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エピローグ

 他次元からの侵略を防ぐため単身異世界へと訪れた斎賀悠が魔王軍幹部を倒してから、数日が経った。



 一柱を倒したというのに国民の魔力は未だ戻らず、それは同時に魔法を取り戻すには残り四人の幹部を全て倒さなければいけないことを示していた。



 普通ならば絶望に明け暮れるような状況だが、不思議と国民の表情は明るく、希望に満ち溢れていた。



 それは決して空元気ではなく、心からの明るさ。



 自分たちは負けないという強い信頼から成るものだった。



 そんな活気に溢れた街を、高台から見下ろす者が一人。



 この世界に来る前と同じように、何も考えずただぼうっと風に吹かれ。



 悠は柵に体重を預け、空を仰ぎ見る。



 しかし以前とは打って変わった、空虚などではなくどこか満足感に満ちた顔で、悠は勝利の余韻と、甘美な感覚に酔いしれた。



「悠くーん、何してるの?」



 そんな時、黄昏る悠を発見したリィンが、ぱたぱたと手を振って歩み寄って来る。



 ほんの数日前まで最前線で戦い、敵幹部に致命傷を負わせた者とは思えないほどのお気楽さと愛らしさで悠の隣に収まった。



「好きなんだ、こうやって何もせずただぼうっとするの」



「私も好きだよ。うーん、いい風だね」



「うん。そうだな」



 二人はそれで黙りきり、まだまだ復興が進んでいない街を見つめた。



 二人の間に今は言葉は必要なく、その心地いい沈黙に身を預け、その空気感を楽しんだ。



 と、悠はふと頭の片隅にある一つのことを思い浮かべた。



 まだ、彼女に言えていないことが一つあった。



 以前と比べて相当クリアになった思考だが、唯一それだけが心残りとなっているようである。



 ――今、言おう。



 仮初めの言葉ではなく、仮初めの関係ではなく、仮初めの契約ではなく。



 彼女に自分の心を伝えよう。



「リィン」



「ん?なぁに?」



「その……なんだ。君に言いたいことがある」



「なにさ改まってー。言って言ってー」



「うん。……俺は以前、君と上っ面の契約関係を結んだ。けどリィンは俺が上っ面のつもりだった契約を信頼してくれて、俺はここまで来ることが出来た。俺を変えてくれた」



「な、なに?照れるよ」



「それで、だな。えーっと、今更なんだけど……俺と友達になってくれないか?」



 悠のその発言を聞いたリィンは一瞬きょとんとしたものの、途端に吹き出し、ついには腹を抱えて笑いだした。



「な、なんだよ」



「あはははは、なに言ってんの。私は最初からそのつもりだよ。悠くん言ってたでしょ。私たちを守るのは最初からの契約だって。私も、悠くんと出会ったあの時から友達だと思ってたよ」



「くっ、ははは。なんだ、俺の独りよがりだったか」



「独りよがりでもいいよ。これから変わればいいんだから」



「そうだ、な。リィン、これからも俺を信頼させてくれ。一緒に戦おう」



「うん。やろう。私たちなら、きっと勝てるよ」



 悠とリィンは青い空の下、互いが互いに笑いかけ、拳を合わせた。



 未だ厳しい状況なのは変わらない。



 世界はそう簡単には変わらない。



 だが、不思議と悠は、彼女と一緒ならばなんでもやり遂げられるような、そんな気すらしていた。



 タイムリミットまで残り十一ヶ月。



 しかし、あれほど重圧に感じていた期限も今では簡単に突っぱねられるような、そんな無敵感の中で悠はリィンの手を握った。

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