているのか、大まかにだが分かるという事だ。

 ちなみに、この世界の生物全てがマナを魔力に変換できるというわけではない

らしく、魔力を持っていない昆虫や動物を見かける事も少なくなかった。植物に

至っては、魔力を宿しているものの方が珍しいぐらいだ。


 この能力のおかげで、出会う魔物の持つ魔力量の悉くが、俺と比べてかなり少

ない事を事前に知ることができた。今のところ最強の敵であった、あの髑髏頭の

巨大蟷螂でさえ、持っていた魔力の量は俺の十分の一も無かったと思う。

 つまり、どの相手も油断さえしなければ、そうそう後れを取る事はないであろ

うと、戦う前から分かっていたのである。

 ……ん? 魔力の量だけで相手の力量を測ってしまっていいのかって? うん。

この世界ではそれで大丈夫なのだ。……と俺は思う。もちろん完全に決めつけて

かかるのが危険なのは、何だってそうだが。


 実は俺、六十日間この森で修行をしている内に、ある事に気が付いた。それは、

この世界での戦闘において、最も重要なステータスは魔力の量なのではないか?

という事だ。

 これも以前に言ったことだが、この世界では魔力を使って肉体を強化すること

で、攻撃力や防御力などを高めることができる。もちろん元々の肉体能力が高い

に越したことは無いが、多少の差なら魔力による強化によって、割と簡単に埋め

られるのだ。

 他にも、脳内取説を読み解くことによって、この体には様々な便利能力――こ

の世界では〝特殊能力(スキル)〟と呼ばれる、摩訶不思議パワーが備わっている事が判明

したのだが、そのほとんどが発動させるのに魔力の消費を必要とする。

 これはおそらく、他の魔物達も同じだろう。少なくとも、俺がこれまでに出会

った魔物達は皆そうだった。


 かように、魔力とはこの世界の――こと戦闘に関しては、この上なく重要なフ

ァクターなのだ。この世界にデビューしたばかりの俺がそれに気付いているのだ

から、先輩たるこの森の魔物達も当然それを知っているはずだ。

 にも関わらず、圧倒的に魔力の多い俺に自ら挑みかかってくる魔物がかなりの

数いたという事から、この森の魔物の多くは俺のように相手の魔力量を知ること

のできるスキルを持っていないのであろうという事が推察できる。逆に俺との戦

闘を避けた魔物達は、そういったスキルを持っていた可能性が高い。

 ……まぁ、ただ単に見慣れない相手との戦いを避けただけ、という可能性もあ

るが。

 六十日間森を歩き回ったが、未だに俺と同種と思われる魔物には出会えていな

いからな。最初に予想した通り、雲兎――霊獣というのは、やはり珍しい種族な

のかもしれない。


 更に言うならば、脳内取説のおかげで知ることのできた、この体に搭載される

数々のスキルが、余りにも便利かつ強力な事も、俺の無茶を後押しした一因にな

っているのは間違いない。いくつか抜粋するとしよう。

 まずはなんといっても、このスキル。【アインの加護(お礼)】。


『〝箱庭〟を管理する神々の頂点――主神・アインの加護。与えられた者は毒や

病魔、呪いなど、ありとあらゆる状態異常に対する完全耐性を獲得し、不老の体

となる』


 最初から色々とおかしい。

 何、このスキル? 『あらゆる状態異常に対する完全耐性』ってだけでも破格

なのに、不老の肉体って……。

 不老というと、力と栄華を極めた者が、最後の最後に途轍もない時間と犠牲の

果てになんとか手に入れる、もしくは手に入れ損ねるもの――という印象が俺に

はあったんだけど、なんで当たり前の様に搭載されてるんですかね? この非常

識ボディ。

 あと、この()内の〝お礼〟って何? 俺、こんななんだか凄そうな神様にお礼

をされるような事をした憶えは無いのだが…………まぁ、途轍もなく頼もしいス

キルなので、与えて下さった事には素直に感謝を捧げておくことにする。ありが

とう、アイン様。


 次に【魔力感知】。

 名前の通り、先程からちょいちょい言及していた、魔力を感じ取ることのでき

るスキルとはこれのことだ。

 今の俺は自分を中心とした半径約百メートル以内くらいに存在するものの持つ

魔力量を、それなりに正確に感じ取れる。

 相手の力量を戦う前からある程度知れるという事の重要性については、わざわ

ざ語るまでもない。事前に勝ち目が無いと悟れれば、速やかに撤退という選択肢

を取ることもできる。

 戦闘において魔力が非常に重要な地位を占めるこの世界では、とりわけ有用な

スキルと言える。


 更に【危険予知】。

 俺が意識できていない所から危険が迫った時、どこからどんな感じの危険が迫

るのかを数秒前に知ることができるスキル。要は不意打ち防止スキルだ。

 俺が自分の意志で発動を止めない限り、常に勝手に発動しているタイプのスキ

ル故、寝ている時に危険が迫った際は目覚まし代わりにもなってくれる、実に便

利なスキルである。

 これから先も、大いにお世話になるだろう。


 【超速再生】というスキルもある。

 その名の通り、魔力を消費することにより再生力を超強化し、即死さえしなけ

れば、どんな重傷でもものの数秒で完治させる事ができるという、これまた反則

級のスキルである。

 ただ、この体は元々回復力に優れているらしく、多少の傷ならば放置していて

も僅かな時間で治癒する。なので現在までの所、このスキルを発動させるような

事態には遭遇していない。できればこの先も、このスキルに頼らなければならな

い状況には陥りたくないものだ。


 他にも切り札となり得るであろう強力な効果を持ったスキルや、【痛覚遮断】

や【万能翻訳】、【鑑定眼】などといった、先に上げたものに比べれば多少地味

ながらも、確実に有用なスキルも多数取り揃えられており、至れり尽くせりとい

った感じだ。

 ちなみに、俺がこれでもかと多用しているあの雷も、スキルによるものだ。

 【雷帝】という名のスキル。自らの魔力を青白く輝く雷に変え、操ることがで

きる他、敵からの雷属性攻撃に対する強力な耐性を得ることができる。脳内取説

の解説によると、雷を操る系のスキルの中では最上級のスキルらしい。

 一対一の戦いでももちろん有用だが、数で攻めてくる敵を一掃するのに、特に

重宝する。また、エフェクトが実に格好良く、俺好みな為、ついつい多用してし

まう、お気に入りのスキルだ。


 ……しかし、肉体を強化できたり雷に変えられたり……この世界の魔力という

ものは、本当に不思議で便利なエネルギーだな。

 閑話休題。

 これだけサポートが充実しているのだ。少しばかり無茶な修行に没頭してしま

う俺の気持ちも、多少理解してもらえるのでなかろうか。……してくれる者も、

きっといると信じたい。


 ふと、俺の頭に一滴の雫が落ちる。

 どうやら、今朝からぐずっていた空がとうとう泣き出した様だ。修行は一時中

断し、雨宿りできる場所を探すとしよう。

 再び森の中を進み行く。進路上で木陰や茂みから顔を覗かせていた小動物達が、

道を開ける様に逃げ出していった。

 それを寂しく感じるかというと、実は全然そんな事はなく……むしろ、なんだ

か怪獣映画に出てくる巨大怪獣にでもなったかの様な気分になれて、若干気持ち

良くなっている、幼い俺がいた。

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