記憶十―魔法、それは八つの属性―
「前にも聞いたけれど、何も知らないんだよね?」
「うん。」
それは無事に僕の衣類(と言う体の防具)を購入してから二日が経ち、ファングの高原の一角にある木陰で休憩がてら昼食を食べている時の事だった。
今日はクエストの受注量もかなり控えめでウルフの討伐を約三十匹程と、高原に生えていると言う薬草の採取を数件受けて来ただけだった。
ちなみに薬草の採取は既に完了していて、ウルフの討伐も殆ど終わっていた。
衣類を購入しに防具屋に向かった日は別としても、それからの日々は毎日六十匹程のウルフの討伐と、今日のように薬草などの採取クエストを受注していたのだが、それらと比較しても今日はかなりクエストの受注量を抑えていた。
と言うのも以前から言われていたのだけど、改めて今日の朝食時にツァーイから次の街へ向かう準備も終わり、数日後には出立をすると聞かされたのが発端だ。
ツァーイ曰く、ファングの街やファングの高原の魔物はウルフしか存在しない、比較的安全な場所で僕のような初心者の冒険者がクエストに慣れる為の所謂『始まりの街』的な場所の一つらしい。
そして他の街や村などの人の集落がある場所も等しく全てが安全……と言う訳ではなく、地域ごとに生息している魔物の種類は違うし、同じ魔物でも土地によってその狂暴性や繁殖力は違っている。
つまり周辺の魔物が弱いファングの街を出立すると言う事は、次に向かう街の周辺にどんな魔物が生息していたとしても、討伐クエストの難易度が上がる事は避けられないと言う事だ。
そこでツァーイから「出立の前にイラには魔法を覚えて欲しい。」と言われたのだ。
今後の旅を続ける上でいつ、どこで、狂暴な魔物に出会うかはその時にならないと分からない。だからいざという時の為に戦闘の幅を広げておいた方が良いからと。
それに今後また魔装を購入する際に自分が扱える魔法が分かっていれば、その魔法の属性に応じた強化特殊効果の付いた物を購入する際の検討材料に出来ると言う。
勿論僕はツァーイの言葉に即答で了承をした。
以前ツァーイの炎の魔法を見た時からずっと「魔法を教えて貰う」と言う約束を楽しみに待っていた程で、今も『魔法』と言う言葉と、それを自分が行使出来るようになる事に無性にドキドキしている。
「それで、魔法ってどうすれば使えるの?」
「慌てないで。その前に簡単にだけど魔法がどういう物かを説明しないと。」
早く魔法を使ってみたいと逸る僕に対して、ツァーイがそれを静めるようにしながら魔法の説明をし始める。
「まず魔法は八つの属性に分かれているの。それで八つの属性って言うのが炎・水・風・土・氷・雷・光・闇。それと最初に言っておくけれど種族や個人差によって扱える魔法属性の適正が違うし、適正の無い属性はどれだけ冒険者情報のレベルや魔力が高くなっても使う事が出来るようにはならないよ。」
「人によって最初から使える属性が決まっているって事? もし、その適正っていうのが無かったら一生魔法を使えないの? もし適正が無かったどうしよう……」
ツァーイが教えてくれた八属性の魔力適正と言うシステムが少しだけ残酷な気がした。
この世界には魔法があるのに、魔法が使えないかも知れないなんて……。
もしも僕に八属性の内、一つも適正がなかったら……と思うだけで、とても不安になってくる……。
その上で仮に適正があったとしても、自分の使いたい属性の適正とは限らないと言うのも人によっては不安要素だろう。勿論適正がない事に比べれば大分マシではあるのだけれど。
「そういう事。……とは言っても私達人間は少なくとも一つ、多ければ三つは属性の適正があるの。だからイラにも八属性の内どれか一つはある筈だから、そんなに不安そうな顔をしないで大丈夫だよ。」
「そうなんだ。それなら少しは安心だね。」
一応冒険者情報の表記では僕も人間扱いだったし、一安心だ。
冒険者用紙や証明書に表記されていた種族項目が『種族:人間ヒューマン―???―』とバグったような文字化けを起こしているのが不安要素ではあるけど、人間って書いてあるし大丈夫。大丈夫だよね……?
