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人格喪失者、それは記憶喪失を望んだ者  作者: 明進
第一章 運命の出会い、それは物語の始まり
21/64

記憶十九―蒼い疫病と呼ばれた少女、それは極々普通の女の子―

「――私の話はこれで終わりだよ。」


 話を終えたツァーイは震えた声で呟くと、顔を隠す様に俯いてしまった。

 ツァーイが話をしてくれていた間、僕は一切の口出しをせずに大人しく聴いていたのだけれど、話が始まってから今に至るまでの長いとも短いとも言えるような奇妙な時間間隔の間に色んな感情が僕の中で渦巻いていた。

 ツァーイに言いたい事が、言わなきゃいけない事が沢山ある。

 けれど感情が不安定に入り乱れているせいなのか、僕は言葉を失ったように何から言うべきなのかが纏まらなくなってしまい、すぐに言葉をかけて上げられなかった。


 私は昔の話を終えると、思わず黙り込んで俯いてしまった。

 イラと目線を合わせるのが怖かったから。

 故郷が滅んで、旅を始めて、【蒼い疫病】と蔑まれるようになって、それからずっと私は一人だった。

 私の髪や瞳を見た人達からは辛辣な言葉を投げられて、ならばとフードで顔を隠せば信用や信頼などされる訳もなく、両親や友達を失った九年前から私の物語における主要な登場人物は文字通り私一人だけだった。

 勿論街中を歩けばすれ違う人は当然いるし、冒険者になってからは協会の人とクエストの受注や報告と言った必要最低限のやり取りは行っていた。

 けれど、そういう事ではなくて、私の仲間や味方になってくれるような人達は皆無だった……イラと出会うまでは。

 イラと出会ったのは偶然だったし、旅に誘ったのも、思う所は色々とあった訳だけれど……端的に言うと私のうっかりだ。

 けれどイラと出会ってからの、この五日間は凄く楽しかった。

 記憶喪失のイラは私の髪や瞳を見ても嫌な顔をしなかったし、私が傷つくような事も言わなかった。

 お喋りをしたり、一緒に戦ったり、一人の時は苦手だった街中を歩く事も、少しずつ成長をしていくイラを見ているのもイラと一緒にする事が何もかも楽しくて、大切に思えて。

 故郷を失ってからずっと色あせていた私の世界に輝きが戻って来たと思える程に、一日一日が色鮮やかに感じられた。

 仲間がいると言う事が、一人じゃないと言う事が、暖かくて、心強くて、嬉しくて……だからイラを失いたくないと強く思ってしまったのは仕方のない事なのだろう。

 だから、全てを話してしまった今となっては……イラを見るのが怖かった。

 【蒼い疫病】という蔑称を知られてこれ以上は隠しきれないと思ったから、覚悟を決めて昔の話を自分から切り出した。

 それでも私の正体を知ったイラの顔が、瞳が、私を【蒼い疫病】だと忌み嫌い、蔑んで、恐れて、傷つけようとする人達と同じものになっていたら……そう思うと怖くて、怖くて、仕方がなかった。

 イラに話をしようと決めた時には、話を終えた後に嫌われても仕方がないのだと決意していたのに、この沈黙の時間は別れの時が来るのを知らせているように思えてしまって、やっぱり怖いものは怖いままだった。

 楽しかった時間が終わってしまうのが嫌で、また一人ぼっちになってしまうのが嫌で、イラと別れるのが嫌で、イラがどこかに行ってしまわないように引き止めたいのに、どうすれば良いのかが分からなくて、ついさっきまで昔の話を出来る程に喋れていたのに、今はどうやって話を切り出せば良いのかも分からない。


「ごめん、ツァーイ……。」


 先に沈黙を破ったのはイラだった。


「(……そうだよね。やっぱり【蒼い疫病】とは一緒にいたくなんてないよね……。)」


 謝罪から入ってきた言葉を聞いて別れ話を切り出されると思った私は落胆をして、自分の表情が強張るのを感じた。

 しかし声をかけられては流石に俯いている訳にもいかないので、恐る恐る顔を上げてイラと顔を合わせる事にしたのだけれど――


「前に無理に聞こうとして本当にごめんなさい。」

「そうだよね。やっぱり……って、え?」


 自分が恐れていた予想とは違って、目の前には頭を下げているイラがいた。

 私は何がどうなっているのか、理解出来ずに困惑する事となった。


 ツァーイに何から言えば良いのかをしばらくの間考慮してしまい、結果として少しばかり気まずい沈黙の時間が続いてしまったけれど、思考が纏まった僕は最初に謝らなきゃいけないと思って謝罪の言葉かけながら、頭を下げた。

