記憶二十四―異形の青年、それはファクト・ライジング―
――タイガの森、第六層。
僕とツァーイにとっては初めて訪れる土地であったけど、タイガの森の道順を把握しきっていたフェアリの案内によって僕達は殆どの魔物と遭遇をしないままにダンジョンを突っ切る事が出来た。
それでも戦闘が全く無い訳ではなかった。
第二層では戦闘を回避出来たけど、第三層ではウッドリアンと言う木に手足が生えたような魔物と一度だけ戦闘になった。
第四層ではビッグビーと言う大きな蜂型の魔物と二度の戦闘をこなして、第五層ではマンドラゴラと言う叫び声の煩い植物型の魔物と三度戦う事になった。
恐らくは僕一人なら勝てない相手なのだろうけど、ツァーイやフェアリのお陰で何事もなく切り抜ける事が出来た。
盾で敵の攻撃を弾きながら剣で切り裂き、距離をとる相手には魔法を放てる遠近共に戦えるツァーイが前衛に立って敵の注意を引き付ける。
レベルの低い僕は「深い層だとどんな攻撃でも致命傷になるから」と、ツァーイに半ば脅されて後列に下げられた事もあって弓矢での遠距離射撃に専念する事に。魔法はいざと言う時の為に温存をしようと決めていて、ここまで一度も使ってはいない。
基本的な戦い方は第一層で戦って来た時と同じ要領だ。だけど僕達にファクトを助けるように頼んで来たフェアリが一時的に集団に加わった事で、戦闘は今までよりもスムーズになった。
フェアリの所持している武器は三つ。一つ目は左腰に帯刀している細剣。しかしこれについては使う素振りを一度も見せなかった。
少し気になったので本人に確認をしてみると「この剣はファクトと出会う前に使っていたんだけど、ファクトに戦い方が合わないって言われてからは殆ど使ってないんだよ。護身用に持ち歩いてるだけだと思ってくれれば良いかな。」と言われた。
戦い方が合わないと言う意味が何となく分からなかったけど、その点に付いては触れるのを止めておく事にした。本人が納得しているのなら聞くような事でもないと思うし。
二つ目は右腰付近のポーチにしまい込んでいる数本の投げナイフ。
こっちは細剣と違って自分に接近をする魔物が来た時に突発的に使う事があった。
しかし投げナイフも護身用としての側面が強いようで、あくまでも主要な武器ではなかった。
三つ目は弓矢。とは言っても僕の木の弓や木の矢とは似ても似つかない程に立派な物で、フェアリの持つ弓は白銀の弓と言って、美しくも輝かしい白銀の光を放っている。
持っている矢筒の中身も豊富な種類の様々な矢が入っており、中には火の矢や雷の矢と言った魔力の宿った属性付きの物まであった。
前者二つとは異なり、どうやらこの白銀の弓がフェアリにとっての基本武器のようだ。
しかしフェアリの戦いにおける真価は他にもあった。
「ビューンっと切り裂いて! ヴァンクーペ!」
相変わらずフワフワしたような擬音語の表現を用いて詠唱をしているけど、フェアリの放つ風魔法の威力は絶大だった。
かざした掌の方向へと放たれた疾風の刃は敵対する魔物を瞬時の内に切り裂いた。
現状でフェアリが見せてくれた魔法はこの『ヴァンクーペ』一つだけだったが、ファクトの救援へと急いでいるからなのか、とにかく凄まじいものだ。
しかも戦闘になる毎に一から二回は魔法を使っているのにも関わらず、威力が衰えている感じが全くしなかった。
これから狂暴化したカレントバジリスクと一戦をやらかそうとしているのに、魔法をこんなにも乱発してしまって大丈夫なのかと言う気もしたが、僕が魔力の枯渇をした時みたいに足元がフラついている様子も見せなかった。
思い当たる節があるとすればフェアリが(多分)妖精人だと言う事だけだ。
結局妖精人特有の金髪ではなく、何故銀髪なのかと言う事をフェアリ本人にも、訳知り顔だったツァーイにも確認を出来ていないから、もしかしたら妖精人とは違うのかも知れないけど、他に理由は思いつかなかった。
