異能パニッシュメント 5
「……あそこに投石機がある。幸い、飛ばすものはたくさんあるから、上手く活用して戦ってくれ。絶対に、生きて帰ってくれ」
「……ありがと。生きて帰れるかは悪いけど約束出来ない。私一人の命よりみんなの命だからね。さーて、頑張るぞ!」
リィンは悠の返事を待たずして投石機へ駆けていき、あたりのものを手当たり次第に掴んで投石機にセットする。
逃げる、と約束したものの、やはり放っておく気にはなれず、悠はギリギリまで彼女を手伝うことに決めた。
迷いを振り切り、悠も投石機へ近づく。
「ちゃんと逃げるから。でも、ギリギリまで手伝わせてくれ」
「……うん。ありがとう」
リィンの中で、自分の心を伝えるのにそれ以上の言葉はなかった。
それだけで、相手がわかってくれると信じていた。
だから、できるだけ楽しく。
最後の最後まで、笑顔で。
リィンはそう決め、悠に話しかける。
「おお、悠くん悠くん、これなんかすごく固そうじゃない?当たったらすごく痛そう」
「ん?」
そういってリィンが悠に見せつけたのは、色鮮やかな、この世界ではなかなかお目にかかれないほど色鮮やかな二つの手甲。
その幾何学的なデザインは、この世ならざる空気を漂わせていた。
……というか、悠はそれを見たことがあった。
「よーし、飛ばすよー!」
「ちょっ、ちょちょちょちょっと待ってくれ!」
「うわぁ!急に大きな声出してどうしたの⁉︎」
「それ!それ見せてくれ!」
「それって……これ?」
リィン投石機から『それ』を取り出し、その二つを悠に差し出した。
それは、一ヶ月ぶりの再会だった。
「――こんなとこにあったのかよ、おい……!」
悠の手に握られているのは、グリムフィフトとインパクション。
悠の、剣である。
「もしかしてそれ、悠くんが探してたやつ?」
「あぁ……!ようやく見つけた……!」
自然と手にこもる力が強くなる。
全身の血が滾るのが感じられた。
「リィン、撤退はやめだ。あいつらの相手は俺がする」
「そ、そんなの駄目だよ!悠くんの探し物がどれだけすごいか知らないけど、ここにいるメンバーで戦うのだけでも無謀なのに、それを一人だなんて」
「それじゃあ『とりあえず』俺一人に任せてくれ。それで、俺の戦力を測ってくれ。これから戦術に組み込むかどうか定めてくれればいい」
「でも……」
「頼む。任せてくれ。というか、全力でやれば巻き込んでしまう可能性もある。――というか、俺今、すっごい楽しくなってきたんだ」
「……え?」
リィンは悠の顔をすぐさま見た。
――その表情は、これから戦いに赴く者のするような顔ではなく。
まるで、これから遊びに行くかのような、そんな顔だった。
「……いや、なんでもない。とにかく、見ててくれ。俺の戦いを」
悠はインパクションとグリムフィフトを左右の手に装着。
すぅ、と息を吸い、一気呵成に拳をぶつけ双方のコネクタを接続する。
『システム接続完了。これより装着待機体へと移行します』
インパクションからシステムアナウンスが流れ、悠の体にシャープレイが走り、腕部、脚部に簡易的な装甲が装着され、デッドノート・アンダーモードが作動する。
デッドノート装着の第一段階を完了した。
スリットから覗く青い光るシャープレイが薄暗い闇の中でよく映える。
「うわ……」
リィンがそれを見て、感嘆の息を漏らす。
この世界ではありえない、機械仕掛けの鎧に言葉を失ったのだ。
しかし、なにより。
その未知なる鎧より、青く輝く美しい光より、リィンは目の前の男の顔が次第に狂気に塗れていくことが気になった。
その表情は間違いなく喜びの感情。
明確な殺意と、戦闘意欲を抱くことに、悠は喜びを見出している。
そんな異様な雰囲気に気がついたのか、近くで命令を待機していたガルダとアルトが二人に接近してくる。
「お、おい、悠、なんだそりゃ」
「俺の国の武器だよ」
「斎賀悠、お前はまだそんなおもちゃで戦うつもりなのか!こんな時にふざけるのもいい加減にしろ!お前はさっさと逃げろ!」
「……うるさいな。黙って見てろってんだよ。俺から戦いを奪おうったってそうはいかない」
「なっ……」
「それに、先生が作ってくれたデッドノートをおもちゃだと?いい加減にするのはお前の方だよ。お前達が、お前達にしかない長所である魔法を磨き上げてきたように、俺たちは俺たちの優位性である科学力を磨き上げてきた、誇れるものなんだよ。それを馬鹿にするな。最弱以下の『無能野郎』」
悠はいつになく饒舌で、いつになく悪意を隠すこともせずに、取り繕わずにアルトのことをこき下ろす。
アルトはその、人をも殺しかねない剣幕に気圧され、なにも言葉を返せなかった。
うなだれ、目を白黒させる。
「お、おい悠。お前、大丈夫なのか?」
「ん?何がだ?」
「……今のお前、危ないぞ」
「何がだよ。大丈夫だって、ちゃんとあいつら倒してくるからさ」
悠はガルダにそう伝えると、強化された身体能力をもってして、瓦礫の山を軽々飛び越えて戦場へと走って行った。
その頼もしい姿を見たというのに、その場にいる三人の表情は、なんとも言えないものだった。
そんな中、ガルダがぽつりと言葉を漏らす。
「ありゃ駄目だ。戦いに魅入られてやがる」




