記憶十九.五―黒と白の二人、それは半端者(ハーフ)と呼ばれる者達―
森林地帯に囲われている影響で周辺の一帯が鬱蒼と生い茂っている街、フォレスタウン。
今日は俺達がこの土地に来てから五日目の朝だった。
冒険者である俺達は協会の宿泊部屋で朝食を食べ終わるとすぐに受付場へと向かい、そこに貼られているクエストの一覧を眺めながら本日の行動指針を考え始める。
「今日はどんなクエストにするの? また魔物の討伐? それとも物資の収集と納品?」
「……まだ考え中だ。」
クエストの一覧を眺め始めてから三十秒と経たない内に俺の隣にいる少女が問いかけて来たが、まだ確認している最中の俺は思考を続けながら一言だけそう返した。
少女――フェアリ・ライフ――は俺にとって唯一の冒険者仲間だ。
半妖精人である彼女は幼い頃に故郷である妖精人の集落から追い出されたた。
そして半端者であるフェアリは行く先々の土地で妖精人以外の純血種からも疎まれるのを避ける為にとフード付きのローブを身に纏う事で正体を隠して一人であちこちを放浪……やがて冒険者となったらしい。
時を同じくして半魔人である俺――ファクト・ライジング――は、経緯はフェアリと異なるものの似たような理由で、やはりフード付きのローブで身を隠しながら同じく一人旅をしていた。
フード付きのローブは俺達のように半端者と呼ばれる人から疎まれる存在が身を隠す以外にも、地方によっては砂嵐や雨風を凌ぐ為にも着用される事もあれば魔装としての実用性も馬鹿に出来ない物が混ざっていたりもする。
なので冒険者にとっては着用する人も(決して多い訳ではないが)少ない訳でもないので、俺達のような訳ありにとっては隠れ蓑として重宝されている。
半端者と言うのは人間と妖精人の子供とか、創造人と魔法人の子供と言ったように異なる種族の間に生まれた混血の事を指す。
細かい区分は半妖精人だとか、半魔法人だとか色々あるけれど、半端者と言うのは今の世の中では蔑称として使われる事が多い。
理由は色々とあるから省略するが、今は混血主義を掲げる人達がどうも多くて俺達半端者にとっては何とも世知辛い世の中だ。
俺やフェアリ個人が何か悪さをした訳ではないのに全く腹立たしい。
そんな俺とフェアリは何の縁なのか半端者として流れ者同然に各地を転々としている中で偶然にも二年前に出会ったのだ。
それも俺が出会った時にはフェアリは衰弱しきっている状態で狂暴なウォータードラゴンに襲われていると言う、吟遊詩人にでも歌を創らせれば良くも悪くも大げさにされそうな場面でだ。
実際フェアリにとっては一大事ではあった訳だが、そこに偶々通りかかった俺がそのままウォータードラゴンを仕留めた事がきっかけとなってフェアリにとても懐かれてしまい、その日から日をそう跨がずに俺達の一人旅は二人旅に替わる事となった。
俺は半端者の一件を除いても半魔人特性上のとある問題で他人とは極力関わり合いたくはなかった。
なので最初の頃は俺もフェアリと距離をとろうとしていたのだが……結局フェアリは俺の事を理解してくれた上で受け入れてくれたので俺も諦める事にした。
その後にも紆余曲折……とまあ色々とあって今では俺とフェアリは恋仲となり、ある場所を目指しながら二人旅を続けている。
あるかないかも分からない目的地だったが、昨日にこの街で入手出来た情報のお陰で信憑性はかなり高いものだと俺は七割方確信をしている。
それでも不確定要素が無い訳ではないので、まだ数日はこの街に滞在をして先立つ物を稼ぐ必要があると思っていた。
「よし、今日の仕事はこの三つにしよう。手続きを済ませたらダンジョンに行くぞ。」
「りょうかーい!」
受付場で張り出されているクエストの一覧の中から依頼書を三枚抜き取って、フェアリを連れて協会の担当者が待機している場所へと向かう。
それから程なく手続きを済ませた俺達はこの街の外れにある『タイガの森』と呼ばれるダンジョンへと向かう為に街の外を目指して歩いていた。
「それで今日のクエストって何なの?」