何はともあれ僕達は予想以上のスピードで手早く安全に移動をする事が出来た。そしてフェアリと出会ってから一時間半程の時間を経て、目的地であったタイガの森の第六層最深部へと到達を果たした。
そこでは黒衣のローブ(やはりフード付きだが、現在そのフードは被ってはいなかった)を着込み左手一本で黒い大剣を振るっている男が巨大な黄色と緑の斑模様の大蛇と戦闘をしている最中だった。
恐らくはあの男がフェアリの仲間だと言うファクトって人で、大蛇の方がカレントバジリスクだろう。
「ファクト!」
黒衣の男――ファクト――と大蛇の戦場へと舞い戻ったフェアリは余程心配だったのか、未だに交戦中だったファクトの下へと真っ先に駆け寄って行く。
けれど僕達はすぐにフェアリを追わずに、足を止めてファクトとカレントバジリスクが戦う様子に視線を向ける事となった。
「ねぇ、ツァーイ……あの人の腕や足って魔法か何かで変化しているの?」
「……分からない。身体を変化させる魔法や種族がいるなんて聞いた事がないよ。それに獣人って訳でもなさそうだし……」
その理由は異形とも言えるファクトの姿に僕もツァーイも驚いてしまっていたから。
こちらから見えるファクトの姿は後ろ姿なので瞳の色や顔の表情を窺う事は出来ず、装備は先程も述べた通り黒衣のローブを身に纏い、左手だけで大剣を振るっている。
大剣を片手で振るっているだけと言うのなら、剛腕な冒険者だとか、破天荒な性格なのだろうと思うだけで済んだだろう。しかし問題なのはそこではなかった。
まず最初に目についたのは右腕。人の腕とは思えない程に巨大な骨と化していた右腕はそれを振るうだけで鈍器としての役割を果たす程の武器になっていた。
仮にあの腕が何らかの作用で巨大化をしているのだとしても、あの骨状の腕は怪我をして皮が剥がれたとか、そういうレベルの物ではなく、もっと自然な物のように思える事も不思議だった。
次に両足。獣の毛皮と思わしき分厚い灰色の皮が生えており、人の肌の色とは思えなかった。しかも胴体や腕と比べてもやや不自然に太い気がする。
しかしその足のお陰でしっかりと足場作りを出来ているようで、カレントバジリスクの体当たりを左腕に持った大剣の一振りで追い払いながら、自身はその場から一歩も後ずさりをしないでいた。
最後に頭。先程も述べたが後ろ姿のファクトの表情を窺う事は出来ないが、それでも人としてはあからさまに不自然な角が左側に一本だけ生えているのだ。
ツァーイから教わった他種族の特徴にも角のある種族があるとは聞いた覚えがない。獣人の中にユニコーンや鬼をベースにした人がいればその限りではないかも知れないが、どちらにせよ骨の腕と獣の脚に角を合わせ持つ存在なんて思いつかなかったので、ツァーイの言う通りにファクトが獣人と言う訳ではないように思うけど。
だけど、それなら、あの異形の姿は一体何なのだろうか……と気になってしまい、思わず足を止めてしまった訳だ。そしてそれはツァーイも同様のようだ。
「全く、考えても分からない事だらけで退屈しないよ。」
けれど何もそういった事はファクトって人の異形の姿に始まった話ではなかった。
妖精人と思わしきフェアリが何故銀髪なのか、ツァーイの持っている勇者の絵本の出所や彼女の故郷だけで《サイス》が突然流行りだした訳、【蒼い疫病】の悪評の広まり方や自分達が所持しているアンノウンスキルの存在。極め付けに自分自身が身元不明の記憶喪失者なのだ。
だから、あの異形の姿は気になるけれど、今やるべき事は――。
「まあ助けるって約束したからね。少し出遅れちゃったけど、行こうか。」
狂暴化していると言うカレントバジリスクを討伐してファクトを助ける事だ。
自分やツァーイにとっては見ず知らずの相手だけど、折角助けに来たのに目の前で死なれでもしたら寝覚めが悪くなるし、引き受けたからには絶対に助ける。
「うん。あ、でもイラは後衛から弓矢と魔法で援護に専念をして。私が前衛で押さえつけてイラには近づけさせないようにするから。それと魔力の枯渇だけは絶対に起こさないでよ。」
