雪解けのシェルハート 2
――その屈託のない笑顔は、嘘と裏切りの中で生きてきた悠の硬く、そして冷たくなってしまっていた心を溶かすには十分だった。
間接的に戦闘ストレス反応を引き起こしていた他人への異常な不信感は徐々に解れていき、まるで長かった冬がようやく終わり、暖かな春が訪れたかのような、そんな感覚。
――昔、助けた者に化け物呼ばわりされたことがあった。
昔、一人で戦うことを強制されたことがあった。
昔、命を助けた者たちに、感謝の言葉も一つもなく、ただ畏怖の目で見られたことがあった。
今思い出した。
『自分は、そんな者達の為に命を削って戦っているのか』という、至ってしまった答えを忘れる為に戦場を求めていたのだ。
しかし、今は違う。
自分を信じてくれる彼女のためなら、彼女のことだけならば信じられる気がした。
「俺は……」
悠は躊躇いつつも、半年ぶりに人間的な前進を、勇気を出して、希望を見出してリィンの申し出を受けようと考えた。
のだが。
「コッチだ!例の光線はこの辺りカラ放射されていタ!」
悠の決意と言葉を遮るように、追っ手のゴブリン達が怒り心頭といった声色で叫んでいるのが耳に入った。
「……いけない。追いつかれちゃった。悠くん、悪いんだけど私を運んでくれないかな?あははー、あんなに喋ってたけど、体は動かないんだよね」
「……もちろんだ。できるだけ安全に運ぶよ」
雰囲気を壊された悠は、大きなため息をついたあとアンダーモードまでデッドノートを装着すると、先ほどと同じようにリィンを横抱きにして、なるべく衝撃を与えないように、音を立てないように慎重にかつ迅速にその場から脱出した。
悠の表情もリィンの表情も共に暗かったが、片や自己の喪失、片や思いが伝わっているかの不安と、同じような表情でも天と地ほどの差があった。
やがて視界にゼルトルン王国の城砦が映り、安堵すると同時に決戦が近いことを静かに悟るも、口にはしない二人がそこにはいた。




