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デッドノート リスタート 5

「ゆ、悠くん!」



 そんな満身創痍な悠を見たリィンは、慌てた様子で悠に駆け寄り、そっと肩を貸した。



「大丈夫?」



「あぁ――全然問題ないよ。君こそ大丈夫?」



「え?私?私なんにもしてないよ。本当に大丈夫?あんなすごいことしたんだから……」



「本当に大丈夫だって。ただちょっと疲れただけだよ」



「なら、いいけど……」



 リィンは釈然としなさそうに悠の言葉を受け止め、悠を抱き寄せた。



 悠の異常性を垣間見てしまった彼女は、目の前の者が遠くに行ってしまわないか不安で仕方なかったのだ。



 しかし彼の心に近づく術を知らない少女は、不器用にもその身を近づけることしか出来ない。



 ――そんな強くも弱々しい二人の前に、その者は姿を現した。



 彼は煙が立ち込める夜空に自身の姿を投影し、どこからともなく彼らに話しかけた。



『ゼルトルン王国の諸君、どうもこんばんは。いい夜だ。私は魔王軍幹部が一人ヴァド。本来私が君たちに語りかけるのは、君たちの国が崩壊した後の予定だったのだが……どうやら失敗してしまったらしい』



 そう、そのものは魔王軍幹部。



 悠が今しがた障壁を破壊した城の主である。

『魔法頼りの国など、魔法を取り上げてしまえばすぐに陥落出来ると思ったのだが……どうやら君達も切札を隠していたらしい。いやはや、力量を見誤ってしまったようだ』



 ヴァドは一人愉快そうに話しているのだが、その場にいる歴戦の勇士数名にのみ分かる事実があった。



 それは、彼は笑顔を装っているがその腹わたは煮えくりかえっており、怒り狂って魔法による、国土を焦土と化すほどの砲撃を行なってもおかしくないほどだ、ということだった。



 事実魔王軍幹部ともなればそれすら可能となるのだ。



 デッドノートのエネルギーが切れていることを知っている彼らは、今度こそ対抗手段を失ったことを理解しており、内心恐々として彼の言葉を待った。



『……ククク。まぁ、今回は痛み分けということで引いてやろう。流石に我々とて、兵と障壁を失った損害は大きい。精々、再びの侵攻を楽しみにしておくことだ。ハハハハハハハハハ!』



 ヴァドは大きな高笑いと、拭い去れない恐怖を残して夜空から消え去った。



 そして、ようやく世界は平穏な夜を取り戻した。



 もう戦闘の音も、誰かの怒号も聞こえることもなく。



 ただ静かな夜だった。



「終わった……の?」



「多分、な」



 悠はどさり、とその場に五体を投げ出して倒れこんで、緊張で凝り固まっていた体を休めた。



 悪夢のような夜は終わりを告げたのだ。



 そのことに誰もが安堵し、口々に勝利の言葉で生の喜びを分かち合った。



 守れてよかった。



 悠は、目の前の命を一つたりとも散らすことなく守りきれたことを誇りに、そして何よりの喜びとした。



 ただ、 戦う前の空虚感が再び自身の中に舞い戻ってきて、次に自分を必要とする戦場はどこか、と半ば戦闘狂になったかのような思考も心の奥底に潜んでいた。



 自分の正体に気づいてしまった化物。



 しかしその狂気を隠すことすらせず、むしろ目的が見つかったと喜ぶ異常者。



 悠の立ち位置は、現在そのようなものだった。



 だが、本人はその異常性に気がついておらず、ただ清々しい気持ちで空を眺めていた。



 そんな悠の周りにはいつしかガルダやアルトが集まってきていた。



「……悠」



「あぁ、兵長。怪我はないか?」



「いやお陰様で無傷だけどよ……その……お前さんは大丈夫なのか?」



「ちょっと無理したから節々が痛いけど、概ね問題はないよ。ほら、無傷だ」



「そういう意味じゃねぇよ。お前、さっき自分でどんな顔してたか知ってるか?」



「?」



 悠は、ガルダがどのような方向に話を持っていきたいのか分からず、頭にはてなを浮かべた。



 一瞬不穏な空気が流れたことを察知したリィンは、無言でガルダに視線で訴えかけ言葉を制止させた。



 ガルダの後ろに立つアルトにも何も言わないよう制止したリィンだったが、彼の目は悠に対する畏怖で染まっており、下手なことどころかまともに口すら開けないようだった。



 リィンは、言うなら自分で言いたかった。



「……悠くん。君はなんのために戦うの?」



 悠はその言葉を受けてぴたりと動きを止め、じろりと彼女の目を覗き込んだ。



 そして、魔法による性格矯正が解け年相応の性格へと戻っているはずのリィンが、至極まともな顔をしていることから、それは大切な話なのだと理解し。



 悠も、適当には流さずしっかりリィンを見据えた。



「……俺がなんの為に戦うか、だって?」



「うん。もう一回聞かせて。悠くんが戦う理由」



 悠は逡巡した。



 先ほどリィンに自身の空白を伝えたが、今は答えを得た。



 発言を一転二転させるのは如何なものか、軽薄だとは思われないだろうか、と間抜けにも程があることを考えていたのだ。



 しかしリィンの真意はそこにあらず。



 リィンは悠の気が触れてないかどうかを確かめたかったのだ。



 その気持ちが後押しし、更に言葉を付け加えた。



「話して」



 彼女の表情はさらに険しくなり、悠は、事は思ったより重大だと判断した。



 更に表情を作り変え、思考も切り替える。



「……さぁな。その答えは未だ出せていない。ただ『戦うと、すごく気分がすっとする』。鬱屈した気持ちが晴れる。多幸感に包まれる。戦う理由なんて、それで十分だ」



「……悠くん、それは人間として破綻した考え方だよ」



「……俺がぶっ壊れてることなんて、俺が一番分かってるよ」



 悠は吐き捨てるようにそう言うと、疲れた体に鞭打って無理に立ち上がり、自分が守った街の中へと帰っていった。



 最大の鉾と盾を失ってしまったうえに、新たな切札となるべく力を持った者には精神の異常が認められる。



 リィンは、この先どうなっていくのだろうかとこの国の行く末を案じた。


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