記憶三十一―報酬の対価、それは勧誘の切っ掛け―
暗い。周囲一帯が深淵だとでも言わんばかりに真っ暗だ。
自分が何でこの暗闇にいるのかも、どこから来て、どこへ行こうとしていたのかも分からない。
周囲が暗闇だから自分が目を開けているのか、閉じているのかも分からない。
そんな暗闇の中で身体の自由も利かないままに、ただただ落ちて行く感覚だけが全身に伝わっている。それ以外に感じるものなど一つもなく……いや、一つだけあった。
時折『声』のようなものが聞こえた気がする。はっきりとは聞こえないので、それが声なのか、音なのか、はたまた幻聴なのかも分からないし、それが何と言っているのか、自分に何を伝えようとしているのかも分からない。だから実際には何も感じていないのと同意義なのかも知れない。
どれだけの時間を落ちているのかも分からず、時間の感覚も曖昧なものだ。それでもずっと落ちていると、いつしか暗闇の中に一筋の光が差し込んできた。その光を自分は知っていた。今となってはすっかり慣れ親しんでしまい、無条件に信頼出来る存在。その温もりを微かに感じながら、ここではないどこかへと連れ戻されて行くのだと、何故か理解をしている自分がいた。
「ん、うぅん……。」
僕は眠っていたのだろうか? そうとしか思えない感覚を感じながら瞳を見開き、首を左右に回しながら周囲の様子を確認する。
どうやら自分は木を背もたれにしているようだった。最近こんなのばかりだなあ、等と既視感を感じていると、すぐに聞き慣れた少女の声が耳に響いた。
「イラ! 意識が戻ったんだね。」
「ツァーイ……?」
声のした方向へと振り向くと、すぐ傍にいたツァーイが視界に映った。彼女はの表情と声音から自分を心配してくれている事が伝わってきて、思わず首を傾げる。「何でそんなに心配をしているの?」と聞き返そうとして……思い出した。
自分達がタイガの森で出会ったフェアリに仲間のファクトを助けて欲しいと頼まれて、狂暴化したと言うカレントバジリスクと戦って、そしてその最中に暴走をし始めたファクトとも戦闘になって――その戦闘で全ての力を限界まで使い果たして、戦いが終わるよりも先に自分が倒れてしまった事を。そしてツァーイを逃がそうとしたのにも関わらず、それを良しとしなかった彼女一人を戦わせてしまった事を。
そこまで思いだした所で、ハッとしたように慌てて問いかける。
「っ……! ツァーイ! 大丈夫!? 怪我はない!?」
「う、うん。私は大丈夫だよ。それにほら、フェアリも。」
驚いた様子のツァーイが二度首を縦に振りながら、チラリと右方向へと目配せをした。釣られてその方向へと視線を移すとそこには銀髪の妖精人らしき少女――フェアリ――と、その隣には見知らぬ男がいた。男の髪色は漆黒を思わせるような黒で、瞳は紫と黒のオッドアイだ。うん。やっぱり心当たりはない。
「イラさん、無事で良かったです! それと私達のせいで色々と迷惑をかけてしまって、ごめんなさい!」
「……その悪かったな。俺のせいでフェアリにも、お前達にも、手間を取らせた。……すまない。」
フェアリと男がツァーイと同じく、心配したように声を発した。それと同時に二人は謝罪の言葉も述べる。
それに対して自分は訳の分からない様子で首を傾げた。いや、正確にはフェアリの言う事は分かる。偶然出会っただけの他所の冒険者を巻き込んで、しかも救出対象であった筈の自分の仲間との戦闘までさせてしまった。それも一手間違えれば死者が出てしまうような状況下で、相手を殺さないという条件付きのを。
だからフェアリが自責の念を感じているのには、寧ろ同情してしまう部分もある。……けれど、男の方は一体何を言っているのかが分からない。だって、僕達はこの人の事を知らない。フェアリと一緒にいるって事は彼女の仲間なんだろうけ、れど……。
そこまで思考してハッとする。目覚めてから二度目だ。途端に相槌を打つように男が自己紹介を行う。
