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最悪のアライバル 2

 悠は通信を切断すると、ナビゲートとしてつきこを起動した。



 すると聞き慣れたロリボイスがメモリデバイスから響く。



『ハロー。自律思考AIつきこです。現在、開発者より頂いた最優先すべきタスクを実行中のため、会話に割けるリソースが不足しています。要件は簡潔にお願いします』



 先ほどと比べて事務的な口調のつきこ。



 彼女がこのような状態になっているときは、なにか重要な計算などを行なっているという証拠である。



「何をしてるんだ?」



『昨日会敵した怪物の話していた言語を解析中です。この世界の言語がそれだと思われるゆえ、一応会話が成立しないと彼らとの交渉もままなりません。言語には法則性があります。ある程度サンプルがあれば、私の手にかかればすぐに日本語への翻訳を実現するでしょう』



「そうか。丁度それを頼もうとしてたんだ。引き続き頼む」



『はい。了解しました』



 言語の心配がなくなった悠は、まず付近の捜索を開始した。



 せめて凝縮したシャープレイを内蔵しているグリムフィストさえ見つかれば、シャープレイを消費して相手に衝撃を与える臨時武器として代用出来るため、それだけは一刻も早く見つけたかった。



 しかし、一度落ちついて周囲を見回してみると、なんと広大で綺麗な世界なのだろうか。



 ここまで幻想的な風景はこれまでの人生で見たことがない。



 沈希曰く、ここはパラレルワールドだそうだった。



 自分たちの世界は科学が発展したが、こちらの世界は魔法が発展したのだと考えると、この風景にも納得がいった。



 先ほどから空を飛んでいる翼竜や鳥種を見ていると、生態系すら地球とは異なることが伺い見ることが出来る。



 もしも翼竜が襲いかかってきたならば、間違いなく命はないだろうとその身を震わせ、慌てて探索を再開した。



 しかし、探しても探してもそれらしきものは見当たらず、もしや次元を超えた衝撃で損壊してしまったのではないかと推測するも、残骸すら見つからないこの状況を見ると、恐らく遠くに飛ばされただけなのだろう、と淡い希望を抱いた。



 単身希望を抱いたとはいえ、こう、あまりに見つからなさすぎると、少し心にくるものがある。



 嫌な想像ばかり頭に浮かび、だんだん表情が青ざめていく。



 やがて精神的にも体力的にも限界がきた悠は、ごろんとその場に転がって休憩をとった。



「……ダメだ。見つからない」



 地面に五体を投げ出し、ある意味お手上げのポーズを取る。



 というのもこの世界に来てから驚きの連続で休む暇すら与えられず探索を余儀なくされたので、精神的に参ってしまったのだ。



 一度頭を整理しよう、と完全に休憩モードに入った。



 ――その瞬間、彼女(・・)は背後に立っていたのだ。



 悠がその存在に気がつくことにさして時間はかからなかった。



 金色の髪に幼さの残る大きな目。



 胸は控えめ、しかし雰囲気は冷静沈着といった、確実に元の世界では見ることが出来ない類い稀な容姿をしている少女は、腰に剣を携え元の世界でいう軍服に似た服を身に纏っていた。



 ――最悪の状況である。



 ここにいる人間、つまり彼女は悠達の世界に怪物を送り込んでいる側の人間である。



 剣を持っていることや服装からして、俗にいう騎士というやつなのだろう。



 騎士ということは、恐らく遠くに見える城お抱えの騎士団かなにかに属する者なのだろう。



 つまり、いきなり悪の手先と出会ってしまったのである。



 悠は今までのどの時より焦った。



 下手をすればここで殺されてしまう。



 なにか言い訳がしたくても、言葉が通じない。



 現に彼女は今、悠になにか語りかけてきているが、その言語はさっぱりわからず慌てふためくばかりだった。



「え……えーっと……俺は……じゃない、えー……」



 なんとかジェスチャーで自分の身分を伝えようとするものの、その努力虚しく彼女には何も伝わっていないようだった。



 やがて彼女は一つため息をつき、懐をまさぐる。



 何を取り出すのか、と様子を見ていたところ、少女が取り出したのは重々しい手錠だった。

「……冗談じゃない」



 恐らく彼女は自分のことを捕虜かなにかにしようとしているのだ、と推測した悠はその場から踵を返し、一目散に反対側へ駆けた。



 コミュニケーションが取れないことがこんなに不自由だとは思わなかった。



 そして、ここまで自分の命の危険を感じたことはこれまで一度もなかった。



 少女はまたため息をつくと、全力で逃げる悠の背中を、目にも止まらぬ速さで追いかけた。



 結果、悠は一瞬で抜かされてしまい、再び少女は悠の目の前に立ちはだかっていた。



「つ、つきこ。解析はまだ終わらないか?」



『あと三秒お待ちください。三……二……一……お待たせしました!言語の解析、終わりました!翻訳機能をオンにしますので、先生の作ったインカムを耳に装着してください!』



 悠は言われるがままに、以前沈希から受け取った極小のインカムを耳につける。



 これを使えば世界中どこの国の言語ですら、本人そのままの声で翻訳されるという優れものである。



 同時にこちらの声も同じように翻訳してくれるので、これさえあれば意思疎通に困ることはない。



「……言葉、通じるか?」



「……ん、君は言葉が話せるの?先ほどまでの狼狽えようはなんだったの?」



「ちょっと機械に、この世界の言葉を話せるようにしてもらった」



「……君もあちら側の人間なのね」



 少女のその口調に多少の違和感を覚えた。



 まるで、悠が異世界から来た人間だと分かっていたかのような口調だった。

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