記憶五十一兆し―、それは日常の中で見つかったもの―
結局の所、危惧していた――つまりはいつの間にか僕の能力欄に増えていた『強欲の加護』が原因でツァーイやファクト、フェアリに嫌われたり、恐れられたり、煙たがられたり、その他関係性が悪化するような出来事は何一つ起きなかった。
少なくとも皆は今まで通りに接してくれているように見えるし、だから僕もそうしようと思う事に――いや、そうしたいとは思っているけど、やっぱり今すぐに気にしないようにはなれなくて、そうじゃなくても変わってしまった事もある。
まずスキルの系統は大雑把に分けてしまうと二つある。スキルの発動条件が満たされると自動的に発動する自動能力と、能力保有者の意志によって能動的に発動の有無を決定する手動能力の二つだ。
例えば最初から所持していた『マルチウエポン』は自動能力に分類されていて、どういう訳か経験を積んだり、技術の磨いたりしなくても、初めて触れた武器の運用方法が何となく分かって扱えてしまう。
付け加えるなら(あくまでも仮説だけど)このスキルの発動条件は武器に触れると言った所なのだろう。武器に触れる事さえ出来れば、どんな武器でも初見で扱う事が可能になる。最も武器の扱えると言うだけなので、武器を扱えるだけの力を持っていなければ無意味ではあると思う。今の所そう言った武器には出会えていないので、問題はないのだけど。
そして問題のスキル――『強欲の加護』も自動能力に分類されていて、僕の意志とは関係なく発動してしまうようだ。この能力の発動条件は僕が他の生命に止めを刺した時。言い方を変えれば人であろうと魔物であろうと木々や草花、獣や虫等々どんな存在でも構わないので殺してしまった時だ。
そうして勝手に発動した『強欲の加護』によって、自身が殺めた存在が生前に宿していた生命力のようなものを奪って己が力としてしまう。今の所はその行いによってデメリットやリスクのようなものが生じている感覚はないので、止めを刺した場合にのみ超強力な経験値増加が発生するというだけに収まっているのが救いではあるのかも知れない。
また同時に上昇していた僕のレベルについても、『強欲の加護』が僕の能力欄に加わったのと同時に発動して【強欲のアワー】の力(それが一部なのか全てなのかは分からないけど)を奪ったのではないかとファクトに言われた。
確かにそう考えると単純に止めを刺しただけよりもレベルの増え方にも納得は出来るけれど、それでも少し気味が悪く思えてしまう。
だけどこんな風になってしまっても、ツァーイは「これからも一緒にいて欲しい。」と受け入れてくれて、ファクトも「折角手に入れた力なら自分の身や仲間を守る為に使えば良いだろ。」って喝を入れてくれて、フェアリも「イラさんは手に入れた力で誰かを傷つけたりしないでしょ?」と信じてくれている様子だった。
だから今すぐに全てを受け入れる事は無理でも、少しずつ受け入れようと思う事にした。望んでいた形とは違うけれど、力を求めていた事は事実だし、せめてこの力を皆の為に役立てる事が出来るのなら、いつかは僕の中に生じてしまった【強欲のアワー】の影さえも受け入れられる気がしたから。
そうして主に仲間達に支えられたお陰で、少しずつ折り合いを付け始める事が出来るようになった頃のお話。
「ねぇ、ツァーイ……? 炎の魔法石のストックがなくなりそうなんだけど……。」
今日も今日とて四人で仕事をこなして、フリーダ村のお屋敷――もとい、僕達の家へと帰宅を果たし、夕食を食べ終わった頃になってフェアリがツァーイへと視線を向けながら申し訳なさそうにそう言った。
「もう? この前渡したばかりだよね?」
「えへへ……。この季節はどうも冷え切っちゃって。ほら、妖精人って暑すぎるのも、寒すぎるのも苦手な種族だから……。」