「ちなみに人間は……って事は他の種族だと適正の数が人間よりも多かったり、少なかったりするの?」
「そうだよ。時間もある事だし、ついでに他種族の事も説明しておこうかな。」
そう告げたツァーイこの世界に存在する人間を含めた各種族の説明をしてくれた。
≪妖精人≫……魔法の適正数は二つから四つ。
耳が長く髪の色が必ず金色になっているのが特徴の種族で、他種族よりも魔力の数値が高くて魔法に特化した種族。
とても長命な種族だが、膨大な魔力の行使に肉体が耐えきれずに高度な魔法を行使する程に寿命を削ると言うが、それでも最短で千年、最長では二千年以上生きると言われている。
人間を含む他種族の道具(武具を含む)の一部を扱うのが苦手で戦闘面では近接戦闘が苦手でもあるが、その分投げナイフや弓矢と言った遠距離武器の扱いには手慣れている。
≪魔法人≫……魔法の適正数は一つから二つ。
とんがり帽子とローブを身に着けているのが特徴的な種族で、これらの装備品の色合いや模様に変化を与える事が彼ら(彼女ら)のオシャレに該当している。
妖精人と同様に魔力に長けた種ではあるが、八属性の魔法に関しては他種族と同等のレベルであり、八属性とは異なる独自の魔術を操る事が出来る。
≪創造人≫……魔法の適正数は零から一。
様々な物を創作・創造する能力に長けており、魔道具を作ったり、製作した道具に特殊効果を与えて魔装にする事が出来る。
想像力が豊かな種であり、奇想天外・奇天烈・奇人等と言われる変わり者が多い事が有名でもある。
魔法の適正数が少ないのは魔力の使用先が主に魔道具の作ったり、特殊効果を道具に与える能力に魔力を回しているからという見解がある。
≪巨人≫……魔法の適正数は零。
身体が大きくて、種族内で小さいとされる者でも二M以上で、現在確認されている最長の巨人は四Mあるとか。
その巨体に見合っただけの力を保持しているが、知能はやや低めと言われている。
また巨体故に他種族の街や村に出入りする事は少なく、主に谷や森、山などと言った自然の中に独自の集落を作っているようで他種族の中でも出会う機会が限られている。
魔法の適正がないのは、この巨体を維持する為に体内の魔力が常に全身を流れていて、対外に放出するのが危険だからという見解があるようだ。
≪獣人≫……魔法の適正数は零。
何らかの獣的な特徴を持つ種族で一口に獣人と言っても、獅子型なら力強い牙と爪を、猫型や豹型は素早い足を持っているなど、どの獣の力を持っているかは血筋や個人差によって異なる。
また有している獣の力によっては耳や尻尾、翼などがあったりと肉体的構造が他の種と比べても違うようだ。
魔法の適正こそはないものの、肉体に宿る獣の力によって生身で凄まじい戦闘能力を誇っている。
「――と言った感じに、この世界には様々な種族がいるの。他にも表立って出て来る事が少ない種族がいるとか、異種族間でのハーフだと魔力の適正数が変化する……って噂も聞いた事があるけれど、私が知っているのはこの位だよ。」
「色んな種族があるんだね。……そう言えば、僕達人間はどんな感じなの? 他の種族は身体的な特徴があったり、特別な力を持っているけど、人間は?」
ツァーイの話では妖精人は魔力が高く、魔法人は独自の魔法を有し、創造人は魔道具や魔装の製作を行え、巨人は巨大な肉体を、獣人は獣の力を持っている。
それなら人間にも何か人間にしか出来ない事があるのでは……? と思って期待しながらツァーイに問いかけた。
「人間には何もないよ。」
しかしツァーイから発せられた返答は、僕の期待とは大きく異なるものだった。
「強いて言うなら器用貧乏な種族……かな。魔法の適正が必ずある点では巨人や獣人より優れているけれど、その魔法では妖精人に敵わない。妖精人の苦手な接近戦では逆に巨人や獣人に敵わなくなる。同じように物作りや道具の扱いでは妖精人に勝っているけれど、創造人みたいに魔装を直接作れないし、魔法人独自の魔法については真似をする事も出来ない。」
「……何でも出来るけれど、何にも特化していない種族って事……?」
「そうだよ。後は人間の人が他種族よりも少し多めって事ぐらいだね。実際に私が旅をしていて、見かける事が多かった種族も人間だったからね。」
「そっか……残念だけど、こればっかりはしょうがないよね。」
それにしても数が多くて、器用貧乏で、何でも出来るけど何にも特化していない……こんな『量産型』と言っても差し支えない種族が他にいたような気がするのは何故だろう……?