「三件とも魔物の討伐だ。マンドラゴラを二十匹、フォレストウルフを十八匹、それからウッドリアンを二十二匹。」
道中で改めて仕事の内容をフェアリに聞かれ、俺は簡潔に受注したクエストの討伐対象を口にした。
「あらら、結局討伐系なんだね。」
「冒険者としてのレベル上げに一番適しているからな。有事の際にも俺達は他人を頼る事が出来ないし、少しでも強くなっておくに越した事はないだろ?」
「それはそうなんだけどね。まあ私はファクトと一緒にいられるなら、何でも良いけどね!」
そう言うや否や、俺の腕に抱き着いてじゃれて来るフェアリ。
俺達は二人共ローブを着込んでいるので、ローブの裾と裾が少しだけモコモコと暑っ苦しい事になる。
けれどまあ唯一の冒険者仲間でありながら恋仲でもあるフェアリとの軽いスキンシップが嫌な訳ではないので、度を超えない限りはフェアリの好きにさせて置く事にする。
少なくともダンジョンに辿り着いて戦闘が始まってしまえばそんな余裕はなくなるし、フェアリはこう見えても仕事に関しては一生懸命に取り組んでくれるので、現地に到着するまでの間なら問題もないだろう。
俺は俺でフェアリと出会って間もない頃には彼女の妙に人懐っこい部分に困惑していた筈なのに、今となっては日常的な事だと受け入れられているのだから、人の慣れって逞しいやら怖いやら、とにかく凄いとは思う。
そんなこんなでフェアリと一緒に街の外へと続いている門の所まで歩いて来た時だった。
目の前から歩いて来た、何とも奇妙な二人とすれ違ったのは。
それが旅人であったにせよ、冒険者であったにせよ、普通の奴らなら俺も特に意識はしなかったであろう。
しかしその二人は他者と極力関わろうとしない俺にとっても、一時的な注目対象になる程に奇妙だったのだ。
二人の内の一人は俺達と同じくフード付きのローブを身に纏って正体を隠しているが、もう一人はローブも着込まずにフードや仮面と言った物も着用せずに素顔を晒していたのだ。
本来であればフード付きのローブなんて物を着用するのは前述した通り、大雑把に分けて二パターンだ。
正体を隠したいか奴が着こむか、実用性を重視して装備するかだ。
前者であるなら正体を隠す必要性がある人は一般の冒険者と組む機会はないので、俺達みたいに二人以上の集団を組んだ場合でも全員が正体を隠す必要性がある筈だ。
後者であるなら土地毎の気候に適しているのならやはり全員分が必要な筈で、装備としての実用性にしてもやはり全員分を取り揃えて置く事が一般的な筈である。
だから自然と俺達みたいに日頃から自分達の正体を隠して生きている者にとって、その二人は奇妙に思えて仕方がなかったのだ。
「やっと次の街に到着したね。」
「うん。まずは協会の宿泊部屋に空きがあるかを確認しようね。それから時間があったら街の中を少し確認して、それから――」
「協会でクエストを受けなくて良いの?」
「それは明日からだよ。新しい街に到着したらまずは身を整える事と地理を確認する事が大切だからね。それにイラだって少しは疲れが溜まっているでしょ?」
「言われてみれば確かにここに来るまでに魔物との戦闘も結構あったし、少し疲れてるかも。それじゃあツァーイの言う通り、まずは協会だね。」
「そうそう。それからちょっと探したい場所もあるから少し付き合ってね。」
聞き耳を立てた訳ではなかったが他に人の出入りや物音も特にはなかった事もあり、奇妙な二人の会話の一部がすれ違いざまに聞こえてしまった。
会話の内容からして二人は旅人ではなく、冒険者のようだった。
素顔を晒している男の方はイラと言い、正体不明の人物はツァーイと言うらしい。
二人の冒険者名に聞き覚えも特にはなかったし、やはり俺は自分が半端者と言う事もあって他者とは関わり合いたくはなかったので、この時点での俺は「奇妙な組み合わせの冒険者もいたものだな。」程度に留めておく事にした。
そのまま予定通りにタイガの森へと向かう足を緩める事なく、俺達はこの数日間ですっかり歩き慣れてしまったダンジョンへの道なりを進んで行った。




