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突入ヴァド城 6

 そうして、目的を再びヴァド城攻略に再定義した三人は、黒いローブを着込んで怪しげに道を歩き始めた。



 幸い、爆発が起きたにも関わらず周囲の魔物達が集まってくる気配はなく、スムーズにヴァド城へと戻ることが出来る。



 道もしっかり覚えており、大した苦労もなく再び大門前へと舞い戻ってきた。



「待たせたな門番よ。我らの失くした通行証は行きずりの同胞が拾ってくれていたようでな」



「オオ、よく帰られた。ソレデハ早速拝見させてもらおうか」



 死神は大仰な口ぶりで門番と言葉を交わすと、彼に三枚の通行証を、大げさな手振りで渡した。



「フム、確かに。ダークトリニティのユーに、デスに、リンだな。ようこそヴァド様の城へ。歓迎シヨウ」



 門番は三人に敬礼を送ると、操作一つで巨大な門の扉を開けた。



 重々しく、それでいて物々しい、胸の奥に響いてくる太鼓のように重厚な音を立てて扉は開き、悠たちはその中へと誘われていく。



 画してヴァド城への侵入に成功した悠。



 ひとまず人気のない物陰に隠れ、仮面を外した三人は、互いの顔を見合わせて安堵のため息をついた。



「……はぁ、なんとか入れたな。……ユー、デス、リンってネーミングはさておき」



「うー、結構緊張したよー……」



「本当になんとかだったな。お前がいなけりゃ入れなかったよ。ありがとうな。えーっと、つきこ?」



『はい、つきこです。私は所詮AIですので、お礼なら製作者マスターにお願いします」



「あぁ、また今度言っとくよ。……さて」



 死神は話にひと段落つけると、屈伸を兼ねて立ち上がり、再び仮面をかぶる。



「悠、時計二個持ってるか?」



「時計?一応あるけど……」



 悠はメモリデバイスに表示された時計と、入団時に渡された懐中時計を死神に提示した。



「時計がどうかしたのか?」



「どうかするよ。これから僕はしばらく別行動するから、待ち合わせ時間を決めておかないと、一人寂しく帰ることになるからな」



「えー!死神さん手伝ってくれないの⁉︎」



「元からそういう約束で来てるからな。ちょっとの間自由にさせてもらう」



「……二人でやるのかぁ。大丈夫かな?」



「安心しろ。時間になったら手伝ってやるから。そのための待ち合わせ時間だってんだよ」



「そっかぁ。どれぐらい時間が欲しいの?」



「三時間だ。それだけあれば僕の目的の物があるかないかも分かるだろ」



「三時間でいいのか?意外と短いな」



「まぁ僕だからな。色々便利なものは持ってるさ」



 死神は指ぬきグローブを手に嵌めると、飄々とした態度を崩さないまま手を振って、魔物が闊歩する集団の中へと消えていった。



「……不思議な人だよねー」



「そうかな?割と人間臭い人だと思うけど」



「ほうほう、悠くんは死神さんに詳しいんだね?ほぇー。へぇー。ほうほうなるほどー」



「……なにを想像してるか知らないけど、死神さんとはなんでもないよ。ただの協力関係」



「仲間じゃなくて?」



「……どうかな。わからない」



 悠はまたはぐらかすようにそう言うと、視線を逸らしたのを最後に再び仮面をつけ、まるで話は終わりだとでも言わんばかりに行動を開始した。



「むぅ、またはぐらかして」



 リィンは誰に聞かせるわけでもなくぽつりとそう呟き、自らも仮面をつけて悠の後を追った。



「それでこれからどうしよっか」



「三時間の間やることないしなぁ。情報収集でもするか」



「そうだね。魔法を打ち消す魔法の打ち消し方を知らなきゃ、いつまでたってもこのままだしね。とりあえずそれを優先的に聞いてみよっか」



「あぁそうだな。しかし、魔法か……。なにか心当たりはあるのか?」



「うん。あれほどの魔法を行使出来るのは相当の使い手だけだから、騎士団内でも名前が知れ渡ってるレベルの有名人だと思うんだ。『ククク……我らも魔王軍の端くれ。例の大魔法についてご教授願えばありがたいのだが?』とか言っとけば誰か教えてくれるでしょ」



「また見切り発車な……。けど、今回はそれしかなさそうだな」



「よし、決まりだね♪それじゃあキャラ作っていくよー」



 仮にも騎士団の団長代理だというのに、正体を偽り敵の名前を借りることに躊躇すら見せないリィンに、それでいいのかと問いたくなる悠だった、以前から卑怯結構を貫いているリィンには通用しないか、と敢えてそれを口にすることはなかった。



 そんな時、リィンは不意に悠のローブの袖を引っ張り、意識がそちらに向いたと同時に、自分たちと同じようなローブを羽織った者を指差した。



 リィンの言いたいことは、口にされずとも分かった。



 ローブにフードという、見るからに魔術師らしき風貌から、その者から情報を引き出してみようと企んだのだ。



 悠は小さく頷き、粛々と先行するリィンの後をついて行った。



「うー、ごほん。くくく、そこの貴様」



「え?あ、はい。なんでしょうか」



「その格好から察するに、貴様は魔術師だろう?異郷より馳せ参じた我らダークトリニティに、ゼルトルン王国に仕掛けた大魔法のことを詳細に、綿密に教えて欲しいのだが?」



「あ、自分雑用係なんでその辺全然知らないんす。すみません」



「えっ……あ、そう……。雑用頑張ってね」



「あざっす。二つ名なんて持ってる方にそう言ってもらえるとは光栄っす」



 早くも計画が座礁した瞬間だった。



 リィンと悠は仮面の下で失笑しながら再び物陰に隠れ、引き続き作戦会議を行った。



「いや……今のは仕方ない。あの格好だと確かに見間違う。俺も見間違えたし」



「だ、だよね。あんな紛らわしいかっこしてるのが悪いよね。よーし、気を取り直して――」



「あ、ここにいたんすか」


 と、リィンが仮面をまたつけた瞬間、後を追いかけていた先ほどの雑用係がリィンの肩に手を置いた。



「ぎゃあ!な、なななななな、なにかな⁉︎」



「言い忘れたことが。自分はあの魔法のことは知らないですけど、ヴァド様がそのことに詳しい筈っす。ヴァド様は客人には寛容な方ですから、もしかしたら教えてもらえるかもですよ」



「そ、そうか!ご苦労!いつか幸せになれるよう祈っといたから!」



「お、恐縮っす。そっちも頑張ってくださいね」



「う、うむ。それではな」



 雑用係は呑気に手なんかを振りながら二人に背を向けその場から去っていく。



 なんだかんだで情報は得られたが、話しかけたのが馬鹿で助かった、と二人して胸を撫で下ろした。

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