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人格喪失者、それは記憶喪失を望んだ者  作者: 明進
第二章 偶然の出会い、それは新たな仲間との邂逅
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記憶三十五―イラ育成計画二、それは魔法の調整―

「ち、ちょっと、ひゃあ!?」

「良いから大人しくしていて下さい。動かれるとツボの押し間違いに繋がっちゃいます。それから口も閉じておいた方が良いですよ。流れ方によっては取り返しのつかない事になりますから。」

「取り返しのつかない事って何!? ちゃんと説明してくれないと怖いんだけど! いでっ! ちょっ、何か凄く痛いんだけど! いだっ、いだだっ! んっ……。」

「大丈夫ですよ。今は通り道が上手く機能していないだけですので。ちゃんとほぐして、治してあげれば、その内気持ちよくなりますから。」

「……って言っても、があぁ!? うぐっ……ストップ! 一旦ストップ!」

「駄目ですよ。こういのは一気にやった方が身体の負担も抑えられるんですから。時間をかければ、それだけ痛いんですよ?」


 いつもの宿泊部屋。いつも通りの早朝。オマケに雲一つない快晴。そんな気持ちの良い朝に、当たり前の一日の始まりに感謝の念を感じながらも四人で楽しい朝食の時間を過ごしていた……筈だった。

 朝食を食べ終わり、「すぐにクエストを受注しに行くんだろうな」等と悠長に考えていたら、何故かフェアリに服の襟を掴まれて、引きずられていた。そうして連れ去られた先は、この宿泊部屋で僕が使っているベッドだ。そこへうつ伏せで寝るようにフェアリから言われた。普段から温厚な彼女にしては珍しく圧を感じる様な声音で。

 何でそんな事態になってしまったのかは全く分からない。思わずツァーイの方へと顔を向けると、ツァーイはファクトと会話――内容は聞き取れない――をしながら、申し訳なさそうにこちらへと苦笑いのような申し訳なさそうな表情を向けていた。

 ツァーイのそんな表情を見るのはとても珍しくて、気を取られていたら、フェアリの手によって無理やりうつ伏せの格好に倒された。そのまま冒頭の場面に繋がって、今はフェアリに身体のあちこち――主に背中だが、時折首や手足等も――を触られている状態に陥っていた。

 フェアリの華奢な手のどこからこんなにも強い力が出ているんだろうかと思ってしまう程の強い力で押される事もあれば、まるでマッサージのように気持ちの良い気分になるような押し方もしてくる。緩急(かんきゅう)の差が激しいそれらの行為に思わず痛みによる悲鳴や、快感による喘ぎ声が自然と零れてしまう。

 どうして自分はこんな目に合っているのだろうか。そう思うよりも先に、どうやったらこの状況から逃げ出せるかを考えてしまう程には頭が回っていなかった。ついでに言えばそれが早朝早い時間からなのか、突然の事態にパニックに陥っているかを判断しかねる程には、普段の思考よりも麻痺しているのだろう。


「本当にいきなり何なの!? て言うか、ツァーイもファクトも見てないで助けてよ!」


 助けを求める声を上げながら二人の様子をもう一度確認して見ると、会話自体は終わっていたように思えた。だがツァーイは先程と同じように申し訳なさそうな表情を浮かべており、ファクトも目を伏せて視線を合わせないようにしていた。

 そんな二人の様子から、助けは望めない事を悟ってしまった。

 結局解放されたのは、それから二十~三十分程が経ってからだった。宿泊部屋の中には時計が存在しないので、あくまでも体感でだけど、少なくとも僕にはそれ位の時間が経過したようには感じられていた。ちなみにツァーイとファクトはクエストを先に受注してくる、と言って少し前に部屋から出て行ってしまった。


「……それで? さっきのは、一体、何だったの……。」


 フェアリから解放された僕は、改めてフェアリに問いかける。やっていた行為はマッサージのようにも思えたけど、何か違う気がした。いや、そもそもマッサージに関する知識とかは殆どないんだけども。


「えっとですね……。前にも言ったんですけど、イラさんの身体って魔力(マジック)の流れ方が普通じゃなかったんですよ。」

「そう言えば、そんな事を言ってたね。」


『イラさんが魔法を放つ時に魔力マジックの流れを見ていたんだけど、何か魔力マジックの流れ方が普通じゃなかったんだよね。……何か、こう、ボワーっと来て、ガガーっと一気に流れている様な……。』


