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不知のエンプティーホロウ 6

「うーん。いざ言われるとなかなか浮かばない。けど、昔からこれだけは考えてた」



「なんだなんだ?」



「将来魔王を倒して、大きくなったら、素敵な恋人を作って、素敵な時間を過ごすの。田舎の小さな家に引っ越して、そこで夫と子供と、慎ましく、けど自由に過ごしてみたい。本当に小さくてありきたりなものだけど、私はこうやって過ごしたい。……まぁ、恋人どころか好きな人すら出来たことないけど」



「らしいね。小さいけど、立派でいい夢だと思うよ。リィンらしくてとっても」



「あ、ありがとう。そうやって真正面から褒められると恥ずかしい」



リィンはぷい、とそっぽを向いて赤らんだ顔を後頭部で隠した。



照れている姿が実に少女らしく、見ていて微笑ましい。



きらきらと綺麗に輝くその夢はダイヤモンドより価値のあるもので、悠には眩しかった。



しばらく経って、照れを克服したリィンは一つ咳払いをし、今度は悠に同じことを尋ねた。



「そういえば、悠君は前の世界でどんなことを夢見て戦ってたの?」



「そうだな……」



ーー悠はその先を口にしようとして、ぴたりと水を打ったように、されど湖面のような穏やかさではなく、嵐の前の静けさを彷彿とさせるような乱暴な静止をした。



ーー思い出せない。



悠は過去を思い出そうとしたが、頭に自分が戦っていた目的が浮かぶことは決してなかった。



「あ……」



どう足掻いても、そこから先の言葉が出てこない。



自分は何の為に戦っていたんだ?



何を夢見て戦っていたんだ?



どういう未来を求めて、なにを為すために戦っていたんだ?



「……悠君?」



今の悠にはリィンの声が届いていなかった。



悠は頭の中で、グルグルと同じことを繰り返し繰り返し、狼狽えすら表面化させる。



「……俺は……」



目の前の少女に戦う理由を説いたが、肝心の自分が何の為に戦っていたのか思い出せない。



とんだお笑い草である。



悠は思い出せない過去を頭の中から必死にサルベージする。



しかし、その欠片すら見当たらず、激しい困惑を見せた。



「ど、どうしたの?気分が悪そうだけど……」



そのとき、言葉では通じないと判断し、体を揺さぶったリィンの行動によって悠は我に帰り、はっとして彼女の顔を見た。



その顔には心配の色が漂っている。



「り、リィン」



「どうしたの?なにか、まずい事でも聞いた……?」



「い、いや、なんでもない。なんでもないんだ」



そう、なんでもないことである。



だって、なにもないのだから。



「そ、そう。ならいいけど……」



釈然としない様子ながら、リィンは悠が正気に戻ったことに安堵して胸をなでおろした。



「急に止まって、顔色が悪くなったから心配した……」



「ご、ごめん。大丈夫だよ」



「気分が悪いならもう帰る?」



「だ、大丈夫大丈夫。いけるよ」



「そう……」



リィンは、なにがあったのか自分に話してくれない悠に寂寥感とジェラシーを抱いたが、なにも知らない自分にその先を知る権利があるのかどうか?と考えると怖くてなにも言えなかった。



そして、彼の心に寄り添えない自分の無力さを嘆き、憂い、苛立った。



「ま、まぁ、俺のことはいいとして。リィンの夢、叶うといいな」



「え?そ、そうね。うん。その為に頑張らないと」



「あぁ。俺も微力ながら手伝うよ。今の俺なんかじゃ全然役に立てないけど」



「そんなことない。今だってこうして、私のこと気遣ってくれてるもの」



ーー自分のことを差し置いてでも、とリィンは心の中で後付けした。



それが単なる逃避だと、リィンは気づけていない。



「そんないいものじゃないよ」



自分が逃げたことを理解している悠は後ろめたい感情を押し殺し、極めて平常心でいることを心がけて彼女と話をした。



しかしそれは会話というより、ほんしんを隠し殺して表面上取り繕う、戯曲に近かった。



俺はなんのために戦う?



悠はそのことだけを頭に残してその場の一切合切を捨て去り、その場を虚ろにやり過ごした。


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