「了解。援護は任せて。……でもツァーイの方こそ無茶はしないでよ。」
僕達はそれぞれの武器を手に取りながら一人先走って行ったフェアリの後を追いかける。
崩れ落ちるファクトを支えるフェアリ。そして今まさに二人に襲いかからんと突っ込んでくるカレントバジリスクの姿が瞳に映っていた。
「グゥ……ココ、マデ……イヤ、マダ、ダ。」
カレントバジリスクを一時的に退けたが、三時間以上に渡る戦闘の末に俺の身体は疲労しきっていた。
無論通常の戦闘であれば四時間でも六時間でも続けていられる自信はあるが、今回は相手が相手だ。長期戦になればなるだけ、こちらが不利になっていくのを実感していた。
現に今も押し返したカレントバジリスクに追撃を仕掛けようとしたが、身体は動かずに膝をつき、その場に倒れ込みそうになる。
俺とフェアリは今日も昨日までと同じようにクエストの為にタイガの森を訪れていた。
そしてダンジョンの最深部まで踏破したのは良かった。……が、今思えば最深部狂暴化したカレントバジリスクと出会ってしまったのが運の尽きだった。
俺達からすればタイガの森に現れる魔物の討伐はかなり楽な仕事であった。勿論どんな格下が相手であったとしても気の緩みが致命的な隙に直結する可能性はあるので、戦闘中に気を緩める様な真似や驕りも一切しなかった。
しかし、偶然にも出会ってしまったカレントバジリスクと言う想定外の強敵(しかも狂暴化というオマケ付き)を討伐をする羽目になってしまった。
ダンジョンの探索中にクエスト外の魔物と出会う事自体は珍しくもないし、寧ろ余程低レベルなダンジョンでもない限りは当たり前の事でもある。
しかし協会にもカレントバジリスクの討伐というクエストはなく、その存在が噂話となっているような事もなかった。
本来であれば狂暴化などと言うイレギュラーな個体、又はカレントバジリスクのような大型の魔物は何かしらの形で情報が出回っていると言うのが一般的だったが、今回はそういった予兆らしきものは一切見聞きする事がなかった。
それでも俺達は不運な事にこの化け物と出会ってしまったのだ。そしてバジリスク系の魔物にしろ、狂暴化をしている魔物にしろ、一度見つかってしまった以上は逃げる事も容易ではなかった。
覚悟を決めた俺達はカレントバジリスクと一戦を交える事にした。幸いにも以前にも戦った事のある相手だ。その時の相手は狂暴化をしていない普通の個体ではあったけど、どう戦えば効果的なのかは理解している。
そう思って戦っていた筈なのだが、戦闘の最中で俺はこのカレントバジリスクを人の状態で討伐出来ないのでは、と考えるに至った。
狂暴化をしている影響なのか、以前に戦った個体よりも鱗が固くて剣や魔法と言った通常の攻撃で貫く事が出来なかったから。
打撃で叩いたり、吹き飛ばしたりといった事は出来たが、それらの攻撃では足止めをする事は出来ても致命傷を与えるには程遠かった。
だから奥の手であった魔人の種族特性である『魔物化』を使用する事を決めた。
純粋な魔人であれば自身の血に宿る魔物の力を開放する事で、一時的に人と魔の力を合わせた強力な力を発揮する事が出来る。魔人以外の常人からしてみれば、文字通り魔人と思える程の圧倒的な力だ。
しかし魔人と人間の半端者である俺は魔物化を完全にコントロールする事が出来ない。
通常の魔人であれば魔物化の力をどれだけ使用しても問題がないのだが、半魔人である俺が自由に扱えるのは二割程度の力までだ。そこまでなら自我を保ったままコントロールを出来るようにはなった。
しかしそれ以上の力を行使しようとすれば俺の『人』である部分が『魔』の力に耐えられなくなってしまい、自らの感情や思考が衝動に飲み込まれ始める。それでも四割までなら短時間で戦闘を終わらせれば、一応は大丈夫だ。
問題は五割以上の力を行使しようとした場合だ。それだけの力を使えば確実に暴走状態になってしまうし、最終的には自我を失って魔物もどきになり果てる可能性もある。そしてその危険性は魔物化を使用している時間(つまり戦闘時間)が長引く程に危険性を増して行く。