「それはそうなんだけど、消費するペースが私の二倍以上っていくらなんでも早すぎるよ……。まぁ魔力も余っているし、報酬で魔法石も少し貰えたから良いけど……でもこれ以上消費がかさむようなら、リベルーチェの運営費からは免除出来なくなるから気をつけてよね。」
フェアリの言葉に呆れながらも、リベルーチェのリーダーとして魔法石の消費速度に頭を悩ませるツァーイ。
魔法石と言うのはパッと見ただけでは灰色の真ん丸とした石ころでしかないのだが、その実態は魔力に反応を示す特殊な石だ。例えば僕の持つ氷属性の魔力を石に通したのなら、石の色は透き通るような透明色の強い蒼色となり、同時にヒンヤリとした冷たい冷気を放つようになる。
そうして変化した魔法石は、対応する属性の魔道具を動かす為の燃料として使えるようになる。
氷の魔法石なら食料を冷やして保存する魔道具や夏場に部屋を冷やす魔道具の燃料に、地の魔法石なら畑にエネルギーを送り付ける魔道具や地形を指定して扱う魔道具の燃料に、と言った具合に。
そしてフェアリが炎の魔法石を必要としている使用用途は、どれだけ冷える冬場でも快適に暮らす為の必需品――暖房型の魔道具の燃料に必要なものだ。
そう。フリーダ村を訪れた時には既に冬となっていたが、あれから一月近くの復興作業を経て、更にそれから数週間の小鬼討伐を行い続ける日々を経て、現在は所謂年末シーズンとなっている。
この世界は十三の月と三十の日によって一年が構成されている。そして今日は十三月の二十日。つまりまごう事無き真冬であり、とても寒い日々が続いている。
それでも僕達が住んでいるこの屋敷には、以前の持ち主(勿論【強欲のアワー】ではなく、本来の持ち主だったと言う冒険者の方)が裕福な暮らしをしていたお陰なのか、全ての部屋に暖房型の魔道具が取り付けられていた。
そして幸いな事にリベルーチェには、炎の魔力を有しているツァーイがいてくれるお陰で、魔法石とツァーイの魔力さえあれば暖房型の魔道具を起動して快適な暮らしを送る事が出来ている。
フェアリでなくとも僕やファクト、そしてツァーイ自身もその事は理解しているので最近では仕事の最中にツァーイが魔法を行使する回数は出来るだけ控えるようにしていて、治癒魔法が必要になればフェアリに頑張って貰っている。
ツァーイの魔力は、ツァーイが眠ったり、休んだりしていれば回復するし、ツァーイは僕のように魔力が枯渇するまで消耗してしまうような事はないから、そう言う意味では心配はしていない。けれどツァーイの言う通り、魔法石は有限なのだ。
一度魔力を通して変質した魔法石は元々の無属性とでも言うべき状態には戻せないし、石に宿った魔力を使い切ったら割れて壊れてしまう。当然壊れた魔法石に改めて魔力を通す事も出来ないので、完全な使い捨て型の消耗品と言う訳だ。
魔法石そのものは決して高い訳ではないし、時折仕事の報酬として貰える事もある。だから今の季節では生活必需品と言う事もあって、ある程度の数はツァーイが管理しているリベルーチェ(ギルド)の運用費から賄っており、僕達が一人一部屋保有している個室の分も用意してくれている。
僕もどっちかと言えば寒がりなので自室にいる時は、この魔道具を用意してくれた前の持ち主と、魔法石に炎属性の魔力を流し込んでくれたツァーイに感謝しながら暖房型の魔道具を運用している。
だから暖かい季節になるまでは、あの魔道具に依存してしまう事は分かる。けれどツァーイの言う通り、フェアリは魔法石の消耗が激しいとも思う。
具体的に言うなら、僕は魔法石一つで七日から九日は魔道具の起動に困らない。それに対してフェアリは三日に一度のペースでツァーイに魔法石の補充を頼んでいる光景を見かける程度には消耗速度が早いのだから。
「それじゃあ倉庫から魔法石を取って来るから、フェアリはここで待っていてよ。イラとファクトは大丈夫?」
「ああ。俺の方はまだ数日は持つと思うからな。」
