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人格喪失者、それは記憶喪失を望んだ者  作者: 明進
第二章 偶然の出会い、それは新たな仲間との邂逅
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記憶二十一―探し物、それは新しい力と絵本の手がかり―

 武器屋を探し始める事になってからも街中を歩き続けた僕達は、やがて一件の武器屋を見つけて入店した。


「おう、らっしゃい!」


 お店の中に入った途端に店員だと思わしき、屈強な男性の掛け声が聞こえて来た。

 ファングの街の防具屋(プロテラーデン)のおっちゃんも似たような風貌だったし、冒険者の装備を取り扱うようなお店の人達はマッスルなのがデフォルトなのだろうか。

 冒険者用が立ち寄る事が多いからなのか、店内でもフードを被りっぱなしのツァーイに不信感を持たれていない様子なのは助かるけれど。

 とりあえず僕達は男性に軽い会釈だけをして、目的である弓矢を探す事にした。


「へぇー、剣一つにしても色んな種類があるんだね。」


 始めて訪れた武器屋と言う事もあって、入口付近に陳列されていた様々な剣を見た瞬間に自然とそんな言葉が出た。

 僕がツァーイに貰った量産品の銅の剣(ブロンズソード)は勿論あるし、その上位互換と思わしき銀の剣(シルバーソード)や金の剣(ゴールドソード)、白銀の剣(プラチナソード)もある。

 それに魔装と思わしき炎の剣(フレイムタン)や氷の大剣(アイスレイジ)、雷の細剣(ライトニングレイピア)と言ったような属性剣も存在している。


「今の所は銅の剣(ブロンズソード)で十分戦えるけれど、いつかはこういう剣も必要になるのかな……って高いよ!」


 ふと気になって手に取った炎の剣(フレイムタン)の値段を確認したら百G(ゴールド)って書いてあるのが見えた。

 とてもじゃないけれど、今の稼ぎでは買える値段ではない。

 試しに確認してみたら氷の大剣(アイスレイジ)や雷の細剣(ライトニングレイピア)と言った他の属性付きの武器も似たような値段になっていた。


「属性付きの武器になると結構な値段がして当たり前だよ。本来は適正の無い属性でも戦えるようになる訳だし、そうじゃなくっても魔装は創造人(クリエイター)しか創れないからね。」

「なるほどね……。確かに適正の無い魔法の代用品だと思えば、高くはないのかな?」


 この世界(リーネド・ムンリ)の魔法は八つの属性が存在するけれど、当人に適正の無い属性は絶対に習得が出来ない。

 本来は一生習得が出来ない魔法の代用品だと考えれば、この価格設定でも購入をする人は一定数存在するのだろう。


「そうだね。流石に私も属性付きの魔装は使った事がないけれど、本には普通の武器とは比較できない程に強力な業物だって書いてあったよ。」

「業物かぁ。そう聞くといつかは振るってみたい気もしてくるね。……とは言っても、流石にこの金額を貯めるのは気が遠くなりそうだけど。」

「属性付きの魔装が欲しいのなら、それだけ頑張らないとね。それより今日の目的は剣じゃなくって、弓矢だよ? 気になるのは分かるけど、そろそろ弓矢を探さなきゃ。」


 ツァーイに急かされながらも、そんな風にお店に展示されている武器を少しずつ流し見をして行く。

 その中でお目当ての弓矢が陳列されているスペースを発見するのには、対して時間はかからなかった。


「木の弓(ウッドボウ)が六S(シルバー)と十二C(カッパー)、鉄の弓(メタルボウ)が四十三S(シルバー)と五十八C(カッパー)、光の弓(シャイニングボウ)が八十G(ゴールド)と九十八S(シルバー)……ってやっぱり属性付きの魔装は高いね。」

