敗走エスケープ 2
「流石に通用しないか……」
悠は出し惜しみをやめ、シャープレイに晒され続け、仄かに輝くリザーブエッジを両手に構え、低く腰を落とした。
隣でリィンも剣を抜き、物怖じせず戦う姿勢を見せた。
「……リィン、こいつは本来一対一で戦って勝てる相手か?」
「騎士クラスなら、死闘になるけど一応勝てない相手じゃなかったよ。でも、今は……」
リィンの強みである魔法は現在一般兵クラスにまで落ち込み、最早騎士クラスからは遠く離れた位置にいた。
「それに、物理的な攻撃は効果が薄いの。ワイバーン相手じゃ、魔法じゃないと勝てないよ。それか、悠くんのあのどかーんってやつ」
「キャノンバレルも今は使えない。ジリ貧だな」
かといってあれほどの巨体相手に接近戦を敢行するというのも躊躇われる。
せめて、キャノンバレルより出力は劣るものの、連射性と制圧性に優れたガンバレルでもあれば、少しは有利に運べるのではないかと一ヶ月前の自分の無用心さを呪った。
「私、ちょっとなら魔法使えるよ。通用するかはわからないけど、やってみる価値はあると思う」
「……だな。ただ、無茶はしないでくれ」
「うん。それじゃ、いくよ!」
リィンの合図で二人は同時に飛び出し、悠は撹乱、リィンは魔法の詠唱とそれぞれの仕事を始めた。
「火よ、水よ!風よ、大地よ!私の中の全ての魔力よ!」
リィンが詠唱を始めたと時を同じくして悠はワイバーン相手に真正面から向かっていき、少しでも手傷を負わせようと威力度外視の細々とした動きでワイバーンを翻弄する。
時にはワイヤーをも使い、必死の、決死の思いで食らいつく。
やがて、ワイヤーアクションの変則的な動きに対応できなくなり、姿を見失ったワイバーンに対し好機と見た悠は、上空から、隕石のような勢いでワイバーンの体を斬り抜ける。
――つもりだったが、硬い甲殻はリザーブエッジを通すことなく、表面を少し灼き斬っただけの徒労に終わった。
「やっぱり物理じゃダメか……!」
悠は自分の攻撃が通らないことを確認すると、詠唱を続けるリィンの様子を伺った。
「……身を灼く業火、龍を呑む津波、木々を裂く烈風、万物を砕く罅割!……だっけ。えーっと、集いし幻想は昇華され、形取られた災厄へ!さぁ、飛ばしていくよ!エル・レ・バースト!」
ところどころあやふやながらも、詠唱を完了させたリィンは剣に、自分が持てる全属性の魔力を乗せ、それら全てを高いレベルで配合。
風は火を起こし、火は水を沸かす。
水は地を活性化させ、地は風の生む。
リィンの魔力全てが互いが互いの力を高めあい、結果生まれた凄まじいエネルギー、破壊力をそのまま斬撃として飛ばしたのだ。
辺りはまばゆい光に包まれ、悠は思わず目を閉じた。
やがて轟音も光もおさまった頃に悠が目を開くと、そこには巨人がものを引きずったのかとでも見紛うように地面が抉れ、その場にワイバーンはいなかった。
「倒したか?」
「ふぅ、今の私じゃ基本魔法を撃つのにも一苦労だ。久々に詠唱なんかしたからうろ覚えだったけど、なんとかなったね」
「……途中詰まってたもんな」
「もう、かっこいい私ならスラスラ言えたんだから!多分!」
リィンの言曰く、その魔法を使っても頭の出来は変わらないらしいので恐らく変わらないと思われたが、あえてそこはスルーした。
普段は冷静を保ち続ける悠だが、その時ばかりは、リィンが放った魔法のあまりの威力に気が緩んだのか。
敵の生死も確認せずに談笑をしていた悠の背後に、獣は再び牙を見せた。