 以前フェアリが呟いていた言葉を思い出す。あの時はファクトにも色々と言われていたから、聞き流していたけれど、妖精人(エルフ)は魔法に特化した種族で、魔力(マジック)を目視出来ると言う。当然半妖精人(ハーフエルフ)であるフェアリにも、その能力は備わっている。そのフェアリが言うのであれば、僕の魔力(マジック)は他の人達と比較した際に何らかの異常性(イレギュラー)を含んでいるのだろう。

 前々からおかしいとは思っていたのだ。ツァーイ達と比べても魔力(マジック)の使用量が多く、一度に使える魔法の回数が大きく制限されていた事。その反動だとでも言わんばかりに、魔法の効力が高い事。

 フェアリの魔法は妖精人(エルフ)の力による補正が入ってから、そこに差があるのは分かる。何せツァーイやファクトでさえ、そう話していたのだから。けれどツァーイやファクトとの差をレベルに差があるから、冒険者情報(ステータス)上での魔力(マジック)が低いから、と言うのは違和感があった。それでもそう思い込もうとしていたのは、いつかレベルが上がれば、その内強くなれば、その時が来れば魔法をもっと自由気ままに扱えると信じたかったからだろう。


「それでファクトやツァーイさんからも頼まれてですね、今確認をしていたんですよ。そうしたら……」

「……そうしたら?」


 もしかしたらこれで魔法を扱い易くなるのだろうかと言う期待、それとも自分の魔法は一生あんな感じなのだろうかと言う不安。相反する二つの気持ちを抱えながら、フェアリに問いかける。


「イラさんの体内にある魔力回廊(マジックルート)が全て、全力解放(フルバースト)状態になっていたんですよ!!」

「……え? まじっくるーと? ふるばーすと?」


 フェアリが一体何を言っているのか。全く意味が分からなかった。


「はい。魔力回廊(マジックルート)が全力解放(フルバースト)しているせいで、イラさんの魔力(マジック)はガガーっと一気に流れ……イタっ!?」

「――ちゃんと一から説明してやれ。イラは記憶喪失なんだぞ? それにそうでなかったとしても、その辺の言葉は妖精人(エルフ)の専門用語だろ。」


 普段の彼女からは想像も出来ない程に興奮気味に早口で捲し立てるフェアリ。それを一喝するかのように、扉が開いて戻って来たファクトに手刀で頭をコンっと叩かれた。扉の方へと視線を向ければ、ファクトと一緒にクエスト選びに向かっていたツァーイの姿もあった。


「それよりも、ちゃんと終わったのか?」

「ぅぅ……うん。とりあえずは並み程度にしておいたよ。」

「それじゃあとりあえずクエストに向かおうよ。話は歩きながらすれば良いし。」


 叩かれた場所が痛かったのか涙目で頷くフェアリを他所に、ツァーイの言葉に従って僕達は部屋を後にした。


 向かった先はタイガの森。ここでのクエストをこなすのも、もう四日目だ。最初は苦戦していた相手にも経験を積んだ事で、すっかりと戦い易くなっていた。銅の剣(ブロンズソード)よりも切れ味の良い金の剣(ゴールドソード)を振るえる事も大きいだろう。

 とは言え一人ではストーンゴーレムを相手にするのは危険であり、本日受注したクエストの総討伐数三百二十八匹(体)の魔物の全てを一人では相手にする事は、当然不可能だ。あくまでもこれだけの成果を出せているのは、仲間であるツァーイやファクト、フェアリのお陰であって、僕自身はその中ではまだまだお荷物のレベルだ。

 ともあれ誰かが大きな怪我を負ったりする事はなく、難なくクエストをこなし終えた僕達は、フォレスタウンへと戻る為に夕暮れの街道を歩いていた。


「そう言えば朝の件だけど、どうでした?」

「うん。魔法が沢山使えて楽しかったよ。今までとは違って回数制限もキツクないみたいだし。色々とありがとう。」

「はい。また何かあったらいつでも調節しますからね!」


 朝の件と言うのは、言うまでもなくあのマッサージモドキの事だ。あれが何だったのかは、今朝の道中に話して貰っていた。曰く、「魔力回廊(マジックルート)の調節」なのだとか。

 まず話の前提として、人や魔物と言ったこの世界(リーネド・ムンリ)の生命体は、一部を除いて体内に魔力(マジック)を所持している。それを発する事で、魔法を使用する事が出来る。

 けれどこの世界(リーネド・ムンリ)の魔法は、ファンタジーのゲームや小説――具体例は思い出せないけど――のように、魔法と呪文が紐付けされている訳ではなく、想像(イメージ)とそれを想起させる詠唱を行う事によって発動する、非常に定義が曖昧なものだ。