「さてと……少し脱線しちゃったけれど、もう少しだけ魔法の説明をするね。私達が扱う魔法は適正属性の力をどういう風に扱うかを思い描いて想像する事で体内の魔力が実体化して発動するの。……けれど、この想像が正しくないとちゃんと発動しなかったり、魔法が暴走する事もあるの。」
「うん……? 想像なのに正しいとか間違いってあるの?」
想像……想像や空想、妄想は個人の好き勝手に思い描く自由の産物だ。
それが正しいとか、間違っているとか、意味が分からない。
「正確には想像が正しい……と言うよりは、各属性毎に出来る事と出来ない事が決まっているの。例えば炎なら燃やす、温めたる、照らす……って事は出来るけど、凍らせたり、切り裂いたりは出来ないの。……それと自分の魔力よりも強大な魔法を使おうとするのも危険なの。魔力が足りなくて発動しないってだけなら良いけど、無理に発動しようとさせると魔法が暴走を起こしたり、最悪の場合は魔法を発動した術者が魔力の枯渇で死ぬ事もあるから。」
「ああ、そういう事……。うん。何となく分かったよ。」
つまり魔法と言っても無作為に何でも出来る万能の力ではなくて、属性毎に決められた現象しか引き起こせないという事……だと思う。
ツァーイの「炎は燃やす、温める、照らす」という言葉に当てはめるなら、「水は濡らす、冷やす、流す」「風は吹き飛ばす、切り裂く」……等と言ったような事しか出来ず、自分の魔力の限界以上に強力な想像をしてはいけない。
つまり正しい想像とは「各属性の正しい使用方法かつ、魔力の身の丈に合った魔法の想像」と言う事なのだろう。
「だから魔法の想像は出来るだけ、具体的にする必要があるの。その為に必要なのが魔法の詠唱。詠唱する事で魔法がどう発動するのか……って想像を具体的に描きやすくするの。」
「なるほど。……あれ? でもツァーイが前に使っていた『フレイムボール』……だっけ? あの魔法は詠唱してたっけ? それに料理の時に魔法を使っているのを見た事はあるけど、詠唱を聞いた事はないような……?」
戦闘中にツァーイの魔法を見たのはその一度だけだったが、あの時に詠唱らしき言葉は聞こえなかった気がする。
それに料理をする際にツァーイが炎の魔法を使っている所を何度か見ているけど、その時も詠唱を聞いた覚えはなかった。
「うん。『フレイムボール』や『ファイア』は詠唱してないよ。詠唱は術者の想像を固める為だけに必要なの。だから逆に言えば使い慣れた魔法なら、頭の中で具体的な想像をしっかりと描けるから詠唱無しでも大丈夫って訳。」
「なるほど。同じ魔法を使い続けていれば想像を描き易くなるから詠唱が必要なくなるんだね。」
「そう言う事。勿論使い慣れた魔法でも詠唱をする事で威力や精度を高め易くしたり出来るから、詠唱をする意味もあるんだけれど……無駄に高火力の魔法を使ったり、ましてや料理に使う火の火力を高めたりしたら料理を焦がしちゃうからね。魔法に慣れてきたら状況に応じて詠唱を破棄したり、逆に長めの詠唱をして想像を強めたり出来るって訳。」
「まぁ私も昔は少しだけ長めの詠唱をして想像を強く描いていたんだけどね。」と付け足しながら、ツァーイはその時の事を思い出しているのか、僅かに物思いに耽っていた。
しかしすぐに気を取り直して、ツァーイは言葉を続ける。
「まぁ魔法の基礎知識は、こんな所かな。魔法が八つの属性に分かれている事、種族や個人差によって適正属性の数が決められている事、魔法の発動には想像が必要な事、その補助として詠唱文が必要な事。とりあえずはこの四つだけでも覚えていてくれれば、魔法を使うのに問題はないよ。」
