記憶三十六―迷いの森、それは期待と不安と―
「うぅ~……今日は、また一段と寒いね。」
「そうだね。」
「イラは普段から氷の魔法を使っているのに、寒がりだよな。」
「魔法属性の適正と身体的な能力には繋がりがないからね。」
四人で取り留めもない雑談を繰り広げながら、森林地帯――他の街や村では『迷いの森』と呼ばれていた――を歩き続ける。
フォレスタウンを出立してから約四ヶ月が経過しており、当然だが季節も移り変わっていた。
ファングの高原で記憶を失って目覚め、ツァーイと出会った時には暑いと思えた気温も、今ではすっかりと涼しいを通り越して肌寒くなっている。幸いにも僕達の集団には炎の魔法を操れるツァーイがいるお陰で、野ざらしの雨風に晒されるような事でもない限りは、即席の焚火を用意出来る。そのお陰もあって野宿の時に凍え死ぬような思いをする事はなかったし、今の所は誰かが風邪をひくような事もない。それでもより一層と暖かいベッドが恋しく思えてしまうのは、生物としての性なのだろう。
この四ヶ月の間に僕達は、四つの街――鉱山の街・荒野の街・洞窟の街・聖なる音の街――と三つの村――草原の村・砂の村・昆虫の村――を巡った。
街は大きいので七日から十日程の滞在をして物資や食料の補充、クエストでの安定した稼ぎを行う事が出来た。街によって細かい差異は当然あるけど、大体はファングの街やフォレスタウンと同じような感じだ。
けれどその反面、村は小さいので余所者の迫害や、それに伴ってツァーイ達の正体がばれるのを避ける為に三日か四日程しか滞在をする事が出来なかった。また村でのクエストも周辺にダンジョンが存在しない為か、数も少なく、報酬もしょっぱいものばかりだった。ただ昆虫の村だけは虫型の魔物が数多く生息していたので、他の村よりはクエストの数も多くて、他の村よりかは収入も良かった。フェアリは虫が苦手なのか、虫型の魔物に拒否反応を起こしていたけれど……。
それでもここまでの道中では、タイガの森にいた狂暴化したカレントバジリスクのような強敵と死闘を行ったり、誰かが大きな怪我を負ったりする事は一度もなかった。またファングの街でのようにトラブルに巻き込まれるような事もなく、旅は順調としか言いようがない程に順調だ。
この四ヶ月で僕達のレベルも大きく上昇している。最後に滞在した『聖なる音の街』で冒険者情報を更新した時点では、で僕が三十三、ツァーイが五十、ファクトが四十七、フェアリが四十四。
以前にツァーイから言われていた通り、レベル三十まではトントン拍子で上がって行ったのだけど、その後からは中々レベルが上がらなくなってしまった。
それでも街や村にいる時は魔物の討伐クエストに励み、新しい武具を購入した。街道や道なき道を進んでいる時にはファクトと木で出来た模擬刀――ようするに木刀――を使って剣の稽古を付けて貰ったり、フェアリから魔法の扱い方に関する知識を学んだりもした。お陰で剣や魔法の扱い方にも、最初の頃とは比べ物にはならない程に上達した(と思う)けど、ツァーイ達とのレベル差は、まだまだ埋まりそうにもない。
ちなみに勇者の絵本に関する情報は、全くと言っていい程に見つけられなかった。
「……にしても、この辺りの筈なんだが……全く見当たらないな。」
雑談の延長線上で、ファクトがぼやいた。
現在僕達は目的地であるフリーダ村を探して、この森林地帯に足を踏み入れている。各地に異なる噂話が流れているフリーダ村だが、あちこちを放浪していたツァーイとファクト達の情報を纏めて考えた結果、この地域に存在しているのではないかという結論に至った。
フォレスタウンを出た後の街や村で入手した情報でも、この辺りの地域を示唆されていた。
けれど歩けど、歩けど、目にする物は木、木、木。どこまでも広く続いている森林だけだった。本当に村なんてあるのだろうか。噂は所詮噂でしかなかったのか。心のどこかでそう、不安に思えてしまうのも無理はなかった。
「……多分だけど、隠してあるんだと思う。アイラ村も魔法人の魔法や、創造人の魔道具で人避けの手段を講じていたから。当時子供だった私には、具体的にどうやっていたのかは分からなかったけど……。」
そう発言したツァーイは、どこか真剣な眼差しで先を見据えていた。彼女の故郷が病によって滅ぼされ、一人で旅立ってから九年以上が経っている。フリーダ村の噂が真実であるのなら、【蒼い疫病】だと忌避される自分を受け入れてくれる安住の地が遂に見つかるのではないかと言う期待と、そうでなかったらどうしようという不安。言葉にしなくても、ツァーイの心境を察する事は出来た。
