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突入前夜のトーキング 1

 それから一行は歩き続け、目的地であるヴァドの城を目視した頃にはとっくに日は落ちきっていた。



 魔王軍が出なさそうな、近すぎず遠すぎない絶妙な距離をキャンプ地とし、焚火をたいて野営の準備をしていた。



 悠には野宿の素養はなかったが、これまでに旅をしてきたという死神と職業柄野宿も多い兵士であるリィンの手際は極めて上質で、そこで数日過ごせそうなくらいにはきちんとした設備だった。



「うーん、これくらいでいいかな?」



「十分だろ。なにもここに住むわけじゃないし、簡単でいい」



「すごいな二人とも。俺のやることなんてほとんどなかった」



「旅には慣れてるからな。ここなんてまだ過ごしやすい方だ。一番きつかったのは砂漠だな。あそこ水がねーからな」



「うぇー、砂漠は辛そうだなぁ。そのぶんこの辺は安心していいよね。砂漠もないし、温暖で過ごしやすいし」



「暑さより寒さのがやっかいだしな。悠、この辺があったかいとはいえ一応体は冷やさないようにしておけよ」



「あ、あぁ。わかったよ」



 悠には何故だか今まで以上に二人が頼もしく見えた。

 一人は騎士団の団長代理、もう一人は若くしていくつもの修羅場を乗り越えてきたのであろう者なのだから、当たり前といえば当たり前だが。



 しばらくして野営の準備は完全に終了し、十数時間に及ぶ行軍の疲れを癒すため、焚火を囲んで三人はようやくそこに腰を下ろした。



「あぁ、疲れた。こんなに歩いたのは久しぶりだ」



「だらしねーな。男だろ」



 さっきの今でそんな発言をしてくる死神に突っ込むことはせず、悠は苦笑いだけでその場をやり過ごす。



「さー、みんな疲れてると思うけど、明日の段取りだけ決めとくよ。朝、眠い時に決めるのも嫌でしょ」



「そうだな。その方がいい」



「けどどーすんだよ。僕たちは人間だぞ。魔物だらけのあの城の中に入り込んで大丈夫か?」



「ふっふー!その辺はぬかりないよ!なんたって私だからね!」



「そんな上策があるのか。流石リィンだ」



 いつになく自信満々に語るリィンに悠は感銘を受け目を見開いた。



 先ほどから悠の中で、旅の準備やらなにやらで少しずつリィンの株が上がりつつあったのだ。



 ただのお子様まで落ち込んでいたのが大出世である。



「それで、どんな方法で侵入するんだ?」



「それはね……じゃーん!これを使います!」



 自分で効果音を言い、リィンが取り出したのはフードつきのローブと仮面。



 彼女の意図を半ば察することが出来て肩透かし感が半端ではないものの、一応聞いておくことにする。



「こ、これは?」



「勿論、これを着て被って正体を誤魔化すんだー。どう?名案でしょ」



「帰るか?悠」



「……ありだな」



「ちょっと!なんでそんなこと言うの⁉︎完璧でしょ⁉︎」



「馬鹿か!そんなんで潜入出来てたまるかよ!」



「ええー⁉︎だ、ダメなの?」



「ダメに決まってんだろ!……ちゃんとこれ以外の策は考えてんだろうな?」



「えっ、も、勿論だよ!当たり前でしょー!」



「それじゃあ言ってみろよ」



「えーっと……ちょっとまってね」



「おい悠、帰るぞ。これじゃ命がいくつあっても足りん」



「待ってよー!帰らないでよー!悠くんはこの作戦いいと思うよね?ね?」



「……一人で突入するか」



「ちょっと!みんなで行こうよ!」



 リィンは悠に泣き縋り、力任せにぐらぐら揺さぶり悠の同情を買おうとしたが、命がかかっている案件が故に、悠の表情は固いままだった。



「そもそも、あの城に入るには合言葉とかいるんじゃないのか?そうじゃなくても、その真っ黒のローブと怪しげな仮面じゃ確実に怪しまれるだろ。侵入者の対策として合言葉とかあるんじゃねーの?」



「あい……ことば?」



「……まさか考えてなかったのか?リィン」



「……えー、我々に課された課題はただ一つですね。騎士団団長代理として皆さんに命令を下します」



「……リィン?あの……?」



「各々、明日までに監視の目を誤魔化して侵入方法を考えるように。以上」



「リイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!」



「ごめんなさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」



 死神の怒号、リィンの平謝り、悠の落胆がその場で同時に交錯し、響いた声がこだまして帰ってくる。



 二人の声は天を衝くほどの大声で、魔物達に察知されることを嫌った悠は大慌てで二人の口を塞いだ。



「しっ、静かに!気付かれる!」



 ようやく自分たちの愚行に気がついたリィンと死神は、二人してその場で頭を下げ、きょろきょろとしきりに周囲の様子を伺った。



 物音なし、気配なし、と安全を確認した二人は揃いも揃って大きなため息をついた。



「ふぅ……」



「……悪い。あまりの無計画さに取り乱した」



「うぅ、完璧だと思ったんだけどなぁ」



「お前魔法が使えなくなって頭のネジが何本かなくなったんじゃないのか?というか、僕たちが今まで見てたリィンは、お前の双子の妹とかじゃないのか?」



「せめてかっこいい方がお姉ちゃんって言ってよ!それじゃあ私、妹に負けてる出来の悪い姉みたいになってるじゃん!」



「出来の悪いことは否定しないんだな……」



「悠くんもぼそりと突っ込むのやめてよー。結構堪えるんだよねそれ」



「悪い悪い。けど、実際どうするんだ?頼みの綱というか、作戦は看破される前に座礁したわけだけど」



「うっ、その辺はぁ……」



 自ら弄られることによって失態を隠そうとしていたリィンは、怒る側でもそれを受ける側でもない中立な立場を保ち続けていた悠によってなんなく突破され、気まずさからくる苦い顔をして視線をそらす。



 リィンの小さな頭に納められている脳ではまともな回答が出ることはないだろうと判断した死神は、見かねて彼女に不本意ながら助け舟を出すことに決めた。

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