「そうだね。でもイラの場合は剣の届かない相手を攻撃するだけなんだから、普通の武器で十分だと思うよ。」

「まあね。強い武器ってだけで魔装にも惹かれはするけれど、今はこれで十分だよね。」


 陳列されている弓を一つ一つ順番に手に取って、質感を確かめる。

 何となくだけれど価格が高い物になる程に、手に馴染むような感覚がするのが分かる。

 けれどツァーイの言う通り、あくまでも現状で弓矢が必要なのは剣が届かない相手への攻撃手段の確保が目的だ。

 長期的に考えれば少しでも強力な武器があるに越した事はないけれど、強力な武器が必要になったら、その時に改めて買い直せば良い。

 それに僕の手持ちも多くはないから、どっちにしても今日は特殊効果(アビリティ)の付いた高級品でもある魔装を買う事は出来ない。

 そんな訳で僕は一番安物だった木の弓(ウッドボウ)と、木の矢(ウッドアロー)を五十本を持って購入場(レジ)へと向かった。

 幸いにも購入場(レジ)は空いていて、特にトラブルが発生する事もなく弓矢の購入はスムーズに行えた。

 手持ちのお金は殆ど使い切ってしまったけど、これで少しでもツァーイの役に立てるようになるのなら安い物だ。


「これからは剣や魔法だけじゃなくって、弓矢の練習もしないとね。」


 お店から出た僕は買い込んだ弓矢の一式が入った紙袋を抱きしめながら呟いた。

 スキル『マルチウエポン』のお陰で扱いに困る事はないだろうけど、それでも武器の扱いに慣れるのには実践や練習を積み重ねる事が必要なのだろう。

 現にツァーイから貰った銅の剣(ブロンズソード)も戦う分には最初から問題がなかったけど、戦闘を重ねるに連れて、より剣を振るう事に手応えを感じるようになっていた。


「それじゃあ明日は弓矢の試し撃ちも兼ねて、イラに後衛を任せるね。」

「うん。初めてでどこまでやれるか分からないけど、やってみるよ! ……それはそうと、今ってどこに向かっているの?」


 お店を出てからも僕達は街中を歩き続けている訳だけど、進路を決めているのはツァーイだ。

 だから僕はどこに向かって歩いているのかを知らずにいた。


「本屋だよ。ほら、前に言ったでしょ? あの絵本の続編や関連作がないか探しているって。」

「ああ、あの勇者の絵本だね。それは確かに探さないと。」


 ツァーイが物心の付いた時から持っていたと言う勇者の絵本。

 作者不明、タイトル不明と謎の多い絵本ではあるけれど、諸悪の根源である死神が野放しで放置されてる状態で仮初の平和を取り戻してハッピーエンド?……と言ったやや後味の悪い終わり方をしているのがツァーイにとっても、僕にしても気がかりなのだ。

 今までもツァーイはこの絵本の事を調べていたと言っていたけど、続編や関連作はおろか、同一作が売られているのさえ見た事がないと言う。


「でも本屋ってどんな街にでもある訳じゃないって言ってたよね? 協会みたいに探し方があったりするの?」

「んー特にはないよ? ただ食材や物資の調達もする必要はあるから、どっちにしても街中の散策はする必要があるよ。本屋は大きくはないけれど、あれば簡単に見つかる筈だよ。」


 思いの他、本屋の探索はノープランだった。


「何か適当だね。いつものツァーイらしくないって言うか、何と言うか……」

「本屋は協会みたいに大きい建物じゃないし、武器屋や防具屋みたいに外観も目立っている訳じゃないからね。そんなものだよ。」

「そういうものなの?」

「そうそう。」


 そんな風に軽口を言い合いながら、僕達は街中を歩き続けた。

 道中でツァーイが不足していた食材や調味料、飲み物や薬草と言った様々な物を買い集めるのを手伝った。

 旅を始めたばかりの頃に最初に立ち寄った場所で【蒼い疫病】と迫害されたツァーイは、それ以来街や村を訪れたら出来るだけ早く食材や物資の調達をするように心がけている。

 また四次元ポーチのお陰で、どれだけ買い込んでも荷物に困る事はない事もこの行為の助長となっていた。

 けれど自分が【蒼い疫病】と呼ばれている存在だと露見するのを恐れているツァーイは、一つのお店に長居をする事はなかった。

 どのお店に立ち寄っても必要な物を即座に見極めて、購入場(レジ)が空いているタイミングを見計らって迅速に購入をしている。

 その手慣れている様子を見た僕は、改めて彼女の過去が辛く苦しい物だったのだと思い知らされた気がした。

 身の安全を少しでも保とうとして、ノンビリと買い物をする事すらままならないのだ。

 けれども僕に出来るのはいざと言う時にツァーイを連れて街から脱出する事位で、この状況を改善する為に出来る事は何一つとしてなかった。

 僕達は道中で見かけた屋台で昼食の買い食いをして、幾つかのお店を巡り続け、街中を延々と歩き続けた。

 目的の本屋が見つかったのは、夕暮れになりかけた頃になってからだった。


「やっと見つかったね。」

「うん。この街には本屋があって良かったよ。」


 そうして勇者の絵本の関連作が置いてあるのか、他にはどんな本が置いてあるのか、そんな期待を膨らませながらお店に入ったのだけれど――


「……って、本の数が少なくない?」


 ――本屋さんに来店してから三秒と経たずに僕の口からそんな言葉が零れ落ちた。

 殆ど無意識気味に発した言葉ではあるけれど、商品として置かれていた本の冊数は想像以上に少なかった。

 確かに外観からしてこじんまりとした小さなお店ではあったけれど、本屋の商品棚ってこんなに少なかったけ?と思わず思ってしまう程だ。

 絵本や漫画、小説に雑誌に学術書や魔導書のような物まで色んな種類の本が置かれているのは確かに本屋の光景なのだけれど、その合計冊数は恐らく百冊もない程度だ。明らかに少ない。


