記憶四―リベルーチェ、それは自由の灯―
僕はツァーイに連れて来られるがままにしばらく歩き続けて無事に目的地―ファングの街の協会―に到着した。
外から見た感想は予想以上に大きな建物だという印象だった。
到着するまでの間はもう少しこじんまりとした宿屋を想像していたけど、実際には大型デパートみたく縦にも横にもだだっ広い建物だった。
――大型デパートって何だろう?
そんな事を考えているとふと自分が連想していた言葉の意味が分からなくなった。
目覚めてからここに来るまでの間にも何回か似た現象があったが、何かモヤモヤして気持ちが悪くなる。
ともかくここに来た目的は三つだ。
ツァーイが受けていたクエストの報告、宿の手配(協会の中には幾つかの施設が混在していて宿屋もその一つに含まれている)、そして僕達のギルドを設立する事。
前者二つに関しては協会に到着するなりツァーイが手慣れたようにパパッと済ませた。
何でそんなに急いでいるんだろう、とも思ったがフードの件と言い街に到着する少し前からツァーイの様子がどうもおかしかった。
後で直接聞いてみようかな、と思ったけどフードの件みたいに話を逸らされそうだとも思う。
そんな事を考えながら僕は今ツァーイと一緒にギルドの申請を行っていた。
「――ギルド設立の規約は以上となります。それと、ギルドの設立登録には以下の二点が必須事項となります。」
そう告げたのはギルドの受付係をしている女性――アンナさんだ。
主にアンナさんとやり取りをしているのはツァーイで、どうやらギルド申請に必要なやり取りが色々とあるらしく数分前からこのやり取りが続いていた。
「一つ、ギルドに所属する二名以上の冒険者。――こちらに関してはツァーイさんとそちらの人の冒険者情報を後程提出して頂きます。」
「分かりました。イラの冒険者登録がまだなので、一緒にお願いしても良いですか?」
「かしこまりました。そちらに関しては後程行います。――二つ、申請費の1G。こちらはギルド協会公認のギルドとしての契約金みたいなものだと思って下さい。」
「分かりました。」
淡々とツァーイとアンナさんのやり取りが進んでいく。また知らない言葉が出て来ているのが気になるけどツァーイの邪魔をしたくないので黙っている事にする。
「――確かに1G。確認いたしました。それでは冒険者用紙をお持ち致しますので少々お待ち下さい。」
そしてツァーイが申請費の1Gと思わしき金貨を取り出し、アンナさんがそれを確認すると一度奥へと出て行った。
何か僕の知っている通貨とは違う気もする。お金という概念は分かるけどあの金貨に関しては見た事もないし、Gという単位も聞き覚えがなかった。
しばらくしてアンナさんが戻って来た。
「お待たせ致しました。冒険者用紙を二枚お持ち致しましたのでツァーイさんは冒険者情報の更新を、イラさんは冒険者情報の登録をお願いします。」
そう言って机の上に『冒険者用紙』と呼ばれた用紙が二枚出された。
所がその用紙は白紙だった。何かの間違いだと思って目を細めて凝視して見るが、どれだけ用紙を見つめてもそれは真っ白な白紙でしかなかった。
「冒険者用紙はこうやって使うんだよ。」
白紙の用紙とにらめっこをしていると隣にいたツァーイがそう言ってもう一枚の冒険者用紙の上に右手を静かに置いた。
すると用紙が青白い光を発しながら、その上に知らない文字や記号が幾つも浮かび上がった。
知らない筈の文字だけど不思議と読む事は出来た。
―――――――――――――――――――――――――
冒険者情報
本名:ツァーイ・ハーツ
種族:人間
レベル:46
―――――――――――――――――――――――――
ライフ:57
アタック:55
ディフェンス:52
スピード:50
マジック:50
エデュ:54
ラック:32
―――――――――――――――――――――――――
スキル:?????
―――――――――――――――――――――――――
「うん。やっぱりここまで来るとそう簡単にレベルは上がらないね。」
文字が浮かび上がった冒険者用紙を見たツァーイがポツリと言った。
「うわぁー!これって一体何なの!?」
「これは冒険者用紙って言って触れるた人の冒険者情報を出してくれるんだよ。冒険者情報って言うのはその人が身に着けている能力を数値化したようなものだよ。」
「へぇー。さっきまで白紙だったのに冒険者用紙って凄いんだね!」
不思議な現象に思わず興奮した僕にツァーイが冒険者用紙と冒険者情報について説明をしてくれた。
どういう原理でそうなるのかは分からないけど、能力を数値化して見る事が出来るのは便利そうだ。
でも一つだけ読んだだけでは全く分からない事があった。
「――所でスキルの『?????』って何なの?」
「それが分からないの。本来なら『経験値倍化』とか『炎属性強化』みたいな感じで書かれる筈なんだけど、おかしいよね。」
「極稀に正しく表記されないスキルがあるのです。我々ギルド協会はこれを『アンノウンスキル』と呼んでいます。アンノウンスキルは使用者がスキルの内容を正しく理解すると本来のスキルと同様に正しく表記がされるのですが、何故このような事になっているのかは分からないのです。」
会話に割り込んで来たアンナさんが補足をしてくれた。
「それとイラさんも冒険者情報の登録をしたいので、お早めに冒険者用紙をお願いします。」
「あっ、そうだった!それじゃあ……これで良いかな?」
アンナさんに急かされたのでツァーイがしたのを真似て右手を冒険者用紙の上に重ねた。
すると同じように青白い光を発しながら僕の冒険者情報が浮かび上がってきた。
―――――――――――――――――――――――――
冒険者情報
本名:イラ
種族:人間―???―
レベル:13
―――――――――――――――――――――――――
ライフ:10
アタック:20
ディフェンス:13
スピード:22
マジック:9
エデュ:12
ラック:6
―――――――――――――――――――――――――
スキル:マルチウエポン
?????
