記憶三―銅の剣《ブロンズソード》、それは初心者ご用達の剣―
ウルフとの戦闘後に再びファングの街を目指して歩いていた僕達は休憩をとっていた。
通り道にあった丁度良い大きさの木陰に座り込みながら先程の戦闘について話をする為だ。
「――さっきはごめんね。ずっと一人で戦っていたから多対多での動きに慣れてなくって……」
開口一番にツァーイが謝った。
ウルフとエンカウントした際にツァーイは真っ先に向かって行ったが、戦闘中に一匹のウルフを取り逃がしてしまった事についてだ。
「別に良いよ。確かにビックリはしたけど別に怪我もなかった訳だし。それに僕も戦えるって事が分かったんだし、悪い事ばかりじゃなかったし。」
そう、記憶喪失の僕だけどウルフが向かって来た際に身体が咄嗟に動いて避ける、殴る、蹴るでウルフを倒す事が出来た。
なんでそんな事が出来るのかは分からないけど、とにかく身体が戦い方を覚えているのか問題なく戦う事が出来ると分かった。
「ありがとう。私もこれからは多人数戦の戦い方を覚えていかないとね……そうだ!イラが戦えるのは分かったけど、念の為にこれをあげるね。」
ツァーイが小さなポーチから一本の剣を取り出してこちらへと手渡してきた。
明らかに剣が入りそうにない小さなポーチから出て来たように見えたんだけど? 某国民的アニメに出て来る四次元ポケット的な不思議道具なのかな?
――うん? アニメ? 四次元ポケット? それって何だっけ……?
記憶喪失で目覚めてからちょいちょい知らない筈の物を知っているような、知らないような感覚があるんだよな……何かモヤモヤして少しだけ気持ち悪い。
考えても分からないので考えないようにしながらツァーイから受け取った剣―銅の剣―を手の中で遊ばせてみる。
思っていたよりも重いけど戦闘中に振り回す分には問題ないと思う。
「本当に貰っても良いの?」
「うん。元々私も予備で持っていたものだし、そんなに貴重な物って訳でもないから。次に戦闘をする時に試してみてよ。」
「ありがとう、ツァーイ。大切に使わせてもらうよ。」
銅の剣(正確には剣が収まっている鞘をだが)をズボンのベルトに引っ掛け、右腰の辺りに装備してみる。
後から聞いた話になるんだけど、銅の剣はこの世界では数少ない大量生産が実現している武器で初心者ご用達の一品らしい。
それ故に剣士以外を志している人でも武器を扱うなら一度は使って戦闘の基礎を知るのにうってつけなのだとか。
クエストの報酬として貰う事も時々あるようで換金する事も出来るのだが、ツァーイのように予備の武装として持ち歩いている旅人も少なからずいるようだ。
それから程なくして休憩を終えた僕達は再び歩き出し、またウルフと遭遇をしていた。
今度は一匹だ。剣の扱い方を確認するには丁度良い。
「一匹か……丁度良いね。私は後ろで待機しているからイラは剣を試してみてよ。」
真っ先に駆け出した先程とは違い、ツァーイが後方に控える。
(記憶がないので定かではないけど恐らく)初めて剣を使う僕の動きを確認する為だ。
それでも万が一の事があったらいけないのでツァーイも武装はしている。
「分かった。」
そう言って鞘から銅の剣を抜刀し、構える。
「ガルルっ!」
先の戦いと同じようにウルフが自慢の牙を光らせながらこちらへと真っ直ぐに走ってきた。
ツァーイから聞いた話だが獲物を見つけたウルフは決まってそうする習性があるらしいので、どうしても単調な動きになるんだとか。
なので向かって来たウルフをギリギリまで引き付けてからそれを避けて、銅の剣で一閃。
初めて扱う筈の武器なのに、不思議と手に馴染んでいて、どう振るえば良いのかが分かったような気がした。
また、前回は数回の攻撃が必要だったのに対して今回は一撃でウルフが倒れて黒い霧となって拡散していった。
やっぱり武器を使った方が手っ取り早く倒せるのだろうか。
そんな事を思いながら銅の剣を鞘へとしまい込み、ウルフが倒れた場所に残ったドロップ品の『ウルフの爪』(残念ながら『ウルフの毛皮』ではなかった)を拾う為に少しだけ屈んだ瞬間――。
「ガルルルルっ!!」
その瞬間、どこからともなく別のウルフが現れて襲って来た。
やばい! 戦闘終了だと思って完全に油断していた!
