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人格喪失者、それは記憶喪失を望んだ者  作者: 明進
第二章 偶然の出会い、それは新たな仲間との邂逅
35/64

記憶三十二―一夜明けて、それは決断の時―

 フェアリによって巻き込まれたカレントバジリスクの騒動を終え、その後タイガの森(ダンジョン)から脱出した僕達は四人でフォレスタウンまで帰還した。

 帰り道は道に慣れたフェアリとファクトのお陰で最短ルートで移動が出来た。その途中で何度か行った戦闘も四人という人数的なアドバンテージを得たお陰もあって全員が大した怪我を負う事もなく、穏便に事が進んだ。

 街へと帰還した僕達は、お互いに泊まっている部屋の番号と場所を教え合ってから一時解散として、それぞれの宿泊部屋へと戻った。

 その後は大変だった。宿泊部屋へと入った途端にツァーイから、晩御飯の準備をするよりも先に沢山のお説教をされる事となったからだ。

 フェアリの頼みを安易に了承した事、それに伴って様子見の予定だったのに二層から六層までにも足を踏み入れた事、カレントバジリスクとの戦闘中に後衛に専念してと言われていたにも関わらず前線であるツァーイの下へと駆け寄った事、暴走したファクトとの戦いで何度も無理や無茶をした事、最後に自分を犠牲にしてでも彼女を逃がそうとした事。

 それらがどれだけ危険な事か、今の僕の身の丈に合っていない事なのか、何度も何度も怒られた。僕自身もかなりの無茶をしたり、我を押し通し過ぎた自覚はあったので、大人しく怒られる事にした。

 ツァーイだって本当はそうしたかった筈だからとか、ツァーイが心配だったからとか、少しでもツァーイの力になりたかったからとか、理由や言い訳は何も言わずに大人しく説教を受け続けた。

 だけど本当に大変だったのは、その後。怒っているツァーイが途中で身体を震わせたと思ったら、次の瞬間には泣き崩れて、僕が心配で駆け寄ったら直後に抱きしめられて、ツァーイはずっと泣きじゃくりながら僕を心配する様子の言葉を言い続けた。

 僕はツァーイにされるがままにその行為を受け入れながら、彼女の背を優しく撫でながら「ごめんね」と何度も謝り続ける事しか出来なかった。

 けれど同じ状況に陥ったら僕はきっと今日と同じ事をしてしまうのだろう。記憶喪失の僕にとって一番大切なのはツァーイだ。だからそれがツァーイの為だと思える事なら、何が何でもやろうとしてしまう。その結果、自分自身が酷い目に……最悪の場合は死んでしまうとしても。

 ツァーイもその事を少なからず理解しているのか、或いは勘付いているのかは分からないけれど、返事をする事はなかった。

 そんな大変な一日も終わってしまえばあっと言う間の事だったようにも思う。そして翌日の朝、食事当番の僕は朝食を協会の食堂へと買いに向かった。

 ファングの街で初めて朝食を買いに向かわされた時は、一般の冒険者達が利用し始めるよりも早めの時間に買いに行かされたのがもう懐かしく感じる。だけど今ではそれよりも遅く、かつ一般の冒険者が利用し始めるよりも少しだけ早い時間に買いに行く事が定着していた。

 そもそもツァーイが早めの時間帯に食堂を利用しているのは、【蒼い疫病】と蔑まれている彼女が人前を苦手としている事に起因している。なので一般の冒険者達が起き始めるよりも早い――ほぼ開店時間の直後――に食堂に向かっている。

 だけど僕自身はそういう事も特にないので、やや遅めの時間帯に滑り込み、万が一他の冒険者達が多く現れたとしても問題はなかった。それでも普通の利用者達よりも少しだけ早い時間帯に向かう事にしているのは、食堂が混み始めるとツァーイの待つ宿泊部屋へと戻るまでの時間が長くなってしまう事と、僕とツァーイが当番の時でクエストを開始する時間が大きくズレてしまう事を懸念しているから。