無論半端者だというだけで差別にあってきたフェアリとファクトも同じ心境だろう。ファクトは半端者と言うのはついでで、魔人の魔物化の方が影響していると言っていたけれど、どちらにしても三人は今までの街や村に永住する事はほぼ不可能な身の上だったのだ。
そう考えると僕一人だけが、かなり楽観的な奴にも思えてしまう。何せ記憶喪失と言う一点以外は特に問題を抱えていない人間だ。それでもツァーイは勿論の事、ファクトやフェアリにも幸せにはなって欲しいとは思っている。
「なら見つかるまで探そうよ。何日でも、何回でも!」
だからツァーイ達が人並みの暮らしを手に入れられる可能性がある村。その近くまで来ていると言うのなら、どれだけ時間がかかっても、どれだけ疲れ果てようとも、皆に付き合って探し出そうって思いは本物だ。
「ああ。分かっている。……でもこれだけ、同じような光景ばかりだと、少し飽きてくるよな。俺達がこの森に入ってから今日で三日目だ。……けど正直な所、進んでいるかも、迷っているだけなのかも、良く分からないんだよな。フェアリはどうだ? 妖精人って森に集落を作るって話もあるし、何か気づいた事とかないか?」
「うーん……特にこれと言っては、ないかな……。ツァーイの言う通りに魔法や魔道具で村を隠しているなら、どこかに魔力の流れがおかしい部分もあるんじゃないかと思ったんだけど……特にそんな場所も見当たらないし。」
当初ツァーイの事を「ツァーイさん」と呼んでいたフェアリだったが、いつ頃からか「ツァーイ」と呼び捨てにするようになっていた。具体的に何があったのかを聞いてみようとしたら、「女同士の秘密です。」と言って教えて貰えなかった、
とは言っても元々フェアリの方が年上だったのだから、敬語で話す方が違和感はあったのだけれど。ちなみに僕は、何故だか未だに「イラさん」と呼ばれている。
「とりあえず合間に休憩を挟みつつ、日が暮れるまでは探索を続けよう。但し、疲れや痛みを感じるような事があったら、すぐに言ってね。」
「うん。」
「了解だ。」
「はーい!」
ツァーイの言葉に三者三様なバラバラの返答を返しながら、僕達は日が暮れるまで歩き続けた。日が暮れ始めたら、野宿に適した広いスペースを適当に見繕って野宿の準備をする。
食事当番の者は即座に調理を始め、他の三人でテントを二つ張る。テントはツァーイの四次元ポーチに幾つか入っており、野宿をする場所に応じた適切な物を使用している。この森で使用しているのは、三人用のテントを二つ。三人用と言うだけはあって、中は結構広々としている。
またフォレスタウンにいた頃は僕達とファクト達で別々の晩御飯を食べていた。けれど街に滞在している間は良くても、野宿の際に一日三食をバラバラに料理をするのでは効率が悪いと言う話になり、四人で食事当番を分担しながら纏める事にした。
これに関してはそもそもファクト達がリベルーチェ(ギルド)への加入を保留にしている影響で、ギルドメンバーではないファクト達にリベルーチェ用の財布から出費している食費は出せないと言うのが原因だった。なので街で食料関係の物資を購入する際に、ファクトとフェアリが割り勘と言う形で代金の半分を払う事で互いの食材を統合する事になった。
今日の食事当番はフェアリだ。彼女が料理をしている場所から少しだけ離れた場所に、三人で二つのテントを張り終えた。最初はテントの張り方を知らなかった僕でも、旅の間に何度も繰り返し行った事により、今ではすっかりと手慣れた動作で行う事が出来るようになっていた。そのついでに同じく四次元ポーチに入っている机とイスをツァーイが次々に取り出して、僕とファクトがそれらを出来るだけ平たくなっている場所へと傾かないように設置した。
「はぁっ! せいっ! やあっ!」
「……ここだっ!」
それでもフェアリが料理を作り終わるまでに時間があったので、木刀を使っての模擬試合をファクトと行う事にした。日課と言える程に行っている訳ではないけれど、僕とファクトの時間が同時に空いてしまった時等は、自然と行う事が多かった。
