最悪のアライバル 3
「警戒しなくていい。私の名前はリィン=ストレア。そこに見えている城の騎士。君は運がいい。私でなく魔王軍に見つかっていたなら、君は魔王軍の奴隷になっていたかもしれない」
「……ん?君達ががあの怪物を俺たちの世界に送り込んでるんじゃないのか?というか……なんで俺たちの世界のことを知ってる?」
「……私も以前なら別世界の存在など疑っていた。……別の者から聞いたが、君たちの世界には魔法がないそうだね」
「それがどうかしたか?」
「あぁ。私たちの世界では、魔法を扱えない者こそ多いとはいえ、体内に魔力を秘めていない者は存在しない。けど。ここ最近魔王軍の兵の中に、魔力を持たない兵がまぎれ込み始めたの。それに最近空間のあちこちに歪みが生じていて時々、そこから人が出てくるのを観測している。という理由で、私は君たちの世界ことを少しは知っているということよ」
「……そうか。つまり君達はあの怪物たちと敵対しているんだな?」
「そう。彼ら魔王軍は世界を支配しようとする悪の軍勢。私たちの敵よ」
世界の支配という単語を聞いて、悪の組織が考えることはどの世界でも共通なんだな、とつい苦笑した。
「なら、話は手っ取り早い。俺の世界では今、クラックがあちこちに開いて大変なことになってるんだ。多分あいつらがやってるんだろ?」
「恐らく。魔王軍はこの半年くらいで次元を超える技術を身につけたみたいで、君たちの世界から人間をさらって、兵にしている」
「……俺はそれを止めるためにこの世界に来た。単刀直入に言う。俺と協力して、あいつらを止めてくれ。俺と契約を結んで欲しい」
リィンはその台詞を聞いて、一瞬唖然とした。
「……そんなことを言ったのは君が初めて。でも、魔王軍に対抗できるの?」
「出来る。俺はこの世界に恐らく初めて、意図的に来た人間だ」
「確かに、君のようなことを言う人は初めて見た。ここに来たのは連れ去られて来た人か、巻き込まれた人かのどっちかだったから。だから、これが罠じゃないかってちょっと疑ってる。信用してもいいの?私は君の名前すら知らない」
悠はそこで一瞬ぴくりと動きを止め、頭を回転させた。
よく考えれば、目の前の者は今出会ったばかりの人物である。
彼女からすれば別世界からやって来たなどとのたまう者など信頼出来るはずもない。
どうすれば信用してもらえるだろうか、と唸っていたとき、メモリデバイスが震え、沈希からの通信が入る。
彼女になんとかしてもらえないか、とすぐさま悠はコールを繋げる。
『こんにちは、リィン=ストレアさん。私は彼の保護者みたいなもので、藍野沈希という。状況は大体わかっているのである程度省くが、彼を信用してくれはしないだろうか』
「なにか、共に戦ってもいいと思えるようなものが欲しい」
『それじゃあ、これを見てくれ』
沈希は画面に半壊した街を映す。
『これは君たちが魔王軍と呼ぶ者達がもたらした被害だ。我々の世界は脆くてね。君たちのような魔法を操れる連中に何度も攻めて来られたらどうしようもないわけだ。どうかな、これでも我々を信用してもらえないかな?』
流石沈希というところだった。
的確な状況証拠を並べ、自分たちの身分を証明してしまった。
「……これが本当なら、君たちが私と同盟を組みたいと思うのも確かね。わかった。とりあえず私についてきて。君の力を確かめたい。名前は?」
リィンの信頼を得られたようで胸をなでおろし、彼女に名を名乗る。
「斎賀悠だ。よろしく」
「よろしくね」
なんとかなったと確認した沈希は設備の負担を抑えるために通信を切断した。
心中でありがとう、と彼女に礼を言い、リィンの後を歩いた。
「けどさっき君、あんまり速く走れていなかったように見えたけど、本当に強いの?」
「……今は弱い」
「今は?」
「俺は生身のままだと全然戦えないんだ。しかも、俺が強くなるための装備を、この世界に来た時に全部失くしちゃってな」
「……今更だけど本当に戦えるか不安になってきた。……これから君には私の配下で戦ってもらうことになる。身体能力が足りてないなら基礎訓練から始めてもらうことになるから、すぐに前線には立てないの」
「……俺としてもその方がありがたい。今の俺じゃ確実に役に立てないだろうしな」
「うん。さっきの君の動きを見ていたら、お世辞にも私たちと張り合えるとは思えなかった。騎士団に所属するなら多分一番下っ端から始まると思うけど、ある程度の生活は保証するよ」
「ありがたい。それと、俺の装備の捜索も依頼したいんだけど……」
「……うーん、それはちょっとまだ……。君のその装備の強さが私たちには分からないし、君達の世界では強い装備でも、せっかく兵力を割いて見つけたそれが、こちらの世界ではあまり強くなかったりしたら流石に目も当てられないから、任務のついでとかに暇があったら探させる……くらいの感覚じゃ駄目?」
「……まぁ、それも仕方ない。俺もまだ全体の戦力を知らないのに変なことを頼んだ。忘れてくれ」
「別にいいよ。もしそれが有益だと分かったら捜索を急がせるよ。ちなみに、それに当たって優先してほしいものとかは?」
悠は懐からメモ帳を取り出し、グリムフィストとインパクションを描き、それをリィンに渡した。
しかし悠には絵心が欠けていて、下手くそな絵では確実に伝わらないだろうという気休めだったが。
受け取ったリィンは明らかに微妙な表情をしたことから、期待薄だということを悟る。
「……まぁ、一応探しておくから」
社交辞令のような物言いに少しがっかりするも、これは自分で探せという神の宣告だと無理に判断して事を収めた。
神など信じてはいなかったが。
――やがて歩いていた二人は大きな門の前に立ちはだかる。
そこはリィンが目標といた城下町の入り口。
この世界の始まりである。
「……それじゃあ悠君。この世界へようこそ。歓迎するよ」
そう言った瞬間扉が重々しい音を立てて開き、華やかな街が悠の視界へ飛び込んでくる。
そこは、元の世界と同じように発展した都市だったが、雰囲気は百八十度違った。
そこは誰もが笑顔で、楽しそうに暮らす街で、このような光景は見たことがなかった。
「……ああ、ありがとう」
かくして悠は異世界の街へ、始めて足を踏み入れることとなった。
互いの世界で初の、正当な干渉者としての第一歩だった。