 そんな訳で(ファングの街を経て慣れているとは言え)フォレスタウンに着いてから初めての朝食購入をしようと、食堂の列(朝早い時間とは言え、ローブやフード、兜や帽子で素顔を隠している訳ありの冒険者がチラホラといる)へと並ぼうとした時だった。

 列の前方に見覚えのある白色のフード付きローブを着込んだ人物が並んでいる事に気付いて、その人の所へと近寄って声をかける事にした。


「……フェアリ?」

「は、はい!? ……ってイラさん!?」


 白ローブの人物――フェアリ――に確認をするように呼びかけると、その人物は驚いたように声を上げた。それでもこちらの事を確認すると、すぐに落ち着いた様子になった。

 周囲にいた(推定)訳ありの冒険者達が一瞬ざわついたが、それもすぐに収まった。ツァーイから聞いた話だけれど、一般冒険者が現れ始める前に食堂を利用している彼らは、一般冒険者達よりも面倒事やトラブルと言った厄介事を嫌い、希薄に生活する事を好む傾向にあるらしい。

 それと言うのも彼らの大半が恐らくはツァーイのように(無罪有罪は別として)人に嫌われている存在だからだろう。この世界(リーネド・ムンリ)ではフェアリやファクトのように半端者(ハーフ)というだけで種族差別をされる人もいるし、そうでなくても魔人(ヴァンディム)は種族ぐるみで『魔物化』と言う種族特性を嫌われているともファクトが言っていた。この分だと他にも正体を隠して行動をしたい人と言うのも色々といるのだろうとは、何となく分かる気がした。


「もう、驚かさないで下さいよ。」

「ご、ごめん。そんなに驚くとは思ってなくて……。それよりフェアリ達もこれから朝ご飯?」

「はい。お二人の部屋へは、朝食を食べてから伺おうと思っていたんですけど。」


 口を尖らせて文句を言うフェアリにやや狼狽えながらも尋ねると、フェアリはムッとした様子から一変して、機嫌を直したかのようにダンジョン内と同じ落ち着いた笑みを浮かべながら答えてくれた。


「そうだね。僕達も朝ご飯はこれから食べる所だし。」

「ですよね。……そうだ! それなら一つお願いしたい事があるんですけど、良いですか?」


 何かを思いついたフェアリがニヤリ、と悪そうでそうは見えない笑みを浮かべながら『お願い』を告げてきた。



「……それで、そのまま連れて来ちゃったの?」


 それから数分後、僕達が借りている宿泊部屋の前。正確にはその渡り廊下で部屋の扉を半開きにしながら出迎えてくれたツァーイが、どこか呆れた様子で尋ねて来た。


「正確には、一度フェアリ達の宿泊部屋に向かってからね。ファクトを呼んで来なきゃいけなかったし。」


 その言葉通りに僕の後方には食堂で偶然にも出会ったフェアリだけではなく、彼女の集団(パーティ)メンバーでもあるファクトもいる。


「……俺にも何が何だか。フェアリ、お前また何か余計な事をしただろ。」

「余計な事って何よ! イラさんだって良いって言ってくれたもん!」


 一方その二人は僕の後方で何やら言い争っていた。……と言うか、昨日も薄々気付いていたんだけど、フェアリって僕やツァーイには敬語を使っているけど、ファクトには溜口なんだ。

 二人がそれだけ仲良しって事なのか、何だかんだ言って僕達との間には壁を感じているのか、どっちなんだろう。


「駄目……だったかな?」


 ファクト達のやり取りを聞きながら、視線はツァーイに向けたまま尋ねる。フェアリと食堂で出くわしたのは偶然だったけど、彼女に『お願い』されて連れて来てしまったのは自分の判断だ。

