記憶六―初めてのクエスト、それは九十九匹のウルフ―
――ファングの高原。
「ガルルルルっ!!」
「はぁっ!」
目の前から突進をして来たウルフを避けながら銅の剣の一閃で斬り伏せる。
また、ウルフを倒せた事を確認できても周囲の安全が分かるまでは銅の剣も鞘にはしまわないようにした。
再びファングの高原に来た僕達はウルフの討伐を行っていた。
理由は簡単で、協会(正確には『ギルド協会』と言うらしいが、今では『協会』と言う略称が定着した……とツァーイが教えてくれた)でウルフ討伐のクエストを受けたから。
クエストの発行もアンナさんが管理をしていて、クエストを受ける際に彼女からこの周辺に出没する魔物はウルフのみだと言う話をされた。
また同時に複数のクエストを受注する事も可能らしく、クエストの受注を行ったツァーイが戻って来た時にはクエスト数『十五個』、合計『九十九匹』のウルフを討伐する事になっていた。
何でも僕達が立ち上げたギルド『リベルーチェ』の初仕事だから!と意気込んでいて、昨日の時点で僕でも出来ると分かっていたウルフの討伐クエストを大量受注してきたのだとか。
なので僕とツァーイは今、ファングの高原でウルフを探しては倒し、倒しては探し、適度に休憩を挟んではまた探して倒す……と言う事を繰り返している。
今倒したウルフで三十三匹目でようやく三分の一だ。
「これで半分か……ウルフを倒す事自体はそんなに難しくないけど、沢山倒すとなると探すのも一苦労だね……」
思わずそんな事を呟く。
一度に出て来るウルフの数が一~四匹と少数な為、討伐数を稼ごうとするとどうしても捜索時間がかかってしまう。
「だからと言って一度に二十匹や三十匹出て来られても困るでしょ。」
ツァーイが微笑みながら言った言葉にウルフの群れを相手にする事を想像してみる。
ウルフの動き自体は単調だし、剣を一振りすれば倒せる程弱い魔物だ。
けれど数が多ければ多い程一回の戦闘時間は長くなる。
それに周囲を囲まれて一斉に襲われるような事があれば動きが単調だと言っても流石に無傷では済まないだろうし、死ぬ事が無いとは言い切れない。
「――確かに。多少手間でも少しずつ討伐数を稼いだ方が安全だね。」
「そう言う事だよ。さぁ、分かったら早く次のウルフを探しに行くよ!」
「あっ! 待ってよツァーイ!」
ツァーイの言い分に納得をしていると、先程のウルフがドロップしたアイテムを回収し終えたツァーイはどこか楽しそうに笑いながら、それでいて急くように先へと走り出して行った。
それを見た僕は急いで彼女の後を追いかけるように走り出す。
街を出て改めてファングの高原に来て確信した事がある。
ツァーイは街の中では表情が硬い……と言うかどこかぎこちなくなる。
けれど街の外でのツァーイはとても感情豊かで、よく笑っている。
笑い方一つをとってもからかうような仕草や、楽しそうな表情、嬉しそうに瞳をキラキラさせたり、と色んな笑い方をしていて、見ているだけで僕も嬉しくなって自然と頬が緩む。
街の中と外でツァーイの様子が変わるのは、きっとツァーイの言っていた『色々ある』……と言うのが原因で街の中では外と同じ振る舞いが出来ないのだろう。
これに関してはツァーイが話してくれるまでは心配はしても聞かない事に決めた。
だけど……いつでも、どこでも、ツァーイにはあんな風に笑っていてほしい、と思うのは僕のわがままなのかな……。
――数時間後。
「はぁ、はぁ、これで九十九匹目……!」
銅の剣で切り伏せたウルフが黒い霧となってその場から消え去って、代わりにドロップアイテム『ウルフの肉』が現れた。
ウルフを倒す事には手慣れて来たし、ツァーイの言う通り少数を確実に討伐し続けたお陰で僕もツァーイも怪我はしていない。
しかし、ウルフを探す為に高原のあちこちを移動し続ければ足は疲れるし、ウルフを倒す為に剣を振るい続ければ腕は疲れる。
戦闘中はウルフから目を逸らせないので瞳も疲れるし、敵の攻撃を避ける為には咄嗟の判断力も必要で少なからず頭も疲れる。
何が言いたいかと言えば……とにかく疲れた!!