 しかしツァーイからの返答は困惑したかのような、もしもこのワンシーンが漫画であれば『ポカン』とか『?』との擬音が付けられているかのような声を上げていた。

 その様子に自分は何かを間違えてしまったのかと思い直して、ゆっくりと顔を上げた。

 先程まで俯いていたツァーイが顔を上げていたけれど、怖がっているのか、理解していないのか、今までに見た事もない表情を浮かべていた。

 それを見た僕はやっぱり選択肢を間違えてしまったのかと思ったが、ここで話題を転換するとそれはそれでややこしい事になりそうだと思ったので話を続ける事にした。


「最初にあった日の夜の事だよ。ほら、ツァーイの街中での様子を心配した僕がフードを被っている理由とか、色々聞き出そうとしていた事。……正直こんなに重い話だと思ってなかったから……その改めて悪かったと思って……。」

「え、あ……ああ。あの時の。別に良いよ」


 そこでようやく合点がいったのか、ツァーイの表情から困惑が消えて、代わりに少しだけホッとしたのか安堵をしているように思えた。


「確かに最初に聞かれた時には凄く驚いちゃったけど、一緒に来てって誘ったのは私の方だったのに、結局話さなかった私にも問題はある訳だし……。」

「ううん。結果的にだけどさ、僕が余計な事を聞こうとしたせいでツァーイがどれだけ怖がったのかって考えちゃって……。あの時は少し焦っていたんだ。」


 正直な所を言うと今でもツァーイの為に役立ちたいと焦っている自分はいる。


「ほら、僕って記憶がないから知識や常識も所々抜けてる部分があるみたいだし、戦う事は出来たけど武器もツァーイから貰った物で、冒険者としてのレベルも低いから足手纏いになるんじゃないかって……。それでも僕を拾って、助けてくれたツァーイの役に立ちたくて、だから悩み事があるなら相談相手位には……って思ったんだ。」


 それでも焦った所で剣の腕も魔法の扱いも知識量もその他の全ての分野において、僕は何一つツァーイには及ばない事出会った時からずっと分かっていたのに。

 それでも少し位は役に立てる事がある筈だと思って、自分なりに考えて行動をしたつもりだった。


「だけど話を聞こうとした事と言い、魔力(マジック)の枯渇と言い、僕はツァーイを助ける所か逆に迷惑ばかりかけちゃって……だから、ごめんなさい。」


 けれど僕がツァーイの為に何かをしようとすると、その殆どは裏目に出てツァーイに迷惑をかけてしまう結果となっていた。

 だから僕は改めてツァーイに頭を下げ、そして十数秒後に頭を上げてツァーイに向かって僕の決意を伝える。


「……それでもやっぱり僕はツァーイの力になりたいとは思っているから。迷惑をかけないように少しずつ、剣でも魔法でも何でも頑張る事にするよ。い(・)つ(・)の(・)日(・)か(・)ツァーイが「イラを拾って良かった」って言ってくれるように。」


 その為にどれだけ時間がかかったとしても、その日がどれだけ遠い未来になろうとも、『いつか』はツァーイの役に立てるように頑張ろうと。

 だから『今』は、まだツァーイが僕を見捨てないでいてくれるなら、ツァーイから与えられ、受け取るだけの足手纏いでも役立たずでも構わない。

 いつか僕がツァーイから受け取った恩を倍にして返せる位には、役に立てるようになれば良いのだと。


「えっと……」


 目の前で再び頭を下げるイラの様子を見た私は先程までの困惑とは違う意味で絶句をしていた。

 イラは度々私に対して「助けになりたい」とか「役に立ちたい」とか、そう言った意味合いの言葉を言ってくれる。

 けれどそれは私が行き倒れ同然だったイラを旅に誘った事への恩返し的な意味合いの筈で、実際に今もイラはそう言ったのだけれど、私が思っていた以上にイラはしっかりと考えていてくれたように思えた。


