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デッドノート・ラストバウト 2

 



「き、貴様……!」



『俺の戦い方は死神さん達に教わったんだ。死神さんほどじゃなくても、少しでも迫ることくらいは出来る。さぁ、かかってこいよ魔王軍幹部。死神さんと俺と、そしてリィンと。人間の意地を見せてやる』



 悠がそう啖呵を切ったそのとき。



 ――不意に、二人の戦いの間に割って入ってきた者。



「よく言った。その調子だと、リィンと話を出来たみたいだな」



 聞き覚えのある少女・・の声が響く。



 その声の正体は勿論。



『死神さん!よかった、生きてたのか!』



「簡単にくたばってたまるかよ。それよりほら、これやるよ」



 死神は話も早々に切り上げ、その傍に置いてあったなにかの塊を悠に向けて投げ渡した。



 えらく乱雑な扱いに、なにやら精密機械らしい塊はガシャリと不穏な音を立てて悠のそばに落ちた。



『……ブレイドバレルじゃないか、これ』



「お前のだろ。アイツの城で逃げてる時に見つけた。重かったんだぞ?」



『……ありがとう、死神さん。これを持ってきてくれて。約束を守って生きててくれて』



「当たり前だ。僕は人に裏切られるのが嫌いだ。だから同じことを絶対にしない。それだけだよ。ほら、行ってこい。勝ってこい。お前が決めてこい。僕とリィンは勝ってきたお前を暖かく迎えるよ」



『……あぁ。お陰で迷いも全部吹っ切れたよ。行ってくる』



 もうなにも考える必要はない。



 信じた道を邁進するだけだ。



 目の前の敵など怖くはない。



 信じるもののために戦うだけだ。



全行程完了システムマッチングクリア。ブレイドバレル、アクティブ』



 ぱちぱちと草木が燃ゆる音の合間に、透き通ったシステムボイスが辺りに響く。



 その時風が巻き起こり、炎が悠の体を包みこんだ。



 悠は炎を、迷いと共に断ち斬り、切っ先をヴァドへ向ける。



 その眼差しは強く、清潭に。



『これで終わらせる。覚悟は決まったか?俺は決まった』



「覚悟などと抜かしおる!貴様こそ死ぬ覚悟は出来ているのか!」



 悠とヴァドは互いに言葉を交わすと、互いに刃を向け、互いに、同時に飛びかかった。



 ブレイドバレルにシャープレイを走らせ、ただでさえ尋常ならざる斬れ味を持つこのバレルを更に強力な兵器へと変える。



 先ほどと同じような要領で剣を振るってきたヴァドに対して、今度は避けることも受けることもせず、真っ向から券を振り抜く。



 その刹那、ヴァドの剣は二つに折れ、武器としての形の役割をなくした。



「なにっ!」



 自身の武器をなくしたヴァドは即座に反応し後退したが、それに合わせて悠は逆に急接近。



 逃げたつもりが逃げ切れていなかったヴァドは、放たれたオーバーヘッドキックを躱すことが出来ずにそれを直撃。



 すぐさま地面に失墜するも、追撃を恐れて次の瞬間にはもう地から離れていた。



「我が愛剣を折るとは……度し難い!光栄に思うがいい!貴様は我が全力をもってして殺してやる!」



 ようやく余裕を消し、激しい怒りを見せるヴァドに対し、冷静を保ったままの悠。



 次になにが起こるかだけを見据え、ひたすら動き続ける。



「我が魔法!我が全力を受けるが良い!」



 ヴァドは手のひらに禍々しい色の魔法を顕現させ、それを力強く握り潰した。



 それによって体全体が闇色に包まれ、魔法が全身を支配したヴァドは静かに悠へ掌を向ける。



 ――その瞬間悠に、とてつもない重力がのしかかった。



『ぐっ……⁉︎』



「我が魔法は重力を支配する魔法!範囲はせいぜい一人までだが、それは決して逃れることのできない絶対的な能力だ!魔王様にすら通用するこの魔法から、貴様が逃れられるはずがあるまい!」



