死を裂くデスサイス 5
「おーい、ただいまー!」
悠はそこにいるリィンに声をかけ、帰宅の挨拶をする。
「おかえりなさい。遅かったけどどうしたの?」
「いや、ちょっと色々な」
「ふぅん。……そちらの方は?」
リィンの注意は悠の後ろでぶっきらぼうに立っている死神へと移った。
確かに、夜遅く帰ってきた者が見ず知らずの者を連れて帰ってきたならば気になるのも仕方あるまい。
悠はそのあたり、少し配慮が足りなかったかと後悔した。
「あぁ、この人は死神さん。えぇっと……」
「こいつの協力者だ。訳あって名乗りたくない。よろしくしなくていい」
そのあまりに適当な自己紹介に悠は唖然とした。
なにからなにまで天邪鬼で驚くほど中身がない。
「……悠君、こんな人信用したの?」
「いや……怪しさ全開だけど信用は出来るんだって」
死神の風貌は、容姿は整っているとはいえお世辞にも綺麗な服を着ているとはいえず、帽子からなにまで全てがボロボロだった。
更に、片眼鏡やら手錠やらの装飾品が全ての怪しさをブーストさせている。
「だからよろしくしなくていいって言ってんだろ。悠、細かい説明は任せた。また明日にでも来るよ」
死神は振り返りすらせず手を振り、気ままな猫のような自由奔放さでその場から去っていった。
その様子を雁首揃えてぽかんと見守り、やがて反応出来たのは完全に彼女の姿が闇に溶け込んでしまっていた頃だった。
もう、彼女が歩くたびに聞こえていた鎖やら手錠やらの音も聞こえない。
「……もしかして、誑かされた?」
リィンはじとりとした目で悠に疑いをかけた。
本当にやましいことがない悠は、それこそ決死の覚悟で否定した。
「そんなんじゃない!決して!」
「なら、どういう関係?」
「えーっと……この世界のことに詳しい人」
「どういうこと?」
「言っていいのかなこれ……」
リィンに、死神の素性を明かしていいか悠は思い悩んだ。
仮にも彼女もここからすれば異世界の住人である。
あまりみだりに言いふらすのも良くない気がした。
しかし考えるのが面倒になった悠は「まぁいいか」とあっさり話す決意を固めた。
「あの子の名前は死神さん。本当の名前はあるけど、呼ばれるとめちゃくちゃ怒る。死神さんってのはあだ名だ」
「それで?」
「率直にいうと、あの子は俺と同じくこの世界とは別の世界から来た……らしい。もっとも、俺とはまた別の世界の人らしいけど」
「……どういうこと?」
「なんでもこの世界というか宇宙にはいくつもの次元があるらしい。俺がいた世界、君がいるこの世界、死神さんが元住んでいた世界、こことは別の法則が成り立つ異世界。今確認出来てるだけで四つの世界があるんだ。死神さんはそのうちの一つからきた人ってことだよ」
「つまり、悠君の事情を話しても問題ない人ってこと?」
「そういうこと。俺の国の言葉を話してたから気づけたんだ」
「あれ。でもそれなら私に言葉が通じないんじゃない?」
『大丈夫です。私が翻訳範囲をを広げておいたので』
悠が答えられない疑問をつきこが代わりに、メモリデバイス内から答弁した。
「えっ、誰?」
『自己紹介が遅れました。私、このデバイスの中の人工知能、つきこと申します』
「じ、じんこうちのう?」
『端的に申しますと、勝手に物を考える機械みたいなものです。お話が出来る板切れとお考えください』
「は、はぁ。……悠君の国には変なものがあるのね」
「変なもの呼ばわりはやめてやってくれ。一応感情はあるんだから」
『うう、私、豆腐メンタルなんで優しくして頂けるとありがたいのですが……』
「ご、ごめんなさい。気をつける」
『いえいえ、確かに板切れごときが感情を持っているというのも考えづらい話です。それはさておき。今後ともよろしくお願いしますね』
「よろしく。リィン=ストレアよ」
ひとしきりの会話を終えるとそれっきりつきこは鳴りを潜め、会話に参加してくることはなかった。
「それにしても、いろんな世界があるなんて。もしかすると、他の世界からまた別の人が現れるかも」
リィンら意味深な台詞を残し、その後の話を打ち切った。
悠も口を開かなかったが、何故だかリィンが言ったようにまた自分と同じように、別世界から姿を現わすような予感がしていた。
そして、これまで何も知らなかった自分の矮小さを改めて思い知り、同時にこれから新たに知るかもしれない異郷の者達への興味を馳せた。
反対にリィンは若干不安げな面持ちで死神の消えた闇をずっと見守っていた。
リィンからすれば、正体不明の者が大量に流入してくるのだ。気が気でないのだろう。
「安心してくれ。君の不安もわかるけど、それを感じさせないほど俺が強くなる。もし別の世界から怪しい奴が来ても任せてくれ」
「……ありがとう。でも、私たちはもっと強くなる必要がある。お互い頑張りましょう」
リィンは悠の力不足を気遣うように自分も頑張る、とそう口にした。
この子は本当に気が遣えるいい子だな、と彼女の善性を再認識する。
「それじゃあ行きましょう。みんな待ってる」
「みんな?」
「今日は君の歓迎パーティーよ。ささやかだけど、楽しんで」
リィンは悠の肩を軽く叩き、入室を促した。
その小さな心遣いが非常に嬉しく、悠はつい頬を緩ませた。
「あぁ、すぐ行く」
悠は声を弾ませ、明るい光の中へと呑まれ、優しい祝福に包まれた。




