異能パニッシュメント 3
「たたたたたたたたた大変だああああああああぁ!大変!どうしよう!魔法が使えないのー!」
その時、聞いたことのあるような声をしているものの、思い当たる人物が絶対に言わないような台詞で悠の思考はかき乱された。
まさか、と思ってその声の主のいる方へ振り返ると、そこには先ほどドラマチックな別れをしたリィンが立っていた。
「り、リィン?」
「悠くん!大変なの!どうしよう、魔法が使えない!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、君はリィンなのか?リィンの妹とかじゃなく?」
「私私!リィン=ストレアだよ!」
「……どういうことなんだ?」
「あー、団長代理の魔法のいくつかある固有魔法の一つには、性格をスイッチさせて戦闘向きにさせるものがあるんだ。お前さんが見ていた姿は、スイッチ後の姿ってことだ」
混乱する悠を見かねたガルダが横から口を挟み、彼女の使用していた魔法の解説をする。
「もー!絶対にばれたくなかったのにー!せめて悠くんの前ではかっこいい私でいたかったのにー!」
リィンはいつもより心なしか大きく見える瞳を潤ませて地団駄を踏んだ。
悠はリィンのその変貌ぶりに、乾いた笑いを浮かべるしかなった。
ものの、すぐさま本題を思い出して、暴れるリィンの肩を掴んだ。
「それよりリィン、魔法が使えないって本当か⁉︎」
「う、うん。というか、魔力自体に制限がかかってるような感覚なの」
「……やっぱりそうか。そういうことか」
沈希が以前言ったことは正しかった。
やはり、この世界の人間は体内の魔力を運動能力に変換して行動しているのだ。
恐らく、先ほど発動した魔法は魔力、または魔法を封じる類のものなのだろう。
行動の源である体内の魔力を封じられてしまえば、彼らのその超人的な身体能力は封じられてしまい、悠達と変わらないただの人間に成り下がる。
「リィンは動けるのか?」
「わ、私は大丈夫なんだよね、不思議と。固有魔法は使えないけど、普通の魔法なら問題なく使えるの」
「つまり、今あいつらに対抗できるのは騎士連中だけか」
「ねぇねぇ、どういうこと?」
「……俺の世界にいる後方支援担当の人の推測だったんだけど、君たちが俺より動けるのは、体内で生成されてる魔力を消費しているかららしいんだ。そして、リィンも恐らく予想はついてると思うけど、さっきの魔法は魔法陣の中にいた者の魔力を封じる魔法。固有魔法に到達している人は固有魔法を封じられて、それ以下の人たちは魔力自体を封じられてしまったんだ。……多分、俺がこの世界に来た時にあった死体の山が関係してるんだろう」
「うわー、浅はかだった!くそー!くー!やー!しー!いー!」
「り、リィン!悔しがってる暇はない!魔王軍が攻めて来てるんだろ⁉︎とりあえず戦える人を集めて迎撃しないと!」
「はっ、そうだった!みんなー!聞いてー!」
リィンはすぐに正気を取り戻すと、高台に立って狼狽える者達の意識を一身に集めた。
「さっきも言ったけど、魔王軍が攻めて来てるの!みんな体が動かなくて辛いと思うけど、今頑張らないともっと辛いことになると思うのは私だけかな?みんな、剣をとって!私たちが守りたいものを、この国をみんなで守ろう!」
流石、というところだった。
リィンは失われかけていた戦意をガルダ以上に取り戻させ、兵達は次々と剣を手に城壁の外へと向かっていく。
伊達に団長代理などという偉そうなポジションに収まっているわけではない。
「兵長さんの体はどう?」
「あー、いつもよりコンディションは落ちるけど、いけるぜ」
「よし。なら兵長さんも最前線でお願い。私を含めた騎士達で最前線を固めて、後ろに逃しちゃった魔物をみんなで倒してもらおうかな。アールトさん!そっちはどう?」
「……駄目だ、魔法が使えなくなってしまっては俺の戦闘術は意味をなさない。悔しいが、一般兵と混じって戦わせてもらうことにする」
アルトも戦えないようで、その表情に無念を浮かべて歯を食いしばっていた。
「斎賀悠!お前はここで待機しておけ。戦うには実力が足りなさすぎる」
「実力面では確かに自信はないけど、少なくとも身体能力は今はみんなとどっこいになってる筈だ。こんな状況で俺が戦わないわけにはいかないだろ」
「だが!」
「アルトさん、今はそんなこと言ってる時じゃないよ。悠くんだってこの一ヶ月鍛えてきたんだし、きっと戦力になってくれるよ」
「ちぃっ……!」
そんなに俺に前線に出て欲しくないか、と悠は心の中でアルトのことを皮肉った。
いちいち突っかかって面倒なやつだ、と立場を気にせず言い切ってやりたいところだった。
「それじゃあ、最前線で戦える人は準備を整えて砦に集合!戦えない人は後方支援に徹して。主に弾とか運んだり!」
リィンはまだ余力を残した者たちと共に準備を整えていく。
その合間に、リィンと短い会話を交わした。
「リィン、俺はどうすればいい」
「うーん、今までの悠くんなら、絶対に後方支援で!って言ってたけど、今はみんな動きが低下しちゃってるからなぁ。あのワイヤーってやつ?の動きがあると助かるかも。悠くんがいいなら、最前線に来て」
「……!あぁ。行くよ」
「……でも、結局悠くんの探し物は見つからなかったね」
「仕方ないさ。この時を乗り切って、また探せばいい」
「それもそうだね。それじゃ、行こうか」
「あぁ、ついてくよ。リィン団長代理」
悠は今の今まで気にしてなかった序列を口にしつつ、彼女に敬意を払ってその後をついていった。
リィンとしても、前線で戦ってくれる者が、肩を並べ、背中を預ける者がいてくれることは心強かった。
それぞれの思惑を胸に、準備を終えた二人は集合場所である砦へと向かう。
砦には篝火、投石装置、大砲、バリスタなどの遠距離攻撃を可能とする固定された戦力が最低限備えつけられている。
これらの迎撃手段を用いて、距離が離れているうちに出来るだけ数を減らすというのがこの砦の主な運用法だった。
「お待たせーってもう結構揃ってるね」
どうやら自分たちが最後だったようで、リィンは遅れたことを軽く詫びた。
が。
そこにいるのは簡単に見積もって、多めに数えても一個小隊程という極めて層の薄い者しかいなかった。