 ツァーイの事を理解して、受け入れてくれた彼女達なら大丈夫だと思っているけれど、もしかしたらツァーイはまだ何か思う所があるのかも知れない。


「別にそういう訳じゃないよ。ただ、その……いきなりで、少し驚いただけだから。」


 ……と思ったけれど、そういう訳ではなさそうだった。言葉の通りに一瞬だけれど、きょとんとした様子だったツァーイはそう言うと、半開きにしていた扉を更に開ける。


「ほら、三人とも早く入っちゃって。もし他の冒険者達に見られたら面倒でしょ?」


 そう言って部屋の少し奥へと下がって行くツァーイに釣られて、僕も両手に持っている朝食を落とさないように気を付けながら部屋の中へと入って行く。


「それじゃあ、おっ邪魔しまーす!」


 続いてフェアリがウキウキとした様子で部屋に入って来る。勿論彼女も僕と同じく食堂で購入した朝食を持ったままなので、落とさないように気を使ってはいるようだ。


「……なんか、朝から悪いな。」


 最後にファクトが扉を閉めながら部屋に入り、フェアリを傍目にしながら、ツァーイに申し訳なさそうにそう言った。

 また、ファクトが扉を閉めると同時にツァーイ、ファクト、フェアリの三人はフードを外して、素顔を晒した。

 訳ありである三人(特に髪色でそれが判別されるツァーイとフェアリ)は絶対に人目に付かないと判断が出来る場所以外では常にローブに付属しているフードを被って素顔を隠しているが、逆に安全な場所ではあっさりとフードを外すようにしている。

 僕はあのローブを着た事がないから分からないけど、恐らくは結構な熱量が篭っていて、暑いのだろう。思えば今は暖かい……と言うか結構熱い季節だし、フードは別としても普通に暑そうだよね。あのローブ。


「ううん。私も嫌じゃないから。……少し前までは一人だったし、こんなに騒がしい朝は久しぶりだよ。」


 それに対してツァーイは、どこか嬉しそうに呟いた。購入してきた朝食をテーブルの上に置いて、そちらを振り向くと、ツァーイは楽しそうな笑みを浮かべている。


「そうか。そう言って貰えるなら、助かる。……フェアリが色々と迷惑をかけると思うが、よろしく頼む。」

「うん。」

「こらー! 誰が迷惑をかけているって言うの!?」

「……お前のそういう所だよ。」

「えぇ!? 今日のファクトは何か辛辣だよ! ツァーイさん、私迷惑じゃないですよね!?」

「う、うん。別に迷惑なんかじゃないよ。」


 気付けば朝食をテーブルの上に並び終えたフェアリが乱入して、その場が余計に騒がしくなっていた。……けれど、それは決して悪い事ではなくって、寧ろ良い傾向だと思えた。

 こんな風にツァーイの事を少しでも理解してくれる人が増えて行けば、いつかは彼女自身の望みもある普通の暮らしに戻れるとも思える。フリーダ村に着いた時に彼女の存在が本当に受け入れて貰えるかは分からないけれど、ツァーイにその願いを叶えて貰いたいとは心の底から思っている。

 だってツァーイは普通の女の子だ。世間は【蒼い疫病】だなんて言って、ツァーイを厄介者扱いにしているけれど、実際には彼女は無実だ。まだ十五歳の女の子なんだ。確かに強くて逞しい一面もあるけれど、それでも本質は極々普通の女の子だ。とても優しくて、可愛くて、大好きな絵本の勇者に憧れている女の子。

 そんな彼女が幸せになってはいけない筈がない。この先どんな事があったとしても、ツァーイは幸せになるべきなのだ。既に辛い思いを、経験を、沢山味わって来たツァーイに、これ以上苦しんだり、悲惨な目には合って欲しくはない。

 ツァーイだけじゃない。ファクトとフェアリも。彼らも半端者(ハーフ)だから等と種族差別をされてきて、恐らくは僕の想像もつかない様な酷い目に何度も合っているのだろう。この旅の行く先がどうなるかは分からないけれど、皆には幸せになって欲しい。


「どうしたの、イラ?」

「え?」


 そんな事を考えていると、不意にツァーイから呼びかけられ、意識を思考の海から現実に戻された。目の前では心配そうな表情のツァーイがこちらを覗き込んでいた。


「朝食の準備、完了しました!」


 フェアリの声が聞こえて来た方向へと振り向くと、いつの間にかテーブルの上に四人分の朝食が綺麗に並べられていた。先程自分が置いた時はあんな風には並べていなかった筈なので、フェアリがやってくれたのだろう。


