帰還後のレクチャー
「さて、話の続きでもする?」
帰還したリィンはシャワーを済ませた後、戦いに赴く前に話していたことを思い出し、それをしようと提案した。
「そういや、結局遮られちまったもんな」
「魔法の話だった?魔法の何が知りたいの?」
リィンと悠は、貸家の共有スペースでそんな話をした。
「なにからなにまで。俺の世界にも魔法って概念はあるけど、ご存知の通り俺たちは魔法を使えない。だから、俺たちのイメージと乖離した実情を擦り合わせなきゃいけないんだよ」
「なるほどね。質問があるなら聞くけど」
「今はまだするべき質問すら浮かばないな。悪いけど、子供でも知ってるような基礎知識から頼む」
「……わかった。それじゃ、長くなるけどしっかり聞いて」
リィンは手のひらに小さな魔法を発現させつつ、そう言った。
「これが魔法。私の体の中にある魔力を消費して、こうした形に出来るの」
「うん。これはイメージ通りだ」
「そう。魔力を外に出したものを魔法と呼んで、それを放出することで自分の手や足のように扱えるの。私の魔法はさっき見た通り、斬撃を飛ばすことができるの。魔力を剣に纏わせて、それを放出。剣と同じ鋭さを持った魔法を飛ばせるの」
「私の魔法ってことは、他の奴が使える魔法は別なのか?」
「人によってその性質は大きく変わるわ。火を出す者もいるし、水を出す者もいる。……私は、大抵の性質を兼ね備えてるけど」
「大抵ってことは……」
つまり、リィンは斬撃を飛ばすことが出来るなら、火や水さえも操ることすら出来るのだ。
彼女の身体能力プラス、オールマイティな属性を持つ魔法を巧みに使えるという、反則くさい能力を持っているということだった。
どうりで強いわけだ、と内心納得する。
「火を出す魔法が得意な者は『炉心体フレイム』、水を出す魔法が得意な者は『水流体アクアズ』、地面などに干渉できる者は『大命体ランドユーズ』、風を操る者は『風吹体エアロス』と呼ばれるの。その他、たまーに現れる他系統。一番適合者が多いのは炉心体ね。体温を上げるって感覚がわかりやすいから……と言われてるわ」
アリストテレスの提唱した四元素に似ているな、と頭の片隅でそんなことを考えた。
「性質が合わない魔法を習得は可能なのか?」
「可能よ。ただ、やっぱり精度が段違いに変わってくるの。例えば、水流体が火の魔法を覚えようと思ったら、確かに覚えられるとはいえ水の魔法より上手く扱えることはない。それなら水の魔法を究極まで練り上げる方が効率がいいの」
「まぁ、そりゃそうだ。苦手分野を伸ばして平均化するより得意分野を伸ばして特化させた方が遥かに運用が楽だ。……もっとも、リィンみたいに全能力に秀でてるなら話は別だけどな」
全てにおいて特出しているリィンが羨ましくなり、悠は投げやりな風にそう言った。
「……そういや、さっき使ったあの魔法はどの性質に属するんだ?どれにも当て嵌ってるように見えないけど」
「あの魔法は、地の属性で剣の硬度を再現、風の魔法で放つ複合魔法よ。だから誰もがおいそれと真似できる芸当じゃないの。あれは一般的な魔法じゃないから、忘れていい」
確かに、あのような魔法を誰もが使えるならば使っているはずだった。
自分と他の者たちの差がそこまで大きなものではないということを知ることが出来た悠は安心で胸を撫でおろした。
それに、先ほどの魔法を扱う部隊を見ていると、彼らの運用手段は、元の世界でいう射撃班に近いものなのだろうと推測した。
どうせ魔法を扱えないなら、魔法を扱わない兵士を目指すところが妥当だろういうものだった。
「……あぁ、それと魔法にはもう一つ種類があるの」
「どういう種類だ?」
「四つの魔法の上位よ。そこまで到達できる人はなかなかいない。私なら私の魔法、団長なら団長の魔法といった風に、一人一人違った能力を持った魔法、それがもう一つの魔法よ」
「固有能力ってことか?」
「そうね。すごく強いわ」
その間抜けな感想に少し拍子抜けしてしまったが、その言葉が何より的確なのだろう。
「固有魔法を得ることが出来たなら、技量も魔力も申し分ないってことだから、騎士入りは間違いないと思う」
まぁ俺には関係ない話だ、というのが率直な感想だった。
魔力の欠片すらないのだから、魔法に目覚めすらしない。
と、そこで悠は一つのことが気になり、それをリィンにぶつけた。
「リィンの魔法はどんな魔法なんだ?」
リィンはその瞬間ぎくり、と身を強張らせた。
「どうした?」
バツが悪そうに視線を泳がせたことから、なにかあるのだろうと推測するが、あえて追及することはしなかった。
「……ないしょ」
リィンは自身の魔法について説明せず、それを秘密のまま突き通した。
教えて欲しい気持ちもあったが、教えればなにか致命的なことがあるのだろうとその気持ちをぐっと堪え、飲み込んだ。
「はい、魔法の話は終わり。今度は悠君の国のこと、聞きたい」
「そんなに面白いものでもないよ、俺の国のことなんか」
「ううん、さっき聞いた話はとても素敵だった。別の国のことを聞くのは好き。悠君はこの国のことをこれから知ればいいから、私が行くことが出来ない君の世界のことを教えて」
確かに、別世界と聞いたとき、悠の心は多少なりとも踊った。だからリィンの気持ちはよくわかるのだ。
確かに、これから否が応でも知ることになるこの世界のことより、彼女が知らない情報を与える方が遥かにいい。
「……よし話そうか。なにが知りたい?」
「なんでも知りたい。それこそ、子供が知ってるようなことでも」
「じゃ、適当に話してみるか」
悠は一つ咳払いをすると、自分の知っていることを余すことなく彼女に伝え始めた。
それこそ、時を忘れて。