「僕も大丈夫かな。あと魔法石は僕が取りに行って来るよ。食糧庫がそろそろ氷の魔法石を補充しなきゃいけなかった筈だし。」
「あ、そっか。そっちもなくなりそうだっけ。それじゃあお願いね。」
「うん。」
そうして僕は、二階に設置されている倉庫と呼ばれる部屋へと向かった。
僕達が貰い受けたこのお屋敷は、あまりにも大きい。豪邸と呼んたとしても異論はない程にだ。だから四人で住むには広すぎる位で、使っていない空き部屋が幾つも存在している。
現に二階だけでも全部で二十以上の部屋が存在しているのに対して、僕達四人の個室がそれぞれ一部屋ずつ存在している以外には、この倉庫しか使っていないのでかなりの空き部屋を持て余している事になる。
そしてそんな風に二階の空き部屋の中で唯一使われている倉庫はと言うと、ざっくりと言ってしまえば物置部屋のような場所だ。
旅をしている最中は殆どの時間をずっと一緒に過ごしていた事や、他の収納スペースが限られている事もあって、物資の殆どをツァーイの四次元ポーチに収納していた。
けれど今は帰るべき家があって、全員が個室を持っていて、以前のようにずっと同じ部屋で固まって過ごしている訳でもなければ、各自の都合で休暇を取るようにもなったので仕事を行う時間にしても四人の日もあれば、二人や三人で行う日もある。余談ではあるけれど万が一の場合を考えて、一人で仕事を受ける事だけは禁止にするってルールも作ったりはしているけれど。
そんなこんなで魔法石のように日常生活でも扱う機会のある物資の一部は、倉庫で管理をする事になった。そうしないとツァーイと別行動をしている時に何かが必要になっても、すぐに利用出来なかったりするからだ。
ツァーイが管理している物資は、ツァーイ個人の物を除けば一応はリベルーチェが保有している物資という事になっている。なので倉庫から持ち出したり、消費した場合は事後報告を行う必要はあるのだけど。
(……とは言っても、あんまり使う事はないんだよね。いざって時を考えると必要ではあるんだけれど。)
まぁ僕が倉庫に出入りする事が少ないのは、四次元ポーチを所持しているツァーイと行動をする機会が一番多いからだとは思う。
倉庫に保管している物資は一部であるので、有事の際に外出中に必要になる事も考えて少しは四次元ポーチの中にも残してある。だからツァーイと一緒にいる時に何かを必要とする事があれば、ツァーイがすぐにそれらの物資を取り出してくれて、ファクトやフェアリと比べて一緒にいる時間が長い僕は必然的に倉庫に出入りする事が少なくなりがちだった。
そうこうしている間に何事もなく倉庫に辿り着いた。
部屋に入って最初に行う事は部屋の灯りを付ける魔道具を起動させる事だ。何せ日が暮れてしまっているのだから、灯りをつけなければ探し物を見つける事も出来ない。
照明型やランプ型、街灯型等と呼ばれる種類が豊富な、これらのタイプの魔道具は主に光属性の魔法石を燃料としているので、これらの補充はツァーイとフェアリが行っている。とは言ってもツァーイは現在炎の魔法石を生成する事が多いので、春になるまでの間はフェアリが生成の殆どを行う事になっている。
一応は雷属性や炎属性の魔法石でも起動が出来るので、時々ファクトが作った雷の魔法石を使用する事もあるのだけど、安全性と言う意味では光属性に劣っているので滅多に使う機会はなかったりする。具体的に何が危ないのかと言うと、何かしらの手段で魔道具に強い衝撃が与えられたりした場合等に雷の場合は周囲に稲光が飛び散ったり、炎の場合は火が燃え移ったりする可能性があるらしい。
幸いな事にそうなった事例を見た事がないのだけど、そう聞いてしまったら光の魔法石を差し置いて雷や炎の魔法石を使おうとは思えなくなってしまった。因みに暖房型の魔道具は炎の魔法石でしか動かない訳だが、そっちは他の属性で代用が出来ない(正確に言えば氷属性の魔法石を使えば冷房型の魔道具としても扱える)からか、照明型のような複数の属性間で互換性ある魔道具と比較して、ある程度の安全性が保障されているらしい。