手にした片手剣用サイズの二本の木刀を振り回し、絶え間なく攻撃をし続ける。しかし先程から何度も振るっている斬撃は、全てファクトの持つ大剣サイズの木刀によって受け止められ、弾き返され続けている。何度目かの攻防の末に、ファクトが攻撃を弾き返すと同時に、木刀を一閃させる。狙いがこちらの剣を二本とも弾き落とそうとしてきた事は、明白だ。
「……っ!」
木刀とは思えない程の鈍重な一撃に、思わず両手が痺れ、握っていた木刀が宙を舞ってどこかへと飛んで行った。けれどそれは左手で持っていた一本だけ。
攻撃をし続けていた影響でファクトの攻撃を避けれない事は分かっていた。そして受け止めきれないと言う事は何度も繰り返した稽古によって、嫌と言う程に思い知らされている。
だからファクトの一撃を目視した瞬間に、左手で持っていた木刀をファクトの木刀に向かって投げ捨てた。少しでも勢いを削ぐ為に。そして瞬時に左手を右手に合わせて、両手で一本の木刀を握りしめる事で勢いが僅かに弱まったファクトの一撃から、右手の木刀を守り切る事に成功した。
「くっ……。」
「貰った……!」
この一撃で決まると思っていただろうファクトが一瞬の動揺を見せた――気がする――隙に両手で握った木刀を突き刺すように、愚直に真っ直ぐ走り込む。ファクトは大剣を軽々しく扱うが、それでも片手剣と比べれば僅かに隙がある。ならば次の一撃を繰り出される前に、行動を起こす事こそが唯一にして細い勝ち筋だ。二刀流と言う戦闘スタイルを崩されてしまった以上、勝機はこの瞬間にしかないと思えた。
「やるな。……だが、ふんっ!」
「うわっ……いたた……。」
けれど一撃を放ったばかりだと言うのに、ファクトは巻き戻し再生をするかのように逆方向への一閃を繰り出した。
それによって今度こそ両手で握っていた木刀も吹っ飛んで行き、僕自身も倒れながら尻もちをついた。そして態勢を立て直そうとした時には、既に喉元へと木刀が突きつけられていた。もしもこれが真剣を使った殺し合いだったら、寸止めではなくて首から上と下がお別れを告げていた事だろう。
「勝負あり……だな。」
「また負けかぁ……。やっぱり簡単には、勝てないね……。」
悔しさを感じながらに僕が呟いた言葉を聞くと、ファクトから突きつけられていた木刀が下ろされた。模擬試合――と言う名の稽古――が終了した合図だ。余談だが僕は一度もファクトに勝った事がない。大きなレベル差がある以上は、真っ向勝負では絶対に勝てない。だから色々と小細工を試す事もあるのだけど、それでもただの一度も勝てた事はなかった。
「まだまだ一撃一撃が軽いんだよ、イラは。……でも最後の流れは悪くなかったな。剣を投げて勢いを削ぎ、そこから決死の一撃。格上の相手でも、慢心をするような奴だったら倒せていただろうな。」
「ありがとう。……でもファクト以外の人と戦う事なんて早々ないよ!」
協会のクエストの中には罪を犯した人を捕縛、又は討伐――要するに殺害――を行う類のクエストも稀にある。けれど僕達は――少なくとも僕がツァーイと集団を組んでからは――一度もそういったクエストを受注した事はなかった。
幾つか理由はあるのだけれど、人を捕縛するとなれば魔物を討伐するよりも大変だろうし、殺めるにしても人殺しをするのに抵抗が無い訳じゃない。簡単に言ってしまえば、意思疎通の出来ない人の敵である魔物を討伐をする方が体力的にも、精神面でも、楽だからだ。
勿論そういった悪人から襲われた場合は、全力で排除する。もしも勝てない相手や、数が多すぎる場合は、逃げる。と言ったような事は集団内でも話し合った事はあるし、仲間や自分の命が危機に晒されたら、人であっても殺す事には躊躇はない……と思う。だけどそんな機会は無いに越した事はないだろう、とどうしても思ってしまう。
「そりゃあな。……でもこれからも絶対にないとは言い切れないし、対魔物だけじゃなく、対人戦の可能性も考えて置いた方が――」
「みんなー! 出来上がったから、運ぶの手伝ってよー!」
恐らくは僕が考えている事と同じ事を考えていたファクトに釘を刺される中で、フェアリの言葉が聞こえた。
食事当番はあくまでも料理を作る係りだ。だから出来上がった食事を運ぶような事は、手が空いている人は出来るだけ手伝う事になっている。正確に言えば『なっている』と言うよりも、自然とそう『なっていた』。街や村で協会の宿泊部屋を使っている時は移動する距離が短いから当番の人が一人でやる事もあるけど、野宿では出来るだけ皆が自主的に行動をする傾向が特に強い。