「この姿では初めまして、だな。ファクトだ。ファクト・ライジング。」
「えええええぇぇぇーー!? ファクト!? だって腕とか足が……角だって……。」
男――改め、ファクト――の言葉に思わず声を荒げてしまう。だってこの人には骨の腕も、獣の足も、一本角もない……どこから見ても、正真正銘の普通の男性にしか見えない。先程までの戦闘中で異形としか言い表せない姿はどこにもないのだから。
僕が意識を失っている間に予め聞いていたのか、隣からツァーイのクスクスという笑い声が聞こえた。
「あー……やっぱりそうなるか。本当なら教えたくはないんだけど、お前達は巻き込んじゃったしな……。仕方がないか。」
そう切り出しながら、ファクトは語り始めた。
「……俺は半魔人って種族だ。」
「半端者……? 魔人……? 確か半端者は、別々の種族の間に出来た子の事だっけ……?」
以前にツァーイが故郷の話をしてくれた時の事を思い返しながら、ファクトに尋ねる。
「……お前、俺を揶揄っているのか?」
すると何故かファクトが鋭い眼光を光らせながら、静かに、それでいてドスの効いた声で問いかけて来た。何これ怖い。え? そんなに聞いちゃ不味い事なの? あ……半端者って確か世間的には差別されてるんだっけ……? なんでかは良く知らないし、ツァーイを排する世間の事情なんて知ったこっちゃじゃないけれど。
「いや、そういうつもりはないんだけど……。」
「ファクト! それは後で良いから!」
突然の事態に僕が狼狽えていると、フェアリが助け船を出してくれた。
「……はぁ。とにかく、俺の親父は魔人で、母は人間。その子供として生まれた俺は、魔人と人間の血を半分ずつ分け与えられていて、結果としてどちらの種族としても中途半端な存在。半魔人って訳だ。」
「それで? その魔人って言うのは? 私も聞いた事がないんだけれど。」
溜息を漏らしながら説明を再開したファクトに、ツァーイが問いかけた。何だろう。いつもは僕がツァーイに教えて貰う事ばかりだから、ツァーイが何かを聞いているのが凄く新鮮に思える。
「だろうな。そもそも魔人って種族はあまり表沙汰に出ていない。外見的には人間と殆ど同じだから、もし街中ですれ違うような事があっても簡単には気付けない筈だ。……最も今じゃ魔人はほぼ絶滅しかけているから、気付けたとしても出会う事はそうそうないだろうけどな。」
「絶滅……? どうして?」
気になってしまって、つい口を挟んでしまった。言ってから本日三度目のハッとして、これこそ聞いてはいけない事だったのではと思い直した。しかし時既に遅しだ。
「……そこを話すと長くなるし、そこまで話す義理はない。」
だけど返って来た反応は先程のような不機嫌染みたものではなく、素っ気ないものだった。なので僕もこの件に関しては追及をしないでおこうと心に決める。すかさずにツァーイが次の質問をした。
「……それじゃあ人間と魔人の違いは?」
「……端的に言えば、魔人は人間では決して得られない『魔物化』って種族特性を持っている。これは自らの血に宿る魔物の力を開放して、その力を行使するって能力だ。血統やら個人差によって程度が変わってくるが、一度力を開放すれば身体能力が飛躍的に向上する。お前達が先程見た、俺の姿は魔物化を使用した状態の姿だ。」
「それじゃあ、あの骨の腕とかは魔物の……?」
「ああ。スケルトンキングの腕、ダージュウルフの足、ブラストオーガの角が元になっている。」
「何それ凄い! 敵の力を使って変身して戦うなんて、ダークヒーローみたい! カッコイイ!」
ツァーイとファクトの会話を邪魔しないようにと思っていたけれど、話の内容にテンションが上がってしまって、気が付けば興奮した様子でそう叫んでしまっていた。
言ってしまってから不味かったかな……と我に戻ったけれど、仕方がなかった。だって変身だよ!? 変身して敵と戦うなんてカッコイイじゃん! ロマンだよ! 物語の主人公みたいで羨ましい!