「八属性と適性の数、想像と詠唱だね。うん。大丈夫だよ。」
利き手である右手の指を折りながら要点を改めて告げるツァーイの様子を真似しながら、ツァーイの言葉を反復するように確認をする。
「それじゃあ次はイラにどの適正があるのかを確かめてみようか。」
「適正を調べる……ってどうやって?」
「うーんと、ちょっと待ってね。……確かこの辺にしまっていた筈なんだけど……あ、あったよ。『魔法石』! はい、どうぞ。」
しばらくツァーイが四次元ポーチの中に手を入れてゴソゴソと何かを取り出そうとしていたが、やがてお目当ての物が見つかったツァーイが『それ』を取り出して、こちらに渡してくれた。
受け取った『それ』を色んな角度からマジマジと見つめたが、『それ』は何てことのない……灰色の真ん丸とした石だった。
見た感じではただの石ころで、精々投げたら良く飛びそうだな……と言う印象で、本当にその位ありふれた……その辺で拾えそうな石だ。
しかしこのこの世界には冒険者用紙のように、パッと見では何の変哲もない物が、不思議な能力を秘めている事が多々ある。
きっとこの魔法石と呼ばれる石にも何かしらの不思議な力が秘められているのだろう、と期待をせずにはいられなかった。
「それで、その石でどうやって適正を調べるの……?」
「簡単だよ。目を瞑って、その魔法石を強く握りしめてみて。」
言われた通りに目を瞑り、右手の魔法石を強く握りしめてみる……けれど――。
「なにも起きないけど……ここからどうするの?」
「そうしたら体内にある魔力を握りしめている魔法石に集中させるの。イラはまだ魔法を使った事がないから魔力を集中させるって言っても分かり辛いかも知れないけれど、「魔法を使うよ!」みたいな感じに集中をしてみれば大丈夫だよ。」
「分かったよ。…………!」
これまた言われた通りに意識を右手の魔法石へと集中をさせ、魔法を使いたいと言う気持ちを強く思い描く。
すると握りしめていた魔法石からほんのりと熱が感じ取れるようになった。
その瞬間、ふとツァーイに聞こうと思って聞きそびれている事があったのを思い出した。
何でこのタイミングで、って自分でも思ったけど、何となく、今聞いておかないといけない気がした。
「そう言えばさ、ツァーイの適正って炎以外にもあるの?」
「え? 私が使えるのは炎と光だよ。人間だから、もしかしたら後一つ適正はあるかも知れないけど、少なくとも今使えるのは、その二つだけだよ。」
「そっか。教えてくれて、ありがとう。」
それなら僕の適正は炎と光を除いた六つのどれかだと良いな、と思う。
ツァーイと同じ属性だと、きっと剣術や冒険者の知識と同様にツァーイの後を追いかけるだけになってしまい、今すぐには彼女の力になれないから。
だけど、ツァーイが使えない属性の魔法を僕が使う事が出来たのなら……少なくとも今よりはツァーイの力になれる気がするから。
『闇』は何となく想像がボンヤリとしか出来ないし、暗闇には何故だか不安を感じるから嫌だ。
『土』は堅そうだから、ツァーイを守る事が出来るかも? だけど僕よりも強いツァーイを守る術を優先するのは違う気がする。少なくとも戦闘にしろ、戦闘外にしろ、僕がツァーイに守られている状態だし……
『雷』なら敵を纏めて一掃したりして、役に立てるかな? 魔物を一瞬で一掃出来るようになれば、クエストをこなせる数も増えそう!
