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夜明けのブリーフィング 2

 騎士といっても、誰も彼もがリィンと同じように無欠なわけではないということを知った悠は、騎士といえば、とその場に顔を合わせたことのない者もいることをふと思い出してそちらの方に顔を向けた。



 彼らも様子を伺っていたようで、話にひと段落がついた時点で自らを推薦する。



「やっほい、斎賀悠君だね」



 ガルダの陰に隠れて見えなかったその者は、些か緊張感に欠ける間の抜けた声の持ち主の少女だった。



 背丈や胸の膨らみなどからリィンよりも幾分か歳を重ねているようにも関わらず、何故かリィンよりも小動物感が漂う、不思議な少女である。



 オブラートに包まず表現するならば、恐らく馬鹿。



「なんか失礼なこと考えてない?」



「俺の第一印象はそんなことを考えるような人間だってか?そう見えたか?」



「うーん……ううん、全然見えない!いやーごめんごめん」



 やっぱり馬鹿だ、と名前すら知らない少女の心の中での取り扱い方を決めたところで、悠は彼女の名前を知ることにした。



「それで、俺は斎賀悠で間違いない。君は?」



「あっ、自己紹介だね。あたし、ナギ。ナギ=ハーシェルだよ。よろしくねー」



 ナギと名乗った少女は二本指を立ててちゃらついたジェスチャーで挨拶をした。



 ガルダの言い分だと、ここには話が出来る者のみを呼んだということだったが、このおてんばな少女に果たしてまともな会話が出来るのか、と些か不安になる。



 しかし、彼女とて腐っても、曲がりなりにも騎士。



 それだけの器量、裁量、そして実力を保有しているのだろう。



 そのことを合わせて考えると、この頭の悪そうな振る舞いすらも隠蔽の道具でしかないのかもしれない。



 悠は油断しかけていた心を引き締め、真剣そのものでナギを観察した。



「?」



 当の本人は相変わらずの気の抜けた顔で頭にはてなを浮かべていたが。



 ナギの自己紹介が終わったあたりで、続いて影に隠れていた者も空気を読んで悠の前に姿を現した。



「噂には聞いている。斎賀悠君。私はジキル=ハウトンだ」



 ジキルはナギとは打って変わって無骨かつ落ち着いた印象の老騎士だった。



 ナギとは違い、一目見て只者ではないという雰囲気を漂わせているような、屈強な老人。



「ジキルさん、ですか。よろしくお願いします」



「うむ。魔法の使えない今、私はただのロートルだがどうかよろしく頼む。君には期待しているよ」



「いや、知恵をお借りさせていただきます。俺は所詮この国の人間じゃないですから、貴方のような方にいてもらえると心強い」



「ははは、勝利に向けて互いに頑張ろう」



「はい!」



 ジキルの、強いながらも温和な口調は、ガルダとはまた違った年上の風格を感じさせる。



 同じ年上でも、いつ爆発してもおかしくないような危うさを持つ沈希とは大違いである。



「気が変わったから私が世界を征服する」などと言い出してもおかしくはないのだ。



 お陰で日々、気を使いながらの生活に疲れ果てていた。



 そんな悠をよそにして、リィン達騎士と自己紹介をしないもう一人は会議を始めようと円卓の前にして等間隔に並んでいた。



「それではそろそろ会議を始めようと思います。私は魔法を研究しているサドと申します」



 自己紹介をしなかった女はサドと名乗り、進行役として舵を切った物言いで場をまとめあげた。



 サドは円卓の上に、悠の知らない言語で書かれてある図面やらを持ちだし、解説を始めようとする。



「それじゃあサドさん、お願いします」



「わかりました団長代理。今回の議題は、これからの方針、ということでしたが、まず第一に目指すべきことは我々が現在使用することの出来ない、封じられている魔法の解放でしょう」



「正確には魔力の抑制だな。団長代理や騎士達といった卓越した魔力と固有魔法を持つ者達は、固有魔法を使えないだけで魔力を使える。逆にガルダ兵長や俺といった固有魔法を使えない連中は魔力自体を封印されている。固有魔法という、器から溢れたような強大な力をカットされたか、器に収まっている魔力自体を封印されたかどうか、ということだな」



「アルト隊長の言う通りです。彼らが使用した大魔法は私の推測ですと、魔力で構成されたモノを一段階消失させる能力があるのでしょう。固有魔法を所持する者は、大体が非所持の者とは一線を画す量の魔力を保有し、それによって外部魔力にも耐性があることはみなさん知っていると思います」



 サドの発言に、悠以外のメンバーは全員頷いた。



 勿論そのことを知るはずのない悠は、知ったかぶって同じように頷く。



「先ほどアルト隊長が言ったことは的を射ています。騎士様達の固有魔法から溢れる魔力が防護服となり、騎士様の魔力は封じられずに済んだのです」



「つまり、防護服を持たない丸裸の俺たちは耐性もクソもなく魔力を封印されちまったってか。というか、その感じだと魔力に耐性がある騎士達の存在が想定外ってとこだな」



「でも多分、魔王軍からしたらそんな想定外なんて切り捨てても良いほどのことなんだと思う。だって、私達の中で戦えるのは、ここにいるメンバーと、何人かの人だけなんだから。あえー、しんどいよこれは」



「はい。ですから、先ほど提示した『魔法の復旧』というものは、最優先すべき事項なのです。そうしなければ、魔力障壁すらも失った我々は勝ち目がないのですから」



 改めて再確認した、絶望的な状況にそこにいる誰もが一時黙り込んでしまった。



 嫌な沈黙が場を支配し、皆口を縫い付けられたかのように開かない。



 全員わかっているのだ。



 対抗手段を持たない自分たちに、打つべき対策も出るべき作戦もないのだと。



 それでも、彼らにはなにかあるのではないか、と悠は無理にでも会議を続行させた。

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