突入ヴァド城 8
「な、なんで……!」
「我を見くびるなよ。先ほどの雑用係などでは到底気づけぬようだが、我クラスの目と、魔力の性質を誤魔化そうなどとは片腹痛い」
「に、してはやけに親切に色々教えてくれたな。油断でもしてくれたか?」
「ハハハ、これは油断ではなく驕りだ。羽虫にすら劣る今の貴様らに対する、一縷の哀れみだ。覆せるはずのない、絶対なる確信故の行為だ。それに言ったであろう?我は客人には寛容なのだ」
「……なら親切心で倒されてみる気にでもならないか?」
「ジョークのつもりか?そうだとしたら致命的にセンスに欠けているな」
「こんな状況で冗談言えるほどのギャグセンスはないよ」
悠はおもむろにローブを脱ぎ捨てると、グリムフィストを握り、全身のバネを使ってヴァンへと飛びかかり、ダッシュの勢い、全体重、そしてグリムフィストの撃ち出すシャープレイを全て乗算した一撃を放った。
しかしアンダーモードすら装着していない攻撃が当たるはずもなく、ひらりと軽々躱されてしまう。
「そのような玩具で何をするというのだ?というか貴様は何者だ?魔力の欠片すらない劣等種が、仮にも魔王軍幹部と騎士団団長代理という面々の中にいるのだ」
「さぁ、なりゆきだよ」
悠はグリムフィストを構え、インパクションと接続。
身を守るにはあまりに心許ないながら、戦うには十分な装甲が悠の身を覆う。
「む、その装備、もしや貴様が我が軍を打ち破った例の鎧か。ならばこの場にいることも納得できるな。だがその程度で我に勝てると思っているならそれは甘すぎるというものだ」
「いいや、勝つよ。お前達を倒さない限り、国の人たちが怯えて過ごすことになるんだからな!」
悠はリザーブ・エッジをリアライズすると、迷うことなくシャープレイを流し込んだ。
本来シャープレイを直接流し込む使用は本来想定されていないものの、まともな装備がこれしかない故に仕方のないことだった。
鈍く光り、青白かった刀身は赤く変わり、不足しているながら十分な出力を確保した。
悠は切れ味を確認する意味合いで机に刀身を当てると、木でできた机は見るも無残に焼け爛れ、机上の資料が空を舞う。
「おい!部屋を荒らすな!机に罪はないだろう!」
「なら望み通り出てってやるよ!」
悠はインパクションと一体化した射出装置からワイヤーとアンカーを射出し、閉じられた扉にアンカーを固定。
それを高速で巻き取り、その勢いを反動を利用して全身全霊でヴァドへと斬りかかった。
「ハハハ!面白い!」
ヴァドは空に剣を顕現させ、真っ向からリザーブ・エッジと打ち合うも、流石に勢いを殺しきることが出来ずに部屋外へと二人して飛び出した。
廊下に投げ出された二人は互いの刃を弾き、再び見合う。
ヴァドの物々しいマントの端が焦げている。
「む、やってくれたな」
「ゆ、悠くん」
不安げなリィン、余裕を見せるヴァドが一言ずつ口にする中、悠だけが何も口にしなかった。
それもそのはず、悠は今、この世界で初めての経験をしたのだ。
この世界に来て初めて、自身の持つ兵器の初撃で傷を負わせることができなかったのだ。通用しなかったのだ。
いくら其の場凌ぎの武器とはいえ、悠はそのことに衝撃を覚えた。
悠は小さく舌を打つと、二振りのリザーブエッジをかちあわせ、苛立ちを露わにして再びヴァドへと向かっていく。
ガルダと死神に教わった戦闘指南を思い出し、自身が出来る最適の動きで一気に懐まで潜り込む。
が、剣はリザーブエッジを軽々受け止め、それにより狼狽え、一瞬隙を見せた悠の腹にヴァドは痛烈な蹴りを放った。
「ぐあっ!」
悠は短い悲鳴を上げたと同時に吹き飛ばされ、壁に激突し、そのまま突き破ってなお止まることはない。
やがて廊下の先の、吹き抜けた場所で悠の体は空中に投げ出された。
「くっ……!」
「まだまだこんなものではない!」
ヴァドは好機とばかりに落ちていく悠へ追撃を仕掛ける。
悠は空中にいつつもなんとか姿勢を制御し、迫り来る刃をかろうじて受け止めた。
空中での鍔迫り合い。並みの剣ならば焼き切れてもおかしくないというのに、そうなっていない現実に腹立たしさを覚える。
と、やがて力負けし、更に地面が迫ってきたことを受けた悠は咄嗟に欄干にワイヤーを射出し、大ブランコに乗っているような軌道でヴァドの刃と地面への激突という二つの死を回避した。
そして一矢報いんと着地地点で待ち構えていたゴブリンを足蹴にし、そのゴブリンの足元にアンカーを刺してピアノ線で断頭台のように首を切断。
そこで悠は、敵はヴァド一人ではなく雑魚が大量にいるということを思い出し、ワイヤーを駆使しヴァドの攻撃を躱し、急ぎリィンのもとへと戻った。
すると、既にリィンは雑魚相手に剣を振るっており、彼女の周囲にはもう山のように死体が積まれていた。
「あっ、悠くん!助かったー、私一人じゃ流石にジリ貧だったんだー!ヴァドはもう倒したの?」
「いいや、まだだ。傷一つ負わせられてない」
「えっ……悠くんでも?」
「あぁ。ほら、来たぞ」
悠が親指で指したその瞬間にヴァドが姿を現し、堂々とした立ち姿を見せた。




