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突入ヴァド城 4

「終わったよ、悠くん。悠くんも早いね」



 彼女の言葉の端々にはいつもの元気が欠けており、どこか落ち着いた、以前までのリィンを思い出させる雰囲気へ変わっていた。



「……どうしたんだ?」



「えっ、なにが?」



「なんか、いつもと違うように見えたから」



「そうかな?私はいつも通りだよ。うん、いつも通り」



 悠の印象では『やったー!勝利!』とでも言いそうな印象を持っていたのだが、存外彼女は勝利を喜んでいない。



「勝ったのにあんまり嬉しそうに見えないけど。どこか怪我でもしたのか?」



「あぁ、そういうこと。ううん、嬉しいよ。勝って嬉しいというより、生き残れたことが嬉しい。でも、相手の命を奪ったっていうのはあんまり嬉しくないかなーって。誰かの勝利は誰かの敗北だからね。負けた方の気持ちは分かるから、私は、勝ってもあんまり喜ばないようにしてるんだ」



「それが、自分達の命を狙う奴らでもか?」



「うん。だから私がするのは、喜ぶことじゃなくて祈りを捧げることかな。と言ってもただの自己満足なんだけどな」



 それは聞く者が聞けば『偽善』だと罵られてもおかしくないような甘い考えだった。



 組織を導くリーダーが持つような考えでもない。



 彼女に対する批判、反論なら幾らでも思いつく。



 しかし悠は、そんなリィンの考えを否定したくなかった。



 何故かその考えがたまらなく愛おしく、同時にそんな彼女に一筋の光明すら見出したような気すらした。



 その光明の正体が、なにかはわからないが。



「悠くん?どうしたの?」



「えっ、あ、あぁ、なんでもないよ」



 リィンの目の前で変なことを考えてしまった、と悠は妙に気恥ずかしくなって頬をかく。



「変なの。さーて、死神さんはどうなったかな?」



 リィンはいつもの切り替えの早さで、持ち前の気楽さを発揮して死神を探し始めた。



 しかし、彼女は探すまでもなく悠たちの前に姿を表し、いつものように気だるげな顔で歩いていた。



「待たせたな」



「死神さんが一番最後だね。私の方が早かったね」



「ちっ、嫌味か?僕はお前と違って、ちゃんと考えて動いてんだよ……っと」



 死神は軽く舌を打ちつつ、先ほどから引きずっていた何かを悠たちの前に投げ捨てた。



 それは先ほどのゴブリンのうちの一人。



 死神によってがんじがらめに縛られ、身動きがとれなくなっている哀れなゴブリンだった。



「お前らのことだから後先考えずに倒すと思ったから連れてきたんだよ。どうせ情報も何も聞き出してないんだろ?」



「あっそれもそうだ。流石死神さん!頼りになるね!」



「さっきから僕のこと馬鹿にしてたのはどこのどいつだよ……。まぁいい。おいゴブリン。お前、通行証ってのは持ってるか?」



「ギ……貴様ら何者ダ……!」



「余計な口は開くな。次、僕が聞いた質問以外のことを口にしたら指を一本ずつ折っていく」



 あまりに冷徹な死神の物言いに、味方側の悠すらも恐れを抱く。



 妙に拷問慣れした死神に恐怖すら抱くが、今はその手腕がある意味頼もしかった。



「おっと、だんまりも無しだぞ。今から十秒以内に口を開かないなら、余計な事を言った場合と同じようにする」



 退路を断たれ、絶望と恐怖に包まれたゴブリンはカタカタ震えながら、恐る恐る口を開いた。



「ツ、通行証ならポケットの中にアル……」



「わかった。じゃあ次の質問だ。この通行証は僕たちが使っても通れるものか?」



「……無理ダナ。その通行証ニハ特別な細工がされていて、門番が見ればそれが誰のモノなのかわかるようになっていル」



「ちっ、低脳共の癖にセキュリティだけはしっかりしてやがる」



「ク、ハハハハハ!人間!残念だったナ!」



 一泡吹かせてやった、と思い込んだ瞬間ゴブリンは強気になり、為すすべをなくした三人を煽り立てる。



 が、口惜しさを顔に出すリィンと死神に比べると、悠は不思議なくらい落ち着いていた。


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