「……まあ、なんだ。邪魔している俺が言うのも何だけど、冷める前に食べようぜ。」


 いつの間にかイスに座り込んでいるファクトがバツの悪そうな表情で、こちらを伺っていた。


「あ、うん。ごめんね、ちょっとボーっとしてて……。」


 そう言いながら自分の席へと向かう。フェアリとツァーイが席に座った所で、僕も自分の椅子へと腰を下ろして四人で朝食を食べ始める。

 今日の朝食は特別高級な料理と言う訳でも、特に大好物と言えるような料理でもなかった。そこそこボリュームのある肉が詰め込まれたサンドイッチに、数種の野菜や野草を利用したスープだ。ファングの街の食堂でも似たようなメニューが売られていたのを鑑みるに、やはり特別な料理と言う訳ではないだろう。

 それでも料理その物はそれなりには美味しいし、冒険者向けの食堂と言う事もあってか腹持ちもまあ良い部類なのだろう。

 だけどそれ以上に四人でこうして卓を囲んで食事をしているというだけで、何故だか胸の奥がほっこりしているような気分になる。毎日ツァーイと二人きりの食事をしている時にも感じてはいたけれど、今はその気持ちが普段よりも少しだけ強まっているようにも思えた。

 食事を食べ進める合間にフェアリが誰彼構わずに話を切り出して、ツァーイが相槌を打ちながら聞き入って、時々ファクトがツッコミを入れて、それで僕が少しだけ笑ってしまって、何と言うか良い。凄く良い。胸の奥が暖かくなるような、とても幸せな時間だと思える。


「……さてと、そろそろ本題に入るか。」


 それでもずっと楽しい時間に浸っている訳にも行かずに、全員が朝食を完食した所でファクトが話を切り出した。

 『本題』と言うのが何の事を言っているのかをすぐに理解出来た僕とツァーイは、それでもの間に緩んでいた頬を引き締めるつもりで話を聞こうと構える。

 『本題』――つまりは、昨日僕がファクトとフェアリの二人をリベルーチェ(ギルド)に誘った一件だ。最初は二人にも旅の目的があるから、と断られてしまった……のだけれど――



「「目的地、一緒じゃん(だよ)!!」」


 当初フェアリに頼まれていた狂暴化したカレントバジリスクの討伐を完了し、その後暴走したファクトを何とか正気に戻す事に成功した僕達は、ようやく落ち着いたタイガの森第六層の最深部で遅めの自己紹介を終えて互いの存在を受け入れ合った。

 その話の延長線上で切り出したリベルーチェ(ギルド)への勧誘は断られてしまったのだけど、ファクト達から話を聞く内に二人の目的地が僕達と同じフリーダ村だと言う事を知ってしまった。


「……は?」

「……え?」


 その事実に驚いて思わず叫んだ僕達に対して、ファクトとフェアリも驚いた様子で静かに声を上げた。


「同じって……え? じゃ、じゃあお二人もフリーダ村を目指しているんですか?」


 嬉しそうに顔を輝かせたフェアリが尋ねる。


「う、うん。噂が本当なら私でも普通の生活に戻れるんじゃないかって思って……。」


 少しだけ困惑した様子のツァーイが首を縦に振りながら答えた。


「……マジかよ。……いや経緯が違うとは言え同じ逸れ者同士なら、似たような考えに至ってもおかしくはないか。」


 右手で頭を抑え、同じく困惑した様子のファクトが納得をしようとしている。


「それじゃあ、一緒に行こうよ!」


 そんな各々の様子を見ながら、僕が声を上げた。次の瞬間には三人がほぼ同時にこちらへと振り向いていた。


「だって目的地が一緒ならファクトとフェアリがリベルーチェ(ギルド)への加入を断る理由はないよね?」

「そうですね。私達の目的も、イラさん達の目的も、どちらも同じ訳ですし。」


 僕の二度目の勧誘にフェアリが納得した様子で頷く。どうやらフェアリは、先程までとは違って肯定的に考えてくれている様子だった。


「それに最初から四人で行動出来るなら、昨日みたいに不意に危険な状況になっても助かる確率だって上がるよ! ファクトだって魔物化を使う回数を抑えられるかも知れないしさ。」