「……お前なぁ――」
「でしょ、でしょ! ほら、分かる人には分かるんだよファクトの良さが!」
僕に対して不満気に見えるようなジト目を向けて来たファクトが何かを言おうとしたけれど、フェアリが両手をファクトの首に回して抱き着きながら僕と同じように高めのテンションで言葉を制した。
「……はぁ。お前らなぁ……いや、もう良いや。」
ファクトが右手で頭を抱えるように抑えながら呟いて、ツァーイに問いかけた。
「なあ、イラって普段からこの調子なのか? 半端者にしても、魔物化にしても、普通の人間と反応が違い過ぎて、逆にやり辛くなって来たんだけど……。」
「うん。普段より少しテンションが高いとは思うけど、大体こんな調子だよ。」
「そうかな? まあ、記憶喪失だからね。毎日が未知との出会いって言うか、やっぱり新しい事を知るのが楽しいんだよ。」
「イラさんって記憶喪失だったんですね。だから私が半妖精人だって事を知らないってツァーイさんも言って……」
そこでフェアリが言葉を切って、ハッとした様な表情を浮かべた。ほぼ同時にファクトと僕も似たような表情を浮かべる事になっていたと思う。
「「なっ(えっ)……記憶喪失!? イラ(さん)が!?」」
「え……フェアリって妖精人じゃなくて、半妖精人なの!?」
「えっと……話の途中で悪いんだけど、一旦自己紹介をし直さない? ファクトもさっきの不干渉って約束はもうなしで良いからさ。お互いに正体がバレちゃった訳だし。」
三人が同時に叫ぶ中で、一人だけ自分のペースを崩さないツァーイの姿がそこにはあった。僅かな硬直時間の後に、ツァーイの提案で僕達は改めて自己紹介をし直す事になった。
そうして僕もツァーイも包み隠さずに全てを話す事にした。ツァーイもフェアリやファクトに髪色を見られた事で踏ん切りが付いていたようだ。
僕が記憶喪失で年齢不詳、出自や家族も不明な事。そんな状態でツァーイに拾われた事。
ツァーイの故郷が病によって滅ぼされてしまい、幼い彼女が一人で放浪の旅を始め、やがて【蒼い疫病】だと忌避される事となり、正体を隠して冒険者になった事。
その一方でフェアリは故郷だった妖精人の集落から、ある日追放されてしまい、行く当てもなく旅を続け、その最中で生きる為に冒険者となった事を語り始めた。
【蒼い疫病】と同じく、世間では半端者は種族を問わず忌み嫌われる存在だ。そして半妖精人は他種族の半端者よりも銀髪と言う一目で見分けられる特徴故にその風評被害を最も被っている種族である。
そんな訳でフェアリは、ツァーイ同様にフードで銀髪を隠しながら単独の冒険者として、あちこちを転々としていた。
妖精人は人間の道具を扱うのが不得意な種族ではあったが、半端者であるフェアリには人間の血も流れている為、不器用ながら細剣を扱う事も出来た。またその反面で妖精人は魔法を扱う事には長けているので遠距離攻撃にもこまらず、何とか一人でもやっていけたようだ。
「それで二年前のある日の事なんだけど、私がいつも通りにダンジョンでクエストを終わらせて帰ろうとしていたら、突然狂暴なウォータードラゴンが現れて、襲われちゃったの。」
「もしかして、さっきのカレントバジリスクみたいな……えっと、狂暴化だっけ? そういうタイプの?」
『狂暴』と言う言葉に、先程目の当たりにした暴れ狂うカレントバジリスクの様子が重なった。『狂暴化』等と大げさに言っているだけの事はあって、魔物に詳しくない僕でも「アレは他の魔物とは何かが違う」と一見で見分けがついた。
実際に戦闘になった際にも普段相手にしている魔物とはあまりにも違う格上の相手で、ツァーイ達が自分よりも危険な前線で戦っているのに、僕だけが最後の最後まで何も出来なかったのが悔しかった。戦闘中にあんな思いをするのはもう嫌だ。
「ううん。状況は似ているけど、あのウォータードラゴンは普通の個体だったよ。ただその場所にいるって報告はされてなかったし、ちょっと機嫌が悪いような感じって言えば良いかな。とにかくイレギュラーな事態には変わりなかったし、私も流石にこれは倒せないかな……って思って、逃げようとしたんだけれど、周辺の木々を数十本となぎ倒されたせいで出口を塞がれちゃってね……。」
「それでどうしたの?」