「(何これ、嬉しいけど少し恥ずかしい……!)」


 だからなのか、面と向かって言われたからなのか、長らく人からそんな風に言われなかったからなのか、或いはその全てなのか、とにかく理由は分からないけれど、少し恥ずかしくって顔にほんのりと熱が宿るのを感じる。

 それにイラの言葉のお陰なのか、それとも顔が熱くなったからなのか不思議と胸の奥にも温もりを感じて先程までの恐怖心が和ぎ、震えも薄れていく気がした。


「さ、さっきも言ったけれど、別に良いよ。」


 声が震えたのは、先程まで感じていた恐怖心や困惑とはまた違う何かが原因だ。

 何だか胸の奥がドキドキして、落ち着かないような感じがする。

 落ち着きのなさを誤魔化そうとして、私は話題を変えようとして、意を決してイラに気になっていた事を聞いてみる事にした。

 ついさっきまでは聞くのがあれ程恐く思えていたのに、イラが先の話をしてくれたお陰で今は少しばかり期待してしまっていた。


「それよりも……その、さっきの「い(・)つ(・)の(・)日(・)か(・)」って話だけれど……イラは私を【蒼い疫病】だと知っても、一緒にいてくれるの……?」

「うん。ツァーイが僕を見捨てないでくれるなら、僕はこれからもツァーイと一緒にいたいよ。」


 故郷が滅んで一人で旅に出て、それからずっと誰かに言って欲しくて、でもそんな人はどこにもいなくて、ずっとこのまま独りぼっちなのだと、この九年間ずっと諦めていたのに。

 そんな私の心境を知ってか知らずか、イラは何でもないように、それが極々当たり前の事だと言わんばかりに答えてくれた。

 その一言がとても嬉しくて、聴いた瞬間に今度は瞼の裏まで熱くなって、僅かに自分の涙が頬を伝う感触が感じられた。


「本当に……? 本当にこれからも一緒にいてくれるの? 私と一緒にいたらきっとイラにも迷惑をかけちゃうよ。さっきの協会みたいに……」

「他の人がツァーイの事を悪く言っても、僕にとってツァーイは大切な恩人だよ。もしもまたツァーイの事を悪く言う人がいても僕がツァーイを守るから。……それにツァーイが先に「別に良い」って言ってくれたんだよ? さっきの僕が足手纏いで、ツァーイに迷惑をかけているって話の時に。だからツァーイも気にしないで。」

「それじゃあ【蒼い疫病】の話は? 私はそんな事をしていないけれど、私だけが《サイス》に感染しなかったのは本当なの。……だから、もし……もしも【蒼い疫病】って言うのが言いがかりじゃなくって、本当の事だったら……私と一緒にいたら、イラだって――」

「他人の言いがかりなんて気にする必要はないって。……それでもツァーイが不安に思うなら僕は絶対に病気で死なないって約束するよ。どんな事があってもずっとツァーイの傍にいたいから。それにさ、ツァーイに恩返しをするまでは死ねないよ。」

「――っ!?」


 これは違った意味で危ないと自分自身に残された正常な理性の部分が叫んでいる気がした。

 けれど今の私は理性よりも衝動的な感情の方が勝っていた。

 イラの言葉の一つ一つが嬉しくて、ずっと独り身で人肌恋しく震えていた私の心が、温もりで癒されていくような気分だ。

 それが泣きたい程に嬉しく思えた私は、先程感じた僅かな涙の感触ではなくて、号泣と言っても良い程に本当に泣き出していた。

 それをイラに見られていると思うと少し気恥ずかしかったのと、イラが言ってくれた言葉が本当だと感じたくて、気がつけば私は無意識の内にイラに抱き着いていた。


「っと、どうしたのツァーイ?」」


 気がつけば僕はツァーイに抱きしめられていて、条件反射で無意識的に僕も両手をツァーイの背中へと回してしっかりと彼女を受け止めた。

 今までにも街中で手を握ったりとかはしていたけれど、ここまで密着する事はなかったからか、少しだけ胸の奥がドキドキするような気がする。

 これが普通の日常的なワンシーンであるのなら、もう少し思う所も色々とあったのかも知れないけど今の僕にはそんな事を考えられる余裕はなかった。

 確かにいきなり抱きしめられた事には驚いたけれど、それ以上に僕はひたすらにツァーイの事が心配だった。


「ツァーイ、泣いてるの……?」


 ツァーイが沢山泣いていたから。

 昔の話をしてくれてからのツァーイは今まで以上に何かに怯えているように感じられていたのだけれど、もしかして話したら僕が協会にいた人達みたいに【蒼い疫病】だと言ってツァーイを非難するような真似をすると思われていたのだろうか。