「……それは……そうなんだがな。」


 けれどフェアリとは違い、ファクトはどうも判断をしかねている様子だ。


「……一晩だけ待ってくれないか? 確かに俺達としてもギルドへの加入は幾つかのメリットもある。……だが同じように幾つかのデメリットもあるんだ。……この場で即決は出来ない。」


 僅かな間を置いてから考えを纏めたファクトが答えた。


「……それもそうだね。クエストの報酬も一部はリベルーチェ(ギルド)としての取り分になっちゃうから、ファクト達としては稼ぎ方が変わってきちゃうだろうし。その分食費や宿泊費はリベルーチェ(ギルド)側で負担するけど、その辺は難しいよね。」


 ファクトの返答にツァーイが納得をしたように了承をする。

 僕としてもファクトの言う『デメリット』に僕自身の戦闘力が含まれているのだろうと言う事は察せたので、これ以上強くは言えなかった。ツァーイやファクト達のように強くない僕の存在は、ファクト達にとっても足かせになる事は理解出来る。

 何せ現状でも僕では出来ない事が多々あるせいでツァーイの負担が強まっていると思える場面があるのだ。仮にファクト達が仲間になってくれたならその負担は少しだけ減るだろうけど、それはつまり減った分の負担をファクトやフェアリに押し付ける事と同意義なのだから。


「そういう事だ。フェアリと話し合って、明日の朝に返事をする。」

「えー!? 良いじゃん! この場で二つ返事しようよ! OKだって!」

「あのなあ……。」


 ファクトは自らにじゃれてくるフェアリを制しながら、呆れている様子だった。


「……まあそんな訳だ。」

「分かったよ。それじゃあそろそろ帰ろうよ。イラも大丈夫だよね?」


 言われてみてから、改めて身体の調子を確認しようと数回程両手を握りしめたり、開いたりを繰り返す。疲労が全くない訳ではないけれど、それでも気を失っている間にツァーイかフェアリが治癒魔法を使ってくれたのか、特に傷んだり不調になっている箇所はないように感じられた。

 意識を手放して眠っていた影響で魔力(マジック)も多少は回復している事も感じられた。とは言っても全快している訳ではないので、過信は出来ないけど。

 また手元を確認してみると暴走したファクトとの戦闘中に手放してしまった銅の剣(ブロンズソード)と木の弓(ウッドボウ)もちゃんとあった。恐らくはツァーイが拾って来てくれたのだろう。背中の矢立ての中には購入時と比べて数が減ってしまってはいたが、まだ三十本以上は木の矢(ウッドアロー)も入っている。

 後から聞いた話だけどカレントバジリスクに撃ち込んだ矢は、その全てが毒に侵されてしまったのでツァーイが魔法で燃やしたと言っていた。


「うん。問題ないよ。魔力(マジック)が少ないから魔法は、あんまり使えないだろうけど……。でもそれ以外は大丈夫!」



 そしてその後は四人でタイガの森(ダンジョン)の最深部から脱出して、フォレスタウンへと帰還。一夜明けて今に至る訳だが、肝心のファクトの返事は――


「まずお前達のギルドに加入するかどうかだが、これについてはしばらく保留にさせて欲しい。」


 相変わらずどっちつかずの煮え切らないものだった。


「理由は昨日も言ったが、一度ギルドに加入してしまえばメリットもあるがデメリットもあるからだ。……命の恩人でもあるお前達が今更俺達を騙そうとしているとは思っていないが、何かあった時に俺達は自分達の身を自分達で守るしかないからな。」


 そこで言葉を一度区切って間を置いてから、尚もファクトは僕達から視線を外さないで話を続ける。


「……それに自分の命は別としても、万が一フェアリとお前達のどちらかしか救えないって状況になったら、俺は間違いなくフェアリの為に動いてしまう。そうなった際にギルドメンバーとしては困るんじゃないかと思った。」


 それは、まあ、一理あるとは思う。けど、それは当たり前の事なんじゃないのかな? 僕だってツァーイが一番大切だ。どちらかしか救えないと言う前提条件ならば、間違いなくツァーイの為に動くだろう。……例えその決断のせいで、他に大切なものを失う事になったとしても。自分自身が危機に陥ったとしても。