「幸い近くに洞穴があったの。光の魔法で目眩しをした隙に、そこへ逃げ込んだの。洞穴の奥は行き止まりだったけど、ウォータードラゴンが出入り出来るようなサイズじゃなかったから、息を潜ませていれば見つかる事はなかった……だけど問題があってね。」
「問題?」
「魔法を使って洞穴に道を作る事や、倒れた木々を破壊するなり、どけるなりは出来たんだけど……そうすると物音に反応してウォータードラゴンに感づかれる可能性が高かったの。洞穴には入れないとは言ったけど、私の居場所がバレたら洞穴を破壊されて、私も生き埋めにされると思ったの。だからあいつがいなくなるまで、やり過ごそうとしたんだけれど、あいつは数日経ってもいなくならなかったの。それで六日か、七日だったかな? 時間の感覚も分からなくなって来た頃に、とうとう手持ちの物資も尽きて来て、これはもう餓死してしまう前に一か八か生き埋め覚悟で魔法を使うしかないかな……そう思った時だったの。」
「……たまたまそのダンジョンの洞穴に用があった俺が通りかかったんだ。」
フェアリの語りに僕やツァーイが相槌を打ちながら聞き入っていると、そう言ってファクトが語りを引き継ぎながら、改めて自己紹介を始めた。
前述された通り、半魔人であるファクトも当然半端者故の風評被害を恐れていて、一人で冒険者をしていた。例に漏れずフードで素顔を隠しながら。
ただ半魔人とは言っても半妖精人とは違っていて、外的な特徴はないし、そもそもが魔人という種族が一般的にはあまり知られていない上に、身体的な特徴が黒髪だけのようだ。
そしてこの黒髪もツァーイの蒼髪や、妖精人の金髪、半妖精人の銀髪とは違っていて、人間やその他の種族の中にも黒髪の人と言うのは一般的に存在しているので髪色だけでは正体の判別が不可能だと言う。
それでもフードで素顔を隠していたのは、妖精人や魔法人と言った『魔法・魔術』と言った『魔』に近い種族からは違和感を感じられる事もあり、同族――つまり、魔人・半魔人――にも正体は簡単に見破られるとの事だった。あのフード付きローブにはそう言った外部からの知覚をある程度までは鈍らせる特殊効果が付属しているようで、その為に一人でいる時以外はフードを外せなかったようだ。
そんなファクトがある日たまたまダンジョンを通りかかった。本来なら素通りするエリアだった筈なのに運悪く立ち塞がってしまったウォータードラゴンを、彼は魔物化の力を使用する事さえなく、大剣を数回振り回すだけで討伐してしまったと言う。
そして本来の用事である洞穴でのとある鉱石の入手を果たそうと、洞穴に入るとそこには酷く衰弱しているフェアリがいた。
「それで成り行きで助けてやったら、妙に懐かれてな。半端者は同族である半端者を忌避したりはしないんだが、まぁ魔物化はまた別の問題だろ?」
「確かに最初は少し驚いたけど……。」
ファクトの場合は半端者である事よりも、魔物化の状態を目撃されて忌避されている様子だ。
確かに同族や、事情を知っている人達以外があの異形の姿を見て、驚くなと言う方が無理かも知れない。事前知識がなければ人型の魔物と大差がないようにも見えるし、僕達も最初は驚いたので強く否定は出来なかった。
「だから魔物化の事を知られる前に別れたかったんだが……結果は見ての通り。結局は後日狂暴化した魔物とバッタリと出くわして、フェアリの前で魔物化を使わざるを得ない状況にまで陥って。……今日程ではないけど軽く暴走もした。……それでもフェアリは俺を受け入れてくれて、それからは二人で集団を組んで旅を続けている。」
「それでフォレスタウンに到着したのが六日前って訳。……そうだ。あのね、ファクト。実は今回の件でイラさん達に報酬を支払わないといけないんだけど、持ち合わせで何か良い物ってあったかな?」
話の流れで突然思い出したかのようにファクトに相談をするフェアリ。それを見て、その件を言い出したのが自分だと言う事を思い出した。どうしよう。言い出しておいて何だけど、こういうものの相場とかが分からないから、支払いをお金にしても、物資にしても、何を請求すれば良いのかが……とそこまで考えて、ある考えが頭に浮かんだ。いや、でも、こういうのって良いんだろうか……?
