記憶十六―ツァーイの追憶三、それは独りぼっちの故郷―
【九年前―ツァーイ・ハーツ、六歳―】
友達が死んで、両親が死んで、村の人達が全員死んでいた事に気付いて、私は独りぼっちになった。
その事に気付き、人気のなくなった村の中で意識を失ってから、私が意識を取り戻したのは三日後の夕方頃だった。
こんな状況でも三日も意識を失っていれば、お腹は空いてしまうもので、私は一度家に帰る事にした。
もうお母さんの手料理は食べられないけれど、それでも家に帰った私は両親が倒れていた研究室には近づかないようにして、台所まで移動をすると適当な食材を見繕って、調理もしないままに、腹八分目まで食べ続けた。
お母さんが料理をする所を何度も見ていたから調理方法は何となく分かっていたけれど、まだ幼かった私は「調理用の魔道具は危ないから」と両親に言われて使用を禁止されていたから。
両親が死んでしまったのだから、禁止も何もあったものではないけれど、両親の死を意識しながらも、認めたくなかった私は、まだ二人との約束を破れずにいた……。
空腹を満たした私は、普段通りに夜まで生活をして、数時間前に目覚めたばかりだけれど、夜になると自室でいつも通りに眠った。
そして翌日の朝、私は悪夢にうなされながら目覚めた。
夢の中で死んだ両親や友達、村の人達が家の中や、村の中で倒れていた時の事を見たのだ。
目を背けようとしても、事実は変わらなくって、しばらくの間、私は涙を流し続けた。
その日から私は、家の外にある大きな庭の一角に穴を掘り始めた。
物置から大人用の、子供が持つには大きすぎるサイズのスコップを引きずり出して来て、それを使って無我夢中に穴を掘る事だけを考えて、その作業に没頭をした。
六歳の子供にしてみれば、とても大変な作業だったけれど、それでも夜になれば自室に戻って眠ったし、お腹が空けば食事を摂っていたし、どうしようもない程に疲れたら休憩を挟むようにはしていた。
この辺りの自己管理が出来ていたのは、医者である両親の仕事ぶりを見ていた影響なのかも知れない。
「これで良いのかな……。」
穴を掘り始めてから三日目の夜に、私はこれなら大丈夫だろうと思える程の深さに達した穴を見つめていた。
その後両親の死を目撃して以来に、私は二人が倒れていた研究室に再び入った。
「ママ、パパ……本当に、もう、っ……。」
あの日と同じ姿で倒れたままの両親を視認した私は、《サイス》が蔓延してから、もう何度目になるか分からない涙を流しながら、二人の遺体を庭まで運び出した。
触れた両親の身体はあの日よりも冷たくなっていて、もう体温は完全になくなっていた。
それ所か生きていた頃と比べて、かなりやせ細って来ていた。
皮肉にもそのお陰で、子供だった私でも、両親の身体を引きずる恰好にはなってしまったけれど、一人ずつ順番に庭まで運び出す事が出来た。
そして庭で掘った穴の中に私は両親を寝かしつかせた。
本当なら棺や、その代用品を使うのだけれど、私だけでは最早その調達さえも出来なかったのだ。
ならば家の中にあった両親が使っていたベッドを運び出そうかとも思ったけど、流石にそれは無理だった。
とにかく私は庭穴の中に入れたお母さんの左手と、お父さんの右手を、お互いに握らせて、別れを惜しむように、二人の手に私の両手を重ねるように握りしめた。
しばらくの間、私は両親との思い出に浸りながら、そのまま涙を流し続ける。
けれど、こうしていても、もう、お母さんも、お父さんも、二度と起きないし、喋らない。
「……っ、ママっ……パパっ……どうして、私を残していっちゃったの……。ぐすっ、っぁ……」
私は涙が枯れるんじゃないかと思える程に、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣き続けた。
一しきり泣き続けて、泣き止んでも落ち着いた訳じゃないけれど、その日私は両親を入れた穴を埋めて、そのまま土葬をした。
正式な葬儀ではないし、《サイス》で今までに死んで逝った人達の葬儀を見よう見まねで、真似ただけの子供の騙しの土葬だ。
本当なら土葬の前に火葬をしないといけないのだけれど、子供だった私は両親の遺体を燃やす事に強い抵抗心を抱いてしまって、結局は中途半端な土葬しか出来ずに、不格好なお墓を作るだけで精一杯だった。
その後も私は日中は村の中で倒れている人達のお墓を作る為、村中に穴を掘って、その中に見つかった遺体を家族単位で入れながら土葬をしながらお墓を作り続けた。
家の中で倒れている人はいないかと、各家のドアや窓を一つは壊して中に侵入して確認をする事にもした。
あまり褒められた行為ではないけれど、この村にはもう私しかいないのだから、どうしても皆のお墓だけは作ってあげたかったのだ。
最後まで両親を信じてくれていた村人達の為に、私がしてあげられるのは、もうこれ位だったから……。
私を除く村人全員分のお墓が出来たのは、それから二ヶ月後の事だった。
その頃になると、流石に家や村の中に貯蔵されていた食材はなくなりかけていた。
独りでこの村に留まる事も考えたけれど、外界からの侵入者を避ける為の結界や魔道具が今も生きているので、今後もこの村に誰かが来る事は考えられなかった。
それに《サイス》もまだ村の中に残っているかも知れないので、仮にこの村に来訪者が来たとしても、《サイス》に侵されて死に至る可能性がある。
何故、私だけが《サイス》に感染しなかったのか、それは今も分からない。
それでも《サイス》の感染に、食材の枯渇、どちらにせよ、この村に留まり続ければ私も病死か、餓死か、遠くない内に死ぬ事は明白だった。
一時は自暴自棄になって、それも良いかと考えていたけれど……結局の所、私はアイラ村の外に出る事にした。
「死にたくないから」と言うも、この村にいると両親や友達、村の人達の事を思い出して悲しくて、辛くて、苦しくて、寂しくて、色んな感情がグチャグチャになってしまうから。
別に村の外に出たからって皆の事を忘れられる訳じゃないし、忘れたいとは思わないけど、それでも今は、大好きだったアイラ村に一人で居続けるのが凄く恐ろしい事に感じられた。
後にイラが『四次元ポーチ』と命名した『何でも入る不思議なポーチ』に、家の中にある物で私が動かせる軽い物は全部詰め込んだ。
村の人達の家からも何かを拝借しようかとも、考えなかった訳ではないけれど、それはもうただの窃盗になってしまう気がしたので、ポーチに詰め込んだのはあくまでも自宅にある物だけだった。
「ママ、パパ、この家に戻って来れるかは分からないけど、私は村の外に行く事にするよ。」
村の人達のお墓を作り上げてから十日目の朝。
私は二人のお墓の前で一言、そう呟いて村を出る事にした。
大好きな両親と大好きな友達がいてくれた、大切な故郷を後にして、行く当てのない一人旅が始まった。