 それでも魔法を使用する際に魔力(マジック)が体内を駆け巡ると言うのは、八属性の全てに置いても、発する魔法がどんな効力のものであったとしても、共通となる。

 しかしながら普通は魔力(マジック)を目視出来ない為に、人間(ヒューマン)や多くの種族はその事を理解していないし、気付いてすらいない。その事実に気付いているのは、魔力(マジック)の目視が可能な妖精人(エルフ)。八属性とは異なる魔法を操り、目視は出来なくても魔力(マジック)の気配を読み取れる魔法人(ウィザード)だけ、とはフェアリの談によるものだ。

 話を戻して、魔法を発する際に魔力(マジック)が体内を駆け巡る道筋はどんな魔法であっても共通で定められていて、その道筋となる箇所を妖精人(エルフ)や魔法人(ウィザード)は魔力回廊(マジックルート)と呼称した。

 その魔力回廊(マジックルート)は本来であればある程度は抑止(セーブ)された状態になっている。詠唱は抑止(セーブ)を一時的に調節――緩めて効力を高めたり、逆に効力を抑える為にキツクする等を――する為の手段にすぎないと言う。

 そんな魔力回廊(マジックルート)が僕の場合は全力解放(フルバースト)――つまりは、常に全開となっていたようで、魔法を放つ際に僕の意志とは関係ない所で、最大の効力を発揮しようと魔力が流れてしまっていたのだとか。

 一連の説明を受けて、魔力回廊(マジックルート)は蛇口のようなものだと思った。例えばツァーイ達が蛇口を捻れば、必要な量の水を適切に取り出す事が出来る。けれど僕が蛇口を捻ると、どれだけ回したかに関係なく、必ず全力で水が流れ出してしまう。

 そりゃあ冒険者情報(ステータス)上では魔力(マジック)の数値が低くても、周囲一面を氷漬けの世界に作り替えたり、あれだけ大きな協会を丸ごと一件氷漬けにしたり、魔力(マジック)の枯渇を引き起こしたり、引き起こしそうになったりする訳だ。何せ十や二十の力を取り出そうとしても、問答無用で、無自覚に、扱える力の限界を超えて、百の力を放っていたのだから。

 今朝のマッサージモドキは、その魔力回廊(マジックルート)の調節だったのだ。全力全快で開きっぱなしになっている蛇口を、少しだけキツメに閉める事によって、一度の魔法によって消耗する魔力(マジック)の量に制限をかけた。

 勿論それによって魔法の効力も下がってしまったけれど、今の僕に必要なのは敵を討つ為の一撃の火力ではなく、皆をサポート出来る手数の多さだ。特にタイガの森に生息する魔物は、僕が唯一扱える氷属性の魔法に耐性を持っているので、そもそも威力には期待出来ない方が多い。

 それに魔力(マジック)の枯渇を気にせず、魔法を気兼ねなく扱えると言うのは、とても心地良いものだった。元々ツァーイの魔法を見た時から心躍るものだったのだけど、自分で扱う分には魔力(マジック)の消耗が激しくて、便利なものと言うよりは、一撃必殺の切り札という立ち位置になってしまっていたので、自由気ままに放つ事が出来なかった。だけどフェアリに魔力回廊(マジックルート)の調節をしてもらった事によって、連続で魔法を使用しても魔力(マジック)の枯渇は愚か、立ち眩みのような反動を感じる事さえもなくなった。

 これらについての話は殆どがツァーイも知らない話だった。それと言うのも妖精人(エルフ)や魔法人(ウィザード)がこの話を滅多な事では他種族にしない上に、仮に話をしたとしても口止めをする事が原因との事だった。因みに人間(ヒューマン)である僕達に教えて良かったのかを問いただしたら、フェアリは「私は半端者(ハーフ)だし、故郷から追い出されているから、関係ないよ。」と呆気からんと言い放っていた。


「それにしても、イラさんの魔力回廊(マジックルート)は何で全力解放(フルバースト)になっていたんでしょうね? 何か心当たりはありますか?」

「うーん……。」

「やっぱり最初に魔法を使った時の詠唱文が長かったから……じゃないかな?」


 フェアリの問いに思い当たる節がない、と頭を抱えていたら前方を歩いていたツァーイが歩みを止めながらこちらへと振り向きながら、呟いた。その言葉にああ、と納得をする。


「詠唱によって魔力回廊(マジックルート)の調節をするって話だっけ。……それじゃあ最初に氷結(フリーズ)を使った時に魔力回廊(マジックルート)が全力解放(フルバースト)になっていて、それからずっと、そうだった……って事?」

