不知のエンプティーホロウ 4
「……死神さん?なんでいるんだ?」
「悪いかよ」
「悪いに決まってるでしょ。関係者以外立ち入り禁止よ」
「細かいこと気にすんなよ。僕のこと知ってるやつもある程度いるだろ、ここ」
「まぁそうだけど……。せめて入ってくるなら怪しまれない程度の格好で来て。本当なに、その服装。趣味か何か知らないけど、怪しさ全開で見てて不安になる」
「だからこれは趣味じゃないってんだろ。好き好んで棺桶背負う奴がいるかよ」
「……あれ、そういえば今日は棺桶背負ってないな。置いてきたのか?」
「あれ背負ってると変な目で見られるんだよ。見られるだけなら別にいいけど、石とか投げられるのはなぁ。ということで今日は家に置いてきた。ほら、手錠もないだろ」
死神は右手をぷらぷらと見せつけ、そこにいつもつけている手錠がないことを示した。
「あ、本当だ。なんで?」
「あれは対象の時間を停止させる魔道具なんだよ。そうでもしないと中の物が腐るだろ。あんまり大きい声では言えないけどな」
死神は事情を知る悠の耳元で小さく囁いた。
確かに、人間を生き返らせようとしている死神の目的はあまりおおっぴらに出来ない。
「まぁ、というわけだ。行ってこいよ、悠。僕のことはいいから」
「女の子の誘いってなら、死神さんもじゃ?」
「馬鹿か。僕は別に決まってんだろ。ほら、行ってこい」
死神は悠の背中を後押しし、強引に立ち上がらせ送り出した。
先ほど死神をありきたりな少女として扱った悠だったが、正直感覚としては女というより男友達と話しているというような感覚だった。
おそらく死神の方も同じように思っているに違いなかった。
でなければこのような感想が湧いてくるはずもあるまい。
「あ、あぁ。行ってくるよ」
「それじゃあな。気にして帰ってくんなよ」
死神はひらひらと力なく、そして悪戯っぽい顔をして悠を見送った。
先に立ち上がっていたリィンの後を追い、悠は小走り気味で食堂を出た。
食堂を出るとすぐそこにリィンが不服そうな顔で腕を組んで待っている。
「お待たせ」
「……私は未だに死神さんのことをいまいち信用出来ていない。悪い人じゃないのは分かってるけど、何故か」
いつもの冷静な態度を崩して作った憂い顔は、これが原因かと心の中で分析した。
それと同時に、彼女の言うことにも一理ある、といくつものことを並列して思考した。
「言いたいことはわかる。死神さんはあまり深いことを語りたがらないし、内心とか本心ってのが見えなくてってことだろう」
「……うん。あの人からは底知れない闇を感じる。どう暴発するかわからなくて」
「あんまり深いことは聞けてないけど、死神さんには死んでも死に切れないほどの後悔があるらしい。多分、リィンが感じてるのはそれが変質したものなんだと思う。大丈夫。死神さんは悪い人じゃないよ」
「……うん」
リィンは一言だけで小さく返事をした。
これ以上の言葉を捻り出すことが出来なかったのか、あるいは。
しかしこの一言だけで充分彼女の気持ちを理解できた悠は、リィンの手を引いて訓練所の敷地から飛び出した。
一旦この話は打ち切りだ、とでも言わんばかりに。
「まぁ、死神さんが怪しいのは否定できないことだし、ちょっと怖いところがあるのも確かだけど一旦忘れよう。死神さんっぽく言うなら『この話はここで語られるべき話じゃなく、いずれその時がくるから今はするな。僕は所詮幕間の存在だ』って感じだな」
「……似てないよ」
「当たり前だろ、性別が違う」
「あはは、それもそう。ごめん、変なこと言った」
「気にしてないよ。それで、本題だ。これからどこに行くんだ?」
「あぁ、そうだった」
目的を思い出した風のリィンは一つ手を打ち、人差し指を立てて控えめな態度で悠に提案した。