「うん。分かったよ。……それじゃあこの件はなかった。報酬は別払いでって事で良いのかな?」


 僕と同じくファクトの言葉に思う所があったのか、素直に受け入れたらしいツァーイが声を発した。

 元はと言えばファクト達をギルドに誘ったのは駄目元でも言うだけ言ってみよう、みたいな考えだった。了承してくれたらラッキーだな。もしも仲間になれたこれからは四人で頑張ろうよ。……そんな程度の非常に浅はかな考え。

 行き先が同じだったとは言え、ファクトとフェアリの二人はこれまで二人でも何とかなって来た凄腕(少なくとも僕よりは格上)の冒険者だ。借りを(主にツァーイが)作ったとは言え、大人しく了承するとは思っていなかった。

 それに昨日二人を勧誘した時点では気付かなかったけれど、今にして思えば……何と言うか、非常に仲が良さそうで、もしかして恋人同士だったりするのかな? とか今更ながらに思ってしまって、誘ったのは不味かったかな? なんて考えてしまう。

 最も世間から逸れ者扱いにされている男女二人組みの冒険者ってだけで、恋人同士だなんて考えてしまうのも浅はかかも知れない。だって同じ男女二人組みの冒険者でも、僕とツァーイは……別にそういう関係じゃ――


「……いや、保留と言っただろう。ま(・)だ(・)入らないとまでは言ってない。」


 少しだけ逸れていた思考がファクトの声によって現実へと引き戻された。危ない。あのまま思考を続けていたら、きっと、何か、余計な事を考えてしまったように感じる。しかも恐らくは、それで勝手に意気消沈して、ネガティブな思考に陥る嫌なパターンに。

 ……って、今ファクトは何て言った?


「保留? ま(・)だ(・)? それって、どういう……」


 ファクトの言っている意味が良く分からなかった。だって断ったじゃん。いや、断ってはないか。入らないとか、NOと直接的に言われた訳ではない。あくまでも保留だって言っていた。けど、それって断るって意味じゃないの?


「今言った通りにギルドに入るのは決め兼ねている。だけどお前達に大きな借りがあるのは事実だし、目的も一致している。それに俺達としても理解者が一人でも多いに越した事はないって思っている。……だから、その、なんだ。」

「ああっもう! ファクトってば、じれったいよ! 話が回りくどすぎるよ!」


 今まで大人しくしていたフェアリが唐突に声を張り上げた。


「ようするにね。ギルドに加入するかどうかは一旦置いといて、それとは別にフリーダ村までは一緒に行こうって事でしょ?」

「……そういう事だ。繰り返しになるけどお前達への借りは返したいと思っている。けどギルドに関しては本当に決め兼ねているんだ。……だからしばらくの間はギルドには加入しないけど、集団(パーティ)を組みたいとは思っている。その方がお前達のギルドに加入するかどうかの判断もし易そうだしな。」


 フェアリが要点を纏めてサラリと述べ、ファクトがそれを補足するかのように説明をした。

 え? それって、つまり?


