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突入ヴァド城 7

「……助かったー」



「危なかったな。結果的オーライだけど、これからは慎重にいかないとな」



「そうだね。慎重に慎重に」



「おーい、ダークトリニティさーん。ヴァド様呼んできましたよー!」



「わぎゃあ!」



 ――雑用係二度目のリターン。



「も、戻ってきたのか。しかも、なんだって?」



「ヴァド様呼んできましたよ。魔法のこと聞きたかったんですよね?」



 正直、いらない気遣いだった。



 余計すぎるほどのお世話に、悠はげんなりとしつつ青筋を立てた。



 しかも、仮面越しに覗く視界から察するに、彼は本当にヴァドを連れてきている。



 昨夜、投影されたビジョンで見た姿が、事の元凶、ヴァドがそこにはいた。



 予想外の遭遇に、二人の中で緊張感が高まっていく。



「ほう、この者たちが件の魔法のことを知りたいと?」



「そうみたいです。どうやらお客人らしく」



「そ、そうか……。いや、突然雑用係が気安く話しかけてきたら我びっくりしたんだけど」



「気にしないでくださいよそんなこと」



「気にするだろう普通……。城のトップと雑用係だぞ……」



「まぁまぁ。それじゃ自分は仕事に戻るんで」



「お、おい話は……行ってしまったか。もう少し城内の風紀の改善に努めなければな。さて、ようこそ我が城へ、ご客人。粗末な城だが、できる限りのもてなしをしよう」



「は、はぁ。感謝する」



 突然連れて来られたにも関わらず、ヴァドはなんの疑いも持たずに悠達を歓迎した。



 唐突に見せられた面倒見の良さそうな側面に、悠の調子は狂いに狂う。



「とりあえず、客人には接待をせねばな。歩きながら自己紹介でもしようか。私はこの城の城主、ヴァドだ。魔王軍の幹部などをやっている。貴殿らの名は?」



「わ、我らはダークトリニティのユーとリン。私がユーで、彼女がリンだ」



 便宜上つけた名前がこのような形で役に立つとは思わず、悠は知らぬ間にコードネームを決めていたつきこに心の中で感謝を送った。



「ふむ、ダークトリニティか。あまり聞き覚えのない名だが、まぁそういうこともあるだろう。せっかく来てくれた客人だ。とりあえず名前を覚えることから始めよう」



 客人に対してやたらと親切なヴァドに、少し絆されそうになるも、悠は気を確かに持ち、彼から情報を掠めとれる隙を伺った。



 やがて到着したのは物々しい扉。



 そこが自身の執務室だというヴァドは、重厚な扉を軽々と開け、悠とリィンをその中に誘った。



「粗末な所で済まないが、どうか許してくれ。一応仕事中なのでな」



 そう言いつつもヴァドの執務室は驚くほど綺麗で、粗末どころか高級ホテルにすら匹敵するほどのものだった。



 それを見たリィンは、悠の隣で思わず感嘆の声を漏らしている。



「さて、貴殿らはあの大魔法について聞きたいのだったな。何が聞きたいのだ?」



「あ……え、と。我らは少し魔王様のもとを離れて修行の旅をしていた故に、ここ最近の情勢に疎くてな。あれほどの大魔法を行使したにも関わらず、誰が行ったか、どのような条件、どのようなファクターを踏んで行われたのか見当もついていないのだ。あれは誰の所業かお教え頂けますかな?」



 魔法に関しては門外漢な悠は、押し黙ったままその場の流れを全てリィンに任せきる。



「ふむ、修行の旅とな。それはご苦労なことだ。ならばお教え進ぜよう。あの魔法は、我ら魔王軍幹部四人で織り成した魔法なのだ」



「か、幹部五人で……⁉︎」



「うむ。我ら五人の肉体をも発動材料とした、一世一代の大魔法なのだ」



 リィンはその時初めて、先の大魔法の本当の強大さを思い知った。



 幹部ほどの者が自分の肉体までも賭けた魔法なのだ。強力ではないはずがない。



「更に、別世界に接続する術を得た我々は、その別世界から『魔法を持たぬ人間』を調達したのだ。……現在は何故か干渉出来なくなってしまっているがな。まぁそれはさておき。あの魔法は、この世界のルールというか、この世界に属する者では、どれだけ修行を重ねても到達出来ぬものなのだ」



「と、言うと?」



「魔法、魔力がないという概念、理が必要だったのだよ。この世の法則から逸脱した存在がな。我々は拉致してきた人間共の死体をゼルトルン王国を取り囲むように五ヶ所に置き、奴らの血を地に染み込ませることにより『魔法がないという概念』を付加してやったのだ。ならばその概念を知ったあの地の属性を変えてやることは容易い。打ち込んだ五点から魔法陣を展開し、魔力障壁を作ってやるような要領であの国を包んでやれば、ご覧の通り彼の国の住民は全て魔力を失った」



「っ……なるほど、そういうカラクリがあったのだな」



 リィンは時折声を震わせながらもヴァドの言葉に相槌を打つ。



 悠にまで伝わってくる悔しさ、怒り。



 悠は彼女が平静を保てるように、ローブの下からこっそりと手を伸ばし、リィンの手を優しく握った。



 それは悠にとって、ただのなんてことはない行動だったが、リィンはそれによって勇気づけられ、悠の手を握り返した。



「……して、それを解除する方法は?永続する魔法の解除の定石といえば、魔法陣を乱すか……」



「貴殿の考えている方法で正しい。そう、術者を殺すか、だ。魔法陣を乱そうにも今の人間どもにはそれすら厳しいだろう。魔法には魔法を以ってして対抗せねばならない。ならばもう一つの手段で対抗するしかないわけだが――今回の場合、幹部五人全員を仕留める必要があるわけだな」



「……やはりそうか」



「で、これで満足したかな?――ゼルトルン王国騎士団団長代理、リィン=ストレアよ」



「……え?」



 その瞬間リィンの手から一気に体温が失われ、まるで氷を掴んだかのように冷ややかになった。

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