―――――――――――――――――――――――――
「え? これって何かおかしくない……?」
自分の冒険者情報を確認して思わずそんな言葉が出た。
まず本名がイラで合っていた事に少し安心をしたが、ツァーイとは違って名字―性―が表記されていない。
次に種族名に『???』がくっついている。ツァーイには表記されていなかった筈だし、文字化けしているみたいで少し気味が悪い。
更にレベル。
てっきりレベル1だと思っていたし、道中で何体ものウルフを倒した事を加味してもレベルが高すぎる気がする。
まぁこれに関しては記憶喪失になる前にも戦っていた可能性はある訳だし、良しとしよう。
最後にスキルの『?????』――つまりツァーイと同じくアンノウンスキル持ちだと言う事。
「え?どれどれ――本当だ性が表記されてないし、種族の表記もおかしいね。……あっ、でもスキルが二つもあるね!私以外にアンノウンスキルを持ってる人も、スキルを二つ持っている人も初めてみたよ!」
僕の言葉にツァーイが気になったのか横から冒険者用紙を覗き込んできた。
レベルから察するに大分長い事冒険者をやって来たであろうツァーイからしてもアンノウンスキルやスキルの複数持ちは珍しいらしい。
「冒険者用紙は絶対です。不具合は有りえません。――しかしこれは……いえ、取りあえずはこのまま冒険者登録をさせて頂きます。」
そして冒険者用紙を受け取ったアンナさんまでもが怪訝な表情をした。
やっぱりこれは正常ではないのだろう。
それとも記憶喪失の人は正しく表示できないバグでもあるのかな。
けれどここで考えても分からないし、アンナさんがこのまま手続きを進めてくれるなら今は問題はないかな。
自分の事だから気にならない訳ではないけど。
――気になると言えばもう一つ気になる事があった。
「所でアンノウンスキル以外にも『マルチウエポン』ってスキルがあったけど、あれはどういう効果なの?」
ツァーイが先程言っていた『経験値倍化』や『炎属性強化』は何となくイメージがしやすいが、『マルチウエポン』って何だろうか。
ウエポンって言うからには武器に関するスキルの筈だけど、ツァーイに貰った片手剣以外に武器を持ってはいなかったし……
「ああ、それはね――」
「それではイラさんの冒険者登録、及びギルド【リベルーチェ】の設立と登録を完了しました。これはその証明書です。」
ツァーイが説明をしようとした所で手続きを終えたアンナさんが戻って来て、僕とツァーイに一枚ずつ証明書を渡してきた。
「アンナさん、ありがとうございました!」
「ありがとうございます!」
会話の途中ではあったけど証明書を受け取った僕達は軽くお礼を告げてその場から立ち去る事にした。
何故かと言えばツァーイが証明書を受け取るなり、その場を去ろうとしたからだ。
周囲には他の冒険者らしき人達もいるし、受付場であるあの場所で必要以上に話し込むのは迷惑だからなのかも知れない。
そんな憶測を立てながら受け取った証明書を確認した。
そこには先程の冒険者情報が記載されており、それに付け加えて『所属ギルド:リベルーチェ』の一文が追加されていた。
「リベルーチェ……? ツァーイ、これは?」
「それはギルドの名前だよ。自由の灯って意味で、もし私がギルドをつくれたらこの名前にしようって昔からずっと考えていたんだ。」
ツァーイがどこか自慢気に言った。
ずっと考えていた……ってそれなら何で今まではギルドを設立しなかったんだろう……?
街に着く前にも「ずっと一人で戦っていた」と言ってたし……
「それとさっきの話だけど、証明書の『マルチウエポン』を触ってみて。」
色々と気になっていたけどツァーイに言う通りに証明書に表示されている冒険者情報の『マルチウエポン』の項目に触れてみる。
すると『マルチウエポン__全ての武器を使用する事が出来る。』と証明書の空きスペースにスキルの補足内容が表示された。
え? 何これ? 全ての武器を使用する事が出来る……って説明がザックリとしすぎているんだけど。
武器の扱い練習をしなくても最初からある程度扱えるとか、そういうニュアンスで良いのかな。
「随分とアバウトな説明だね。」
「スキルの説明なんてそんなものらしいよ。……それにしても『マルチウエポン』なんて聞いた事がないスキルだけど、説明文を見る限りだと結構便利そうだね。記憶喪失なのにいきなり拳や剣でウルフと戦えたのも納得だよ。」
言われてみればウルフと戦闘になった時もどう動けば良いか身体が知っていたし、剣の振るい方もすぐに分かった。
あれが『マルチウエポン』の能力だったのかな……?
「さてと、お話は一旦おしまいにして宿泊部屋に行くよ。流石に少し疲れたから晩御飯の準備をする前に少し休んでおきたいし。」
そんな事を考えているとツァーイは急くように僕の手を引いて早歩きをして行く。
アンノウンスキルやバグった(?)冒険者情報も気になるけど、今はそれ以上にツァーイの様子が少し気になる。
出会ったばかりの自分には話してくれないかも知れないけれど、後で聞くだけ聞いてみよう。
三日間連続更新です!
これで元々ストックしていた分のお話は全部上げる事が出来たので次回更新は少し間が空くかも知れません。
因みにアンナさんに関してのキャラ紹介は今行うと軽いネタバレが発生するので後々行う事にします。




