突入ヴァド城 5
「……まぁ、こいつのことは放っておいて。安心してよ二人とも。ちゃんと対策はあるから」
「ナッ……⁉︎」
「本当か?個人認証なんかどうやって誤魔化すんだよ」
「忘れたか?俺はどの最新技術もを遥かに上回る科学技術を持ってこの世界に来たんだ。こんな通行証の偽造なんて簡単に出来る」
悠はデッドノート・アンダーモードの接続を解除すると懐からメモリデバイスを取り出し、ゴブリンから強奪した通行証をスキャンした。
「つきこ、これをスキャンして特別な細工とやらを暴いてくれ」
『はい、わかりました。しかし、そんなに難しい細工じゃないですね、これ』
「と言うと?」
『ブラックライトですよ。普段は無色の蛍光染料で、通行証の持ち主の名前が書かれているだけです。恐らく門番には、この蛍光染料を読み取れる特殊な目が備わっているのでしょう』
「なるほどな」
『恐らく偶然開発されたのでしょうけどね。この世界の技術レベルにしてはこれだけ特出しすぎています』
「偽造は出来るか?」
『可能です。デバイス内のデータを用いて、シャープレイを変換して限りなく似たものを作りますので。さー、腕がなりますよー』
「腕ないだろ」
『ナイスツッコミ!』
「いや……そんなに上手くもなかったろ……」
久々のつきこのハイテンションについていけず、げんなりとしてデータの解析と複製を待った。
小うるさいというか、ただ喧しいつきこだったが、こういう時にはいてくれて助かった。
例えば無機質な声で解説など聞かされても、あまりに味気ない。
やがて、うぃーんうぃーんとわざわざ無駄に口にしながら、リィンがたまたま持っていたメモ帳に通行証のデータを印刷していく。
そして程なくして、ゴブリンが持っていた通行証と見比べても、なんら遜色がないハイレベルな偽造書が完成。
そのあまりの出来に、リィンは感嘆の声を漏らす。
「おお、すごいねこれ」
「こんな機能いつ使うんだと思ってたけど、まさか使う日がくるとは」
「完全に死に機能じゃねーか。消しとけ」
「でもこうして使ったじゃないか、印刷機能。もしものために、ね?」
「ソ、ソンナ……!我々の秘密がこうもアッサリ……!」
「悪いな、俺の国ではこんなの子供向けの本で出てくるような簡単な仕掛けなんだ」
「クッ……」
まさか簡単に仕掛けが割られるとは思っていなかったのであろうゴブリンは、恐らくそれ故にペラペラと情報を話したのだろうが、それが裏目に出たことを激しく後悔した。
「……下等ナ人間共よ。貴様たちは、我々に勝てると思っているか?」
「あぁ?なんだよ急に。気持ち悪りぃ」
「イイカ、貴様らには万に一つも勝ち目ナド無い。魔法を失い、兵が使い物にならなくなった貴様たちではナ」
「うるせぇよ。僕には大して関係ないことだけど、お前らみたいなのに人間が負けるわけないだろ」
「ククク、果たしてそうカナ?」
悠は死神とゴブリンの会話に、どこか違和感を抱いた。
どこか一方通行というか、会話が成立していないというか、ゴブリンの真意が質問にないというか。
嫌な予感を感じ取った悠は、それが的中しているかどうかを確認するため、こちらから問いただす。
「なぁゴブリン。お前、何か隠してるだろ」
どうやら悠の勘は的中していたらしく、ゴブリンは図星だと言わんばかりに余裕な態度を崩し、体を強張らせた。
「やっぱり。さっきからおかしいよ、お前の態度」
「ナ、なんのことか」
「……時間稼ぎか?さっきまでベラベラ情報を話してたやつが回りくどくて、一見意味があるように見えて全くないようなこと口になんてしない。応援を待ってるのか?」
「ち、違ウ。俺はただ、貴様らに身の程を弁えろト……!」
『悠さん、離れてください!そのゴブリン、めちゃくちゃ温度上がってます!』
「どういうことだ?」
『爆発しそうなんですよ!理由はわかりませんけど!』
「ば、爆発⁉︎ほ、ほんとだ!魔力が暴走してる!自爆する気なんだよ!」
「ちっ、これが目的かよ!離れろ、巻き添え喰らうぞ!」
つきこの発言でゴブリンの策略は見破られ、ゴブリンが追って来ないように悠はワイヤーを射出し、ゴブリンを捕縛した。
「チ、チクショオオオオオオオオオオオ!申し訳ありませんヴァド様ァァァァァァァァァ!」
命を賭けた自爆さえも見破られたゴブリンは断末魔に似た魂からの絶叫をあげ、やがて悠たちの数メートル先で、爆炎と轟音に包まれその命を散らした。
物陰に隠れていた悠たちがそろりと顔を覗かせると、ゴブリンがいた地面はえぐれ、無残にも肉片が飛び散っていた。
「あ、危なかったね」
「助かったよつきこ。ありがとう」
『いえ、使用者様の命を守るのが私の使命ですので』
「本音は?」
『ヤッター!褒められたー!って、乗せられた!』
「最初から素直に喜んどけよ」
『へ、へへへ』
つきこは何故か三下のような変な笑みを浮かべると、それっきり自らスイッチオフし、しばらく表に出てくることはなかった。
恐らく照れているのであろう。
「しかし、まさか自爆するとはな」
「怖かったよー。けど、情報を聞き出したあとどうするか困ってたし、ある意味ちょうどよかったかも」
「結構冷酷だなお前……」
「敵だもん。殺して喜びこそしないけど、容赦はないよ」
「ま、それが正しい判断だな。甘いだけのやつは生き残れない」
「二人とも、かなり達観した価値観を持ってるな。到底真似できないよ」
そんな呑気なことをいう悠に、二人は心の中でツッコミを入れる。
達観こそしていないものの、お前が一番敵に対して非情だろう、と。