「どうせフェアリの事だから、手持ちの金額や物資を確認せずに了承したんだろ。」
「えへへ……。」
「お前なぁ……。とは言え、今回は本当に助かったしな。」
そう言ってファクトがツァーイと僕に向かい直した。
「悪いが必要最低限の武装や金額を除いて、俺達の物は協会の宿泊部屋に置いてあるんだ。支払いは街に戻ってからでも良いか? お前達は文字通り命の恩人だし、俺達の事も邪見にはしない。……それに俺自身も暴走して迷惑をかけたからな。金にしろ、物にしろ、俺達に支払える額なら出せるだけは出すよ。」
「んー……じゃあ、それでお願いしようかな。私達もクエストの報告をしないといけないから、協会には戻らないといけないし。」
「あのさ、その件で話があるんだけど良いかな? 報酬の代わり……って訳じゃないけど、ファクト達に頼みたい事を思いついて……。」
意を決して、ファクトとツァーイの間で纏まりかけていた話に割り込んだ。言うべきか、言わぬべきか、少し迷ったけれど、それでも言う事に決めたから。うん。言うだけなら、頼みこむだけなら、無料だ。失敗したとしても、損は無いだろう。……それにこんな機会はもうないかも知れない。
「別に良いけど、今度は何を思いついたの?」
「言ってみろよ。さっきも言った通り、俺達に出来る事なら引き受けてやる。それに無理なら無理で断るだけだ。」
「はい。ファクトを助けてくれたお二人の為なら、私も頑張りますよ!」
「ありがとう。……その前に改めて確認したいんだけど、ファクトとフェアリは、ツァーイが【蒼い疫病】だって事を別に気にしたりはしないよね?」
首を傾げながら了承をしてくれたツァーイ。先を促してくるファクト。両手を前に構えだして気合を示すフェアリ。三者の反応を目にしながら、その前に一つだけ確認をする。
それは、この頼み事をするに当たって最も重要な事だった。もしもツァーイが良く思われていないのであれば、この件を頼む事は出来ない。
「うん? まあ俺達も散々半端者だの、魔物だのって言われてるし、身を持って知っているからな。お前達が俺やフェアリを半端者だからと蔑んだり、危害を加えようとしなければ、気にしたりなんてしないさ。」
「そうそう。私達にとってお二人は恩人ですし。それにさっきも言ったけど、私はツァーイさんの髪色、好きですよ。綺麗な色で、触り心地も良くて、本当に羨ましいです!」
「……それにツァーイの傍にいるお前がそれだけ元気なら、【蒼い疫病】って言うのもどうせ誰かが適当に作った悪質な話だろうしな。確かにその《サイス》って疫病にツァーイだけが感染しなかったって言うのは気になる。だけどそれだけでツァーイが《サイス》の発生源と言うには根拠がなさすぎる。だから俺達はお前達を信じる事にする。……それで問題はないだろ?」
「うん。十分だよ。」
「あ、ありがとう。」
ファクトとフェアリの答えに満足した僕は、首を縦に振る。隣にいたツァーイは色々と思う事があるのか、照れている様子でお礼を述べていた。
二人の回答を聞いて、ツァーイの様子を見て、これなら成功したとしても問題はないなと確信をする。
そして一拍間を空けた後に、改めてファクトとフェアリに頼み事をする事を決め、それを口にした。
「それじゃあ本題に入るね。……二人が良ければで良いんだけど、リベルーチェに、僕達のギルドに入ってくれないかな。」
元々フォレスタウンまでの道中で、ネロバードに苦戦をし始めていた頃から仲間が必要だとは思っていた。そう思ってしまったのは、僕がツァーイと比べてあまりにも未熟だからだろう。彼女と比較した時に、僕だけが出来ない事があまりにも多すぎた。
ネロバードの件に関しては僕が弓矢を扱うと言う方法で解決したと言っても良いけれど、今後も僕がツァーイの力になれない様な場面に直面する可能性がある事は否めない。カレントバジリスクのように僕の武器が正攻法では効かない敵と出くわしたら、或いは魔法を何度も使用する事を強いられる状況下に陥ったら、それだけでも僕はツァーイにとって役立たずに成り下がってしまう。普段から足手纏いだって自覚はあるけれど、それでも『多少は力になれる冒険者』と『全く役に立たないお荷物』では話が変わってしまう。