 或いはああ言った人達の矛先が僕にも向けられるのを危惧しているのかも知れない。

 もしも前者であるなら「だとしたらちょっと心外だな」等と一瞬だけ思ったけれど、話を聴いた限りではツァーイが旅を始めてから出会った人達の悉くが、そう言った心ない人物、或いは悪評に惑わされてツァーイ個人を見ようとしない愚者ばかりだったようなので、ツァーイがそれを恐れるのは仕方がないと理解は出来た。


「少しだけ、こうしていても、良いかな。」

「う、うん。ツァーイがしたいようにしてくれて良いよ。」


 泣きじゃくりながらも掠れた声で呟かれたツァーイの問いを断る事が僕には出来なかった。

 きっと今のツァーイに頼み事をされたら、どんな内容であっても二つ返事で答えてしまうと思う。

 まあそもそもの話としてツァーイは僕を拾ってくれたのだから、これ位なら一々確認を取らなくても良いのだけれど。

 それにしてもこうして泣きじゃくっているツァーイを見ていると、今まで僕が彼女に抱いていた印象が少しだけ間違っていたようにも思えてきた。

 今まではツァーイの事を「命の恩人」とか「旅に慣れている高レベルの凄腕冒険者」とか、「必要な物を与えてくれる神様みたいな人」等と、とても頼りになる人だとばかり思っていた。

 だけど高レベルの冒険者だとか、魔物との戦いに慣れているとか、リベルーチェ(ギルド)のリーダーとか、そう言った側面も確かにツァーイの一部ではあるのだけれど……そう言ったツァーイの強くて頼りになる部分ばかりを見ていたから、僕は今の今まで気づこうともしなかったのだろう。

 少なくとも沢山泣きじゃくっていて、その影響なのか少しばかり震えている今のツァーイは『頼りになる凄腕の冒険者』ではなくて、『極々普通の女の子』のように思えた。

 僕が敏ければ、もっと早くに気付く事も出来た筈なのに。

 例えば最初に出会った時、ツァーイの笑っている姿は普通の可愛い女の子だった。

 例えば僕の衣服を買いに出かけた時、今までない程に楽しそうに服を選んでくれていた姿は普通にショッピングを楽しむ女の子だった。

 例えば大好きな絵本の話をした時、本の感想を言い合った姿は普通の本好きな女の子だった。

 例えば協会で【蒼い疫病】だと罵声を浴びせられていた時、青ざめた表情でカタカタと震えながら俯いていた姿は……か弱い女の子の姿だった。

 ツァーイがどれだけ強くて尊敬の出来る冒険者だとしても、他人から非難や罵倒と言った暴言を浴びせられれば怖いと思い、大切な人がいなくなれば悲しいと感じて、嬉しい事や楽しい事があれば笑って、自分が好きな物を好きだと言って貰えれば喜んで……至って普通の女の子なんだ。

 僕はまだまだ泣き止む様子のないツァーイを抱きしめながら、そんな当たり前の事にようやく気付いたのだった。


「(ツァーイを守らないと。優しくて、可愛くて、僕にとって大切な恩人を守らないと……!)」


 抱きしめる力を少しだけ強めながら、僕は密かに決意を固めた。

 今までは助けになりたい、力になりたい、恩を返したいと思っていたし、それらを止めるつもりもないけれど……それ以上に、これからはツァーイを守り、支えられるようにならなければいけないのだと。

