反抗のインベーダー 1
人のいないだけの広場での作戦開始というのが最高に締まらないが、これくらい気楽な方がいいのかもしれないと悠は頬を緩ませた。
リィンの号令が終わると、リィンと悠を残して全員がそれぞれの持ち場へと離散していく。
重要な役割を持っているのはジキルくらいなものだが、ガルダやアルトには自分たちの率いる部隊がある。
そちらに伝令に行ったと考えるのが自然だろう。
「さ、私たちもそろそろ動こうか。なにかやり残したことはある?」
「ない……と思ったけど、一つだけ。後から行くから、先に正門前にいてくれ」
「私が一緒じゃダメなの?」
「ちょっとな。すぐ戻る!」
悠は言葉数少なく、急ぎ気味に、慌てるように人混みの中へと紛れて行く。
あ、と声をかけようとした頃には既に遅く、悠の姿はもうそこにはなかった。
――とはいえ、悠は、リィンが追いかけてこないことを確認するためその場にとどまっていた。
言う通り、先に正門に向かったことを自らの目で確認してから自分の目的を果たすためとある人物を探して走りだした。
『彼女』のいそうな場所には心当たりがあったため、迷うことなくその場所に向かう。
悠の知り合いの『彼女』。
それに当てはまる者は、一人しかいない。
息を弾ませて到着したのは、街を一望出来る時計台の展望台。
その天辺で一人、あぐらをかいて、ぼうっと景色を見つめている少女がそこにはいた。
「女の子がそんな心当たりが格好しちゃ駄目だよ」
「……だから僕を女の子扱いしなくていいっつってんだろ。ええ?」
「まぁまぁ」
「なにがまぁまぁだよ。……まぁいい。で、何の用だ?」
「とか言って、大体わかってるくせに」
「僕はよくメタ的な視点で物を語るけど、本当にそんな視点でいるわけじゃない。普通にわからないからもったいぶらさっさと言え」
「それじゃあ単刀直入に。今から魔王軍幹部の城に行くんだけど、一緒に来ない?」
「……大体察しついたよ。昨日の夜、この国の連中の魔法やら魔力が消えちまって超ピンチになったところがお前の活躍で苦を乗り切った。で、多分お前が撃ったんであろうあのビームで魔王軍幹部の魔力障壁を破壊。魔法という攻撃手段を失くした連中は、打ち消し魔法の術者であろう魔王軍幹部たちを排除するため、ひとまず魔力障壁が破壊できている今のうちに潜入に向かう、と。そこで魔法云々じゃなくても戦える僕に声をかけたってか」
「めっちゃ察するね。大まかはその通りだよ。でも、死神さんに声をかけたのは俺の独断で、別に戦ってもらうために声をかけたんじゃない」
「ん?どういうことだ?」
「ほら、初めて会った時の協力の話。死神さんが俺の探し物の手伝いしてくれたら、俺も手伝うって話だっただろ?今まで死神さんからのテイクばっかりだったから、そろそろギブでもしてみようかなって。魔王軍幹部の城なら、もしかすると人を生き返らせる魔法も見つかるかもしれない」
「そういやそんな話もしてたな。そうか、あのロボットみたいなのがお前だってなら、お前の探し物は見つかったってことか」
「そうそう。どう、来ない?」
死神は悠の提案を受けて、しばらく考え込んだ。
なにを考えているかは分からないが、ちらりとのぞき見える横顔からですらわかるほどの仏頂面に、少し笑ってしまう。
程なくして死神は決意を固めたようでくるりと振り向き「分かった、行くよ」と悠の提案をのんだ。
「よし、それじゃあリィンを待たせてるから、準備してきてくれ」
「準備?んなもんいらねーよ。手ぶらだ手ぶら」
「死神さんらしいな」
「僕らしいってアレか?持ち歩くもんがない浮浪者みたいなスタイルが僕にはお似合いってか?」
死神は欄干から飛び降り、チンピラすら視線だけで殺せそうな鋭い目つきで悠に詰め寄った。
「そ、そういう意味じゃ……。死神さんって『僕』とかいう大人しめな一人称使ってるのに、なんでそんなに口悪いんだ?」
「知るかよ。物心ついた時からずっとこれだ」
小さく舌打ちをし、死神は悠の脇をすり抜けて階段を下って行く。
本当に、口の汚さ以外は全ていい素材なのに、と悠は彼女の毒舌という悪癖を勿体無く思った。
しかしそれこそが死神の唯一無二の、他で代用出来ない持ち味なのではないだろうか。
そう考えると、彼女の高圧的な態度すら愛おしくなってくる。
「死神さんはそれでいいのかもしれないな」
「はぁ?ドMかよ」
「死神さん限定ならそうかもな」
「マジでキモいからやめろ。僕は下ネタでその場を茶化す奴が大ッッッッッッ嫌いなんだよ。どっかのバカを思い出して虫唾が走る!」
「……そのどっかの馬鹿さんのこと、よっぽど嫌いなんだなんだな。友達?」
「嫌いじゃねーよ。んで、僕の親友だ」
死神は親指で棺桶を指差す。
あぁ、なるほど。
悠は瞬時に合点がいった。
棺桶の中で眠っている人物を思い出させてしまったか、と悠は自分の浅はかさと軽率さを悔いた。
「今ではあの軽薄な感じが懐かしいけどな。ま、さっさと生き返らせるために、一丁探しに行くか。中ボスの城まで」
しかし死神は軽口を叩くような朗らかな機嫌にいつの間にか変わっており、小さく鼻歌なんかを歌っていた。
棺桶の中の住民の話は地雷なのかそうでないのか、今でも測りかねる。
そんな調子の死神を後ろで見守りつつ二人して正門に向かい、大した時間もかからず到着。
ぼうっとした気の抜けた顔で突っ立ってるリィンがそこにはいた。