だからそう言った自体に出くわした際に、ツァーイ一人に負担を押し付けないで助け合える仲間が欲しいと思ってしまった。僕がツァーイに追いつくには、まだまだ沢山の時間が必要だと理解しているからこそ、余計に。
けれどツァーイが(彼女に非は全くないのにも関わらず)【蒼い疫病】だと忌み嫌われていて、人前で正体を明かせない以上、それは叶わない願いだとも分かっていた。そう割り切っていた。割り切ろうとしていた。
だけど奇跡的にもツァーイと同じような境遇の、それでいて彼女の存在を受け入れてくれる人達と出会う事が出来た。だからこれは、チャンスだと思った。
「僕はまだ弱いからさ、いざって時にツァーイを守れないかも知れない。だからフェアリとファクトの力を貸して欲しいんだ。」
そう言ってその場に座ったままの状態で頭を下げる。そして返って来た返答は――
「……悪いが、そういう事なら俺達は力になれそうにない。」
――拒否だった。声の主はファクトだ。
反射的に僕も顔を上げながら、「やっぱり駄目か……」と納得出来た。 何せファクトもフェアリは、かなり強い冒険者だ。更に付け加えるならファクトはツァーイに匹敵する力量を持っている。フェアリは剣の腕が未知数だけど魔法の精度に関してはツァーイ以上かも知れないし、弓の腕は武装の違いを除いても、やはり僕よりも上だと思えた。
そんな凄い二人がツァーイだけならともかく、僕みたいな未熟者のお手伝いをしてくれると言うのは、とても虫の良い話だ。最初から駄目元のお願いで、簡単に了承をして貰えるとは思っていなかった。その事を裏付けるかのように、胸の奥では落胆よりも諦めに近い感情が渦巻いているが感じられた。
「ちょっと! ファクト! 何もそんなにバッサリと言わなくても良いじゃん!」
「そうは言ってもなぁ……。」
一瞬の静寂の後にフェアリがファクトに対して抗議の声を上げながら、ポカポカと可愛らしい様子で彼の胸元に向かって、両手で交互に叩いていた。
それに対してファクトはやや罰の悪い様子で、その行為を受け入れていた。
「一応理由を聞いても良いかな?」
「……そうだな。あそこまで言った上で断るんだから、説明する必要はあるよな。」
「私達はある場所を目指して旅をしているの。だからイラさん達と一緒に行くと、その目的から遠ざかっちゃうの。私としても二人の力にはなりたいんだけれど、一緒には行けない、かな……。」
ファクトを叩くのを止めながら、フェアリがギルドへの加入を断った理由を語る。それは至極全うな理由だった。
確かに単独の冒険者ならともかく、二人とは言え集団を組んで旅をしているのだから、旅の目的の一つや二つがあってもおかしくはないし、寧ろ当然の事だった。僕とツァーイも今はフリーダ村を目指して旅している訳だし。肝心の村の居場所が噂話程度にしか出回っていないから、村に到着するのが、一月先か、一年先か、それとも何十年先になるのかは分からないけど。
「そっか……。それなら仕方がないね。私達も目指している場所があるから、そっちに着いて行くって訳にもいかないし。」
「そうだね。……それでファクト達はどこを目指しているの?」
ツァーイの言葉に頷きながら、視線をファクト達の方へと戻しながら尋ねる。
「フリーダ村だよ。私達の様な半端者でも普通に暮らせるって聞いたから。」
「……とは言っても噂だけどな。実際に辿り着けたとしても、俺達を受け入れて貰えないようなら、また別の場所を一から探すつもりだ。」
「そっか。二人はフリーダ村に向かってい、る、んだ……?」
フェアリとファクトの問いに納得をするかのように、コクコクと頷いた所で何かが引っかかったように言葉の歯切れが悪くなった。
あれ? 僕達もツァーイが普通の暮らしに戻れるようにって似たような村を目指していたような……? 確か村の名前は――
そこまで思考が回った所でふとツァーイの方へと振り向くと、彼女はハッとしたような驚いた表情を浮かべながら僕の方へと視線を向けていた。恐らくは僕も今ツァーイと同じような表情を浮かべているのだろう。
「……どうかしたのか?」
その様子に怪訝そうなファクトが声を発したが、同じく心配した様子でフェアリがこちらを見ていた。しかし僕達はその言葉や様子を正しく認識しないままに、思っている事を高らかに叫んだ。
「「目的地、一緒じゃん(だよ)!!」」