「――とりあえず今日は、ここまでだな。冷めない内に食べよう。」
「そうだね。」
その後は四人で食卓を囲み、雑談をしたり、明日の事を話したりしながら食事を食べた。半妖精人であるフェアリの料理は野菜やパンの系統に偏る事が多く、今日の料理は野菜スープ、サラダ、サンドウィッチ――具材の九割九部が野菜で、申し訳程度にお肉が一部だけ入っている――だ。
けれど材料に偏りがあるからと言って、料理がお粗末な訳ではない。色とりどりの野菜の数々は見ているだけでも楽しいし、そのどれもが野菜の苦みや癖を感じずに甘味すら感じる程に食べやすく調理されている。
それらの食事を食べ終えて、当番であるフェアリが食器の片付け等を済ませると、僕達は各々がテントの中へと入って眠る準備を整えた。
使用しているテントは三人用の物だが、僕達は四人なので当然二人ずつに分かれて眠る事にしている。組み合わせは僕とツァーイ、ファクトとフェアリの元々集団を組んでいた者同士か、僕とファクト、ツァーイとフェアリの男女別で、日によって異なるけれど、大体はフェアリがファクトと一緒にいたいのか、ツァーイと女子同士で話し合いたいのか、の気分によって決められる事が多い。今日は前者の元々の集団別だ。
「……ねぇ、イラ。まだ起きてる……?」
テントに入ってからツァーイと適当な雑談を少しばかりしてから寝付こうとしていた時だった。微睡みを感じ始めて、眠りに落ちかけていると、少しばかりのスペースを空けた先で同じように眠ろうとしていたツァーイの声が聞こえた。その声によって意識が現実へと戻されたが、不快感はなかった。
「……うん。どうかしたの?」
顔の向きだけをツァーイがいる方へと向けて、横になったまま返事をする。
「フリーダ村、明日は見つかるかな……。」
「ツァーイ……? ……大丈夫だよ。明日見つけられなかったとしても、何日でも、何年でも付き合うから。」
テントの中は灯りも消してあるので、すっかりと暗闇に包まれている。だから少しだけとは言え、離れた位置にいるツァーイの表情は殆ど見えない。だけど不安が混ざったような声音に、思わず心配になってしまう。気休めにしかならないかも知れないけれど、それでも言葉をかけずにはいられなかった。
「ありがとう。……だけどね、本当の事を言うと……少し不安なんだ。今までの旅でもアイラ村のような半端者の隠れ里的な場所は一度も見つからなかったから……本当にこの近くにフリーダ村があったとしても見つけられるのかなって。それに見つけられたとしても、本当に私の存在を……【蒼い疫病】を受け入れて貰えるのかな。居場所があるのかな……そんな風にどうしても考えちゃうの。」
フリーダ村が噂通り――来る者拒まずの他種族の村――であるのなら、少なくともファクトとフェアリは大丈夫だ。半端者である二人は受け入れて貰えると思う。だけど【蒼い疫病】だと悪い噂(それも事実とは異なる間違った情報)が様々な土地で流れているツァーイは……実際にフリーダ村の人達と話し合うまでは分からない。またフリーダ村の話はどれもが噂話でしかないから、実際にそんな村は存在しないと言う可能性も否めない。
「……もしも受け入れて貰えなかったら、また別の土地を探そう。世界は広いから、きっとどこかにツァーイを受け入れてくれる場所もあるよ。」
「そうだね……。うん。そうだと良いな。……ありがとう。イラと話していたら、少し楽になったよ。」
「どういたしまして。」
「……ねぇ、イラはずっと一緒にいてくれるよね?」
「え……?」
話している間に落ち着いたのか、それとも我慢してしまっているのかは分からないけれど、普段通りの優しい声音でツァーイが呟いた言葉に僕は戸惑った。ツァーイがその言葉を発したのが、どんな意味なのかをすぐには理解出来なかったから。
「えっと、その……別に深い意味はないんだけどね。イラが出会った時に「旅をしたい」……みたいな事を言ってたから。だから……もしも全部が上手くいったとして、フリーダ村に永住する事が出来るなら、私達の旅は終わる訳でしょ? そうなってもイラは私と……私達と一緒にいてくれるのかな? って。それとも一人でどこか遠くに旅立ったりしちゃうのかな……って。少し思っちゃっただけ。」
「あ、ああ。そう言う意味か。」