「さてと、確か魔法石はこの辺だったかな。」
魔道具によって照らされた部屋に置かれている様々な物資を見渡しながら目的の魔法石の捜索を始める。
倉庫内の物資は棚の上に細かく分類されていたり、箱詰めになってあちこちに置かれていたり、壁にかけられていたりと、あの手この手で仕分けられている。
その中から箱詰めにされているエリアに向かい、幾つもある箱を開けては閉じて、開けては閉じて、開けては閉じる。
「……っと、この箱か。」
そうして魔法石を見つけたのは八度目に開封した箱からだった。木で出来た箱の中に、灰色の真ん丸とした石――魔法石が大量に敷き詰められていた。
「えっと必要な魔法石はフェアリの部屋の暖房型魔道具が一つと、食糧庫の魔道具に一つの二つだよね。」
必要な数を再確認しながら、両手で木箱の中にある魔法石を一つずつ掴む。
「ついでだし、食糧庫に使う氷の魔法石はここで生成しておこうかな。」
掌を握りしめながら両手に持った魔法石の内、右手に持った石にだけ魔力を通す。
普段ならそれだけの行為で魔法石がヒンヤリと気持ちの良い冷気を帯びて、透き通る様な蒼色へと変色をする――筈だった。
「ん……? 魔法石が冷たくならないような……?」
どれだけ魔力を通しても右手に握りしめている魔法石から冷気が発せられなかった。代わりにスースーと風に撫でられるような気がした。
不思議に思って握りしめている右手を目の前に移動させてから、掌を開いて魔法石を確認して見た。
するとそこにあったのは、魔法石は魔法石でも透き通るような蒼色の氷属性の魔法石ではなく、深緑色の石だった。
「あれ……? え……? えええええぇぇぇーーー!?」
何が起きているのか分からず、停止しかけた思考が何とか動き続けようとした結果、思わず叫んでしまった。
(いや、って言うか、本当に何が起きているの……?)
この深緑色の魔法石は風属性の魔法石……の筈だ。旅の最中にフェアリから見せて貰った事があるから、それは分かる。分からないのは、何故僕が魔力を通した魔法石が風属性に変質したか、だ。
(とりあえず落ち着いて、一から考え直そう。)
僕の魔力適正は以前と変わらず、氷属性しか見つかっていなかったし、その筈だ。
しかし人間は一種から三種までの魔力適正を所持する種族であり、それは僕の魔力が氷属性しかない可能性もあれば、氷属性以外にも一つか二つの魔力適正を宿しているかも知れないと言う事だ。
つまり、二つ目の魔力適正として風属性が発現したと言う事……? もしそうなら嬉しい事ではあるのだけど、でも何で急に……?
「いや、良く分かんないけど、後で皆に聞いてみよう。皆二つ以上の属性を使っているんだし、案外普通の事なのかも知れないし……。」
どれだけ冷静を装っても思考は混乱したままだった。だけど今はツァーイに魔法石を届けるのが先だ。
とりあえず魔法石は余分に持っていく事にするとして、左手の魔法石を今度こそ氷属性の魔法石にしないと。
そうやって同じ要領で今度は左手の魔法石に魔力を流し込む。
すると今度こそヒンヤリとした気持ちの良い冷気――ではなく、背筋が凍るようなゾッとする感覚とそれでいて多少の安心感と不安感が入り交ざったような感覚に襲われた。
「っ……今の感覚は一体……。何か嫌な予感がするんだけど……。」
恐る恐る左手の魔法石を確認してみると、それは黒く濁った様に変色をしていた。
「何でええええええええぇぇぇぇぇーーー!?」
「イラ!? 何かあったの!?」
二度目の叫び声を上げたのと同時に、恐らく一度目の叫び声が気になって駆けつけてくれただろうツァーイが倉庫に飛び込んで来たのはほぼ同じタイミングだった。




