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不知のエンプティーホロウ 3

「そうね。それで、最近訓練の方はどうなの?」



「あ、あぁ。そうだな、駄目だな」



「そうなの?」



「まぁ。まだ一撃も与えられてない。本当に成長出来てるのか怪しいよ」



「課題は多そうね」



「そうだな。ただ、やりがいは感じてるよ。ありがとうリィン。この騎士団に入れてくれて」



「契約でしょ。私は君と組むことにメリットを見いだした。半ば利用する形で私は悠君をここへ連れてきたの。お礼なんてしないで」



 リィンのいうことが本当なのかどうかはわからないが、彼女はあたかも自分が悪いかのような物言いで、静かにそう言った。



「あんまりそんなこと言わないでくれよ。結果を出せてない俺が情けなくなる」



「悠君は頑張ってると思う。あまり気に病まないで」



「……早くデッドノートを見つけないと」



「ごめんなさい。出来る限り探してるんだけど、それらしき情報が見当たらないの」



「……見つけたら今すぐにでも本拠地へ特攻を仕掛けて、全部を終わらせるのにな」



「それは無理よ。デッドノートがどれほど強いものかは知らないけど、まず魔王城はいくつもあるの。魔王は攻める場所を変える度に拠点を変えるわ。だから魔王城を一つ潰したとしても彼らはたちまち本拠地を変えるの。全てを終わらせるなら魔王本人を狙うしかないけど、魔王は私たち騎士が束になってかかっても勝ち目がないくらい、尋常ではない量の魔力と圧倒的な魔法を持ってるの。魔王が今この国を積極的に攻めてこないのは……私たちが防戦に徹してなかなか攻め落とせないからということと……悠君の世界や、死神さんの世界に侵攻しているから、でしょうね。今がチャンスといえばそうなんだけど、なかなかそれが出来ないのが現実ね」



 リィンは話が後半に進むにつれて声を潜めていき、あまり周囲に聞かれたくないことだけは悠の耳元で話した。



「……魔法やらの真っ向勝負で勝てないなら、魔法を使わせる前に殺せばいいんじゃないか?」



「駄目ね。魔王城、魔王ともに強力なバリアを張ってるの。魔力を帯びた攻撃か、余程の高火力でゴリ押さない限りそのバリアが破れることはできない。そして、さっきも言ったように魔王は私たちとは桁違いの魔力を持っている。今は凌ぐしかないわ。それに、魔王以外にも強力な臣下も数名いるの。彼らは例外なく強力な魔法を所持しているわ。狙うとするならまずはそこね」



「そいつらなら勝てるのか?」



「あくまで可能性の話。実際は騎士団と配下の軍で全面衝突になるの。相手に手痛いダメージを負わせることが出来ても、こっちが疲弊してしまっては意味がないでしょう。……でも、魔王軍が別次元から手駒を増やしているというなら、今の均衡も崩れてしまう。何とかしたいのは確かね」



「まぁ、死神さんの世界はどうやらここと同じく魔法みたいなのがある世界だ。抵抗する手段があるから問題ないとして、問題は俺の世界だ。今は先生がクラックを強制遮断してくれてるけど、後十一ヶ月もすればそれが出来なくなる」



「十一ヶ月……。少し短すぎる。けど、だからといって焦ってもどうにもならない」



「……状況は厳しいな」



 悠とリィンは二人して全ての幸せが逃げていくような大きなため息をついた。



 しかしリィンは、口だけはこれまでと同じように元気ならしく、落胆を見せる表情とは裏腹に破竹の勢いで昼食を平らげていった。



 やがて話が終わる頃には全てを完食しており、悲しげな目で空の食器を見つめていた。



「足りないか?そんなに大食いだったっけ」



「……そういうのじゃない。悠君って結構人の気持ち考えるの下手でしょ」



「いや……それもそうだ。何言ってんだ俺」



「大丈夫?ちょっと疲れてるんじゃない?」



 デリカシーの欠如と空気が読めていない悠を気遣い、リィンは悠の額に手を当て、熱量を確認した。



「熱はなさそう。寝不足?昨日も遅くまで死神さんと訓練してたんでしょう?それに、さっき風の噂で兵長に吹っ飛ばされたとも聞いた。さっきから視線が虚よ」



 悠はできるだけ気丈に振る舞っていたものの、ガルダとの一戦で負ったダメージを隠し切ることが出来ていなかった模様で、いつの間にかぼうっとしていたらしい。



 変なことを言ったのも、おそらくこれだろう。



「……ちょっと疲れてるのかもな」



「明日は休みをもらいましょう。焦るのはわかるけど、少しくらい休まないとどうにもならない」



「あぁ、そうだな……」



「……それじゃあ、今から暇?」



「今から?今からは死神さんと訓練が……」



「いや、行ってこいよ。せっかくの女の子からの誘い断ってじゃないぞ」



「……ん⁉︎」



 悠はその瞬間、びくりと背筋を強張らせた。



 悠の言葉を遮って声をかぶせたのは、この場にいるはずのない者の声だったからだ。

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