「そのお話は先日にも聞きましたけど、それが原因の可能性は低いと思います。」


 けれど納得をしかけたツァーイの考えはフェアリによって一蹴され、その理由を語った。


「詠唱はあくまでも一時的な調節にしかならないので、仮にイラさんが最初に使ったという氷結(フリーズ)が詠唱によって全力解放(フルバースト)で放たれていたとしても、それからずっと全力解放(フルバースト)が続いていると言うのはおかしいんですよ。」

「そうなんだ。……じゃあイラのアンノウンスキルが原因とか?」

「……あり得るな。アンノウンスキルは未確認のスキル……どんな効果だとしても不思議じゃない。例えば魔力回廊(マジックルート)の状態を維持し続けるとか、最初から全力解放(フルバースト)を習得しているとか、そう言うスキルの可能性もある。」

「確かにその可能性もありますね。そもそも妖精人(エルフ)や魔法人(ウィザード)以外の種族は、前例が無い訳じゃないですけど、滅多に全力解放(フルバースト)の領域に到達しないらしいですし。」

「それじゃあ街に戻ったら冒険者情報(ステータス)を更新してみるよ。アンノウンスキルって使用者が内容を理解すれば正しく表記されるんだよね?」


 以前にファングの街のアンナさんからそんな事を言われていたと思い出す。仮に僕のアンノウンスキルがファクトの言ったような効果であるのなら、今回の一件で適切な表記がされる筈だから。

 そんな訳でフォレスタウンに戻ると、クエストの報酬を受け取ったツァーイ達には、先に宿泊部屋に戻ってもらい、一人で冒険者情報(ステータス)の更新を行う事にした。

 皆を先に宿泊部屋へと戻したのは、魔力回廊(マジックルート)の調節を行った事や、魔物の討伐数が少し増えた事、クエストの最中に魔法の練習を行っていた事等の理由からフォレスタウンに着いた頃には夜になってしまっていたからだ。

 ファングの街で帰りが遅くなってしまった時には、夜の街特有の人混みやトラブルの影響(せい)でツァーイのフードが取れてしまった為に【蒼い疫病】だと騒ぎになり、結果として僕達は慌ただしく街から逃げ出す事になった。あの時と同じ過ちを繰り返さない為にも髪色を見られるだけで騒ぎになるツァーイとフェアリには急いで宿泊部屋へと戻ってもらう事になり、万が一の時の為にファクトにも着いていってもらった。

 そんな訳で僕は一人で冒険者情報(ステータス)の更新をアンナさんに頼み、手渡された冒険者用紙(シート)を使用した。


―――――――――――――――――――――――――

冒険者情報ステータス

本名:イラ

種族:人間ヒューマン―???―

レベル:24

―――――――――――――――――――――――――

ライフ:30

アタック:35

ディフェンス:20

スピード:39

マジック:24

エデュ:28

ラック:18

―――――――――――――――――――――――――

スキル:マルチウエポン

?????

―――――――――――――――――――――――――


 ファングの街で冒険者に登録した時のレベルが十三、フォレスタウン到着時に更新したレベルが十八。それを考えればレベルが二十四まで上がっている事は喜ぶべき事だ。

 実際にツァーイ達のレベルと比べると、まだまだ低い。けれどカレントバジリスクや暴走したファクトと戦った事。それから毎日沢山の魔物と戦っている事で確実に経験を積んで強くなっているのだという実感が湧いてくる。この調子で強くなり続ければいつかはきっと――。

 しかし今日の本題であったアンノウンスキルは、結局は謎のままだった。つまり僕のアンノウンスキルは魔力回廊(マジックルート)に関係したものではないと言う事だ。



「……と言う訳で、アンノウンスキルは、全力解放(フルバースト)と関係なかったよ。」

「そうですか……。謎は謎のままって事ですね。」

「その代わりレベルは結構上がって……って、そう言えばファクトは?」

「ファクトならさっき街に出て行ったよ。」


 冒険者情報(ステータス)の更新を終え、宿泊部屋へと帰還した僕は結果をフェアリに報告した。その会話の中でふとファクトがいない事に気付くと、机で報酬の分配作業を行っていたツァーイが理由を教えてくれた。


「イラが冒険者情報(ステータス)の更新を行っている間に話していたんだけど、そろそろこの街を出ようって話になったの。私達はまだ五日目だけど、フェアリ達はここに着いてから今日で九日目みたいで、余所者(よそもの)がこれ以上滞在するのは危険かも知れないから。」