『体が……重い……!』



 その魔法はデッドノートの出力をもってしても脱出できないほど強力な魔法だった。



 これまで見てきた魔法が遊びにすら見えるほどの圧倒的な能力を前に、悠はただ膝をつくしかなかった。



 ヴァドは上空から跪く悠を見下し、ほくそ笑んだ。



 あれほど憎らしかったものが自身の能力を前にしてなす術なくこうべを垂れる姿をどれだけ心待ちにしていたか。



 これでようやく終わる。



 水際で抵抗していた人間共を、ようやく殲滅出来る。



 この男さえ砕けば、希望をなくした人間は崩れ落ち、崩壊は免れないだろう。



 そして更に多次元への侵略も同時に開始し、我らこそがこの世界の、全ての覇者となるのだ。



 これはその前奏。



 輝かしい未来のための、悪逆のプレリュードなのだ。



 あと少し。



 あと少しでこの男を殺せる――。



『――と、思ったか?』



 そんな考えを見透かしたかのように悠は言い放つと、最後の力を振り絞って腕部からワイヤーを射出した。



 ワイヤーは空中に浮かぶヴァドを捉え、その場での拘束に成功した。



「……これがなんだというのだ?笑わせるな。これだけのことがなんになるというのだ?」



『どうにかなるんだよ。なぁ?――リィン』



 ヴァドはその時初めて気がついた。



 いつの間にか、自身と戦闘中の男、満身創痍の少女の他、第三者が混じっていることに。



 悠の背後から姿を現した者は、ゼルトルン王国騎士団団長代理、リィン=ストレア。



 この国で、最も強い力を持ったものである。



『なんだっけ?その魔法。個人に対しては最強なんだっけか。残念だけど、今の俺は一人じゃない』



「そうだよ。お前が言うように私たちは弱いから、束になってお前達と戦うしかない。でも、その束になった力は油断したお前達を凌駕するんだ――!」



 リィンは包帯だらけの体を酷使して、悠とヴァドを結ぶワイヤーの上を走りつつ、魔法の詠唱を始める。



「火よ、水よ、風よ、大地よ。私の中の全ての魔力よ」



 瞬間ヴァドの顔を覗き込み、悪戯っぽく笑ったのを最後に視線を鋭く変える。



「身を灼く業火、龍を呑む津波、木々を裂く烈風、万物を砕く罅割。集いし幻想は昇華され、形取られた災厄へ。――それじゃあ、飛ばしていこうか」



「リ、リィン=ストレアァァァァァァァァァ!」



 リィンはヴァドの目の前に至った瞬間、自らの剣に全力の魔力と全開の魔法を纏わせ、抜刀する。



「エル・レ・バースト」



 まるで固有魔法が発動しているときのリィンのような落ち着いたトーンでそう言い放ち、リィンは最高速で一閃。



「ガッ……」



 一刀両断とはいかないものの、致命傷と言える深い傷を負わせることに成功したリィンはそのままの勢いで地へと失墜していく。



 一閃と同時に重力魔法が解除され、自由になった悠はワイヤーを解除し、更にリィンを抱きとめる。



『リィンなら来てくれるって信じてた』



「私も、頼ってくれるって信じてたよ」



「バ……馬鹿な……!そのような……そのような茶番劇でェェェェ……!」



『……自分の敗因を茶番だとか言うようになれば終わりだな』



 奇しくも先ほどとは逆転したように、見下した様子で静かにそう言い放った。



 最後に悠はブレイドバレルの接続を解除し、リィンを抱きかかえる腕とは逆の立場腕にキャノンバレルに換装。



 落ちゆくヴァドへ照準を定め、砲撃の準備に入る。



『終わりだ。跡形もなく消えろ!』



「ま、魔王様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」



 その醜い断末魔の叫びを聞き届けると、終焉の鐘を鳴らすかのようにトリガーを引き、残量エネルギー全てを込めた砲撃を放った。



 普段なら心もとないものの魔力による防御もなく、致命傷を負った相手には十分すぎるほどの輝きだった。



 やがて放射が終わる頃には、既にその場にヴァドの姿はなかった。



 そして遠目に見えるヴァドの城が自動的に崩れ落ち、やがて主人と同じように跡形もなく消え去った。



『……生体反応なし。終わったよ、リィン』



 残量シャープレイがゼロになり、自動的に装甲が解除された悠は彼女に顔を見せた。



 戦いの終わりを告げ、にっとはにかんだ。



「やっと、終わったね。ありがとう悠くん。私を、この国を救ってくれて」



 涙ぐむリィンの瞳に伝う涙をそっと拭き、彼女を抱きしめる。



「わっ、ゆ、悠くん⁉︎」



「……ありがとう、リィン。俺にまた人を信頼させてくれて。半年以上前からずっと続いてた心の靄がようやく晴れた。ありがとう」



「……うん、頑張ったね、悠くん。今はゆっくり休んで」



「あぁ。わかっ……た……」



 悠は緊張の糸が切れたからか、途端にその場で意識を失った。



 しかしその表情は極めて穏やかで、これまでずっと抱えてきた問題、ストレスが解決したことによってもう悪夢に苛まれることもなくなりそうだった。



 そんな悠をしばらく見つめていたリィンだったが、やがて彼女自身も意識を保っていられず、悠に覆いかぶさるような形で深い眠りについた。



 元は重症である。



 体に鞭打って戦闘に参加したことが決め手となったのだった。



 そんな二人を見つめる者が一人。



「……おいおい、僕が運ぶのかよ。……まぁ、いいけど。今日くらいは使われてやるよ」



 ようやく心を開いた自分の教え子の成長を前に、死神は小さく微笑んで二人を担ぎ、彼らを待つ者達のもとへと送り届ける。



 斎賀悠がこの世界に来て一ヶ月と数日。



 五人の幹部のうち、一人を倒した日が今日だった。






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