更に言えば魔物もどきにならずに済んだとしても、一度暴走状態になってしまえば自分自身が意識を失ったり、力を使い果たしたりするまでは戦闘が終わったとしても暴れ狂い続ける。
それはつまり仲間であるフェアリの事さえも正しく認識を出来ずにこの手で殺してしまう可能性もあると言う事。だから以前からフェアリには俺が五割以上の力で魔物化を使う時は逃げるように言っていたし、狂暴化したカレントバジリスクを討伐するにはその力が必要だと思った。
だからフェアリに戦闘から離脱するように告げた。最初は納得出来そうになかったフェアリだったが、この切羽詰まった戦局と倒れる気配のないカレントバジリスクの姿を見て他に打つ手がない事を悟ったのか、最終的には涙ぐみながら無事に帰る事を条件に納得してくれた。
フェアリが離脱したのを確認してから俺は魔物化を使用した。お陰でフェアリとの連携もなしに一人でカレントバジリスクと渡り合う事が出来ている。……いや、出来ていた筈だったし、少なくとも普通のカレントバジリスクなら確実に討伐出来ていた自信もある。
しかし敵は狂暴化というイレギュラーな個体。
魔物もどきになる事を恐れて、無意識の内に魔物化を六割程度に抑えて中途半端に暴走した状態では足止めが関の山だった。
お陰で戦闘時間だけが長引いてしまった。通常であれば戦闘時間が長引くに連れて正気に戻る事が難しくなるのだが、暴走状態でダメージを受けすぎた事で逆に六割の力で魔物化を維持するだけの力が無くなってしまい、現在の魔物化は二割強程度の力まで落ちている。
不幸中の幸いなのは魔物化の力が弱まった事で、先程まで目の前の存在を壊し、殺す事だけに囚われていた思考が本来の自分のものに戻ってくれた事だ。
だが弱まったこの力ではカレントバジリスクを討伐する事は不可能だ。敵も少なからず体力を消耗している筈なのだが、討伐所か迎撃するビジョンさえ見えない。
俺に出来る事は一秒でも長く奴をこの場に抑え込み、フェアリが逃げ切るだけの時間を稼ぐ事だ。或いは魔物もどきになる事を覚悟で百パーセントの魔物化を行うか。
後者の選択肢はそもそも疲労しきった今の体力で行えるかは怪しいし、仮に出来たとしてもこんな状態で全力の魔物化を行えばカレントバジリスクを討伐出来た所で今度は自分がカレントバジリスク以上の脅威に成り下がってしまうのがオチだ。最悪の場合、その状態でダンジョンの外に飛び出だしてフェアリを殺してしまうかも知れない。
「(一人だった頃なら死ぬ位なら……って選べたんだろうけどな。今はフェアリが死んだら意味ないし、選べないよな。……かと言って、もう五割や六割なんて器用なセーブは出来そうにもないし、このまま戦い続けてもジリ貧だ。……まあ、フェアリが逃げていてくれれば何でも良いか。)」
だから後者の選択肢……全力の魔物化を俺は選べなかった。
ここでこのまま戦い続けたとして、絶対に勝てないと分かっていても。死ぬのがオチとは分かっていても。この世界で自分を見ていてくれた最愛の人を守れたのなら……悪くはない。フェアリを一人置いて逝ってしまう事に後ろめたさも感じるが、もう気持ち一つでどうこう出来る状況でもなかった。
「ファクト!」
ああ、だから、フェアリの声が聞こえた気がするのは僅かに感じている迷いや弱さが原因なのだろう。
目の前の敵を倒すなり、どうにかして逃げ出す隙をつくるなり、そういった事を出来ずに彼女の下へと帰れなかった自分の後悔や未練と言った部分が創りだした幻だ。
「(幻聴を聞くなんて……らしくないな。)」
唯一自分の存在を受け入れてくれた少女の声に戦闘の中で披露しきった心が弱音を吐露していくのが分かった。
きっとこのまま戦っても自分は喰い殺されるにしろ、毒の牙に侵されるにしろ、雷の魔法によって焼かれるにしろ、ここで朽ち果てるのだろう。