 それでいて焦りは禁物なのだから、難しい事かも知れない。

 けれどこんなにも優しい少女が理不尽な理由で蔑まれているのを放っておく事など出来る訳がない。

 この先何があったとしても、ツァーイが僕の存在を少しでも必要としてくれるのなら、いくらでも彼女の要求に応じよう。


「ごめんね。ツァーイともっと早く出会えていれば、君をこんなにも一人にしなくて済んだのに……。でももう二度とツァーイを独りぼっちになんてさせないから。ツァーイが僕の事を見捨てないでいてくれるなら、僕はずっと君の味方でいるから。」


 ツァーイが泣き止んで、落ち着きを取り戻すまでの間に僕はそういった意味合いの言葉を何度も呟いた。

 泣きじゃくっているツァーイは言葉を上手く発音出来ない様子で返事は返って来なかったけれど、コクコクと頷いているような感覚が肩越しに伝わって来たので聞こえてはいるようだ。

 ツァーイが泣き止んで冷静さを取り戻したのは、それからしばらくしてからの事だった。

 お互いに抱き合っていた事に少し気恥ずかしさがあったものの、僕達の関係は少しだけ進歩する事が出来たように思う。

 ツァーイが隠していた昔の話を打ち明け、僕がそれを受け入れた事でツァーイは以前にも増して僕の事を信頼してくれるようになったのだと感じる事が出来た。

 また僕がツァーイを普通の女の子なのだと認識を改めて、彼女を守ろうと決意をした事で僕の中でのツァーイへの接し方も少しだけ変わったような気もする。

 恩人への感謝や恩義の情も相変わらずあるけれど、それはそれ、これはこれって感じに区別が明確になったような感じだ。

 ツァーイが冷静になってからも改めてこれまでの事や今後の事、お互いの不安要素など、様々な事を語らい合った。

 とにもかくにも、この夜を境目に僕達は本当の意味での仲間になる事が出来たのだと思う。

 途中で晩御飯を食べ逃していた事に気付いて、料理当番の僕がツァーイに野外での食事の作り方を教えて貰いながらウルフの肉を利用した野肉スープを調理すると言う軽いハプニングもあった。

 出来上がった野肉スープはとても暖かくて、焚火の炎で暖まりながらツァーイと語らい続けていたので、ちょっとしたキャンプ気分のようにも思えて楽しかった。

 そしていつの間にか眠っていた僕は夜明けと共にほぼ同時に起床した。

 一晩中語らい合っていたので睡眠時間はあまり取れていない筈だけど、不思議と眠気は弱く感じた。


「おはよう、ツァーイ。」

「おはよう、イラ。もう少しで朝ご飯が出来るから、ちょっとだけ待っててね。」

「うん。」


 僕が起きた時には料理当番のツァーイが既に朝食を準備している最中だった。

 昨晩も食べた野肉スープを作り直している様子だったので、街中に居た頃みたいに大分早くに起きた訳ではなさそうだ。

 何か手伝おうかとも思ったけれどツァーイは平等主義者的な側面もあって、今日は自分が料理当番なのだからと断られそうだったので、口にするのは止めて大人しく料理が出来上がるのを待つ事にした。

 今思えばずっと独りだったツァーイはギルドを立ち上げる事に憧れていたように、一生経験出来ないと思っていた当番制のシステムにも憧れていたのか、それともただ手伝ってもらう事に苦手意識でも感じているのか……どちらにしてもツァーイのそう言った部分も、これから少しずつ理解していけば良いのだと思った。



「それじゃあイラ、そろそろ次の街へ向けて出発しよう。」

「うん。」


 朝食の野肉スープを手早く食べ終えた僕達は昨晩の事もあって、早急にその場から移動する事にした。

 幸いにもファングの街から逃げる際に迷い込んでしまったこの森林地帯は次の街があるとされる方角に近い場所のようだったので街道にはその内出られるようだ。

 旅の最終目的地はフリーダ村。若しくはツァーイが安心して暮らせる場所。

 到着までにどの位の時間がかかるか分からないけれど、剣術の鍛錬や魔法の練習もしなくちゃいけないし、何よりツァーイと一緒なら退屈する事はなさそうだ。

 快晴の青空の下で僕達は次の街を目指して歩き続けた。

予告していた通り第一章は今回で完結となります。

今までは殆どイラとツァーイだけで進めて来た物語ですが、第二章では新キャラも登場するのでお楽しみに!

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