不知のエンプティーホロウ 2
「どうした、悠。そんなため息なんかついて」
側から様子を見ていた兵属の仲間が悠を気遣い、しかしからかうように声をかけた。
「当ててやろうか、また兵長に一撃すら当てられなくて落ち込んでんだろ」
「嫌な奴だな、おい」
「そんな目すんなって。俺はお前を慰めにきたんだ。お前の頑張りはいつも見てるからよ」
「無駄な足掻きの間違いじゃないのか?」
「おいおい、そんなこと言うなよ。これでもお前のことは応援してるんだぜ?俺だけじゃなく、みんなな」
「んな馬鹿な」
「マジマジ。お前は俺たちとは生まれた国も育った国も違う旅人だったんだろ?体質も全然違うって聞いてるぜ。そんな中で俺たちと同じ訓練についてきてるんだ。少なくとも俺は応援してるぜ」
「……嬉しいこと言ってくれるな」
「ははは。それに、兵長の訓練は厳しい。あの厳しさは誰でも知ってるからつい応援したくなるのさ」
「みんなあれを受けてきたのか。どうりで強いわけだ」
「あの人はすごいよ。どんな奴でも一流の兵士に仕立て上げてくれるからな」
「……俺もそう思うよ」
誰もが同じ経験をしたのか、と考えると思わず苦笑した。
そう考えるとまだ頑張ろうという気概が戻ってくるというものだった。まだまだこれからだ、と。
悠は一時考えを振り切ると、晴れ晴れとした表情で身を起こした。
「考えても仕方ない。今は自分の出来ることをするのみだ」
「いい顔になったな。その意気だ。さ、飯でも食いに行こうぜ」
「あぁ、そうだな」
「……奢りはしないぞ?」
「なんだよケチくせぇ」
悠と男は互いに小突き合い、笑いを浮かべながら食堂へもつれ歩いていった。
いつの間にやら周りの者も巻き込み、気がつけばかなりの大人数となってがやがやと道を歩いていた。
今まで一人で戦っていた悠にはなかった経験である。
「おい悠、最近調子はどうだ?」
「うーん、そこそこってとこかな」
「頑張れよー。最近は頻度は減ってるけど、お前にもいつか俺たちと一緒に戦ってもらうんだからな」
「善処するよ」
和気藹々と、男たちと共に過ごす時間は楽しかった。
絆されそうになる気持ちを抑え、しかし心地よい気分を忘れないようにするのいう調整はなかなか難しく、幸せな悲鳴を心の中で上げていた。
仲間がいて、リィンがいて、死神がいる。
どこか抱く違和感は奥底へ追いやり、こんな生活がいつまでも続けばいいな、と頭の片隅でそんなことを浮かべていたところ、いつの間にかぼうっとしていたらしく、肩を叩かれていることに気がつかなかった。
「ん、なんだ?」
「悠、団長代理だ。行ってこいよ」
「え、飯は?」
「俺たちのことよりあっち行ってこいって。お前あれか?唐変木か?」
「ぐ……行ってくるよ」
「おうおう、行ってこい」
男たちは悠の背中を叩き、快く送り出した。
余計なお世話感が強いのだが、そういえばリィンと二人きりで話したいことがあったのを思い出した悠はかえって好都合だと結果オーライに考えた。
「おーい、リィン!」
ちょうど時を同じくして、リィンも昼食を摂ろうとしていた模様で、お盆の上に食事を乗せたままどこに座ろうかうろうろしている様子だった。
「あ、悠君」
「ちょうどよかった。今から時間あるか?ちょっと話をしたい」
「私には時間しかないって知ってるでしょ?ちょうどお昼だし、そのついでに」
リィンはすぐ近くに空席を見つけると、悠を手招きしてそこに着席した。
「それで話って?」
「あんまり大きな声で話せないけど、俺がこの世界にきて初めて見た戦闘の時の、大量の死体のこと」
「……今じゃないとダメ?ご飯時なんだけど」
「……確かにそうだ。また後でにしよう」
配慮が足りなかった、と悠は自分のコミュニケーションスキルの無さを嘆き、反省した。
そして情けなくも、リィンの方から新たな話題を出させることとなる。