そこまで想像をしてしまったと同時に、何とか踏みとどまっていた身体が崩れ落ちた。……しかし倒れ込んだ身体は地べたに這いつくばる事もなく、誰かに支えられていた。
「ファクト! 大丈夫!」
身体に残されている力を振り絞って、自分を支えた存在へと視線を動かした。
そこにいたのは自分がこの場から逃がした筈の、最愛の人物だった。
つい先程まで幻聴だと思っていた声がより明確に聞こえた。倒れ込もうとしていた自分の身体に触れて、支えている彼女の姿は幻ではなく本物だと認識せざるを得なかった。
『フェ、ア……リ……!? ドウ、シテ……ココニ……。』
ただでさえ魔物化をしている最中は言語を発し辛いのに、戦闘による疲労が伴ったせいでまるで覚えたての異国の言葉を発するかの如く不自然な言葉が口から零れる。
「どうしてって、私はファクトのパートナーだよ。ほら、回復してあげるから。……ピカピカっとリフレッシュ! ルミラトゥール!」
フェアリが唱えた光属性の魔法によって暖かい光がその場に生じて俺の身体を包み込んだ。
光属性は八つ存在する魔法属性の中で唯一回復効果を持っている属性でもあった。攻撃や目くらましと言った回復以外にも勿論使用する事は出来るが、光属性の魔法の真価は回復魔法を扱える事だ。
このルミラトゥールも回復魔法の一種で、光に包み込まれた身体の箇所から疲労や痛みといった身体的なダメージが少しだけ和らいでいくのを感じられた。
やがて数秒の後に光が収まった。流石にたった一度の回復魔法で全回復となる訳ではないし、疲労や痛みもそれなりに残っている。それでも先程までと比べれば比較的に俺の身体の状態はかなり楽なものと治っていた。
「ドウシテ、モドッテキタ。ニゲロトイッタハズダ。」
「だーかーらー! 私はファクトのパートナーだよ。魔物化を使った状態が危険だって事は知っているけど、それでも本当にファクトを一人で置いていける訳ないでしょ!」
回復魔法のお陰で呂律も多少はマシになり、改めてフェアリに問いかける。
しかし何故か逆切れをするかのように捲し立てられる。フェアリは普段からやたらテンションが高めで言葉を伸ばす事がままあるので、どこまでが本気なのかは良く分からないが。
そんな風にここが危険なダンジョンの中だとも、危険な魔物との戦闘中だった事も、一瞬だけ忘れたようにしていると、奥地へと押し返したカレントバジリスクが再びこちらへと向かって来ていた。
「それに助けも呼んで来たから。」
「タスケ……? オマエ、マサカ……?」
だけどその最中にフェアリが口走った言葉のせいで少しだけ反応が遅れた。
助けを呼んだ? こいつは一体何を言っているんだ? 俺達半端者は世間様からの嫌われ者だぞ? 助けてくれる存在なんている訳がないんだ。
そりゃあ高レベルの冒険者の中には実力主義者もいない訳ではないし、そう言った極一部の人に受け入れられている半端者の冒険者も極稀にいるという噂はあるし、場合(主にクエストの報酬や討伐対象が理由)によっては一時的な協力体制を築いてくれる事もあるかも知れない。
だが基本的には半端者を受け入れてくれる存在は殆どいない。
それもこんな辺境の地にいる冒険者ともなればその多くは地元住まいの閉鎖した少数グループなどだろう。そう言った連中は基本的には半端者への風当たりが特に強い。
それにもし他所からの流れ者や俺達のように旅をしている冒険者が偶然にもいたとして、近場に安全な狩場が他にあるのに態々危険性の高いダンジョンに来る意味が分からない。
狂暴化したカレントバジリスクを相手に出来る程にレベルが高く、半端者を助けるような奇特な冒険者が見つかるとはとても思えない。しかもクエストの発行がされていないので、報酬目当てと言う訳でもないとなれば尚更だ。
けれど身体をフェアリに支えられたまま、良く見えなかったけど、二つの人影が自分達の前に躍り出る気配を感じた。
半端者を助けるような人がいる訳がない。
だけど、不覚にも、この死地に協力者が現れたという事実だけで胸の奥底が熱くなったような感覚を俺は感じてしまった。