合間合間に休憩はしているし、半数の五十匹目を倒し終えた後には長めのお昼休憩をとりながら昼食(ツァーイが昨日の夕食と今日の朝食から少しずつ取り分けて作ってくれていた)も食べた。
ウルフの討伐数も、ちゃんと数えた訳ではないけど僕とツァーイで大体同じ位の筈だ。
だけどそれでも身体は正直で、全身が疲労してしまい、気がついたら思わずその場に座り込んでいた。
そして無意識の内に視線をツァーイの方へと向けると、ある事に気が付いて驚いた。
全身が疲労して多少は息も乱れている僕に対して、ツァーイはまるで何事もなかったかのように息一つ乱していなかったのだ。
昨日今日冒険者になった僕とは違ってツァーイは以前から冒険者として一人旅をしているらしいので、やっぱり経験の差なのかな……? だとすればいつかは僕もこれ位では疲れなくなるのかな?
「お疲れさま、イラ。ファングの街に戻る前に少し休憩にしようか。」
「ツァーイもお疲れさま。そうだね。身体のあちこちがクタクタだし、少し休ませてよ。」
ドロップした『ウルフの肉』をツァーイが例の小さなポーチにしまい込み、僕の隣に同じように座り込みながら微笑んだ。
今日倒した九十九匹分のウルフのドロップアイテムは一つ残らず全てツァーイがこの小さなポーチに入れていたんだけど、どうみても本来なら入らない量に思える。
と言うよりも『ウルフの爪』なら数個は入りそうだけど、『ウルフの肉』や『ウルフの毛皮』に至っては一個も入りそうに思えないのに合計九十九個のドロップアイテムが全て収納されている。
僕が貰った銅の剣も元々はあのポーチに入っていたし、昨夜の夕食の際にも『塩だれ』が出て来たリ、多分他にも色々入っているんだろうな……とは思う。
昨日から気になってはいたんだけど、昨日はポーチから銅の剣を出すのを見た瞬間に、『某国民的アニメ』とか『四次元ポケット』と言った、良く分からない言葉が頭の中に浮かび上がってモヤモヤした気持ち悪さのせいで聞きそびれてしまったし、改めて聞いてみようかな。
「昨日から気になっていたんだけど、そのポーチってどうなってるの?」
「このポーチの事? これがどうかしたの?」
少し気になったので本人に聞いてみたら、何がおかしいんだろうと言うような反応をされた。
「いや、見た感じポーチの大きさ以上に色々と何でもかんでも入ってるように思うんだけど……」
「あっ! そう言う事。――このポーチはイラの言う通りどんなに大きい物でも、どんなに沢山の物でも、入れられちゃうんだよ!」
ちゃんと聞きたい内容を説明したら、ツァーイは納得したように答えてくれた。
「それってどこかで売っていたりするの?」
もしそうなら僕も一つ欲しいな、と思ってツァーイに尋ねてみた。
「うーん……どうなんだろう。これは私が物心ついた時から持っていたんだけど、いつ、どこで手に入れたのか分からないの。今までの旅でもこのポーチと同じ物どころか、類似品も見かけた事はないんだよね……」
けれどツァーイ自身もポーチについては分からなかった。
どうしても欲しかった……と言う訳ではないけれど、ちょっとだけ残念な気分だ。
それにしてもこんな特別なアイテムを持っているなんて、ツァーイって何者なんだろう……?
こうしてツァーイに対する謎がまた一つ増えてしまった。
そんな昼下がりの高原で僕達はしばらくの休憩をとった後、街へと戻って行った。
ツァーイのポーチは作中でも例えられていた様に四次元ポ○ット的なアイテムです。
長らく更新が滞ってしまいましたが、近日中に七話も投稿します。