 半端者(ハーフ)と呼ばれるフェアリ達や、【蒼い疫病】と忌避されるツァーイ達は街中では普段ローブやフード――或いはそれに該当する物――を使って正体を隠している。そしてそれらを着用している者の中には極々普通の冒険者も存在しているので、ファングの街の時みたいにトラブルに巻き込まれない限りは、急に怪しまれるような事は少ない。

 だけど冒険者は大きく分けて二種類が存在している。一つは特定の地に根を下ろして、常に一か所に留まる者達。もう一つは僕達みたいにあちこちを旅している者達。そして後者は前者の者達や、一般人から余所者(よそもの)と揶揄される場合がある。

 勿論全ての人達がそんな風に敵視をしている訳ではないし、半端者(ハーフ)の差別と比べれば非常に可愛らしいものだというが、それでも良い気はしない。それに余所者(よそもの)が長居をする事によって、余所者(よそもの)を敵視している者達に因縁を付けられてトラブルに巻き込まれ、結果としてツァーイやフェアリ達の正体を知られてしまう可能性もある。


「それでファクトが不足している物資を買いに行ったの。私の方もフェアリ達のお陰でいつもより稼げたし、物資や食料も十分に整えられたから。それで確認なんだけど、イラは何か買い忘れているものとかはないかな?」

「うーん……。特にはないかな。」


 ツァーイの問いかけに、少しだけ考えてそう返した。そもそもがリベルーチェ(ギルド)のお金によって食事や寝床には困っていないので、お金の流れる先は衣類(防具を含む)や武器等に限定されていた。それ以外で欲しい物がないのかと言われれると、本が思い浮かんだ。絵本でも、漫画でも、小説でも、何でも良いから素敵な物語の本を読みたいと。けれどこの世界(リーネド・ムンリ)での本は高級品だ。下手な武器や防具よりも高く、悲しい事に今の僕では手を出している余裕はとてもじゃないが、なかった。


「それじゃあ明日は普段よりも早く朝食を済ませて、この街を出るからね。しばらくはまた野宿になると思うけど――」

「大丈夫だよ。道中の旅も楽しくて、結構好きだし。」


 ふかふかのベッドで寝れないのは寂しい気もするけど。それでも知らない景色を見て、知らない道を歩いて、新しい場所へと向かう事に期待せずにはいられない。


「そっか。それなら晩御飯の準備をお願いね。明日に備えて、今日は早く寝ないといけないから。」

「うん。」


 言われてすぐに台所へと向かう。元々冒険者情報(ステータス)の件を報告したら晩御飯の準備はするつもりだったので、作るべき料理も思い浮かべていて、準備は万全だ。

 その後はツァーイとフェアリが何やら雑談に花を咲かせている様子だった。僕は料理に集中をしていたので、何を話しているかは分からなかったけれど、二人の楽しそうな声音だけは時折聞こえて来て、少しだけ胸の奥がほっこりと暖かく感じられた。


「それじゃあ私も部屋に戻りますね。イラさん、ツァーイさん、お休みなさい。」

「……また明日な。」

「うん。フェアリとファクトもお休みなさい。」

「また明日。」


 しばらくして丁度晩御飯がタイミングで、完成した街での買い物を終わらせたファクトがフェアリを迎えに来た。そのまま二人は自分達の宿泊部屋へと帰って行った。

 朝食はファクト達も食堂で買っていたので一緒に食べる事にしていたが、晩御飯は別々に食べる事にしているからだ。これはファクト達がリベルーチェ(ギルド)への加入を保留にしている為、僕達もファクト達もそれぞれの食材を使って料理をしている為だ。

 一応それぞれの部屋で料理を済ませ、どちらかがもう片方の部屋に食事を持参する事も出来る。しかし夜は、朝よりも協会内を行き来する人達が多いので、無用なトラブルに巻き込まれるのを回避する為や、食事以外にも明日の準備をする等といった理由から無理に晩御飯を一緒に食べる必要はないという結論に至った。

 少し寂しい気もするけれど、ツァーイが一緒にいてくれるから本当に寂しい訳ではなかった。

 そうして食事やお風呂、洗濯と言った日課を終わらせて寝床に着いたのは普段よりも早い時間帯だった。

 そして次の日の明朝。僕達四人は手早く朝食を食べ終えると、人々が眠っている間にフォレスタウンを出て行った。目的地はフリーダ村。ツァーイの持っていた情報と、ファクト達が持っていた情報が合わさったお陰でより詳細な場所が判明したけれど、本当にその地にあるのかどうかは分からない。

 それでも僕達はフリーダ村を目指して旅を続ける。ツァーイやファクト達が普通の暮らしを行える安住の地を求め続けて。

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