だけど魔物を一掃出来る程に広範囲の雷撃を放ったら、傍にいるツァーイも傷つけたりしてしまいそうで怖いな……。
『水』はツァーイの炎を掻き消して、足を引っ張ってしまいそうだ……。万が一ツァーイの炎の魔法が飛び火をした時に鎮火は出来るけど、普段から役立てるのは難しそうに思う。
『風』は空を飛んだり……そこまでは無理でも少し浮かんだりは出来そうで少し楽しそう。それに攻撃面では炎の魔法とは相性が良いだろう。……けれど四方八方に飛び火してしまいそうなので、結局使い所は限られそうだ。
そこまで考えて、ふと気づいた。
守る術にもなって、敵を一掃出来て、万が一の事があってもツァーイには効き辛く、周囲への被害があっても問題になり辛いであろう属性がある事に。
(『氷』だ! 氷壁を作れればツァーイや自分の身を守れるし、それが出来れば足手纏いになったりしない筈。敵を凍らせて一掃する事も出来るから攻撃や足止めにも使える! それに炎の魔法が使えるツァーイなら凍ったりしないし、一度凍らせたものを解凍してもらう事も出来るかも知れない。)
うん。『氷』だ。『氷』の魔法がツァーイの役に一番に立ちそうだ。『氷』の適正だったら良いな。
そう結論付けて右手に握った魔法石により意識を集中させて、氷の魔法を使いたい、と強い想像を思い描く。
すると途端に魔法石から発せられていた、ほんのりとした熱が失われ――る所か、急激に冷えて来た。
魔法石を握っている右手も同様に冷たくなった。
しかし、それは、寒さに凍えるような酷く冷たい冷気ではなく、むしろ心地良さを感じる程度にひんやりと気持ちの良い冷気だった。
「もう目を開けても大丈夫だよ。魔法石を見てみて。」
魔法石から冷気が発せられたのと同時にツァーイから開眼の許可を告げられ、目と右手を開いて魔法石を確認してみる。
すると魔法石は形状にこそ変化はないものの、普通の石と同じ灰色ではなく、透き通る程に美しい透明色の強い蒼色に変化していた。
「綺麗……。でもどうして色が変わっているの? ツァーイから受け取った時は灰色だったのに……? それに……やっぱりヒンヤリとして冷たい。」
どこにでもありそうな普通の石から一転、まるで宝石のように美しくなった魔法石を改めてジロジロと見渡してみる。
そうしながら右手を軽く握りしめたり、手を開いたりを繰り返していると、魔法石から冷気が発せられているのが改めて分かる。
ヒンヤリとした冷気はとても心地よく、思わずこのままずっと握っていたいと思ってしまう程だ。
「魔法石はね、握った人に宿っている適正の内一番強い属性によって色と性質が変化するんだよ。」
そう言いながらツァーイは僕が手の中で遊ばせている魔法石をそっと取り上げて、さっきまでの僕と同じように魔法石を確認し始めた。
「イラの魔法石は透明色が強くて、冷気が発せられているから……氷属性かな。うん、イラには氷属性の適正があるんだよ!」
「本当に!?」
そして少しだけ魔法石を確認したツァーイから告げられた言葉に、思わずドキッとした。
自分が一番に望んだ属性の適正を持っていた事に胸の高鳴りが少しだけ強くなる。
「本当だよ。……とは言っても私も自分の炎以外の魔法石は初めてみたんだけど、聞いた話とは一致しっているから大丈夫だよ。」
「そっか。ツァーイが言うなら本当に氷属性なんだね。それで氷属性の適正があるって事は、氷の魔法を想像して、それを詠唱すれば魔法を使えるんだよね?」
「そうだね。それじゃあイラの適正属性も分かった所で、そろそろ魔法の練習をしてみようか。」