暗闇に目が慣れて来たけれど、依然としてツァーイの表情は分からない。だけど平静を保っていた声が徐々に寂しそうに聞こえてきた。最もツァーイが深い意味はないって言ってるのだから、そこに特別な意味合いなど無い筈で、そう聞こえたのは……彼女に少しでも想われているのだと、自惚れて勘違いをしたい僕の弱さが作りだした錯覚……の筈だ。
だってツァーイはもう一人じゃない。ファクトやフェアリが一緒にいてくれて、彼女の仲間はもう僕だけじゃない。今はたった一人の仲間ではなく、ただの仲間なのだから。……だからツァーイが僕と別れる事を惜しんでいる、等と勘違いをしてはいけない。
「……フリーダ村に永住するにしろ、旅が続くにしろ、僕はツァーイと一緒にいるよ。まだ受けた恩も返せていないし。ツァーイが必要としてくれる限りは、ずっと一緒にいるよ。」
「もう十分に恩返しはして貰ってるんだけどね。イラはいつでも話し相手になってくれて、私の事も気遣ってくれる。それだけで十分だよ。」
「それは僕も同じだから、ノーカンだよ。……時々思うんだ。もしもあの時ツァーイと出会えなかったら、一人で目覚めていたら、って。無事にどこかの街に辿り着いたとして、冒険者になれたとして、今みたいに旅をしていたとしても……きっと寂しかったと思う。……そう考えたらさ、ツァーイに拾って貰えて本当に良かったって思うんだ。だからこの恩は一生を懸けてでも、絶対に返すから。」
「もう……だから気にしなくても良いんだって。……でもありがとう。」
その後もツァーイとは互いに表情も見えない暗闇の中で話を続け、気が付いたら二人揃って眠りに落ち、そして朝がやって来た。
結局次の日もフリーダ村は見つからず、それでも僕達は諦めずにフリーダ村を探し続けた。幸いにも予めこうなる可能性もあると考えていたツァーイが聖なる音の街で食材をいつも以上に買い込んでいたお陰で、食料に困る事はなかった。
そうして何日も探し続けたフリーダ村が見つからないままに、迷いの森の探索を続けた。そしてその甲斐があってか、僕達がこの森に入り込んでから十三日目。これまで大した進展もなかった探索に急展開が訪れた。
その日僕達四人は一定の距離感を保ちながらバラバラに探索を行っていた。迷いの森に入ってからは一度も魔物と遭遇する事がなかったので危険は少ないと判断し、進展が一切ない事から五日目から使用していた探索の手段だ。
「……あれ? ちょっと! 集合! ピーッ! ピーッ!」
少しだけ早めの昼食を兼ねたお昼休憩を終え、探索を再開してから少しばかりの時間が経過した頃。突如として何かに気付いた様子のフェアリが急に叫び始めたのだ。ちなみに「ピーッ!」と言うのはホイッスル――って何だっけ?――の音かと思ったけれど、フェアリが自分の口で発している擬音だった。
「フェアリ? いきなりどうしたの?」
「微弱ですけど魔力の乱れを感じ取ったんです。この森に入ってから一度もそんな事はなかったから、少し気になって……。」
たまたま近くにいた僕が最初にフェアリの元へと駆け寄った。すぐにツァーイとファクトも駆けつけて来てくれた。
「それって前にツァーイが言っていた、魔法人や創造人が人避けの細工をしているかも、って話かな?」
「多分そうだと思う……だけど本当に村を隠そうとしているなら、なんでいきなり……。」
「うーん……例えば人避けに使っていた魔法の効果が切れちゃったとか、魔道具が壊れたとか?」
「その可能性もある。が、罠……かもな。本当にフリーダ村の人達が人避けの手段を持っているのなら、それと同じように俺達が周囲をうろついている事も把握している可能性が高い。……俺達が森から出る素振りを見せないから、何か仕掛けて来たとも考えられるぞ。」
フリーダ村の捜索を開始してから初めて訪れた進展に、各々が焦りや警戒、期待や不安を抱え込みながら話し合う。
「フェアリ、魔力の乱れはまだ続いているの?」
「はい。あっちの方から。」
そう言ってフェアリはその方角へと指を指した。それに釣られて他の三人も視線をそちらへと移す。
「……行ってみようよ。ファクトの言う通り、罠かも知れないけど……私達はフリーダ村を探しに来たんだから! その代わり誰か一人が少しでも危険だと感じたら、すぐに全員で逃げるよ。」
ツァーイの言葉に異論を唱える者はおらず、僕達四人はフェアリが感じたと言う微弱な魔力の乱れを頼りに、迷いの森の奥へと進んで行った。
第三章スタートです。
この章の終わりまでが、ゲームで言うチュートリアルのようなイメージで書いて来ました。