銅の剣を抜刀して斬りかかるか? いや、抜刀している間に一撃をもらいかねない。
じゃあ殴るか? でもいつもみたいに回避からのカウンターを狙える距離じゃない――が、避けるだけなら出来そう。
そこまで思考するなり、ウルフの爪を拾おうとしていた手を引っ込め、右側に全身で転がり込む様にウルフの突撃を避けた。
「フレイムボール!」
それと同時にツァーイの声が聞こえたと思ったら突然バスケットボール程の大きさの炎の球が飛んできて、ウルフに命中。
ウルフはそのまま吹き飛びながら燃えていった。
――うん? バスケットボールって何だったっけ?
やっぱりこの感覚モヤモヤして何か嫌だな……記憶が戻ったら分かるようになるのかな?
「油断したら駄目だよ、イラ!」
転がり倒れているこちらへと駆け寄って来たツァーイに叱られた。
「うん、身に染みたよ。……でも今の炎はなんだったの? ツァーイがやったんだよね?」
「そうだよ。そっか、魔法の事も覚えてないんだね。」
ツァーイが何でもないように答える。
そうか、この世界には魔法もあるのか!
「魔法!? それって僕でも使えるの?」
「練習すれば使える筈だよ。人によって使える属性は違うけど、誰でも一つは属性を持っているから。得手不得手はあるから上手く扱えるかはイラ次第だけど。」
「なるほど。……でも練習ってどうすれば良いの?」
「うーん……普通は魔法の適正属性を調べるんだけど、イラは魔法に関する知識も全くないんだよね?」
「この世界に魔法があった事に驚くレベルで何も知らないよ。」
一応ね、という風にツァーイが確認をしてきたが、無論魔法に関する情報も覚えてない。
魔法と言う概念は分かるけど、どうすれば扱えるのかとか全く分からない。
「それなら魔法の練習をする前に八属性の事とか説明しないといけないし、少し時間がかかりそうだね。今から始めると街に着くのが遅くなっちゃうし、また今度で良いかな?」
「うん。ツァーイに任せるよ。」
早く魔法を使ってみたいけど、同行させてもらってる身だからね。
それに旅に慣れているツァーイの言う事は聞いておいた方が良いだろうし。
それでもツァーイに魔法を教わる日が待ち遠しく感じる程に心がソワソワしていので、気を紛らわせる為にツァーイと他の話をしながら【ファングの街】へと歩みを進めた。
それからしばらくの間ツァーイとの雑談を楽しみながら、時折現れるウルフを倒し続けた。
そしてどの位の時間が経ったか、夕日が見え始めた頃。
「ほらここがファングの街だよ!」
僕達はようやくファングの街に到着した。
街が遠目で確認出来る程になった辺りでツァーイが突然ローブに付属しているフードを被り始めたが、何度か聞こうとしたら話を逸らされた。
それと本当はもう少し早く着く事も出来たのかも知れないが、あの後も道中では何度かウルフが出現したので見かけたら倒すようにしていたので時間がかかった訳だ。
一回のエンカウントで出て来た数は多い時は四匹だが、エンカウントした殆どは一、二匹の少数だったので適当にやり過ごして逃げる事もやろうと思えば出来た……と思う。
けれど僕が少しでも戦闘に慣れる為にとクエストで必要だった討伐数を終えた後もツァーイの提案で出会ったウルフは全て倒す事にしたのだ。
余談だけど道中で何度か僕の戦い方を見たツァーイが素人とは思えない程に上手だと褒めてくれた。
少しくすぐったい感覚がしたけど、凄く嬉しかった。
「――それじゃあクエストの報告とギルドの申請、それから宿をとる為に協会に向かうよ。」
そう言ってツァーイは僕の手を引いて目的地へと向けて早歩きで向かって行った。
見慣れぬ街並みに軽く目配せをしつつ、ふとツァーイの横顔が目に入った。
ローブを被っていたので表情が見辛かったが、どこか笑顔がぎこちない気がして心配になった。