その言葉を皮切りに、僕達はいつの間にか食べ終えていた昼食を片付けて、木陰から少し離れた場所へと移動をした。
「さっきも言ったけれど魔法は想像をして、その想像をより具体的に、強くする為の詠唱をすれば良いの。イラの適正は氷だから、まずは氷の魔法で出来そうな事を想像してみて。」
「うん。やってみるよ。」
高原の開けた場所。周囲に他の冒険者や魔物の姿が無い事を確認してから、魔法の実戦練習を始める事にした。
まずはツァーイの言う通り魔法の想像をしてみる。
氷の魔法で出来そうな事と言えば、身を守る氷壁を作ったり、敵を凍らせて動きを止めたり、ツァーイのフレイムボールみたいに氷の球を作り出して遠距離攻撃にするのも良い……と様々な用途が思いつく。
(魔法を使えるってだけで何故だか無性にワクワクするんだよね。記念すべき初めての魔法だし、どれから試してみようか悩んじゃうなぁ……。とりあえず魔法を使うって感覚を理解するのが重要だし、想像をし易いのが良いかな。……よし、これに決めた!)
思いつく限りの使用方法を夢想し続け――そして使う魔法を決めた。
そして頭の中にその魔法の想像を強く思い描きながら詠唱文を考え、やがてその詠唱文を言葉にして、紡ぎ始める。
「我が視界に映る世界を凍てつかし、――」
魔法の発動箇所を目の前―草木が生い茂る高原の一角―に定めて、その方角へと右手をかざす。
右手を向ける事で発動箇所の指定をより強く想像しやすくする為だ。
それと同時にその場所に自分とツァーイに襲いかかって来るであろう架空の魔物の姿を思い描く。
「――忌むべき敵を白き世界へ閉ざせ!――」
次にその魔物が凍り付く姿を想像する。全身を凍らせて、身動きの取れない状態だ。
そして、詠唱文を完成させて魔法を発動させようとした瞬間――
「イラ、ちょっとストッ――」
「――氷結!」
隣に立っているツァーイが何かを言おうとしたのか、声が聞こえた。
しかし詠唱に集中していた僕はツァーイの言葉をハッキリと聞き取れずに、詠唱を完成させて魔法――氷結を発動させた。
その瞬間、吹き荒ぶような冷たい冷気がどこからともなく発せられた。
全身に襲いかかる凍てつくような冷気を感じた僕は思わず視線を下げて、本能的に猫背になって身体を丸め、体温を一か所に集中させようとした。
しかし凍てつくような冷気は瞬間的に弱まっていき、やがて身体を起こした僕の視界に入ったのは――。
「うわっ!? 何これ!? どうして一面が凍り付いているの……!?」
――見渡す限り、凍ってしまった高原だった。
雪の降り積もった景色を『銀世界』と呼ぶが、それとは違う……文字通り草花や木々、土すらも凍りついた、『凍てつく世界』が目の前に広がっていた。
確かに『氷結』で視界の一か所を凍らせようとはしたけれど、それはあくまでもだだっ広い高原の一か所だ。
こんなに広範囲に魔法を発動させる想像はしていなかった筈なのに……。
「もうっ! やりすぎだよ、イラ!」
「え?」
その光景にしばらくの間何でだろう……と考え込んでいたら、やがてツァーイに咎められた。
珍しく怒っている様子だったので、理由を考えてみた……やはり、広範囲に魔法が発動してしまった事に怒っているのかな? それとも別の理由で……?
どうして怒っているのかをツァーイに聞こうとしたけれど、次の瞬間――。
全身から力が抜けたようにフラフラとし始めて……足元の感覚もおぼつかなくなって……やがて全身の感覚を感じられなくなった僕は……その場に倒れた。
「イラ!? しっかりしてよ!」
ツァーイの言葉が遠くに聞こえていくのを最後に、僕の意識は眠りにつくように静寂に包まれた。