「想像していた本屋と何か違う……。」


 どんな本との出会いがあるのかと期待をしていた僕は少なからず落胆をする事になった。

 自分でもここまで気落ちするのかと、内心驚きはしたけれど。


「イラがどんな本屋を想像していたのかは知らないけれど、これでも本屋としては大きい方なんだよ? 本当に小さなお店には、この半分も置いてない位だし。」


 何てこったい……思わず、そう呟きそうになる程にはツァーイの発言に更なるショックを受けながらも、絵本の並べられている本棚の箇所へと進んで行くツァーイの後を追う。


「さてと、探している絵本があると良いね。」

「うん。イラもそれっぽい本を見つけたら教えてね。」

「分かってるよ。さて、この本はどうかな」


 お店の一角で十数冊の絵本が本棚に並べられている箇所で足を止めた僕達は勇者の絵本に関係のありそうな絵本を探し始めた。

 僕が最初に手に取ったのは『アキ』と言う名前(性がない所を見るにペンネームだろうか?)の作者が描いた『ホープフル・ゲーム』と言う絵本。

 表紙に描かれているイラストは後光に照らされている一本の剣だけと、絵本らしいシンプルなデザインだ。

 パラパラと絵本のページを捲って流し見をしたけれど、残念ながら勇者の絵本とは関係がなさそうな内容だった。

 また絵本にしては子供向けな内容でもなかった気がしたけれど、それに関しては語ると長くなりそうなので割愛する。

 そして絵本を棚に戻そうとする前に、ふと気になって裏表紙を見て値段を確認したら――


「(絵本で二十G(ゴールド)と八十S(シルバー)!? 魔装程じゃないけれど、結構高い!)」


 予想外にお高い値段に驚愕する事になった。

 ここが店内だと言う事とツァーイを人目に晒したくなかった事もあって、何とか声を荒げずには済んだけれど、とにかく衝撃的だった。


「(そう言えば前にツァーイが「書物はどれも貴重な品物だから高級品なの。」って言ってたなぁ。……けど、それにしても高い気が……)」


 以前にツァーイとした会話が脳裏に過りながらも、何故だか納得が出来なくて胸の奥がモヤモヤとしている気分だ。

 記憶喪失だからと言われれば、それまでだ。だけど、それにしても違和感が強いような……絵本って、もっとこう……安価でお手軽な物だった気が……。

 僕はモヤモヤを振り払うように手に持っていた絵本を棚に戻し、隣の絵本を手に取って同じように流し見をする事にした。

 本を読んでいる間は不思議と没頭出来て、余計な事を考えなくて済む気がした。

 やっぱり僕は本が大好きなようだ。



「残念だね。勇者の絵本に関係していそうな絵本がなくって……。」

「そうだね。でも今までもずっと見つかっていないし、そう簡単に見つかるとは思ってないよ。これからも地道に探していかなきゃ。」

「そっか。また本屋を見かけたら手伝うよ。」

「うん。頼りにしてるよ。」


 あれから少しばかりの時間が経った頃には僕とツァーイは本屋を出て、宿泊部屋を借りた協会へと向かう為に街中を歩いていた。

 結局の所、この街(フォレスタウン)の本屋でも勇者の絵本の手がかりとなる絵本は見つけられなかった。

 シナリオの繋がりや世界観は勿論、絵柄が似ている物や文章の構成にも気を付けてはいたのだけれど、類似する作品が一つとしてなかったのだ。

 店頭に並んでいた絵本の中にはシリーズ物や同一の作者が手掛けた作品があっただけに、少し不自然な気もしてならない。

 けれど長年あちこちを放浪としていたツァーイが知らない位なのだから、今は考えても分からない事なのだろう。

 いつか僕達が勇者の絵本の出所に辿り着く事が出来たのなら、きっとその謎も解けるのだろう。

 ツァーイも勇者の絵本の手がかりが見つからなかった事に対して落胆をしている様には見えないし、慌てて探す物でもないのだろう。


「それはそうと今日の食事当番はイラだって事忘れてないよね? さっき買った食材も使って良いから、戻ったら晩御飯の準備をお願いね。」

「分かっているよ。久々に調理用の魔道具も使えるし、頑張るよ。」


 ツァーイに言われたからではないけれど、次第に僕の思考は本屋での出来事から今晩の献立に移ろいでいた。

 明日からは冒険者としての仕事が再開するし、今晩はいつも以上に腕に縒りを掛けて調理に取り組もう。

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