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不知のエンプティーホロウ 1

 悠がこの世界にきて、早くも一ヶ月の時が経った。



 最初は違和感しかなかった異世界での生活にも徐々に慣れていき、今では顔見知りなども出来るくらい世界に順応していた。



 類い稀な波乱万丈さで今でも鮮烈に記憶にこびりついてい離れず、思い出すと未だに頭が痛くなる歓迎会、ガルダに酒を飲まされ何が起きたかさっぱりだが目覚めた時には全裸の状態でガルダと二人で道端で倒れていたり、いつの間にか死神が屋根裏に住み着いていたり、昼食時に喧嘩をふっかけてきたアルトと大食い勝負をして二人して盛大に倒れたり、リィンと二人で街に出てみたり、とにかく灰色の人生を送ってきていた悠にとって、なにからなにまでが刺激的だった。



 拭い去れない不安や空白感はあるものの、悠は異世界での生活をおおむね満喫していた。



 しかし何もかもが順調というわけでもなかった。



 一ヶ月前からガルダと死神の二人体制で戦闘訓練を受けているにも関わらず、未だに一撃すら二人に当てることをかなえていない。



 ゲームオーバーまで残り十一ヶ月。



 悠長に構えている時間はない。



 半ば追い詰められた状況の中。



 現在悠はガルダと共に訓練所で戦闘訓練を積んでいた。



「くっ……!」



「まだまだ詰めが甘いぞ!五秒先の敵の動きを考えて動くんだ!戦いに勝つのは常に相手を未来を予測出来る者。今しか見えてない奴に勝機はない!」



 いつもは温厚で飄々とした態度をとるガルダは、戦闘訓練になると人が変わったように苛烈、そしてその強靭さをあますところなく発揮する。



 そのある意味二面性ともいえる性分に始めは驚いたものだが今ではすっかり慣れ、彼の厳しい指導にも耐え抜いていた。



「足が止まってるぞ!ナイフみたいな小さい得物を使うなら全身を使って相手を攻撃しろ!相手が白熱している場合には足払いなんかが有効だ」



「なる……ほど!」



 戦闘時にその場に適切な合わせたアドバイスを送るガルダの言を信じて、悠はすぐさま腰を落とし、見様見真似の足払いを仕掛けた。



「あぁ、それと……」



 しかし、提案者であるガルダ本人にそのような搦め手など通用するはずもなく。



 悠が体勢を落とした直後にガルダは、悠の顔面にサッカーボールを蹴るかのような豪快なキックを直撃させてしまった。



「うあっ……!」



 悲痛な声を出して、悠の体は宙に浮かび遥か遠くの壁に全身を叩きつけられた。



 肺から苦しげな空気が漏れ、悠は一時呼吸困難に追い込まれる。



「それと、敵の言うことに乗せられないことだ。わかったな?」



「ご、ご鞭撻のほどどうも……」



 悠は声が切れ切れになりながらも、ガルダの言うことはもっともだと彼にそれを伝えた。



 立ち上がるにはしばらくの時間を必要とするほど手痛くやられてしまったわけだが、悠の復帰を待つかのようにガルダが悠の隣に座る。



「どうだ、この一ヶ月で強くなったって実感はあるか?」



「……ないな。俺はまだ一撃も当てられてない」



「それでいい。戦いで一番危険なのは油断と自惚れだからな。安心しろ。お前は強くなってる。そのことに自惚れてないなら大丈夫だ」



 訓練は終わりだ、と言わんばかりにガルダは悠の頭にぽんと手を置くと、悠を置いてどこかへ立ち去って行った。



 これはガルダにとって、訓練終了を示すサインだった。



 悠は口元の血を拭い、その場に大の字で寝転がった。



 あれから一ヶ月経った。



 しかし悠の中で成長は一切認められず、一ヶ月前となにも変わっていなかった。



 悠は打ちひしがれる思いで天井を仰ぎ見た。

 湧き上がる思いは悔しさ、焦燥、力の渇望、情けなさ。



 特に悔しさと焦りは以前にも増して募り、苛立ちをも露わにする。



 悠を大きくため息をつく。



 師は優秀だというのに、肝心の教わる側に著しく能力が足りていない。



 そのことを憂い、またため息をつく。

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