「とりあえずフリーダ村に着くまでは、一緒に戦ってくれるって事? ……本当に?」


 二人への勧誘を言い出した張本人なのに、本当にそうなってくれると信じられなくって、恐る恐る尋ねた。


「ああ。」


 ファクトからの返答は肯定だった。


「……それともギルドに加入しないで集団(パーティ)を組むだけでは不服か? まあ、虫の良い話だとは――」

「……そんな事ない。それだけでも十分助かるよ。」


 ニヤリと笑いながら、それでいてどこかバツの悪そうな表情も浮かべているファクトの言葉を遮るかのように、食い気味に、それでいて少しだけ震えた声で返事をする。


「……って僕が返事をしちゃ不味いのかな。ツァーイはどう思う?」


 返事をしてからリーダーでもない自分が勝手に決めるのは不味かったなと思い直して、慌ててツァーイに話を振った。


「私もそれで良いよ。……でも本当に二人はそれで良いの? 私と一緒にいたら、嫌な目に合うかも知れないし、それに――」


 幸いにもツァーイも肯定的だった。けれど様々な土地で噂となってしまっている【蒼い疫病】としての悪評を気にしてか、どこか後ろ向きにもなっているようだ。


「そんな事は関係ないよ! 私はツァーイさんの事が好きだし、もっと仲良くなりたいと思っているよ!」

「そもそも俺達自身も半端者(ハーフ)で、似たような扱いだしな。そんな事は気にしてないし、気にならない。」


 けれどフェアリとファクトは、それを簡単に否定してくれた。世間から同じ逸れ者として、嫌われているからか、二人はツァーイの事を理解して、受け入れようとしてくれている。

 その事がツァーイ当人じゃないのに、僕は凄く嬉しい事のように思えた。


「そっか……。それじゃあ、これからよろしくね。フェアリ、ファクト。」

「二人共ありがとう。」

「うん! こっちこそよろしくね、ツァーイさん、イラさん。」

「ああ。よろしく頼む。」


 こうして僕達はファクト達と集団(パーティ)を組む事が出来た。リベルーチェ(ギルド)への加入は保留という扱いになったので、ギルドメンバーではないけれど、それでもツァーイの事を理解して、受け入れて、力を貸してくれる人が増えたのは僕達にとって大きな前進となるだろう。

 朝食を食べ終えて、話も纏まった所で、僕達は早速クエストを受注して四人でタイガの森へと向かって行った。

・キャラクター紹介


『ファクト・ライジング』

種族:半魔人(ハーフヴァンディム)

年齢:17歳

性別:男

身長:170cm

髪色:黒色

瞳色:紫色(左目)黒色(右目)

 魔人(ヴァンディム)と人間(ヒューマン)の間に生まれた半魔人(ハーフヴァンディム)。

 魔人(ヴァンディム)からは人間と見なされて襲われ、人間(ヒューマン)からも魔物の血を引く忌子として迫害されて来た。

 魔物化によって、その力を開放する事で右腕を巨大な骨の腕に変化させる等の部分変化を行う事が出来るが、普段は誰かに見られない様に大剣を使って戦闘を行う。

 魔物化を使い続けると魔物の衝動を押さえられなくなって理性を飲まれて暴走をする事もある。

 ある日偶然助ける事となったフェアリに以後懐かれ、当初は鬱陶しく思っていたファクトだったがある事件が切っ掛けとなり、彼女の存在を受け入れる事に決めた。

 それ以来二人で旅をしていたが、窮地をイラ達に救われて、集団(パーティ)に加わる事に。


『フェアリ・ライフ』

種族:半妖精人(ハーフエルフ)

年齢:16歳

性別:女

身長:167cm

髪色:銀髪

瞳色:緑色(左目)黄色(右目)

 妖精人(エルフ)と人間(ヒューマン)の間に生まれた半妖精人(ハーフエルフ)。

 妖精人からは【穢れた子】と忌み嫌われ、人間からは強い魔力を持つ存在として畏怖され、両種から迫害されて来た。

 その為冒険者紛いの行いをする事を強いられるが、元来エルフは魔力特化の種族で武具を用いた戦闘は不得手である。半端者(ハーフ)のフェアリは護身レベルの剣術は使えたものの一人では自身の膨大な魔力を活かす戦い方は出来なかった。

 このままいつか呆気なく死んでしまう事を自覚しながらも日々の飢えを凌ぐために魔物を討伐する日々を繰り返していた。

 そんな折に陥った死地をファクトに助けられて、彼に懐く。以降フェアリはファクトに懐き、彼に同行するようになる。

 一方でファクトは自分を拒絶しようとしていたが、後日その訳である魔物化を見てもフェアリの彼に対する態度が変わらなかった事でその素振りは無くなった。

 また近接戦闘に長けたファクトとコンビを組んだ事によって魔法での戦闘を行いやすくなり、魔法での援護に専念した戦闘スタイルに以降し、扱う武器も細剣(レイピア)から護身に特化したナイフと遠距離攻撃用の弓矢に変更する事をファクトに進められた。

 一応今でも細剣(レイピア)を携帯してはいるが、使う事はほぼなくなった。


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